JERAが「火力発電の脱炭素化」にこだわる理由
奥田久栄社長に聞く「アンモニア発電」の勝算
岡田 広行 : 東洋経済 解説部コラムニスト
2023年05月09日

JERAの碧南火力発電所(愛知県碧南市)。最大出力410万キロワットの大型石炭火力発電所で、アンモニア混焼発電が計画されている(写真:JERA提供)
東京電力ホールディングスと中部電力の折半出資で設立されたJERA(ジェラ)は、日本最大の火力発電企業だ。日本の発電量の約3割を賄うとともに、二酸化炭素(CO2)排出量では日本の約1割を占める。日本は「2050年カーボンニュートラル(脱炭素化)」の実現を国際公約としているが、その成否のカギとなるのがJERAの取り組みだ。4月に経営トップに就任した奥田久栄社長に、脱炭素化実現への戦略を聞いた。
――2023年4月に札幌市で開催されたG7気候・エネルギー・環境相会合では、「2035年までに電力部門の完全または大宗の脱炭素化の達成」という文言が共同声明に盛り込まれました。また、「排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウト(段階的廃止)を加速させる」とも明記されました。こうした動向をどう受け止めていますか。
今までの石炭火力発電に加え、天然ガスにも焦点が当たってきた。一方で「段階的な廃止」という言い回しになっている。当社は再生可能エネルギーの大量導入と火力発電におけるゼロエミッション(CO2排出ゼロ)化の組み合わせにより段階的に脱炭素化を進めていくという戦略を持っている。その点ではポリシーを大きく変更する必要はない。
石炭の代わりに脱炭素燃料としてのアンモニア、天然ガスの代わりに水素を使用し、段階的に置き換えていく。電力の安定供給を維持しつつ、無理のない形でエネルギートランジションを進めていくことが重要だ。そのために一生懸命にアクセルを踏んでいる。
アンモニア発電の道筋
――どのような取り組みを進めていますか。
(発電量当たりのCO2排出量が多く)特に風当たりの強い石炭火力発電については、燃焼時にCO2を排出しないアンモニアを20%混ぜて燃やす実証試験をこれまで重ねてきた。今年度末に実施する最後の実証試験が成功したら、2027年度もしくは2028年度を目標に20%混焼の商業運転に踏み切る。並行して50%以上の高混焼用のバーナーの開発も進めている。こちらについても2020年代後半には最後の実証試験を終える。
そうすると2030年代初めには(50%以上の)高混焼が可能になり、石炭火力からのCO2排出量が大きく減る。こうした取り組みと並行して洋上風力発電などの再エネ導入を全力で進めていく。ゼロエミッション火力と再エネの組み合わせにより、安定供給を損なうことなく、無理のない形で脱炭素化を実現できると考えている。
――その場合、G7の共同声明に盛り込まれた「2035年までに電力部門の大宗の脱炭素化」は達成できますか。
当社は国内事業からのCO2排出量について、2035年度までに2013年度比60%以上の削減という目標を掲げている。これは、日本の温室効果ガス削減目標(2030年度に2013年度比46%削減)と整合的なものであり、この目標に向けて全力で取り組んでいる。今後2~3年もすれば技術開発が進み、アンモニアや水素についてサプライチェーン構築ができるかどうかのメドが立ってくる。それを踏まえて目標を見直すことになる。
――アンモニア、水素ともに生産面でのコストダウンを実現し、発電用燃料としてのサプライチェーンを構築することは可能でしょうか。
簡単でないことは確かだ。ただ、当社が実用化させた液化天然ガス(LNG)も、1960年代終わりの導入当初には同じようなことが言われていた。原油採掘時に産出された天然ガスはかつて燃やしたり、捨てられていた。それをわざわざ液化して長距離輸送しエネルギーとして利用することについては、当時、荒唐無稽なものとみなされていた。アンモニアも水素も、難しいということを理由として取り組まないということにはならない。
――再エネを拡大したほうが理にかなっているとの指摘もあります。
洋上風力や太陽光発電などの再エネも全力で拡大させていく。ただし再エネをどんどん増やしていっても、風が吹かなかったり、日射量が足りない時には火力発電で補わなければならない。その時、天然ガスや石炭を燃やし続けていたら、サステナブルにはならない。再エネ、ゼロエミッション火力ともに進めていく必要がある。
その場合、LNGのサプライチェーンを構築した経験が生きてくる。過去の経験や反省も踏まえ、自分たちで主体的に生産から輸送、貯蔵に及ぶサプライチェーン全体に参画することで、コスト構造も見えるようにする。そして、サプライチェーンは太くなればなるほど安定性も柔軟性も増してくる。
そのためにも、国内の電力会社のみならず、アジアやヨーロッパの有力なエネルギー企業にも一緒に取り組もうと声をかけている。サプライチェーンは10~20年かけて完成させたい。
採算ラインへのコスト削減は可能か
――アンモニア、水素とも発電用燃料として採算が合う水準へのコストダウンは可能でしょうか。
燃料アンモニアや水素だけで電気を生み出すわけではない。再エネと組み合わせ、補完的な電源として再エネの出力変動の影響を補うという形になる。それらを合わせて、理にかなった価格で提供することが目標だ。
正直に言えば、いくらでできるという明確な自信があるわけではない。ただ、(実証から商用化への取り組みが進んで)価格水準が見えてきたところで、どういう組み合わせにすれば最適な電気になるかがわかってくる。
――再エネ由来の電気とアンモニア・水素由来の電気の違いは。
再エネは開発しやすい地点から開発が進むため、段々と限界費用が上がっていく。一方、アンモニアや水素は当初こそコスト高だが、徐々に下がっていく。それらを見比べながら、最適な組み合わせを考えていく。
LNGや石炭並みのコストにすぐに下がるものではない。ただし、アンモニアや水素から作られた電気には、安定性や柔軟性、環境性といった価値がある。出力を自由にコントロールできる電気という点では(天候に左右される)再エネで作る電気とは違った価値を持っている。
違った価値を持つ電気には市場で相応の価格がつく仕組みを作る必要がある。従来、電気についてはキロワットまたはキロワット時という、いわば「量り売り」をしてきたが、その仕組みではアンモニアや水素から作られた電気は(独自の価値が評価されず)なかなか定着しない。今までの売り方を、価値別の新たな売り方に変えていく必要がある。
――政府は長期脱炭素電源オークションや、従来型発電との値差補填といった新たな仕組みの導入を進めようとしています。発電事業者として、こうした国の支援策をどのように評価していますか。
リスクは導入期がいちばん高いので、支援策は大変ありがたい。こうした支援策によって、リスクはかなり低減できる。リターン面でのアップサイドがないのは苦しいところだが、ローリスクローリターンの事業として立ち上げることには合理性がある。まずは支援策を活用しつつ2030年頃まで取り組む。問題はその後で、どのようにして規模拡大を加速させるかについて、制度面を含めて検討が必要だ。
技術的には高レベルの混焼は可能だが、量の調達が課題になる。(当社の大規模石炭火力発電所である)碧南火力発電所(愛知県碧南市)だけでも、燃料アンモニアの必要量は年間に約250万トンというレベルになる。これは現在の肥料用を中心としたわが国の年間供給量(約100万トン)を大きく上回る。各地の石炭火力発電所にアンモニア混焼を水平展開していった場合、LNG導入時と同じように一気に使用量が増える。それを賄うには上流開発の進展が不可欠だ。
――JERAは国際入札を通じて2023年1月、ノルウェーのYara、アメリカのCFインダストリーズと燃料アンモニア調達における協業の検討で覚書を締結しました。欧米企業の関心はどうですか。
両社ともこれまでは肥料用にアンモニアを製造してきたが、発電用燃料という新たな用途が開けてきたことに期待を寄せている。この流れに乗らない理由はないということで、他社を含めて非常に関心が高い。今回は碧南火力発電所向けの50万トンの入札ということでこの2社を選んだが、量の拡大とともに供給者も増やしていく。関心のある企業は列を成している。
多様な選択肢を通じて脱炭素化目指す
――Yara、CFインダストリーズから調達するアンモニアは、天然ガスを改質して製造し、発生したCO2は地下に貯留する形となる「ブルーアンモニア」と呼ばれるものです。ブルーアンモニアの場合、CCS(CO2回収貯留)またはEOR(CO2圧入による原油増進回収法)が必要になります。貯留場所の確保がネックになる可能性は。
当面は心配ないが、将来、適地が減り、高コストになる可能性はある。そうしたことも踏まえ、「グリーンアンモニア」と呼ばれる再エネ由来のアンモニアの開発と両にらみで開発を進めていく。また、エネルギー効率を高めるための触媒の開発にも力を入れる。
――燃料アンモニアの実用化には、コスト面を含めて懐疑的な声が少なくないことも確かです。うまくいかなかった場合はどうしますか。
現在、アンモニアが注目されているのは、最初に実用化できそうなオプションだからだ。窒素分子と水素分子が結合したアンモニアは水素とは異なり極低温に冷却せずに運搬できるため、水素を運搬するためのエネルギーキャリアとしても有力だ。仮に発電用燃料としての実用化が難しかったとしても、水素を運ぶ手段として残りうる。
一方で、発電用燃料としての水素の実用化にも力を注いでいく。私たちの目的はあくまでも火力発電のゼロエミッション化であり、燃料アンモニアはその実現のための一手段。ほかの方法と組み合わせつつ柔軟に対応し、脱炭素化を実現させたい。
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