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静岡リニア、知事と副知事「確執」がついに表面化?

ネコウヨ

川勝最側近も辞任、いよいよ「裸の王様」状態に
小林 一哉 : 「静岡経済新聞」編集長
2022年05月10日


リニア中央新幹線の静岡工区はいまだに工事が始まらない


川勝平太静岡県知事は、4月28日の会見でJR東海のリニアトンネル工事中に発生し県外に流出する湧水を大井川に戻す方策案について、「全量戻しにはならない」などと真っ向から否定、さらに、南アルプスルートの路線計画決定と地質調査を問題にすることをあらためて主張した。
リニア静岡問題責任者の難波喬司副知事は26日の県専門部会で、大井川に全量を戻すJR東海案を検討の余地ありと評価、ルート計画の決定時の地質調査については「追及しない」と明言した。これで、川勝、難波両氏の間に意見の食い違いが生じていることが明らかになった。
反リニアに徹する川勝氏は他者の率直な意見を聞くことができず、自分に都合のよいことだけを信じる“裸の王様”状態となっているようだ。
新たなステージに入った?
知事は25日の定例会見で、「工事中の全量戻しの方法があることが漏れ伝わってきている。今度の専門部会でしっかりと仕切ってもらう。これでこれまでの全量戻しに関わることから、新たなステージに入っている」などと述べた。
「新たなステージ」とは、南アルプスルートの路線計画決定と地質調査の問題である。山梨県内で「地質脆弱などで高圧湧水の恐れ」があった北部ルートを回避して、南部ルートを通過する現在の南アルプスルートに決定したことを問題視した。
川勝氏は、静岡県内でも、山梨県内同様に「全区間で切羽崩壊と大量湧水の発生の懸念」があることをJR東海は地質調査で承知していたのだから、現在の南アルプスルートも回避すべきだったと主張する。
南アルプス山岳地帯は糸魚川静岡構造線、中央構造線が通る「世界最大級の断層帯」であり、破砕された脆弱な地層が多く分布する。当然、JR東海は南アルプスルートの地質構造的な問題を熟知している。26日の県専門部会で、JR東海は2つの構造線の影響が最も少ないルートを選んだと説明した。
JR東海の説明に対して、難波氏は「(2011年5月の国土交通省の)整備計画決定時のことであり、専門部会で問題視しない」と明言した。地質構造の問題によってJR東海の南アルプストンネル工事が難航することはあっても、大井川下流域の水環境への影響とは関係ないからだ。しかし、事務方から川勝氏にちゃんとした説明がないのか、川勝氏は28日になってもルート計画決定と地質調査を問題にしていくと宣言した。
背景には、川勝氏が難波氏を事務方トップの副知事に再任せず、リニア問題を担当する県理事(部長級)へ“格下げ”を決定したことがある。川勝氏は県理事に就く難波氏の任期は水環境問題の決着までの期間であると明言する。難波氏が事実を直言することで川勝氏との確執が取り沙汰され、両者はほとんど口をきいていない状態という。それがリニア問題の議論に大きな影響を及ぼしている。
ルート計画決定と地質構造の問題だけでなく、田代ダム問題でも難波氏と話していないことがはっきりとした。川勝氏は25日、「工事中の全量戻し案は専門部会でしっかりと仕切ってもらう」と発言したにもかかわらず、28日には「JR東海案は全量戻しにならない」と一蹴した。
田代ダムの取水を抑制
東京電力の田代ダムは水問題に大きな影響を与えている。国の有識者会議は昨年12月、リニアトンネル工事期間中(10カ月)に最大500万立方メートルが山梨県へ流出したとしても、「下流域の水環境への影響はほぼなし」という結論を出した。これに対して、川勝氏は「水1滴も県外流出は許可できない」と強硬な姿勢を崩さず、今年1月20日開催の大井川利水関係協議会で流域首長らは工事中の全量戻しを求めた。
この要請に対して、JR東海は南アルプストンネル計画の直下に位置する田代ダムの取水を抑制し、大井川に放流する案を示した。
田代ダムから毎秒4.99立方メートルの水が山梨県の田代川第一発電所、第二発電所に使われ、同県の早川に流れていく。単純に計算すれば、日量43万立方メートル、月量1300万立方メートルという膨大な水が静岡県から流出している。これに比べて、リニア工事における10カ月間で最大500万立方メートルの流出など微々たる値である。
もともとは、神戸大学都市安全研究センターの大石哲教授が2019年8月の県専門部会で「トンネル工事中に西俣非常口から大井川に戻す水量分を田代ダムで取水されないようにして、大井川にそのまま流すべき」と発言した。この発言に対して、染谷絹代島田市長は「場合によっては東電から水利権を買い取る方法もある」などと提案、田代ダムの取水抑制に前向きな姿勢を示した。
当時、JR東海は「東京電力へのアプローチは難しい」と回答していたが、今回の田代ダム取水抑制案について、JR東海は東京電力の内諾を得た上で、水利権を認める国交省中部地方整備局と調整を進めていることを明らかにした。


難波氏は、次回の県専門部会でJR東海の説明をちゃんと聞くつもりだったのだろう。ところが、3年近く前の染谷市長の提案が頭にあったのか、一方的に水利権の譲渡と勘違いして、川勝氏は「JR東海は関係のない水利権に首を突っ込んでいる。他人の家に土足で上がり込んできて水を寄越せと言っているようなものだ」などと厳しく批判、「突然、水利権の約束を破ることはアホなこと、乱暴なこと」などと田代ダム取水抑制案を否定してしまった。
26日の県専門部会で大石教授は「水利権の目的外使用は許されない」と注意を促した。2003年大井川農業用水の工業用水への目的外使用(ヤミ転用)が明らかになり、国交省は水利権を持つ農水省関東農政局に是正措置を指示した。ただ、今回の場合は、東京電力が自主的に取水を制限して大井川に放流するものであり、2003年の場合と事情が違う。水利権に絡むのかどうかは微妙な状況だ。
というのは、静岡県大井川広域水道企業団は毎秒2立方メートルの水利権を有するが、実際には毎秒1.5立方メートル程度しか取水せず、残りの0.5立方メートル分を大井川に放流している。だからと言って、大井川広域水道企業団が水利権の目的外使用をしているわけではない。理屈上は、今回の田代ダム取水抑制案も同じである。にもかかわらず、川勝氏は田代ダム取水抑制案を否定してしまった。その上、川勝氏は山梨県の懐事情を思いやり、田代ダムの取水が抑制されると早川町に交付される電源立地交付金に出かねないことも否定の理由に挙げた。
山梨県知事の反応は?
田代ダムから山梨県へ流出する河川水は、大井川流域住民の「水返せ」運動の象徴だった。1975年の山本敬三郎静岡県知事の東電との交渉に始まり、斉藤滋与史、石川嘉延の歴代知事は、電力会社との「水返せ」で先頭に立った。それに対して、2015年の田代ダムの水利権更新に当たって川勝知事は「水返せ」を求める声を上げなかった。当時も早川町の電源立地交付金を理由に挙げていた。
難波氏との意見の食い違いだけでなく、今回は、流域の島田市長、焼津市長らもJR東海の提案を評価している。しかも、長崎幸太郎山梨県知事までも「解決のカードになることを強く期待する」と発言したことで、川勝氏の立場はなくなった。
3月末、知事の最側近として時には直言も辞さなかった篠原清志知事戦略監が、県議会で予算案を否決され、辞職に追いやられた。その篠原氏に続いて、難波氏が退任することで、川勝氏に直言する幹部はいなくなるだろう。
今後、川勝氏の“裸の王様”状態が際立ち、リニア静岡問題解決の道のりはさらに険しくなる恐れがある。