「高リターンの投資先が日本にない…!」個人の投資マネーの“海外流出”を加速させる新NISA。日本経済にもたらす深刻な影響とは?

「高リターンの投資先がない」日本の残念な現実。その結果、日本企業が生産性を高めるために必要な資源が減少する。そして、国内投資先の収益率はますます低下する。
「貯蓄から投資へ」というスローガンのもと、大きな期待を背負って始まった新NISA。しかし実態は、家計資産の海外流出を招き、日本経済の足元を揺るがす結果となりつつあります。国内に魅力的な投資先が乏しい中、個人の投資マネーはより高リターンを求めて次々と国外へ流れているのです。
本記事では『日銀の限界』より一部を抜粋・再編集し、新NISAがもたらす家計資産の海外流出の現実と、それが日本経済にもたらす深刻な影響について詳しく解説していきます。
新NISAを通じた海外投資の急増
新NISAへの資金流入が急増し、家計資産の海外シフトが起きた。
日本証券業協会によると、証券10社の2024年1〜5月のNISA口座の新規開設数は224万件と、前年同期の2.6倍だった。
このかなりが、海外に流出している。1月以降、投資信託委託会社等による対外証券投資は、旧NISA時代の平均を大きく上回った。日興リサーチセンターの調査では、1〜5月の海外株式型投信への純流入額は、5兆4284億円と、前年同期の約5倍だった(日本経済新聞、2024年6月28日)。
財務省「対外及び対内証券売買契約等の状況」によると、2024年1〜6月の国内の投信運用会社や資産運用会社による海外株・ファンドの買越額合計は、同期間として過去最高の6兆1639億円だった。これは同期間の貿易赤字額(4兆円前後)を上回る。また、銀行の買い越し(2207億円)を大きく上回る。
日銀の2024年1〜3月期の「資金循環統計」によると、家計金融資産のうち、投資信託の残高は24年3月末時点で前年同月比31・5%増の119兆円と、過去最高だった。家計金融資産のうちの「外貨性資産」(外貨預金、対外証券投資、外貨建て投資信託)の比率は、24年3月末時点で4・2%と、過去最高になった。
このように海外投資が増えた原因は、アメリカの株価上昇が著しいからだろう。そして新NISAが大々的に喧伝されたため、若年層を中心として、多くの人々が投資に関心を持ったからだ。また、円安の影響も大きい。
金融資産所得が優遇される本当の理由
金融資産からの収益については、総合課税でなく分離課税を選択することが可能だ。これによって、税負担は大きく軽減される(とくに高額所得者の場合)。NISAなどの少額投資非課税制度は、一定の限度で、税負担をまったくゼロとする。
分離課税選択制も少額投資非課税制度も、日本独自の制度ではなく、諸外国にも広く存在する。実際、日本のNISAは、イギリスの少額投資非課税制度(ISA)をモデルに作られたものだ。
こうした措置が必要なのは、総合課税をすると税負担が重くなるので、資金が海外に逃げてしまうからだと言われる。それを防ぐために、他の所得よりは税負担を軽減する必要があるというのだ。
しかし、本当にそうした効果があるかどうかは疑問だ。実際、日本の場合には、すでに見たように、新NISAが資本流出を引き起こした。
金融資産所得の税負担軽減措置がとられている本当の理由は、政治的圧力であると考えられる。そして、少額投資非課税制度は、人気取り政策としての性格が強い。
これらの措置が資産の海外流出をもたらさないために最低限必要な条件は、国内に魅力的な投資先が存在することだ。
しかし、海外投資の収益率が高ければ、標榜(ひょうぼう)されている効果とは逆に、資金流出を増大させる結果になってしまう。日本の場合がまさにそれだ。
「貯蓄から投資へ」が日本経済を弱める
新NISAは、岸田政権が、「貯蓄から投資へ」というスローガンの下で導入したものだ。
しかし、「貯蓄から投資へ」とは奇妙なスローガンだ。銀行預金であれ株式投資であれ、家計の観点から言えば貯蓄だ。そして、銀行預金であれ株式投資であれ、最終的には投資に回されるからだ。
これを標榜する人たちが主張しているのは、リスクと期待収益率の関係を、現在の安全重視的なものから、リスクが高いものに変えたほうがよいということだ。
しかし、リスクと期待収益率のどのような組み合わせが望ましいかは、資産保有者の個々の事情によって異なる。しかも、受け皿となるべき高リターンの投資先が日本にないので、家計資産の海外流出をもたらしてしまった。
その結果、日本企業が生産性を高めるために必要な資源が減少する。そして、国内投資先の収益率はますます低下する。
「貯蓄から投資へ」という政策がまったく間違ったものであることが、あらためて明らかになった。
政府の政策として必要なのは、技術革新や人的能力の向上を助けることによって、国内での経済活動を活性化させ、国内投資の収益率を高めることだ。これは、金融資産所得の税負担軽減によって実現できるものではない。
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