トランプが息巻く「追加関税」世界経済への影響度
BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏に聞く
野村 明弘 : 東洋経済 解説部コラムニスト
2024年11月27日

2025年1月20日に第2次トランプ政権が発足する(写真:Bloomberg)
アメリカ大統領選は共和党のトランプ氏が勝利し、2025年1月20日に新政権が発足する。これによって、今後の世界経済はどうなるのか。BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏に見通しを聞いた。
※記事の内容は東洋経済の解説動画『トランプ政権誕生で世界経済はどうなる?』から一部を抜粋したものです。外部配信先では動画を視聴できない場合があるため、東洋経済オンライン内、または東洋経済オンラインのYouTubeでご覧ください。
今回はスムーズに閣僚人事が進んでいる
――2期目となるトランプ氏はどんな経済政策を打ってくるでしょうか。
トランプ氏は前回の選挙中、トランピズムを語っていた。トランピズムとは何かというと、経済ナショナリズム、国境管理(移民規制の強化)、アメリカ第一主義の外交のことです。
ただその後の閣僚人事を見ると、レックス・ティラーソン氏(国務長官)やゲーリー・コーン氏(国家経済会議委員長)など、安全保障も経済も伝統的な共和党人脈で構成していて、選挙モードと統治モードが全然違っていた。
前回はポストが埋まらなかったりもしたのですが、今回はシンクタンクなどもできて、このポストには誰を入れるべきだという候補までどんどん出してきているんですよね。早い段階でトランピズムを遂行する人が埋まってくるので、2025年半ばぐらいには議会の承認が必要な政策もスタートしてくると思います。
これと似たような文脈で言うならば、安倍晋三元首相が第1次政権で失敗した後に経験値も高まっていて、一緒にやった人たちをみんな集めて非常に準備して、第2次政権が長期政権になったという感じのスムーズさで進む可能性があるということではないでしょうか。
――2期目のトランプ氏は政策をバリバリ進めると見ていいわけですか。
そうだと思います。具体的な政策なんですけれども、そもそも今、アメリカ経済がかなりしっかりしているんですね。
1つ目にトランプ氏の当選が決まる前の段階からFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)は景気がいいからそんなに利下げできないという話になっていたわけですが、トランプ氏は景気がいい中で大規模減税をやるということですから、それは需要を強めてインフレ率を高めることになります。
2つ目に移民規制の強化については、この2~3年、バイデン政権下で移民が入ってきていたから労働需給が緩んでインフレも落ち着いてきていたわけですが、移民を抑制するということになると、これまたインフレ率を押し上げるということになります。
そして3つ目ですけれども、関税強化、特に中国に6割も関税をかける、あるいは同盟国を含めてすべてに10~20%の関税をかけるということになると、よその国からの商品を値上げするということになりますから、これもインフレ率を高めるということになる。
そうなると、FRBが利下げをストップするということだけでなくて、政策が本格化したときに利上げのリスクが出てくるということもあります。
トランプ氏は「ディールの人」
ただここで確認しておかないといけないのは、基本的にトランプ氏はディールの人です。
われわれが恐れているのは、中国にそうとうな関税をかけるということになると、中国経済が悪化する。そうすると日本も東アジアの国もヨーロッパも中国に輸出しているところがダメージを被る。
アメリカ自身も返り血を浴びるリスクもあるんですが、トランプ氏にとって(関税は)基本的にディールの材料なので、例えば、習近平国家主席がアメリカからの輸入を大量に増やすということになれば、関税はかけませんということになるんですね。
――トランプ氏がやろうとしていることが実行されれば、基本的に経済はインフレの方向に進むということですね。一般にインフレというと悪い印象がありますので、景気が悪くなるんじゃないかという気がしますが、河野さんの見立てでは、アメリカ経済は悪くなるというわけでもない?
ここは詳しく説明をしておくと、日本のような国が関税をすごく上げると、物価高になって経済が回らなくなりますよね。
アメリカの場合はそうとう経済規模が大きいので、輸入を抑制してその需要が国内財に向かえば、むしろ国内景気をサポートすることになるので、直ちに大きく悪化するということはないかと思われます。
ただ、そうはいっても割高な商品を買わないといけないということに企業がなってくれば、それはうまく回ってこないので、成長が鈍化するということは間違いなくあるでしょうね。
――そうすると、今後4年間のアメリカ経済は単純にはいかなそうですね。
そうですね。ここで1つお話ししておかないといけないのは、実はちょっと発射台が高まっている可能性があるということなんですよ。
潜在成長率はだいたい2%ぐらいと思われていたのが、2023年、2024年に入ってあれほど高い金利が続いていたにもかかわらず、3%成長がずっと続いているんですね。
これを私はずっと言ってきたんですが、おそらく拡張的な財政政策を繰り返しているだけではなくて、生産性上昇率が高まっている可能性があるということなんですね。
すぐにマイナス成長に陥る可能性は低い
理由はいくつかあるんですが、1つはコロナ禍でロックダウンが起こったとき、レイオフされた人たちが経済を再開して元の会社に戻ったかというと戻らずに、賃金の高い生産性の高い企業に転職したわけですね。
つまり経済全体で見ると、生産性の低いところから生産性の高い企業に人が移動したので、いわゆるリシャッフル効果で生産性が上がっている。あるいはコロナによる公衆衛生上の理由やその後の人手不足で自動化が進み、資本ストックが増える形で生産性が上がっている。あとはAIの影響なども出てきている。
だからトランプ氏が実行する政策、例えば関税引き上げなどが経済に悪影響を与えても、発射台が高いのでマイナス成長に陥るという話には、すぐにはならないのではないかと見ています。
――アメリカは世界最大の経済大国ですので、世界経済に与える影響も大きい。トランプ氏の政策によって、世界経済が大幅にスローダウンするようなことにはならないという見立てですか。
トランプ氏はあくまでもディールのためだと言っているので、私は中国に関税を結果的にはかけないと思っています。
ただ、かけた場合どうなるかということですが、中国経済は大きく悪化しますよね。中国は財政政策で対応しようとしますが、それでも景気が大きく悪化する。
そうなると、先ほども少しお話ししましたが、日本や中国の周りにある東アジアの国々は、中国向けの輸出もそうとう多いですから、それなりのダメージを受ける。ヨーロッパも中国向けの輸出が多い。だから中国の関税がどのくらいになるかというのが焦点の1つです。
もう1つは、日本やヨーロッパにも関税をかけるとトランプ氏が言っているんですが、おそらく関税をかけるという表明をしたとたんに、そのこと自体がドル高を引き起こします。ですから、日本が仮に10%の関税をかけられてアメリカ向けの輸出が大変になるかというと、一方で10%ぐらいのドル高などでオフセットされるので、その心配はない。
キーになるのは米中の交渉がどうなるか
やはりキーとなるのは本当に不確実でわかりませんが、中国との交渉がどうなるかということに尽きる。
それを抜きにするとインフレ的であり、アメリカがなかなか利下げできない、むしろ利上げするかもしれないということでドル高になる。
あとは多くの国からすると、ようやくアメリカで利下げが始まったので利下げをどんどん進めることができると思っていたのに、アメリカが利下げをストップするということになると、ほかの国も利下げができなくなるのでしんどいですね。
ただ、日本銀行は利上げの方向にあるので、唯一そこの部分で、日本だけはあまり困らないという部分もあるかもしれません。
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