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安倍総理の志は死なない!!

新型コロナへの過剰反応をいつまで続けるのか

感染者や死者が少ない日本で弊害のほうが拡大
斎藤 太郎 : ニッセイ基礎研究所 経済調査部長
2021年04月16日
コロナで一喜一憂する状況から脱しないと日常は取り戻せない
対面型サービス業の苦境は続く
2021年1月に再発令された緊急事態宣言の影響は、2020年4~5月の緊急事態宣言時と異なり一部の分野にとどまった。日銀短観2021年3月調査では、輸出の増加を背景に製造業は大きく改善し、対面型サービス以外の非製造業も多くの業種で改善した。ところが、対面型サービス業 (運輸・郵便、宿泊・飲食サービス、対個人サービス)の景況感は悪化した。
また、法人企業統計の経常利益を見ると、2020年4~6月期に前年比マイナス46.6%と急速に落ち込んだ後、10~12月期には同マイナス0.7%まで減少幅が縮小した。対面型サービス業(運輸、宿泊、飲食サービス、生活関連サービス、娯楽)は大幅な減少が続いているが、製造業や対面型サービスを除く非製造業は前年比でプラスに転じている。
2020年4月の緊急事態宣言の影響で急速に落ち込んだ雇用者数はその後の持ち直しも緩やかにとどまっている。下押し要因となっているのは、やはり対面型サービス(運輸、宿泊・飲食サービス、生活関連サービス・娯楽)でそれ以外の業種では比較的順調に回復している。対面型サービスを除いた雇用者数はすでにコロナ前の水準に戻っている。
つまり、日本経済は全体としては新型コロナウイルスの打撃から立ち直りつつあるが、営業時間短縮要請や外出自粛などの影響を強く受ける対面型サービス業が完全に取り残されている。今後も、緊急事態宣言は解除されたものの、「まん延防止等重点措置」が適用されるなど、環境は依然として厳しい。
日本は諸外国に比べてワクチン接種が遅れており、接種が本格化すれば、外食、旅行などの対面型サービス消費が急回復するとの見方がある。だが、過度の期待は禁物だ。今回のワクチンは極めて短期間で開発されたため、有効性や副反応が未知数である。また、日本は欧米と比べて感染者数、死亡者数が圧倒的に少ないため、ワクチン接種によって受けることのできる恩恵が相対的に小さいということを認識しておく必要がある。
効果と副反応を冷静に比較考量すべき
2021年4月5日時点で、人口100万人当たりの新型コロナウイルスの累積感染者数はアメリカの9.3万人に対して日本は0.4万人、人口100万人当たりの累積死亡者数はアメリカの1679人に対し、日本は73人である。累積感染者数、累積死亡者数ともにアメリカの約4%にすぎない。話を単純化するために、ワクチンの有効性と副反応を死亡率に限定して考えると、有効性が90%の場合、ワクチンによって救われる命はアメリカの1511人(1679×0.9)に対して、日本は66人(73×0.9)となる。
一方、ワクチンには一定の副反応がある。ワクチン接種に意味があるのは、ワクチンによって命が救われる人がワクチンの副反応によって亡くなる人よりも多い場合である。ワクチンの効果は、アメリカの場合、副反応による死者が100万人当たり1511人未満であれば、ネットでプラスである。だが、日本では副反応による死者が100万人当たり66人未満でなければ、ネットでプラスとならない。つまり、アメリカは新型コロナによる死者数が多いので、副反応に対する許容度が高いが、もともとの死者数が少ない日本では副反応に対する許容度は低くなる。
また、ワクチンの効果が非常に高かった場合、感染者数の水準が大きく下がることはありうるが、ゼロになることは考えにくい。気温の変化や変異株の出現による増減は繰り返すだろう。日々の感染者数、死者数の動きに一喜一憂する状況を変えない限り、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などを通じた自粛要請と解除も繰り返され、対面型サービスの低迷は長期化する。
ワクチンの効果が小さいのは、前述のように新型コロナウイルスによる被害が小さいからなので、悲観的に捉える話ではない。日本では新型コロナウイルスの流行前は、インフルエンザで毎年1000万人以上の感染者(推計受診者)が発生していたが、新型コロナウイルスの感染者数(陽性者数)は1年以上が経過して約50万人にすぎない。
死者数はインフルエンザの約3000人に対して、新型コロナウイルスは約9000人と多い。だが、これは2020年6月18日に厚生労働省から出された事務連絡 において、速やかな報告のために新型コロナウイルス感染症の検査陽性者が入院中や療養中に亡くなった場合、厳密な死因を問わずコロナによる死に計上するようになったため、過剰計上の可能性がある。従来であれば肺炎や癌による死と報告されていた事例が含まれるのである。
2020年は高齢化の中でも日本全体の死者数が減少
新型コロナウイルス感染症は感染者、死者の計上方法が従来と異なるため、その深刻度を把握しにくい。従来と同じ基準で考えるためには、新型コロナウイルスの感染拡大によって全体の死者数が増えたかどうかを見る必要がある。
日本は高齢化の進展を背景に、総死亡者数は2010年から2019年まで10年連続で増加していた。この間の増加幅は年平均2.4万人、2019年の総死亡者数は138.1万人であった。しかし、新型コロナウイルス感染症が流行した2020年は、多くの国で超過死亡が発生する中、日本の総死亡者数は前年より9373人減って11年ぶりの減少となった。
死因別には、新型コロナウイルスによる死者数は3459人の増加となり、自殺も912人増と11年ぶりの増加となったが、肺炎は1万5645人の減少、心疾患は3808人減少、インフルエンザは2371人減少した。対人接触機会の削減、手洗い、うがい、マスクの着用といった感染防止策によって新型コロナウイルス以外の感染症等が抑制されたと考えられる。また、従来であれば肺炎などにカウントされていた死者が新型コロナウイルスによる死者としてカウントされている可能性も考えられる。
日本の対策は失敗ではなくむしろ過剰だった
総死亡者数が減少したこと自体は喜ばしいことだが、そのために犠牲にしていることは少なくない。日本はもともと新型コロナウイルスの感染者数、死者数が国際的に少ないにもかかわらず、一定の経済活動の制限を行ってきた。この結果、2020年の実質GDP(国内総生産)成長率はマイナス4.8%となり、感染者数や死者数が圧倒的に多いアメリカのマイナス3.5%を下回った。
その要因として経済対策の規模の違い(アメリカ>日本)や潜在成長率の違い(アメリカ>日本)もあるが、感染者数や死者数対比で見て、自発的な行動変容も含めた行動制限が過剰だった可能性もある。また、直接的な経済損失に加え、自殺者の増加、婚姻件数の激減など、対人接触を避けることによって生じるさまざまな弊害が表面化しつつある。
日本ではインフルエンザで毎年約1000万人が感染し、約3000人が亡くなっていた。それでも学級閉鎖や一時休校などを除いて特別な社会・経済活動の制限が行われなかったのは、一定程度の感染や死が社会的に許容されていたためと考えられる。感染者数をゼロにすることは基本的に不可能であり、ワクチン接種の進展が対面型サービスの救世主になるとは限らない。
新型コロナウイルスについて、日々の増減に一喜一憂するだけでなく、社会的にどこまで許容されるかを議論すべき時期が来ているように思われる。