トランプ関税の脅威、対中で「第三国経由」封じも
「保護主義の関税」と「威嚇のための関税」がある
渡辺 亮司 : 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長
2025年01月17日
1月20日の就任直後に多数の大統領令に署名し、政策を実行に移すと想定される。なかでも通商政策の中身が焦点だ。

日本企業はどうトランプ関税に備えればいいのか(カーター元大統領の棺の前で 写真:Kayla Bartkowski/GettyImages)
自称「タリフ(関税)マン」のトランプ前アメリカ大統領が1月20日、ホワイトハウスに復帰する。第2次トランプ政権(2.0)では、第1次トランプ政権(1.0)と同様、通商政策に焦点を当てた政権運営を展開することを示唆している。
トランプ氏は支持政党を共和党、民主党、そして第三政党の間で5回も変えてきたが、ビジネスマンの頃から唯一、一貫性があるのが通商における保護主義的な考えだ。
選挙戦でトランプ氏は、普遍的基本関税10~20%、対中関税60%、選挙後にはメキシコとカナダに対する関税25%、中国に対する追加関税10%、BRICS(主要新興国)に対する高関税を打ち出した。1月に入るとグリーンランドをめぐってデンマークに対する関税に言及するなど、さまざまな場面で関税を武器に威嚇している。
2種類のトランプ関税を見極める必要
トランプ氏の関税政策は2種類に大きく分類できる。
まずは製造業を中心に国内産業を保護すること、あるいは他国の関税撤廃を狙う本来の通商目的の関税。もう1つは、通商とは異なる分野でトランプ氏の目的を達成する交渉材料としての関税だ。
通商目的の関税の一部は比較的早期に発動される可能性がある。1.0で調査後に発動済みの対中関税(1974年通商法301条)や鉄鋼・アルミ関税(1962年通商拡大法232条)がこれに該当する。
一方、交渉材料の関税については、各国のトランプ政権との交渉次第では発動されない、あるいは交渉妥結次第、撤廃される可能性も大いにある。
交渉材料の関税には、2024年11月、カナダとメキシコに対し威嚇した25%関税が含まれるであろう。仮にカナダとメキシコが移民問題や麻薬問題の解消などでトランプ氏が納得する対応に合意すれば、トランプ氏は勝利宣言し、関税を発動しない可能性も大いにありうる。
1期目の2019年5月、トランプ氏は移民問題をめぐり、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき同年6~10月まで段階的に引き上げる5~25%の関税を発表した。しかし、その後、ロペス・オブラドール(AMLO)前大統領が率いるメキシコ政府が移民対策でトランプ政権と合意したことで関税発動は回避された。
とはいえ、今日、メキシコは新大統領のクラウディア・シェインバウム氏が対応している。同氏がAMLO氏のようにトランプ政権の要望に柔軟に対応しない場合、関税発動リスクはある。
大統領権限で発動可能、同盟国でも容赦なし
アメリカ憲法第1章第8条によると、連邦議会が「諸外国との通商を規制する」権限を有する。だが、連邦議会は長年、各種法案を可決して通商権限を行政府に委譲してきたことからトランプ氏は既存の法律に基づき、議会承認を経ずに関税政策を実行に移すことが予想される。
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1期目でトランプ氏が1962年通商拡大法232条を発動して以降、大統領権限をめぐり司法で争われた。だが最終的には司法は大統領の判断を支持し、経済安全保障をめぐる大統領権限は広範囲に及ぶことが改めて示された。
したがって、関税審査などの手続き面に政権が準拠している限り、裁判所が大統領の関税を阻止する可能性は低いであろう。
近年、アメリカでは関税は超党派で支持を集めるようになっている。
4年前、バイデン大統領がトランプ氏の政策を継承し、あまり変えなかった数少ない政策の1つが関税だ。アメリカの労働者を重視した保護主義を維持した。
ただ、バイデン政権では同盟国に対する関税は極力避けるなど、よりきめ細かな対応に切り替えた点が異なる。トランプ2.0では、1.0と同じく日本をはじめ同盟国であるかを問わず、再び関税発動の脅威が迫っている。
不動産の世界で勝者と敗者がはっきりするのと同じく、トランプ氏はゼロサムの世界観を持っていると聞いたことがある。アメリカの政権は1990年代以降、貿易は各国にとって「ウィン・ウィン」で恩恵をもたらすと捉えてきたが、トランプ氏はこの考えを1.0で破棄した。
なお、トランプ氏は、他国との貿易収支を2国間関係の公平性の物差しとしている。
トランプ1.0時代の商務省の幹部から聞いた話では、当時のロス商務長官をはじめ省内の幹部会合では毎回、最初の議題は貿易赤字ランキングの確認であったという。米通商代表部(USTR)でも同様に、トップダウンで貿易赤字対策が重視されていた話を、USTR職員からも聞いた。
したがってアメリカの貿易赤字トップの中国とメキシコに、トランプ政権は特に焦点を当てるであろう。
2023年の貿易赤字ランキングで日本は2023年に5位にランクイン。2024年(公表済みの11月までの統計)は7位だ。
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上位にある日本は、トランプ政権の標的に入るリスクをはらんでいる。
関税への抵抗勢力は第2次政権に不在
トランプ1.0では、関税をめぐり激しい内部抗争が繰り広げられ、時にメディアでも報じられた。
スティーブン・ムニューシン財務長官、ゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長、ソニー・パーデュー農務長官など自由貿易推進派が、保護主義派のピーター・ナバロ大統領補佐官・ホワイトハウス通商製造業政策局長、ロバート・ライトハイザーUSTR代表などによる関税政策導入に強く抵抗した。
だが、2.0ではムニューシン氏やコーン氏のように市場を代弁して関税に強く抵抗する人物は不在だ。2.0でトランプ氏が指名したスコット・ベッセント財務長官候補、ケビン・ハセットNEC委員長候補などは市場寄りであるものの、抵抗勢力とならないとの見方が支配的だ。
トランプ2.0で、1.0にはなかった最大の公約の1つが、インフレ抑制だ。一部の民主党支持者をはじめ関税反対派は、関税をインフレ押し上げ要因と主張している。
だが、トランプ氏は1.0でインフレ問題が起きなかったことからも、そのリスクを気にしていない。なお、ピーターソン国際経済研究所の調査によると、1.0の1974年通商法301条に基づく対中追加関税は、アメリカのインフレ率を0.26%押し上げたにすぎない。
トランプ関税で重要となるのがワシントンや米業界内でのインテリジェンス(情報収集)だ。
関税発動の噂などは業界内で知り合いを通じ事前に察知することもある。各社は関税発動の場合の経済的影響を分析するなど入念な事前準備をしている。一部企業は第三国などへの調達先変更やアメリカ国内産への切り替えといったシナリオを準備している。
そして、一部は政府へのアプローチ体制も準備している。特定品目で政府に対し除外を求める安全保障上の理由なども検討し、効果的な説得方法を用意しているところもある。
トランプ関税のうち、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税やその他の一部は、早期に実行可能なものもあるため、このような事前準備がゲームチェンジャーとなりうる。
中国産品は第三国経由のものもブロックする可能性
なお、前述の通り第三国に生産拠点を移すことを実施、あるいは検討する企業も多数あるであろう。だが近年、ワシントンでは超党派でメキシコやベトナムなど第三国経由でアメリカに流入する中国産品への懸念が強まっている。
トランプ2.0に政権入りする通商幹部は、第三国経由の中国産品の取り締まる新たな強化策導入を狙っている。
例えば、原産国が第三国となっていても中国産品比率がある数値を超えた場合は1974年通商法301条関税を適用したりするといった案など、これまでの政策の常識を覆す、新たな手法が導入されることもありうる。
また、北米貿易協定(USMCA)のメキシコ・カナダで生産していても、親会社が中国企業であれば関税を適用するといった対策が導入されるかもしれない。
全米経済研究所の分析では、1.0で課した対中関税は雇用にはややマイナス影響があったものの、共和党の票拡大につながって政治的にはプラスであったとの調査結果を発表している。トランプはこれを直感で理解しているようだ。
今日、企業や業界団体は迫るトランプ関税に抵抗する準備を進めている。日本企業も必要に応じて、早期に同じく被害を受ける他の企業や業界団体、各国政府などとの連携も模索することが望ましいであろう。
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