Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

市場歪める「ガソリン補助金」、過剰支給の疑いも

識者は「1兆円の便乗値上げ」と試算、見えぬ出口
森 創一郎 : 東洋経済 記者
2024年04月11日
3月29日、経済産業省は、ガソリンなど燃料高騰に対する補助制度を「一定期間延長する」と正式に発表した。補助金を石油元売りに支給して、「レギュラーガソリンの全国平均価格を1リットル当たり175円程度に抑える」という現行制度がそのまま延長される。
2022年1月の制度開始以来、補助金は予算ベースで約6.3兆円、執行額で4.6兆円の税金がつぎ込まれてきた。3月29日の会見で齋藤健経済産業大臣は、「中東情勢の緊迫化等を背景とした価格高騰リスクやさまざまな経済情勢を見極める」と述べ、補助金終了時期については「示せない」とした。
「補助を急にやめると販売や流通が混乱し、消費者に迷惑がかかる。(補助金終了は)段階的にお願いしたい」
石油連盟の木藤俊一会長(出光興産社長)は、3月の定例会見でそう述べていた。円安や原油高は続き、いま補助金をやめればレギュラーガソリンの価格は190~200円近くになる。補助金をいつ、どのような形で終了させていくのか、出口は見通せない。
電気・ガス料金の補助は終了しても目立たない
一方、電気・ガス料金の補助については「LNG(液化天然ガス)や石炭の輸入価格がロシアのウクライナ侵略前と同程度に低下してきた」(齋藤経産相)として、5月使用分で終了する。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストの試算によれば、世帯当たりの電気代は補助金終了で平均12%、ガス代は14%上昇する。支払額はそれぞれ月1475円、455円増加するという。「家計への打撃となり、賃上げによる消費活動への好影響を一部相殺する可能性がある」(木内氏)。
一方、ガソリンの補助金廃止による価格上昇は12.4%、月663円程度の負担増と試算。「ガソリン補助制度の廃止は、電気代の補助金終了よりも家計への影響額が小さい。電力やガスについてはそこまで目立たないということだろうが、バランスを欠いた政策と感じる」と木内氏は話す。
「(ガソリン補助金は)財政負担以外に脱炭素を遅らせるといった副作用もある。どの水準の価格が正しいのか、基準があるわけではないので、政治的背景から永遠に補助しなければならなくなる。本来、経済活動を(価格に)合わせていく必要があるが、そこに補助金を投下することで市場を歪めてしまう」(木内氏)
補助金でガソリン需要は下支えされ、石油業界のマージン(利幅)は改善していく。こうした市場の歪みは、かねて指摘されてきた。
原油コストだけでなく、レギュラーガソリン全国平均価格を補助金支給額の算定式に加味したことで、"歪み"に拍車をかけた。
単純比較して見てみよう。原油コストは制度導入直前(2021年11月29日)の57.8円から、2024年4月3日時点で80.5円まで上昇した一方、レギュラーガソリン全国平均価格は同期間で168円から174.6円と大きく変化していない。
補助金は全額卸売価格に反映され、確かに原油価格高騰分を抑制している。だが、全国平均価格から補助金反映後の原油コスト(円換算、直近は23.3円)を差し引いた差額は15.2円から23.5円に拡大している。この差額には輸送コストの高騰分は含まれず、マージン拡大が主因となる。


便乗値上げでマージンが拡大?
石油業界に詳しい公認会計士の中澤省一郎氏は、「いまの制度では補助金が過剰に支給される一方、石油元売りや輸入業者などの便乗値上げでマージンが拡大している」と指摘する。
毎週月曜日の調査価格に基づく補助金が実際に小売価格に反映されるのは、各ガソリンスタンド(SS)の在庫がはけてからのことになる。「まだ補助金が反映しきらない価格を基に補助金が算定されることになる」(中澤氏)のだ。
これに対して資源エネルギー庁燃料流通政策室は、「われわれはSSのモニタリング調査をして、おかしな値付けをしていれば立ち入り検査もして卸売価格にあわせた値付けを促している」と説明する。
より問題なのは、「原油コストは0.1円単位で変動する一方、元売りの基準卸売価格は0.5円単位で計算されることだ」(中澤氏)という。このため原油コストの上昇局面では、卸売価格はより急カーブで上昇する可能性がある。
制度開始から2年4カ月間、各価格の推移を追跡してきた中澤氏によれば、全期間平均で毎週0.055円のプラスの誤差が発生している。これをもとに中澤氏が試算したところ、「卸売マージンが拡大しており、便乗値上げ分の実額は(累計で)約1兆円に達している」という。
ただ、資源エネルギー庁はこの問題について、「市場メカニズムの中の動きで調整されること」として意に介さない。
補助金の出口を早急に国民に周知するべき
前出の野村総研の木内氏は、「税金をあまねく集めて生活に余裕がある人まで広く補助する政策は効率が悪い。一定の所得水準以下の人に絞った物価対策などに衣替えすべきだ」と話す。そのうえで、補助金の出口への道筋を早急に国民に周知するべきだと指摘する。
「補助金で無理やりガソリン価格の水準を変えるのはおかしいことで、むしろ国民に慣れてもらわなければならない。去年も国民への出口の周知に失敗し、延長せざるをえなくなった。同じ轍を踏んではならない」(木内氏)
一方、資源エネルギー庁の日置純子・燃料流通政策室長は、「補助金はいつまでも続けるものではないが、安くしてほしいという強い声に日々直面している。今の状況で、いきなり補助金をやめられるのか」と話す。
出口戦略はまだ、見通せそうにない。