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「弾薬が十分でない自衛隊」は張り子の虎である

ネコウヨ

兵站を充実させ「戦える部隊」に今こそ脱皮を
二見 龍 : 作家、元陸将補
2022年07月26日
装備品の補給や整備など兵站は十分でない。このままでは張り子の虎になる。


訓練では使用する弾薬量はあらかじめ決まっているが、実戦では膨大な量になるはずだ(写真:時事)
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近年の戦争は、陸・海・空の通常兵器の戦闘だけでなくサイバー空間なども含めた「ハイブリッド戦争」の様相を呈している。これは平時と戦時の区別のない戦争である。目標を限定したハイブリッド戦争では、サイバー攻撃や電子戦、特殊作戦などにより作戦遂行は短期間に終了する。
各国は新たな戦争形態に適応できるよう、戦車、大砲など重戦力の削減を進める一方で、新たな戦い方のために兵器や装備品の開発を急いでいる。
今回のウクライナ戦争において軍事関係者にとって意外だったのは、ロシア軍の重戦力を重視した陸上での作戦に対し、ウクライナ軍の、訓練された小部隊を用いて敵の弱点を巧みに突く作戦が奏功していることである。ロシア軍の部隊同士の連携と兵站(へいたん)活動の悪さも相まって、ウクライナ軍の健闘が結果として目につく。
中国の軍事的脅威にさらされる日本にとってウクライナ戦争から導き出される教訓は何か。日本の自衛隊(とりわけ陸上自衛隊)は、どんな戦い方をすればよいのか。普通科連隊長や幕僚の経験などを基に考察したい。
兵站が作戦を規定する
ウクライナ戦争での何よりの教訓は兵站の重要性である。兵站は、兵器・装備品の補給や整備、負傷兵の後送・兵士の補充などのこと。訓練は決まった日数の下で、決まった補給品を使用して行われるが、実戦はいつまで続くかわからないうえ、戦闘状態によっては兵站量は膨大な規模になる。軍隊では兵站支援を行える範囲が戦闘可能な範囲といわれるほどで、部隊規模が大きくなればなるほど、兵站が作戦を規定する。
例えば師団(1万人規模:戦車、ヘリコプター、砲兵、通信、兵站部隊などを有し、独立して戦闘ができる単位)は、1日に2000トン以上の補給物資が必要となる。5トン積載できるトラックであれば、毎日400両の車両が補給品を輸送し、物資集積所においては戦車用、砲兵用の弾薬などの仕分けをして各部隊に届ける。
10個師団(10万人)が作戦に加わるとなれば、毎日4000両分の補給物資が必要になる。弾薬が占める割合はそのうちの90%で、残り10%の中に、燃料、食料、水などの補給品が含まれる。これらを毎日、最前線に供給しなければ、戦闘の継続は難しくなる。
また最前線からは、故障したり壊れたりした装備品が後方地域に設置した整備工場へ運ばれる。負傷兵や命を落とした兵士の後送も、当然ながら必要である。
地対空ミサイルなどの精密誘導兵器はミサイルや精密誘導弾を撃ち尽くし「弾切れ」を起こせば、それで戦闘終了である。弾薬が供給されて初めて継続的な戦闘が可能になるのだ。
精密誘導兵器はピンポイントで目標を破壊できるが高価なことがデメリットだ。対して、通常弾は安価であるが無誘導であり、弾量で目標を破壊するため多くの量が必要になる。
「張り子の虎」に陥る可能性
これまでの防衛力整備では、新規の装備品を導入するたびに価格は2倍程度に跳ね上がったが、防衛費は一定水準のため、導入量を低く抑えるか、何かほかの物を削減しなければ新規装備の導入は難しかった。
そのため精密誘導弾をはじめとする弾薬、整備用器材、訓練経費など、部隊活動に必要な分野を削減しなければならなかった。例えばミサイルにしても弾薬量は十分でない。現状の訓練は交戦回数(地対空ミサイルで戦闘機と交戦する回数)を絞った想定にしており、およそ実戦向きではない。これを真に必要な量に改めなければならない。
自走榴弾(りゅうだん)砲(大砲)の弾薬などの通常弾は、戦いの烈度(激しさ)と戦闘の期間から所要量を確保しなければならないが、現在は潤沢であるとはとてもいえない。何より大規模な演習場がある北海道に相当量が保管されており、西日本や南西諸島への備えは手薄である。今後は弾薬の備蓄と所要量を保管するために弾薬庫の整備も必要になってくる。
弾薬は訓練で使用するものも十分に確保しておかなければ、装備があっても使いこなせない「張り子の虎」に陥る可能性がある。
軍事関係者の間で「部隊の練度(戦闘力)は生もの」といわれるように、部隊は訓練を行わなければ練度は急速に低下する。世界各地の戦争の形態やドローンなど新兵器の研究を行い、訓練の内容をバージョンアップしなければ、部隊は有効な戦いができなくなる。
例えば陸上自衛隊は国内の演習場において、陣地攻撃、陣地防御の訓練を行っているが、従来の訓練内容をずっと踏襲している。教範(戦い方などを記述した教科書)もバージョンアップされていない。今後は電子戦、サイバー戦、無人機・ドローンがつねに運用される状況の中での訓練が必要になる。さらには、台湾有事を想定すれば、海上自衛隊、航空自衛隊との統合作戦、米軍との共同訓練をさらに進めていくことが必要となる。
武器や装備品の導入から部隊配備されるまでの期間の長さも指摘しておきたい。新たに開発された20式小銃(ライフル)の部隊への配備が今年から開始された。一方で、現在標準となっている89式小銃は1989年の配備開始から30年以上かかって全隊員に行き渡った。20式小銃も同じように時間がかかるのだとしたら大いに問題である
切り替えの期間を5〜7年程度に
この切り替えの期間(更新長径)を5〜7年程度にしなければ訓練は非効率であるし、実戦においては有効射程が長い最新式の小銃のほうが圧倒的に有利である。500メートルの有効射程のある小銃には、スコープや光学照準機器が標準装備となり命中精度も格段に高くなる。装備は部隊で統一したほうがよいのは明らかであるし、性能に劣る小銃を持たされた隊員は危険な状態に置かれることになる。
小銃の配備は予算の仕組みを変えることで解決可能なはずであり、それが現場の戦闘力を強化することになる。こうしたことは装備全般にいえることである。
防衛費については陸・海・空3自衛隊でのシェア争いが指摘されてきた。現場指揮官の経験からいえば、決められた予算内に抑えるため、性能・機能の削減、整備用機材や弾薬の削減、訓練経費の削減をせざるをえないことがあった。
現在、防衛費をGDP(国内総生産)比で2%に引き上げることが検討されている。中国の台頭に対処するためには防衛費の増額は大いに歓迎することであるが、自衛隊はより実戦を意識し、強い部隊の育成に努めなければならない。その点で、これまでの装備体系、装備導入要領(装備の調達)、訓練内容についても不断の見直しが不可欠である。