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Go Toで菅首相に“一矢報いた”小池知事、説明なき「変節」を検証

GoToトラベルをめぐって小池知事もまた、言動がブレて来たのは間違いない Photo by Satoru Okada
「かねてから申し上げておりますけれども」――。政府が「Go Toトラベル」キャンペーンの一時停止を発表した12月14日夜の記者会見で小池百合子東京都知事は、自身が固く信じる危機管理の要諦を朗々と語ってみせた。とはいえ、小池知事が一貫してGo Toトラベルに厳しい見方をしていたのかというと、決してそんなことはない。7月以降、小池知事が実際に何を「申し上げて」きたのか、子細に振り返ってみよう。(ダイヤモンド編集部 岡田 悟)
危機管理の要諦を語った小池知事
愛読書から言葉を引き、暗に政府を批判
「かねてから申し上げておりますけれども」――。12月14日、当初は午後7時に予定されていたといわれる小池百合子東京都知事の緊急記者会見は、政府が年末年始における「Go Toトラベル」キャンペーンの全国一斉停止を発表するなどし、9時15分に始まった。
 小池知事の話は「危機管理の要諦は何か。それは大きく構えて、総合的に集中した取み組みを行うということ」と続き、質疑応答では、「小出しとか兵力の逐次投入はしないということがポイント」だと強調した。
 ここで思い出されるのは、小池知事が2016年の都知事就任直後、旧日本軍の太平洋戦争での敗北の要因を実証的に分析した野中郁次郎・一橋大学名誉教授らの共著『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』を愛読書に挙げたことだ。
「兵力の逐次投入」とは、同著で特にガダルカナル島奪還作戦での旧日本軍の作戦失敗の要因を指す表現として用いられ、有名になった。16年の記者会見で小池知事はこの著書に触れ、「都庁は敗戦するわけにはいきません」と決意表明していたものだった。翌17年の総選挙で「希望の党」を率いて大敗北を喫したが。
 さて、新型コロナウイルスの感染拡大の“第3波”が止まらぬ中、小池知事が愛読書を念頭に「小出し」「兵力の逐次投入」と指摘したのは、政府のGo Toトラベルを念頭に置いてのこと。感染拡大を経てなお札幌市や大阪市などの一部除外にとどまり、一気に十分な対策をとらずに批判を浴びていたことを指しているのに違いない。
 国民の批判が高まるまで頑なにGo Toトラベルの見直しに応じなかった政府の方針転換――。小池知事は直接的にそのことについては言及しなかったものの、政府を暗に批判していた。
 では、7月に始まった政府のGo Toトラベルに対し、都は小池知事が言うように「大きく構えて、総合的に集中した取り組みを行」ってきたのかといえば、そんなことはまったくない。これまでの小池知事の発言や施策、記者会見で準備されていた想定問答集から振り返ってみよう。
 冷房と暖房の両方をかけるようなこと(7月13日、ぶら下がり会見にて)
 7月11日、菅義偉官房長官(当時)が新型コロナウイルス感染拡大を巡って、「この問題は圧倒的に『東京問題』と言っても過言ではないほど、東京中心の問題になっている」と北海道で発言。都内で感染拡大が続いていたことを念頭に、小池知事や都のコロナ対応を批判した。これを受けて小池知事は、都庁入り口でのぶら下がり会見で、菅氏肝いりのGo Toトラベルをやり玉に挙げ、こう揶揄(やゆ)した。
 新型コロナは飛沫感染と接触感染で広がるため、旅行代金を補助するGo Toトラベルは感染拡大につながるとの指摘に対し、政府は「エビデンスはない」と反論。しかし、医師や専門家が因果関係を強く指摘し、そのことは多くの国民に共有された。小池氏の表現はまさにこうした見方に沿ったもので、当意即妙な表現も実に分かりやすい。
 菅氏がこれに腹を立てたからかどうかは不明ながら、同月22日から始まったGo Toトラベルの対象から都内だけが除外され、開始は10月にずれ込んだ。
 都内だけが急遽外されたことで、消費者がキャンセル料の支払いを求めて旅行会社が混乱。小池知事は7月20日、「政府が行っておられることなので詳しくは聞いていないが、現場が混乱している声はたくさん聞いている。できるだけ早く設計図を示していただきたい」と政府を突き放していた。
 現段階では、長距離の移動を伴う都外への旅行など、遠くへの外出について、引き続き、できるだけ控えていただきたいと考えている(8月28日、会見の想定問答集にて)
 8月27日の記者会見でGo Toトラベルについて質問されると、「国による施策であり、国において判断をされるということでございます」と自身の考えについては言葉を濁した。
 だが翌28日の会見では、質問こそ出なかったものの、ダイヤモンド編集部が都に情報公開請求をして入手した想定問答集には、しっかりとこう書かれており、都の慎重姿勢はまだ維持されていた。
 とはいえ、小池知事には迷いもあったようだ。
 7月から実際にGo Toトラベルが始まると、これを好感する利用者と、久々の賑わいで潤う観光業者の声が伝えられるようになった。
 また8月5日に小池知事は、全国旅行業協会東京都支部関係者と都庁で面会。「旅行業界を助けていただきたい」と「支援要望書」を突き付けられていた。
「Go Toトラベル事業」については、感染防止対策に万全を期して実施すれば、都内の観光事業者にとっても弾みがつくと申し上げてきた(9月25日、会見の想定問答集にて)
 9月には、都内のGo Toトラベル適用が議論され、10月から適用されることが決まった。これについて、都内の観光事業にとってGo Toトラベルはメリットが大きいと、小池知事が前々から言い続けてきたかのような文言が、9月25日の記者会見の想定問答に記載されていた。
 確かに9月11日、赤羽一嘉国土交通大臣が都内の追加を発表した同日の記者会見で「経営が厳しい都内の観光関連事業者にとって事業の回復に弾みがつくのではないか」と述べてはいる。
 ただ、7月の段階では「冷房と暖房の両方をかけるようなこと」と痛烈に皮肉っていたことを思えば、観光に弾みがつくと「申し上げてきた」とまで言い切るのは、違和感を禁じ得ない。
 さらに都は、都民による都内の宿泊に5000円を上乗せして補助する独自施策を9月下旬に発表。「観光産業の早期回復と都民のニーズに応えたい」と小池知事自らが旗を振っていた。
 この時期にはGo Toトラベルを批判してきた姿勢は霧散。むしろ政府のGo Toトラベルに沿う形で補助金を出し、Go Toトラベル推進派に“宗旨変え”していた。
 これは国の施策であって、国の判断で東京都が後から加わるという事態になったわけだ。Go Toトラベル事業の意味はあると思うが、この状況で国が新たな判断を下しているということだと思う(11月22日、総合防災訓練時のぶら下がり会見で)
「機を見るに敏」とは、政治家にとってむしろ必須の要素であり、とがめ立てられるべきものでは全くない。そこに十分な説明責任が伴う限りは。
 11月に入ると、都内だけでなく全国で1日当たりのコロナ新規感染者数が増加。感染拡大の“第3波”が急速に意識され始めた。当然、Go Toトラベルを継続するという政府の対応について批判が強まり始めた。
 すると、小池知事の動きは速い。上記のように、国の政策なのだから国でどうにかすべきという言葉を放った。
 その反面、北海道や大阪府のように、東京をキャンペーンの対象から除外するよう国にはっきりと求めるでもなかった。それでいながら、11月25日には都独自に行っていた補助の停止を発表。この矛盾した姿勢を記者会見で問われ「都は、都における命を守るという、その行為について責任を負っているわけでありますので、そういう判断(都独自の補助上乗せの停止)をしたということでございます」と煙に巻いた。
 ただその後もコロナ感染者の増加は止まらず、国と都で責任を押し付け合う構図に双方への批判が高まる。小池知事は12月1日、菅首相と会談し、都内発着の旅行について、65歳以上の高齢者と、基礎疾患を持つ人にGo Toトラベルの利用自粛を求めるという、実に曖昧な内容で合意した。
 この際に小池知事は菅首相に対し、全国規模でのGo Toトラベルの停止を求めたとされる。それに対して菅首相はすぐには結論を出さなかった。そして12月14日、ようやく全国規模での一時停止を決定したわけだ。この結果だけを見れば、小池知事の要望を菅首相が受け入れたようにも見える。煮え湯を飲まされた菅首相に、一矢報いたと。
 そしてその日の夜、冒頭のように「かねてから申し上げておりますけれども」で始まる小池知事の記者会見が行われたわけだが、Go Toトラベルを巡る小池知事の一連の言動をあらためて振り返ると、
 7~8月…Go Toトラベルを厳しく批判
 9~10月…経済効果に期待を示し、都独自の補助上乗せも決定
 11月…都のGo Toトラベル対象除外を自ら言い出さず、あくまで判断を国に求める
 ~全国で新規感染者数が増加~
 12月…国に全国規模での停止を求める
 と、まとめることができる。
 都内が10月からキャンペーンの対象になると決まれば、観光業界に弾みがつくと「申し上げてきた」。
 感染者数の増加が止まらず、Go Toトラベルへの批判が高まると、中途半端な感染予防対策では不十分だと「申し上げてきた」。
 機を見るには敏だが、これらの“方針転換”をつなぐ説明は一切ない。そんな小池知事の姿勢が如実に表れたのが、この記者会見の直後に意気軒高な面持ちで生出演したTBS系の報道番組「news23」でのやり取りだった。一部を要約して抜粋しよう。
国とのすれ違いや感染者・重症者数の増加
責任を問われても言及なし
星浩キャスター:北海道、大阪府は国と早めに合意をして(Go Toトラベルの適用を)見直した。都は国とのすれ違いがあって、見直しが若干遅れたように外形的に見える。反省点はあるか。
小池知事:重症者を減らすため、高齢者、基礎疾患をお持ちの方について、Go Toトラベルの自粛ということで話が進んだ。いろんな手は打ってきていた。感染者の増え方がプラトー、台地のようになってきていることから、今回、国と歩調が合った。
小川彩佳キャスター:12月1日に高齢者らへの自粛要請で国と合意したが、その時にもっと踏み込んだ発信をしておけばよかったとか、これまで感染者や重症者が増え続けたことに関して、都のトップとしての責任をどのようにお考えか。
小池知事:ありとあらゆる策を総動員してきた。重症者(の数)は遅れて数字が上がってくる。重症者に対して病床を150床から200床に増やすなど万全を期してきた。府中市にコロナ専用病院を確保した。東海大学から病院を丸ごと提供してもらうなど、対策を打ってきた。

 高齢者らへのGo Toトラベル利用自粛要請は、小池知事にとって「兵力の逐次投入」には当たらないらしい。またGo Toトラベル停止を即座にはっきりと求めなかった責任を問われたにもかかわらず、言及を避けた。むしろ、病床を増やしたといった回答に終始し、自身の責任については一切触れなかった。
 しかも番組内ではその後、小池知事が成果として強調したコロナ専用病院で医療スタッフが著しく不足している実態を、現地での詳細な取材映像を交えて厳しく指摘されていたのだから、何をか言わんやである。
 12月15日、都内のコロナ新規感染者数は速報値で460人を記録。重症者数は78人で、5月に緊急事態宣言が解除されて以来最多だった。コロナ禍に見舞われる世界各地では、政治指導者の一つの決断が住民の命を左右し得る重大な局面が続いている。
「危機管理の要諦は何か。それは大きく構えて、総合的に集中した取み組みを行うということ」という言葉を、誰よりも小池知事自身が反芻(はんすう)すべきではないか。