2025年はトランプ構文がわかれば意外に怖くない
3つの視点で来年の世界経済を展望してみよう
かんべえ(吉崎 達彦) : 双日総合研究所チーフエコノミスト
2024年12月07日

2025年の世界経済はどうなるのか?トランプ構文がわかれば、意外に怖くないかもしれない(写真:ブルームバーグ)
師走である。投資家は来年の投資戦略を策定し、エコノミストは来年の経済予測を立てねばならない。2025年の場合は、ドナルド・トランプ次期アメリカ大統領がいったい何をするのか、サッパリ読めないという点がまことに悩ましい。
「トランプ2.0」を懸念していた?IMFの最新予測
来年の世界経済の見通しを立てる際に、ベンチマークとして好適なのがIMF(国際通貨基金)の世界経済見通し(WEO=World Economic Outlook、日本語なのでご安心を)だ。
四半期ごとに改定されるが、最新版は10月下旬であり、その時点で誰が次期大統領になるかはまだわかっていなかった。しかるに今回のWEOのテーマは、”Policy Pivot, Rising Threat”(政策の転換、高まる脅威)となっていて、すでに「トランプ2.0」を懸念していたようにもみえる。
以下、成長率予測の主要部分だけを抜き出してみた。

2024年から25年にかけての世界経済は、3%台前半で推移する見込み。ということは、あんまり晴れがましい水準ではない。
新型コロナウィルスによるパンデミック(感染爆発)はどうにか沈静化し、インフレも少なくとも先進国では収まりそうだが、世界貿易量の低い伸びがなんとも心もとない。そして世界は、ウクライナと中東という2つの戦争を抱えている。あんまり過大な期待を抱いてはいけない年であるように思える。実際にユーロ圏や日本、中国経済などは成長見通しが軒並み下方修正されている。
そんな中で目立つのがアメリカ経済の堅調さだ。今回も上方修正されていて、2023年、2024年と連続して3%近い成長を続けている。25年は2%台前半への減速が見込まれているものの、米連銀には利下げ余地があるからたぶん景気後退には至らなくて済むだろう。まことに恵まれた状況と言える。
そこへ飛び込んできたのが「トランプトレード」だ。ニューヨーク市場は株価が新高値を追っている。ドルの長期金利も上昇気味で、世界の為替市場ではドル高が進んでいる。「またトラ」リスクに怯える日本から見ると、なんだか理屈を超えた超常現象のように見えてしまう。
トランプ2期目も「3つのチャネル」は機能するのか?
ここで思い出されるのが、トランプ政権第1期のことである。著名エコノミストのエド・ハイマン氏は2017年3月のレポートでこんなことを書いていた。
「トランプの成長戦略には3つのチャネルがある。①Fiscal Stimulus(財政刺激策)、②Deregulation(規制緩和)、③Animal Spirits(アニマル・スピリッツ)――楽観度の平均、つまり消費者、住宅建設業者、中小企業、CEO のアニマル・スピリッツは過去最高レベルに達している」
いや、①と②はわかるけど、③はいったい何のことなのか。アメリカの企業家や消費者のマインドが好転するのは結構だけれども、彼らはトランプさんが仕掛けようとしている貿易戦争や過激な移民政策のリスクを感じていないのか?
そんな8年前の筆者の疑問をあざ笑うかのように、トランプ第1期政権下の株高は続いた。ゆえに「トランプトレードに逆らっちゃいけない」というのが教訓となるのだが、そのメカニズムについては今も釈然としないままである。
今回、第2期政権の発足を控えて、またもトランプトレードが始まっている。上記3大メリットのうち、①「財政刺激策」は今回も実現するだろう。共和党は僅差ながら上下両院で多数を握っており、「財政調整法」を使って予算案は楽に通すことができる。
第1期政権で実現した「トランプ減税」は、2025年末で失効することになっているけれども、2026年1月からは新たな減税が行われることだろう。トランプさんは法人減税や「チップ非課税」も公約に掲げており、どこまで踏み込めるかは興味深いところだ。
②「規制緩和」も進むはずである。いちいち議会で法律を通さなくても、規制当局のトップを挿げ替えるだけで効果は出る。化石燃料の開発が進むから、国内的にはガソリン価格の低下というメリットもあるだろう。AI開発や自動運転、暗号資産などに関連する規制の緩和も進み、イノベーションを誘発することが期待できそうだ。
トランプ構文がわかれば「またトラリスク」は怖くない
そして問題なのが、③「アニマル・スピリッツ」である。これがわかりにくい。それでも過去にいろんな人たちに聞いた話を総合すると、要はこんなことであるらしい。「民主党政権が何年か続くと、税金やら規制やらESG(環境・社会・統治)やらDEI(多様性・公平性・包括性)やら、企業経営にとっての重荷が増えてしまうんだよ。それらがスカッとなくなると思うと、それだけで開放感があるんだなあ。トランプ政権に振り回されるのは、もちろん愉快なことじゃないんだけどね」
それでは彼らは、「またトラ」リスクをどう考えているのだろう?「そりゃあ、不安がないと言えば嘘になるよ。関税を引き上げれば物価は上がるし、不法移民の強制送還をやれば、国内が労働者不足になって賃金コストが上がるしね。でも、トランプさんはビジネスマンだ。経済を悪化させるようなことをすれば、自分の首が締まることは十分に理解していると思うよ」
第1期トランプ政権のときにも、よく言われたものだ。「トランプさんの言うことは真面目に聞かなきゃいけないが、字句通りに受け止めちゃいけない」(Taking Trump Seriously, Not Literally.)。彼の発言は誇張が多いし、明らかな「ネタ」も含まれているので、片言隻句(へんげんせきく)にとらわれると混乱してしまう。でも、彼はいつもホンネで語っているから、そこは真面目に受け止めなければいけない。
つまり自分の支持者を喜ばせるためには、関税は上げたいし、不法移民は強制送還してやまず。でも、それでアメリカ経済をインフレにしてしまったら、元も子もないのである。ご本人も資産家であるから、株価や不動産価格も気にしているはず。だからウォール街を敵には回せない。その微妙な匙加減は、今回の財務長官人事にもよく表れている。
今回、他の閣僚人事がバタバタと決まる中にあって、財務長官人事の発表は11月22日とやや遅れた。経済スタッフ内部で、議論が割れていたからであろう。その結果、「関税タカ派」のハワード・ラトニックが商務長官に回り、本命たる財務長官を射止めたのは穏健派のスコット・ベッセントであった。この人事が発表されたその日に、アメリカの長期金利は低下した。「ベッセントが長官なら財政赤字が減るだろう」と市場が見なしたからである。
ところがすぐ後の11月26日になって、トランプさんはご自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で、「中国とカナダ、メキシコに追加関税だ!」とぶち上げている。おいおいおい、アンタはいったいどっちにしたいんだ。そこはもちろん両にらみであって、支持者を喜ばせると同時に、経済を壊したくもないのである。
この「トランプ構文」がわかってくると、「またトラ」リスクがあんまり怖くなくなる。それこそ「アニマル・スピリッツ」に代えてしまうことができる。外側から見ると怖いけれども、内側の人たちはそんなに恐れていない。何しろ彼らは、第1期トランプ政権をたっぷりと堪能しているのだから。
やっぱり気になる中国経済の元気のなさ
来年の世界経済見通しに話を戻そう。
2025年に気になるのは中国経済の元気のなさだ。成長率は高いのだが、政府目標の5%には届かない。IMFのエコノミストたちが、「オタクは無理ですよねえ」と言っているかのようだ。それだけではない。WEOデータベースの最新版を使って米中の名目GDPを比較するとこんな風になっている。
不動産問題で中国はデフレ気味になっていて、21年から名目の伸びがほとんど止まっている。いやもう、他人のことならよくわかるけれども、デフレってつくづく怖い。世界経済に占める中国のシェアがなんと低下しているのだ。

この間にアメリカ経済は盛大に規模が拡大し、世界シェアも微増している。
この調子でいくと、以前によく言われた「ドル建てGDPの米中逆転」は当分なさそうだ。ちなみにIMFは2029年までの予測値を出していて、その時点のアメリカ経済は35.5兆ドル(シェア25.4%)、中国経済は24.6兆ドル(シェア17.6%)となっている。習近平さんには悪いけれども、「建国100周年の2049年に中国は世界一の強国となる」という夢は、おそらく果たされることはないだろう。
いかにここ2~3年で、米中経済に差がついたかということだ。そして来年夏頃には、「第2次米中貿易戦争」が始まるだろう。アメリカは「アニマル・スピリッツ」、中国は「国進民退」である。どっちが有利であるかは、言うまでもないだろう。
2025年の日本経済はやっぱり「小吉」程度?
最後に日本経済について簡単に触れておく。
2024年の成長率が0.3%と下方修正されていることが気になるが、これは2024年1~3月期のマイナス成長――ほとんどが能登地震と自動車不正認証問題の余波である――の影響を受けたから。IMFは暦年ベースだから2024年の発射台が低くなったが、年度ベースで考えると内閣府の見通しが2024年度+0.7%、2025年度が+1.2%とまあまあの水準となる。
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