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日本も巻き込まれる「医療用ゴム手袋」調達危機

マレーシアの世界最大手工場で大規模感染
海野 麻実 : 記者、映像ディレクター
2020年12月15日
新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、にわかに深刻さを増しているのが、医療用ゴム手袋の不足だ。世界的に需要が急速に高まっていることから「医療用ゴム手袋争奪戦」が起きており、価格が高騰している。その争奪戦の渦中の舞台は、現在フル回転で稼働している東南アジアのマレーシア、ゴム手袋生産の現場だ。


ゴム手袋メーカーを有するマレーシアでは、外国人労働者が住み込みで暮らす寮などで、新型コロナウイルスの感染が拡大。政府は外国人労働者全員に検査を義務付けた(写真は首都クアラルンプール近郊の建設現場で働く外国人労働者の検査風景、筆者撮影)
世界最大手ゴム手袋メーカー パンデミックで恩恵
医療用ゴム手袋は、指先までしっかりと密着する天然ゴム、合成ゴムのニトリル手袋が必要とされており、天然ゴムの原料となる樹液を採取できるゴムノキが広がる広大なプランテーション(大規模農場)を有する東南アジアが、世界シェアの大半を占めている。なかでも、天然ゴムの原産地であるマレーシアは、ゴム手袋の世界シェアトップに君臨しており、そのシェアは実に約65%に上る。
マレーシアには世界最大手のゴム手袋メーカー、トップ・グローブをはじめとして、ハルタレガ・ホールディングス、スーパーマックス・ コーポレーションなどが業界を牽引しており、コロナ禍での世界的な需要拡大の恩恵を受け、株価は軒並み急上昇している。ブルームバーグでは『テスラ顔負け 年初来で1000%超上げた手袋メーカー』などと報じられるなど、マレーシアの”ローテク銘柄”の年初来株価の急速な高騰は、コロナ禍で一躍恩恵を受けた業界として世界の注目を浴びることとなった。
なかでも、最大手トップ・グローブは大部分の売り上げを海外への輸出が占めており、北米、欧州、アジアなど世界190カ国以上に及んでいる。新型コロナウイルスの感染拡大以降、トップ・グローブには世界各国から注文が殺到し、12月9日に発表された2020年9~11月期決算では、医療用ゴム手袋の販売が大幅に増加したことで、純利益は前年同期比20倍を超え、23億7577万リンギ(約605億円)。売上高は四半期ベースで過去最高の約47億59万リンギ(約1220億円)と、前年同期比293.6%の上昇を記録している。
新型コロナワクチンの開発が進み、その接種や試験など向けに医療用ゴム手袋の需要はさらに増加することが見込まれ、一度使用されれば廃棄されるゴム手袋の需要は、今後さらにうなぎ登りとなることが予想されている。
その陰で外国人労働者が大規模クラスターに
しかし、空前の好景気に沸いていたかに見えたトップ・グローブに、暗雲が垂れ込めたのは先月のことだ。工場で働いている外国人労働者が居住する寮などで、新型コロナウイルスの大規模なクラスター(感染者集団)が発生。世界の医療現場などで使われるゴム手袋の製造現場という、その衛生環境が最も重視されるべき舞台で起きたクラスターは、トップ・グローブ社のみならず業界全体の威信を揺るがしかねない事態となった。
ロイター通信が報じたところによると、今月9日時点でトップ・グローブのマレーシア国内49カ所の工場において、実に5147人が感染していることが明らかとなっている。これは、現場の従業員全体の58%に上る人数で、いかに工場労働者の間で感染が急速に拡大したかが窺える。一時、トップ・グローブ従業員の感染者数は、マレーシア国内全体の新規感染者数の実に半数以上を占めることとなり、従業員寮には今月14日まで厳しい封鎖措置が取られ、工場の操業は停止されることとなった。


医療用ゴム手袋世界最大手の工場で働く外国人労働者らの間で感染が拡大。写真は、首都クアラルンプール近郊の外国人労働者が暮らす共同住宅まで医師らが、新型コロナウイルスの「出張検査」に出動している様子(写真はトップ・グローブとは別企業の外国人労働者、筆者撮影)
実は、マレーシアの製造業や農業、プランテーション産業は、南アジアなどからの労働者を低賃金で多く受け入れ成り立っている構図が存在する。医療用ゴム手袋世界最大手であるトップ・グローブも例に洩れず、ネパール、バングラデシュなどからの労働者らにより支えられてきた。
これらの外国人労働者が暮らす寮は、非常に狭い空間に複数人が共同で生活することが多く、衛生レベルも低く換気も悪い状態だとされ、これまで同様の寮などにおいて新型コロナウイルスの感染が発覚するケースが相次ぎ、マレーシア当局は厳しく査察を行ってきた。
トップ・グローブは今年7月にアメリカの税関・国境警備局から、一部の子会社製ゴム手袋の差し押さえ命令を受けている。これは、外国人労働者らの劣悪な労働環境が理由とされており、トップ・グローブ側は改善に取り組んできた経緯がある。
こうした状況を受け、マレーシア人的資源省は先月26日、トップ・グローブのグループ会社6社の従業員寮の調査を行い、6社すべてで「労働者住宅最低基準法」の違反事例を発見したと発表した。これらの調査はトップ・グローブだけでなく、今感染が拡大している外国人労働者らを雇用する企業を中心に取り締まりが強化されている。
マレーシア政府は、労働者住宅最低基準法を改正し、労働者が暮らす寮などの最低基準を引き上げるなど、国際社会からの非難を交わし、衛生的な環境を確保するために躍起となっている。トップ・グローブも、数億円を費やして新たな労働者向けのアパートなどを購入したほか、寮の改装などに既に着手し始めている。


医療用ゴム手袋世界最大手の工場で働く外国人労働者らの間で、大規模クラスターが発生。写真は、首都クアラルンプール近郊の外国人労働者が暮らす共同住宅。衛生環境の悪さが指摘されている(トップ・グローブ社とは無関係、筆者撮影)
日本でも不足の危機 医療用ゴム手袋は水が必要
マレーシアでは現在、新型コロナウイルス感染の第3波が襲っており、3月に敷かれた厳しい活動制限令は解除され企業活動などは再開しているものの、外国人労働者を含め、感染者数は減る兆しが依然見えていない。今月に入って、トップ・グローブは操業を一時停止していた28工場のうち、7工場の稼働を再開したが、残りの21工場は依然として稼働を停止している状況だ。再会には向こう数週間かかるとされている。
一方、日本国内では、大量の水を必要とする医療用のゴム手袋の製造は採算が合わず、マレーシアなどから大半を輸入している状態で、価格の高騰は医療機関にとって深刻な負担となってきている。
日本企業によるマレーシアでのニトリル手袋工場や国内工場の新設の動きも出始めているが、実際の製造開始までには時間を要する。輸入先である海外における出荷量や生産ラインの縮小、工場の封鎖などに、医療用の必需品が影響を受ける「リスクの軽減」は喫緊の課題となっている。