「静岡県が認めた」JRがリニア工事申請できる根拠有識者会議中間報告は河川法の審査要件満たす

小林 一哉 : 「静岡経済新聞」編集長
2022年02月08日
南アルプス・リニアトンネルに伴う大井川の水環境問題を議論した国の有識者会議中間報告について、静岡県は1月20日、流域10市町長と利水団体で構成する大井川利水関係協議会を開催した。
JR東海は、大井川利水関係協議会と水資源の保全に係る合意を結ぶことになっている。しかし、県は工事中のトンネル湧水全量の戻し方の解決策が示されていないなどとして、「JR東海の静岡工区着工を認めない」とする見解をまとめ、大井川利水関係協議会も同意した。
有識者会議の中間報告を副知事は「否定はしない」
県は有識者会議中間報告について、「工事を認めない」とする見解を優先したせいか、最も重要な中下流域の「利水上の支障なし」の結論に関する県中央新幹線対策本部長を務める難波喬司副知事の説明は決してわかりやすいものとはいえなかった。
このため会議後の会見で、筆者は、難波副知事に有識者会議中間報告の結論(①トンネル湧水量の全量を大井川に戻すことで中下流域の河川流量は維持される、②トンネル掘削による中下流域の地下水量への影響は、極めて小さい)について問い質すと、難波氏は「否定はしない」と明言した。
リニアトンネル工事による大井川中下流域の「利水上の支障なし」とする有識者会議の結論を県が認めたことだけは確かなようである。
今回の「JR東海の工事を認めない」とする大井川利水関係協議会の結論を受けて、議論が紛糾し2019年10月4日を最後に中断していた県地質構造・水資源専門部会が近く、再開される予定だ。
このとき、紛糾した県専門部会の会議は、まさに、「工事期間中の湧水の全量戻しを行うトンネル工法」について話し合われた。そのテーマは、JR東海が上り勾配でのトンネル工法を選択した理由に関する科学的な議論であった。
JR東海は他のトンネル工法と比較した上で、静岡、山梨県境付近で山梨県側から上向きに掘り進める計画を示し、勾配があるため、工事期間中、約210万立方メートルの湧水が山梨県側に流出することなどを説明した。また、トンネルを静岡県側から下向きに掘り進めると、突発湧水によりトンネルが水没するリスクがあり、作業員の安全を確保できない、突発湧水を想定したポンプ設備の設置は非常に規模が大きく、現実的ではないなどとして山梨県側からの上向き掘削を選択した理由を説明した。
県専門部会委員でトンネル工学の専門家、安井成豊・施工技術総合研究所部長はJR東海の工法を支持し、「静岡県側から掘る工法では水没する危険性がある。下向きの掘削はリスクが大きすぎる」と述べた。しかし、安井氏がさらに発言を続けようとすると、司会者が「今は具体的なことを話しているのではない」と遮ってしまった。それでも最後に、安井氏は「最大のリスクを考えて水没する危険性があるならば、そういった工法は普通取るべきではない」と断言した。
この会議の当日、県は「トンネル湧水の処理等における静岡県等の疑問・懸念事項」と題する文書を配布した。文書には、『JR東海は「毎秒3立方メートルを上限にリスク管理を行うことは技術的に可能」としながら、下り勾配で工事すれば「水没するリスクがあり、安全性に問題がある」のは矛盾している』とJR東海の上向き掘削工法への疑問を投げ掛けていた。
安井氏以外の委員は、JR東海の水収支解析への疑問やボーリングデータの不足などを指摘した。トンネル工法の議論の最中に、難波氏は「私たちが問題にしているのはトンネル近傍の河川の表流水だけではなく、地下水を含めた大井川水系全体の水量だ」との懸念を示した。これに対して、JR東海が「県境付近を流れる地下の湧水が大井川に流れるのか、早川(山梨県)に流れるのかはっきりとわからない」と述べると、難波氏は「わからないなら調査してください。それはむちゃくちゃ」と述べ、「JR東海は不確実性の管理、不確実性の認識、リスク管理を理解していない」などと厳しく批判した。
利水上の影響はほぼない
この紛糾した専門部会の後、国は、県とJR東海の間で行われてきた議論を検証、JR東海を指導するために沖大幹東京大学教授(水循環)、徳永朋祥東京大学教授(地下水学)、西村和夫東京都立大学理事(トンネル工学)らによる有識者会議を設置。会議では「工事中に流出する湧水全量を戻せ」という県の要請に対して、トンネル工学の専門家たちが「工学的に不可能で、無意味な議論」と指摘。このため、有識者会議は県外流出する水量(最大500万立方メートル)は非常に微々たる値であり、中下流域の利水上の影響はほぼないとする結論を出している。
また、JR東海は工事完了後に、山梨県内のトンネル湧水をポンプアップして、静岡県へ最大500万立方メートル戻す方策も提案した。有識者会議は、工事中の県外流出量を大井川に戻す方策については、関係者の納得が得られるよう具体的な方策などを協議すべきである、としている。
今後、県専門部会が再び開かれると、紛糾した2019年10月4日の会議に戻って、あらためて工事中の湧水の全量戻しが議論されると見られる。しかし、難波副知事が認めているとおり、有識者会議開催によって、トンネル工事による中下流域の“利水上の支障はない”は日本を代表する研究者たちのお墨付きが得られている。
リニアトンネルは斜坑、導水路トンネルを含むと西俣川、東俣川(大井川本流で分岐点からの呼称)の6カ所を地下約400m前後で通過する。大井川168kmのうち、駿河湾から下流域の26kmを国、そこから源流部までの約142kmを県が管理する。西俣川、東俣川は県管理であり、河川内(大深度地下を含む)に工作物を新築する場合、JR東海は河川法に基づき、知事の許可を得なければならない。
利水上の支障懸念が解消し、河川法手続きが可能に
河川法許可の審査基準は、①治水上または利水上の支障を生じるおそれがないこと、②社会経済上必要やむをえないと認められるものなどであり、リニアトンネルの場合、「利水上の支障」が問題となっていた。しかし、有識者会議中間報告で、「利水上の支障」の懸念は解消されたから、JR東海は河川法の許可手続きに入ることが可能だ。
河川法の許可権限は何度か話題に上り、川勝平太知事は2018年11月19日の会見の「JRとの交渉材料に使うという姑息な考えは持っていない。法律にのっとってやる」の発言を皮切りに、法律を順守する姿勢を示している。河川法を担当する県交通基盤部河川砂防局はリニア問題の会議には出席していない。担当者は「JR東海から申請書類が提出されていないので判断しようがない。審査基準に沿って、許可を出す」と述べる。
むろん、環境に関する課題が解決していないことを理由に県が申請を退ける可能性があることも否定できないが、2年近くに及ぶ有識者会議の議論をムダにしないためにも、JR東海は今後の県との協議を前に、河川法に基づく許可申請を行うべきだ。もちろん、申請を行うにあたっては、JR東海が流域に対して、リニアトンネル工事が利水への支障がないことを自ら説明し、理解を得ることが不可欠であることは言うまでもない。
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