ロシアと中国が奏でる「化学兵器使用」への序曲

陰謀論拡散のかつてない連携プレー
The New York Times
2022年03月15日
ロシアの扇動的な偽情報作戦が激化している。ロシアの国防省と外務省は、アメリカの国防総省がウクライナの生物兵器研究所に資金提供しているとする虚偽の声明を発表。次いで中国の外交官と国営メディアも、北京での記者会見、記事、ソーシャルメディアの公式アカウントでこの陰謀説を繰り返した。
これに対しバイデン政権は異例の措置をとり、ロシアと中国が協調してプロパガンダキャンペーンを行っていると非難。こうしたデマを隠れみのに、ロシア軍がウクライナで生物化学兵器を使用してくる可能性に言及した。
ロシアと中国相手の情報戦に突入
「今やロシアはこうした虚偽の主張を行い、どうやら中国もそのプロパガンダを支援するようになった。ロシアがウクライナで生物化学兵器を使用する可能性や、それらを使った偽旗作戦を警戒する必要がある」。ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は3月9日夜、こうツイートした。「それが明白なパターンだからだ」。
サキ報道官は、ロシア側の非難を「荒唐無稽」と呼び、アメリカは「いかなる場所でも、そのような兵器を開発したり、保有したりしていない」と述べた。国務省は、ロシアの主張を「まったくのナンセンス」とし、ウクライナに生物兵器研究所は存在しないと指摘した。アメリカの情報機関の幹部も10日、議会上院の公聴会でこれらの点を繰り返した。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナで軍事的猛攻を続ける中、バイデン政権とヨーロッパ、およびアジアの同盟国は、ロシアと中国を相手とする情報戦に巻き込まれている。
この戦争のさなかに中国がロシアの偽情報を増幅していることに、西側の政府関係者は懸念を募らせている。中国が有する外交力とサイバー能力は強力だからだ。両国による偽情報を研究するアナリストによると、中国政府とロシア政府がこれほどの規模で陰謀論を増幅し合うのは今回が初めてだという。
「ロシアのプロパガンダキャンペーンのうち、中国からこれほどの支援を受けたケースはほかに思い当たらない」。ワシントンを拠点とする非営利組織「民主主義を守るための同盟」のシニアフェローで、中国、ロシア、イランの偽情報を追跡しているブレット・シェーファー氏は「これほど大規模なものは目にしたことがない」と話した。
中国政府とロシア政府の緊密な連携があらためて明らかになった格好だ。プーチン氏が2月4日に北京で中国の習近平国家主席と会談した際、両国は互いの友情に「限界はない」とする5000語の共同声明を発表。西側情報機関の報告によると、中国はちょうどそのころ、ロシアに対し北京冬季オリンピック終了前にウクライナに侵攻しないよう要請したとされる。
アメリカ政府高官は昨年11月から、駐アメリカ大使や外相を含む中国政府の高官と密かに会談。プーチン氏がウクライナ周辺に軍隊を集結させていることを示す情報について話し合い、戦争を起こさないようロシアに働きかけてほしいと説得を試みたが拒絶された、とアメリカの政府高官らは明かしている。
ウクライナ侵攻が始まって以降、中国はロシアに公然と味方。紛争の原因つくったのはアメリカだと非難し、北大西洋条約機構(NATO)の拡大に対するプーチン氏の不満を強調する一方で、人道危機に対する懸念を表明するのを基本路線としてきた。8日、フランス、ドイツの首脳とオンラインで会談した習氏は、こうした中国の基本的立場を繰り返し、ロシアが戦争を始めたとは言わなかった。
「戦狼」中国の情報操作はロシアと瓜2つ
中国は記者会見や国営メディア、外交官のソーシャルメディアアカウントを通じ、激烈なレトリックとロシアの偽情報に根差した陰謀論を使って状況をあおろうとしていると、アメリカの政府関係者や研究者らは指摘する。
8日、習氏がヨーロッパの指導者たちと会談しているとき、中国外交部の趙立堅報道官は北京での記者会見でウクライナの生物化学兵器問題を取り上げ、「ロシアは軍事作戦中に、アメリカがこれらの施設を使って生物兵器計画を進めていることを発見した」と断言した。趙氏は多くの中国国民から、猛烈に愛国的な「戦狼」外交官とたたえられる人物だ。
「アメリカはウクライナに26のバイオ研究所とその関連施設を有しており、アメリカ国防総省がこれらを完全にコントロールしている」と趙氏は述べた。「ウクライナでは、危険な病原体はすべてこれらの研究所に保管されなければならず、アメリカ側がすべての研究活動を主導している」。
趙氏はこれまでにも、武漢で発生した新型コロナウイルスの最初の感染拡大に対する中国の対応のまずさへの批判をかわすため、反アメリカ的な陰謀論を広めてきた。2020年3月には、アメリカ軍が武漢にウイルスを持ち込んだ可能性があるとして、メリーランド州フォートデトリックにあるアメリカ軍関連研究施設がパンデミックの発生源だったかもしれないと述べたことがある。趙氏は10日、またしてもフォートデトリックに言及した。
中国の外交官、政府機関、国営メディアは、ツイッターなどソーシャルメディアの公式アカウントを使って、アメリカがウクライナで生物化学兵器の開発を行っているという陰謀説を拡散している。
前出のシェーファー氏によると、こうしたツイートは235件を上回り、国営メディアのアカウントによるものと、外交官や政府のアカウントによるものがちょうど半々の割合になっている。中国のソーシャルメディアでは、生物兵器研究所について、さらに多くの投稿が行われている。
「ロシアの国営メディアがアメリカのソーシャルメディアから規制対象とされる中、中国の国営メディアがその穴埋め役を担うようになっている」。シェーファー氏は「中国国営メディアが語っていることはクレムリンとそっくりだ」と話した。
これはNATOに罪を着せる準備工作
ウクライナ紛争の動向を追跡しているワシントンのシンクタンク「戦争研究所」も、生物兵器研究所に関するロシアの声明はロシアが生物化学兵器を使用する準備工作の可能性があるという警告を9日に発している。「ロシアはそうした攻撃を決行するかでっち上げ、ウクライナとNATOに罪を着せることで、さらなる攻撃を正当化してくるおそれがある」。
中国の国営メディアは、ウクライナはネオナチだらけだとするデマから、アメリカはウクライナ政府を操り人形にしている「うその帝国」だという主張に至るまで、ウクライナの戦争に関するロシアの公式声明を繰り返している。
中国共産党が発行する国家主義的な新聞「環球時報」は8日、アメリカ政府がウクライナ戦争をめぐる反中感情を扇動するべく、ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、ボイス・オブ・アメリカに記事を仕込んでいるとする記事を掲載した。
中国国営メディアには、ウクライナは民間人を「人間の盾」に使っていると批判する記事も見られた。これはクレムリンの主張そのものだ。しかし、ロシア軍の攻撃で民間人の死者が出ている点については、一切触れられていない。
微博(ウェイボー)をはじめとする中国のソーシャルメディアからは、親ウクライナ的な投稿は検閲によって削除されている。
(執筆:Edward Wong記者)
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