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安倍総理の志は死なない!!

コロナで国境離島の安保危機 観光振興で衰退救え

 政府は「特定有人国境離島地域」に指定している15地域71島への旅行について1人1泊5000円を来年以降、割り引くことを検討している。これらの島では観光業が産業の中心となっているところが多く、新型コロナウイルスによる旅行客減のダメージは深刻だ。島民の生活が立ち行かなくなって人口流出が進めば、外国勢力による不法上陸や定住を許す事態にもなりかねず、安全保障の専門家は離島への経済支援を進める重要性を訴える。
 「訪日外国人客はゼロだが、政府の支援策の効果もあり、国内観光客はかなり増えた。新たな補助金にも期待したい」
 韓国と国境を接する対馬(長崎県対馬市)の市担当者は、国による1人1泊5000円の支援策にこう期待を示す。
 特定有人国境離島地域は将来、離島が無人化する可能性があり、無人化すると外国人による不法上陸などが起こりやすくなる地域で、国が指定する。国は地域社会の維持のために必要な施策を講じる義務を負っており、交付金制度によって住民向け航路・航空路の運賃▽農水産物や原材料の輸送費▽旅行商品の宣伝や販売促進費▽民間企業の島内での設備投資資金ーなどの一部を補助している。
 市によると、令和2年1~11月に同市を訪れた旅行客は前年同期比35・1%減の30万3834人。7月末に始まった政府の観光支援事業「Go To トラベル」などの影響で、9~11月は同15%減まで盛り返したが、それでも例年には及ばない。
 対馬では昨年夏ごろから、いわゆる徴用工訴訟に端を発した日韓関係の悪化を受けて韓国人訪問客が大きく落ち込んだ。今年は新型コロナ禍が追い打ちをかけ、感染拡大に伴う緊急事態宣言を受けた4、5月や、感染が再拡大した8月の帰省時期の落ち込みが特にひどかったという。さらに、トラベル事業の割引適用が全国で停止する年末年始に入っていた予約のキャンセルが相次ぎ、観光客の減少に歯止めがかからない。
 対馬の観光関係者は「新型コロナ対策を優先せざるを得ないことは理解できるが、ダメージは大きい」と肩を落とす。その上で「トラベル事業停止の基準が明確であれば前もって何かしらの心構えができるが、急に決まると全く計画が立てられない」と話した。
 対馬をはじめとする離島は医療機関が少なく、ひとたびクラスター(感染者集団)が発生すれば、医療体制が一気に逼迫(ひっぱく)しかねない。一方で、対馬市では観光や宿泊などのサービス業を含む第3次産業従事者の割合が市民全体の約3分の2を占め、観光客が途絶えれば島の経済が成り立たなくなる側面がある。
 市の担当者は観光需要の喚起策について、「島の産業、経済のために非常に助かっている」と吐露する。その上で、政府が検討する離島観光の支援策について「国民の皆さまに国境の島に対する関心を持ってもらうことは国境を守る上でも非常に重要なことだ」と話す。
 特に対馬では、島外への人口流出に伴い増加した空き家などの不動産を韓国などの外国資本が購入する動きが問題化している。市の関係者は「不動産は、日本の方々に買ってもらえればより安心できる面があるが、買ってもらえれば買い手は誰でもかまわないと考える売り主がいるのも事実」と打ち明ける。
 最近は新型コロナの感染拡大に伴う入国規制の影響で、島内の不動産を物色する外国資本の動きは見られなくなったというが、市関係者は「コロナが収束すれば将来的に物色の動きが戻ってくる可能性はある」と懸念を口にする。
 今回の政策の対象は対馬や中国が海洋進出を強行する東シナ海に位置する鹿児島県・トカラ列島など、政府が「有人国境離島法」で特定有人国境離島地域に指定した地域。政府高官は「排他的経済水域(EEZ)や領海の根拠となるのが離島地域で、特に人が住んでいることは非常に大きな意味があり、保全しなければならない」とその重要性を強調する。
 今回の支援は今年度第3次補正予算案に財源を盛り込んでおり、来年の通常国会で成立後、実施に移す。詳細な制度設計はこれからだが、旅行商品を企画した事業者を経由して旅行者が1人1泊5000円の割引を受けられるようにする方向だ。
 国境離島地域をめぐっては、日本側の知らぬ間に外国勢力が島に住み着いてしまうことを警戒する声も上がっている。
 日本安全保障戦略研究所の高井晋理事長は、韓国が不法占拠する日本海の竹島(島根県隠岐の島町)を例に挙げ、「外国勢力による既存の無人島への上陸や定住などの兆候を注視すべきだ」と警鐘を鳴らす。日本人の暮らす国境離島地域で過疎化が進み、無人となる島がさらに増えれば、「こうした外国勢力の動きに日本側が気付きにくくなる懸念がある」と指摘する。
 高井氏は「島が奪われてEEZの面積が減っても、そこで漁をし続けられればとりあえずいいという問題ではない。国家の主権に関わる重大な問題だ」とし、国境離島地域の経済振興や領土保全、国家の安全保障問題への包括的な対応が重要だと訴える。(経済本部 岡田美月)