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安倍総理の志は死なない!!

脱原発を達成したドイツの危ういエネルギー事情

ウクライナ侵略で価格高騰、経済安全保障に難
三好 範英 : ジャーナリスト
2023年04月18日
東京電力福島第一原発の事故を機に、脱原発を決めたドイツ。12年の時を経てすべての原子炉が停止したが、情勢は一変しており、懸念が色濃い。
2023年4月15日、ドイツで稼働していた3基の原子炉が停止した。これでドイツで発電する原発はなくなった。反原発運動を担ってきた人々を中心に、4月15日は脱原発の歴史的達成の日となった。
2011年3月の福島第一原発事故を受けて当時のアンゲラ・メルケル政権は、その時点で稼働していた17基の原発のうち、古い原発7基と事故のため停止中だった1基を稼働停止とし、残りの9基も2022年末までに段階的に廃止することを法制化した。
最後に残ったのは3基だったが、ロシアによるウクライナ侵略によって、エネルギー供給が不安定化したことから、2022年末の廃止期限は、4月15日まで延長された。暖冬だったこともあり、懸念されていた冬場の電力不足もなく、この日をもってドイツの原発の歴史に一つの幕が下ろされたのである。

バカ丸出しのデモンストレーションwwwwwwwwwwww
ドイツで最初の原発が稼働したのは、1961年6月であり、2度にわたるオイルショック(1973年、79年)でエネルギー安定供給が課題となる中、1970年代、80年代と原発建設は進められ、40基近い原子炉が稼働した。最盛期の1997年には、総発電量の30.8%を原子力エネルギーが賄っていた(2022年は6.5%)。
ただ、1970年代半ばには、ドイツ南西部バーデン・ヴュルテンベルク州ヴィールでの原発建設反対運動が起き、それを嚆矢に各地で反原発運動が高揚した。そうした住民運動が結びついて1980年1月、連邦レベルで「緑の党」が発足し、環境運動はドイツ政治の大きな潮流となっていった。
脱原発運動は原発の危険性への警鐘であるとともに、再生可能エネルギーの普及とあいまって、脱産業社会を目指す「グリーンイデオロギー」とでもいうべき色彩を強めていった。脱原発の達成は、こうした半世紀近くの理想主義的な運動が実を結んだ面がある。
ただそれにしては、ドイツメディアがこのことを報じるニュースに高揚感はない。むしろ、不安定な国際情勢やエネルギー価格高騰に直面して、本当に原発をなくしていいのかという懸念を強く打ち出している。
公共放送ARDの4月11日夜のニュース番組では、脱原発に批判的な意見やエネルギー安定供給への不安感に半分以上の時間を割いていた。
番組では大量の電力を消費する亜鉛メッキなどの産業が電力不足を心配していると報じ、ドイツ商工会議所連合会のマルティン・ヴァンスレーベン会長は、「不安定な状況なので、できるだけ多くのエネルギー源を確保することが重要」と答えていた。
ロベルト・ハーベック経済・気候保護相(緑の党)が、「原発なしでも十分な電力は確保されている」と懸念の払拭に努めていたのは当然といえるが、同じ与党で自由民主党(FDP)のクリスティアン・デュア院内総務は、「少なくともすぐに廃炉作業に取り掛かるのではなく、再稼働可能な状態にしておくことが必要」と、将来の電力不足に備える必要性を強調していた。
また、4月14日夜のニュース番組でも、南部バイエルン州のマルクス・ゼーダー州首相(連邦政府野党のCSU党首)は、「冬には深刻な(電力不足の)問題に陥るだろう。原発の再稼働も考えられる」と踏み込んだ発言をしていた。
「原発は危険」を一転させたウクライナ侵略
私は福島原発事故当時、特派員としてドイツ在住だったが、あの頃のドイツの報道が、比較的冷静な報道姿勢のARDも含め、原発の危険性を繰り返し強調し、脱原発の主張一色だったことが思い起こされる。
今回はARDも脱原発を「大きな戦略的間違い」とする見解も紹介しているのを見て、社会の雰囲気がかくも変わったことに驚きを禁じえない。
ARDが放送した4月11、12日実施の世論調査によると、脱原発が正しいとの回答が34%に対して、間違っているとの回答が59%だった。福島原発事故から3カ月後の2011年6月に行った世論調査では、「早急な脱原発」に賛成54%、反対が43%だったから、世論の風向きは逆転した。
ここまでの変化を促したのは、福島原発事故の記憶の風化もあるだろうが、何といってもロシアによるウクライナ侵略である。
ドイツはすでに完成していた海底ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働を断念しなければならなくなり、ロシアからの安価な天然ガス供給を前提に組み立てられていた経済戦略は抜本的な見直しを余儀なくされた。
言い換えれば、グリーンイデオロギーに代えて経済安全保障の重要性に多くの人が目覚めたのである。
エネルギー価格の高騰によって人々の生活が脅かされる現実を前にしては、多くの国民にとって、緑の党が主張する脱原発の理想主義よりも、安価なエネルギー供給のほうが重要になったことは無理もない。
ARDの世論調査でも、「再生可能エネルギー導入によるエネルギー価格上昇を懸念するか」との質問への回答は、「非常に大きい」26%、「大きい」40%との結果だった。
ただ、一度稼働を停止した原発をすぐに再稼働させることはできない。燃料の調達、装填、定期点検、職員の配置などは、脱原発スケジュールに沿ってこれまで実施されていたからだ。ARDの番組で専門家は、燃料の調達に少なくとも1年はかかるため、再稼働は現実的ではないと指摘していた。
他方、ヨーロッパの多くの国で、原発稼働延長や新設が進められている。
ベルギーは2025年に廃止する予定だった原発2基の稼働期間を10年間延長する。スウェーデンは、現在6基の原発が稼働しているが、法律で最大10基としている制限を撤廃することを検討している。やはり電気料金の高騰に対処するためだ。
ポーランドは400億ユーロをかけて原発6基を2026年から2040年代半ばまでに建設する計画で、3基がアメリカ、3基が韓国によって建設される。
欧州の「原発ルネサンス」がバックアップ
ヨーロッパ全体で見れば、今の危機を「原発ルネサンス」によって乗り切ろうとしているが、ドイツは再生可能エネルギーの増設を急ぐことで、脱原発、脱石炭を達成する「エネルギー転換」を貫く方針を変えていない。大規模なブラックアウトの発生や、エネルギー価格高騰で企業の海外移転が加速するなどの懸念は続くだろう。
送電線網がつながっているヨーロッパでは、ドイツで発電が落ち込めば、周辺国から電気が流れ込む。周辺国の原発、化石燃料発電所が、いわばバックアップ機能を果たすがゆえに、ドイツの脱原発、再生エネ普及が可能になっている面はある。
この構造がドイツで問題視されることはほとんどないが、国単位で見た場合、エネルギー安全保障上、脆弱性を抱えていることは否定できない。
また、ドイツは2030年までに脱石炭を実現する目標を掲げるが、現実は脱原発や天然ガス供給減を石炭発電で代替している。
2021年の石炭、褐炭発電量は165テラワット時で、全発電量に占める割合は28%だったが、2022年は183テラワット時、31.7%に増加している。温室効果ガス排出の観点から望ましくないことはいうまでもない。
ドイツのエネルギー政策はさまざまな矛盾を抱えており、ドイツ人も大きな迷いの中にある。日本ではドイツのエネルギー政策を理想視する傾向が強いようだが、いたずらに「ドイツ見習え論」を振り回すことなく、現状を冷静に見て日本にとっての教訓を得たいものだ。