都の「鉄道減便要請」が、人出抑制策として疑問の理由

政府は緊急事態宣言の発令に伴い、鉄道各社にゴールデンウイーク中の減便を要請した。だが、一部の列車はむしろ混雑する事態に陥るなど、人出抑制策としての効果に疑問視すべき点もある。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
緊急事態宣言の発出で
政府は再び減便を要請
菅義偉首相は4月23日、新型コロナウイルス感染拡大に伴う3度目の緊急事態宣言を、東京、大阪、京都、兵庫の4都府県に発出することを決めた。昨年に引き続き、緊急事態宣言下で迎えることになったゴールデンウイーク。少しでも外出を抑制したい政府は同日、鉄道会社に終電の繰り上げや列車の減便を要請した。
しかしこの減便要請、4月23日付の読売新聞(オンライン版)によれば、鉄道行政を所管する国土交通省との事前調整なしに、内閣および内閣総理大臣を補佐する機関である内閣官房が主導して行ったものだったようだ。同紙は、国交省幹部の「連絡は何も来ていない。新型コロナウイルス感染症対策推進室(内閣官房)が頭越しに働きかけたようだ」とのコメントを掲載している。
突然の減便要請に、鉄道事業者の間にも困惑の声が広がった。読売新聞(オンライン版)は、大手私鉄関係者の「あまりに急な要請で、乗客に十分な周知ができない」との恨み節を紹介しており、朝日新聞(デジタル版)も、私鉄関係者の「新ダイヤで終電が繰り上げられたばかり。これ以上繰り上げれば医療従事者などエッセンシャルワーカーに迷惑がかからないか」との懸念を報じている。
深夜時間帯の列車は翌日の運行に備えた車両や乗務員の送り込みを兼ねているため、列車の運行を取りやめるとダイヤに影響が生じてしまう。ダイヤを維持したまま終電を繰り上げるとなると、今年1月の緊急事態宣言の際にも見られたように、それまで営業列車として走らせていた列車を回送列車に変更し、乗客を乗せない対応を取らざるを得ない。
しかし、昨年と比較して終電時刻は既に30分程度、繰り上げられている。周知期間をほとんど取ることが出来ない中では、これ以上の繰り上げは影響が大きすぎるとして、終電の再度の繰り上げは見送られたとみられる。
JR東日本は減便により
混雑する列車も
とはいえ、政府の要請をむげに断るわけにもいかず、結局、鉄道各社はゴールデンウイーク中の平日にあたる4月30日、5月6日、7日の列車本数を削減することで要請に応えてみせた格好だ。ただ、その中身をみるとJRと私鉄には温度差があったようだ。
JR東日本は朝の通勤時間帯に、山手線(全線)、京浜東北線(大宮~桜木町間)、中央線(東京~八王子間)、中央・総武線各駅停車(三鷹~千葉間)、青梅線(立川~河辺間)、常磐快速線(上野~取手間)、京葉線(東京~蘇我間)で運転本数を概ね8割程度に減便し、夕方の通勤時間帯でも、山手線(全線)、京浜東北線(大宮~蒲田間)、中央・総武線各駅停車(三鷹~津田沼間)で運転本数を概ね9割程度に減便する措置をとった。
8割程度の運行というと、元々1時間当たり20本の運行であれば16本の運行になるわけだが、これは列車の間隔が3分から3分45秒になるということを意味しない。列車の運行間隔を調整するには全面的なダイヤ変更が必要になるから、それはできない。
そこで20本のうち、いずれか4本を間引くことで対応することになり、3分間隔と6分間隔が混在する結果となる。そうなると必然的に、6分の間隔が空いた後の列車は通常よりも混雑することになる。
実際、JR東日本が同社アプリ上で提供している山手線のリアルタイム混雑状況を見ると、間引いた後の列車だけが混雑していることが確認できる。これでは感染対策としては本末転倒であり、政府の拙速な介入が招いた混乱だと言えよう。
混雑の悪化を懸念して
西武鉄道は一部運休を中止
一方、私鉄を見ると、慎重な対応が目立った。東急電鉄は池上線で上り2本、下り2本、世田谷線で上り5本、下り5本を運休。小田急電鉄は成城学園前始発の東京メトロ千代田線直通準急列車5本を運休。京成電鉄は比較的運行距離の短い京成高砂~京成上野間の列車を上り1本、下り1本のみ運休とするなど、ごく一部の列車の運休または運行区間の短縮にとどまっている。
結果的に減便は大失敗に終わった。西武鉄道は4月27日に、池袋線の上り2本、下り2本の運行区間短縮と、新宿線・拝島線の上り2本、下り2本の運休、下り1本の運行区間短縮を4月30日、5月6日、7日に行うと発表したが、4月30日になって、5月6日、7日については新宿線・拝島線の運休を取りやめると発表した。
西武鉄道広報部によれば「減便実施初日となった4月30日に、運休対象となった通勤急行の後続の急行列車に混雑が見られた」といい、国や東京都からの要請は「無理のない範囲で」とのことだったため、通常ダイヤに戻す判断をしたという。JR東日本も5月6日になって、一部の列車に乗車率180%を超える混雑が発生しているとして7日の減便を急遽、取りやめた。形ばかりの減便すらも取りやめる事業者が出たことで、内閣官房の思い付きは完全に瓦解した。
元より、ゴールデンウイークの中日である4月30日はともかくとして、多くの職場では休み明けとなる5月6日、7日に減便を行うのは無理があった。政府や東京都からすれば5月6日、7日に追加で休暇を取ってもらい、人の流れを減らしたいという狙いがあったのだろうが、供給をしぼっても需要が減るわけではないのである。
昨年の1回目の緊急事態宣言時には、テレワークが急速に広まり、首都圏の鉄道利用者は最大7割程度減少した。ところが、今年1月の2回目の緊急事態宣言時には最大でも4割程度の減少にとどまり、今回も大幅には減っていない。鉄道利用者を減らしたいのであれば、テレワーク実施率を上げるなど、より効果的な誘導策があったはずだ。
鉄道を巡っては気になる話も出てきた。これまで鉄道は密集しているが、会話をしないため密接ではない、あるいは換気がされているため密閉ではないとして、「3密」には当たらないとされてきた。
ところが変異ウイルスの拡大により、3密でないところでもクラスターの発生が相次いでいるというのである。政府には「やっている感」を出すための対策ではなく、真に必要な対策を取るよう求めたい。
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