対中国で大転換したトランプ関税、米中「緊張緩和」の裏で32%の関税を迫られた台湾が苦悩する4つの不透明性

第2次トランプ政権発足以降、苛烈さを増していた米中の制裁・報復合戦は、5月11日に「一時停戦」となった。アメリカのベッセント財務長官と中国の何立峰副総理がスイスで会談し、「緊張緩和」で合意したからだ。
第2次トランプ政権は発足以降、一部の例外を除き全中国製品に対する追加関税率を累計145%にまで引き上げ、中国側も報復措置としてアメリカ産大豆・鶏肉・大型自動車など個別品目に対して10~15%の追加関税を課したほか、それとは別に全アメリカ製品を対象に累計125%の追加関税を課していた。しかし、今回の合意で、アメリカ側は累計関税率を145%から30%に、中国側は125%から10%に引き下げることにした。
むろん第2次トランプ政権の発足前と比べれば中国製品に対する関税率は30%も高くなっている。また、90日間の期間を設け、交渉の行方によっては米中ともに関税率を24%ポイント引き上げられることにもなっている。さらに言えば、第2次トランプ政権発足前に発動された米中双方の追加関税は今回引き下げの対象とはならなかった。
米中の「緊張緩和」を台湾市場も歓迎
とはいえ、米中という二大経済大国間の大幅な関税引き下げを世界の金融市場は歓迎した。状況は台湾でも同じだった。台湾の代表的な株価指数である加権指数は米中貿易協議前の5月8日から5月13日の間に3.8%上昇した。
台湾にとってアメリカ、中国はそれぞれ1位、2位の輸出先である。また、中国を対米輸出拠点としている台湾企業も多い。それゆえ、今回の米中合意が台湾の株価や当面の経済成長にとって好材料視されるのは当然だろう。
また、真偽は別として、相互関税による経済への悪影響を恐れるトランプ政権が、中国以外の国・地域とも交渉の妥結を急ぎ、関税の引き下げに動くのではないかといった期待も株価上昇に一役買った可能性がある。
確かにそうした期待を抱きたくなるほど、台湾もトランプ政権の関税政策に翻弄されてきた。アメリカ時間4月2日にトランプ大統領が発表した相互関税は次の3つの点で台湾にとっても衝撃だったのだ。
第1に、台湾に適用された相互関税率が32%と高かった点である。32%という関税率は、相互関税率表に載せられた57の国・地域の中でも高い部類に入る。しかも、輸出製品が似ている日本(24%)、韓国(25%)よりも台湾の相互関税率は高かった。
第2に、ASEAN諸国に高めの関税率が課された点も衝撃だった。2018年の米中対立以降、台湾企業は中国にあった対米輸出用の生産拠点を台湾に加え、東南アジアに積極的に移してきた。台湾の輸出受注総額を100としたとき、中国・香港での生産比率は2017年時点で48.2だったが、2023年には37.8にまで低下している。
代わって生産比率が大きく上がったのが台湾とASEAN諸国である。台湾での生産比率は2017年から2023年の間に46.5から49.1に上昇したが、それ以上にASEAN諸国での生産比率は1.6から7.0へと大きく上昇している。
しかし、移転が進んだがゆえに、アメリカの対ASEAN貿易赤字が大きく膨らみ、トランプ政権はカンボジアに49%、ベトナムに46%、ミャンマーに44%、タイに36%、インドネシアに32%もの相互関税を課した。その他、マレーシアやフィリピンにもそれぞれ24%、17%の相互関税が課された。
第3に、上記のとおり米中対立を受けて中国での生産比率を下げたとはいっても、台湾企業にとっても中国に対する高率の追加関税は衝撃を与えた。在中国・香港台湾系企業の出荷額に占める対米輸出のシェアは2023年時点でも22.2%と5分の1を超えている。
短期間の大量発注に苦悩する台湾
それだけに4月9日にトランプ政権が翌日から中国以外の国・地域に対する相互関税率を一律90日間10%に引き下げると発表をしたことは朗報ではあった。しかし、別の悩みを台湾企業にもたらした。顧客からの大量の発注要請に短期間で対応しなければならなくなったのだ。
90日以内に顧客に届けたくとも海上・航空輸送ともに貨物スペースを押さえられない、作りたくとも原材料を確保できないといった企業も少なくなかったようだ。実際、海上運賃は30%以上上昇したとも報じられている。
トランプ関税によって引き起こされることになった前倒し輸出の規模は大きく、2025年4月に台湾の輸出総額は前年同月比で29.9%も増加した(米ドル建て)。それゆえ、今年後半には前倒し輸出のしわ寄せが及び、2025年の台湾の実質GDP成長率は「前高後低」になる可能性が高い。
それ以上に台湾企業が当惑しているのが、トランプ政権の通商政策の今なお残る先行き不透明性である。台湾の今後を見通すうえで、次の4つの不透明性とその行方がカギを握ると考えられる。
第1の不透明性が、米台貿易協議の行方である。米中が暫定合意にいたったとしても気は抜けないというのが大方の台湾の識者の共通見解である。
台湾はアメリカの第1陣の交渉相手に選ばれ、4月11日にはオンラインながら初の米台協議を行った。5月1日には鄭麗君行政院副院長(副総理に相当)、楊珍妮政務委員(貿易交渉担当大臣に相当)らがワシントンに飛び、関税・非関税を含む貿易障壁、相互経済協力などについて協議している。台湾側は「率直で和やか」に協議が行われたと発表しているが、詳細な内容は未詳である。
頼清徳総統は、アメリカとの間で互いに関税をゼロにする意欲があると述べ、米台FTA(自由貿易協定)を念頭に置いたかのような発言を行っている。また、アメリカからの天然ガスなどのエネルギー、武器、工業製品や農産物の調達拡大、対米投資拡大、非関税障壁の削減などの意向をアメリカ側に伝え、追加関税の撤廃を求めている。自動車に適用されている貨物税率の引き下げなども交渉カードとなりうるとの考えを台湾財政部の次長が示してもいる。
課題は国内での利害調整や日韓との差
しかし、台湾内部での利害調整も必要だ。アメリカ産牛肉・豚肉に対する衛生検疫上の措置の撤廃をアメリカ側は求めているが、食の安全に関わる事柄に対して敏感な台湾消費者は多い。また、コメやバナナ、パイナップルなど農産物に対する関税割当の撤廃を台湾の農民がどこまで受け入れられるかといった問題もある。そもそもアメリカ側が何をどこまで要求してくるかも含め、不確定要素はまだ多い。
第2の不透明性は、台湾以外の国・地域に対する米国の関税率の先行きである。台湾では主に次の2つの視点からこの問題が注視されている。
1つは競争相手である日本や韓国、中国に対する関税率との差がどうなるかである。上述のとおり、そもそも日本や韓国の相互関税率は台湾よりも低い。この差が詰められなければ、台湾企業は対米輸出上、不利な状態に置かれることになる。とりわけ工作機械産業や鉄鋼・化学産業などでこの種の警戒感が強い。
また日本・韓国以上に注目されているのが、広範な産業で台湾に追いつき、追い抜かんとしている中国に対してアメリカが最終的に何%の追加関税を課すかである。
もう1つの視点は、台湾企業のサプライチェーンを構成する各国・地域に適用されるアメリカの関税率がどうなるかである。それによりサプライチェーンの調整をどこまで迫られるかが左右されるからである。
トランプ政権の関税政策は、バーゲニングの道具であると同時に、リショアリングの促進剤としての性格を持つ。それゆえ、アメリカにどこまで生産拠点を移すのかが今後のサプライチェーン再構成の要点の1つとなっている。
スマート工場化が行いやすく労働力確保の問題が相対的に小さい製品、かつ、第2次トランプ政権発足前から顧客にアメリカでの生産を求められてきた製品については、関税の影響により多少ペースに差は出るとしても、台湾企業はアメリカでの生産を拡大させていくことになるだろう。その典型例がAIサーバーであり、最近ではペガトロン、インベンテックなどがアメリカでの工場建設を発表している。
また、TSMCによるアメリカでの先端半導体工場の建設も進む見込みである。半導体製造装置や原材料に関税がかかったとしても、強い競争力を持つTSMCは顧客に関税コストを転嫁しやすいからである。
しかし、多くの安価な労働力を必要とするアパレルや靴などの工場、また、細やかな工程間国際分業の下、作られてきた製品の工場をアメリカに移すのは非現実的である。その種の製品の場合、アメリカの相手国・地域別の関税率、とりわけ中国、ASEAN諸国、メキシコ、インドなどに対する関税率が決まらなければ、新たなサプライチェーンの構築は難しい。
アメリカは安全保障をどこまで考慮するのか
第3の不透明性は目下トランプ政権が検討中の「半導体関税」の行方である。IT製品の生産に従事する企業が非常に多い台湾だけに、その行方が死活的な影響を与える。それを所管するアメリカのラトニック商務長官は4月13日に今後1~2カ月以内に半導体関税を導入すると発言している。
半導体そのものの台湾の対米輸出はそれほど多くないため、半導体だけに追加関税がかかる分には台湾への影響は大きくない(「台湾の半導体を批判しまくるトランプに抱く懸念」)。しかし、トランプ政権は半導体関税の名の下、パソコンやスマートフォンなど、半導体を組み込んだIT製品にも追加関税を課すことを検討している。
もともとこれらのIT製品には相互関税が課せられる予定だったが、アメリカの消費者や企業に与える影響が大きすぎるとの懸念を招き、半導体関税の枠内で安全保障の観点から検討し直すことになったという経緯がある。こうした経緯があるため、高率の関税が課される可能性は低いとの声も聞かれるが、確証はまだ得られない。
半導体関税によって台湾企業が生産を担っている多くのIT製品・部品に対する需要は大きく左右される。サプライチェーンのさらなる見直しを余儀なくされる恐れも残っている。
第4の不透明性は、安全保障上の考慮がどこまでアメリカの関税政策に反映されるかという点であろう。日本政府は通商問題と安全保障問題を切り離してトランプ政権と交渉する姿勢を示している。それに対して、頼政権は中国に依存しない「非レッド・サプライチェーン」を民主主義陣営と構築することをアメリカにも呼び掛け、安全保障や体制問題と通商問題をリンクさせる議論を展開している。
トランプ政権にも頼政権に通じる発想がないわけではない。例えばトランプ政権発足初日(1月20日)に打ち出された「アメリカ第一貿易政策」には、既存・新規のFTA(自由貿易協定)の中に経済安全保障政策、対「非市場経済国」政策を盛り込む、中国を含む「敵対国(foreign adversaries)」に対する輸出・投資規制を見直すといった文言が入っている。
そうした安全保障上の考慮が台湾、中国との通商関係においてどこまでどのような形で働くのかは、まだ見えない。この点をめぐるトランプ政権の判断は台湾経済のみならず、台湾の内政・安全保障、ひいてはインド太平洋地域の安定にも大きな影響を与えうる。この点こそが最大の不透明性だろう。
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