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危機感不在の呆れた第3次補正予算案、菅政権「国民のために働く」はどこへ

12月15日に閣議決定された令和2年度第3次補正予算案。その中身をみれば、新型コロナ不況の対策には全くなっていないのは明らかだ。これらの問題点を指摘する。(室伏政策研究室代表、政策コンサルタント 室伏謙一)




結論からいえば
新型コロナ不況対策にはなっていない
12月15日に閣議決定された令和2年度第3次補正予算案、その一般会計歳出の総額は、経済対策関係経費が19兆1761億円、税収減に伴う一般会計の地方交付税交付金の減額の補塡や地方法人税の税収減に伴う地方交付税原資の減額の補塡等に加え、既定経費に減額分等と合わせて、15兆4271億円である。


財源となる国債は、税収の減額分8兆3880億円と合わせて22兆3950億円発行される(なお、この他に税外収入及び前年度余剰金受入あり)。


さて、この補正予算案、結論からいえば、新型コロナ不況対策には全くなっていない。なぜそう言えるのか?


本稿では第3次補正予算案編成の前提となった、12月8日に閣議決定された「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」(以下「総合経済対策」)を下地としつつ、経済に関する部分を中心に、具体的な措置について金額も含め見ていきたいと思う(なお、大元となった自民党提言のお粗末さについては、拙稿『お粗末すぎる自民党「新たな経済対策への提言」、コロナ禍の影響を無視』を参照されたい)。




「ショックドクトリンを進めます」と
言っているに等しい
まず、現状認識。「経済対策の考え方」には総合経済対策の肝が次のように凝縮し記載されている。


『「攻め」とは、今回のコロナ危機を契機に浮き彫りとなった課題である国・地方のデジタル化の著しい遅れや、東京一極集中、特定国に依存したサプライチェーンといった我が国の脆弱性に対処することである。そして、環境と経済の好循環を生み出すグリーン社会の実現、経済の基盤を支える中小・小規模事業者の事業再構築支援を通じた体質強化と業種・職種を越えた労働の円滑な移動、非連続なイノベーションを生み出す環境の強化など、民間投資を大胆に呼び込みながら、生産性を高め、賃金の継続的な上昇を促し、所得の持続的な拡大と成長力強化につながる施策に資源を集中投下することである。』


これは、過去20年以上にわたって行ってきたインフレ対策にしかならない構造改革という間違いをまだまだ繰り返すことになる。それどころか今回の「コロナ禍」という惨事に便乗して「ショックドクトリンを進めます」と言っているに等しい。


今なすべきは、さまざまな影響を受けている全産業を守ること、国民の生活を下支えすること、そしてデフレ下で需要が決定的に不足しているところに有効な需要を創出すること、そのための手厚い公共投資である(民間投資はその先である)。


さて、具体的に取り組む施策に関し、(1)新型コロナウイルス感染症の拡大防止策、(2)ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現、および(3)防災・減災、国土強靱化の推進の3本の柱が掲げられている。これは当初の経済対策提言と同じであるが、中身がより具体的になっている。本稿では(1)および(2)を中心に見ていく。


1本目の柱である「新型コロナウイルス感染症の拡大防止策」については、多くが厚生労働省関係で措置されているが、内閣府関係の次の点については大いに懸念がある。


「知見に基づく感染防止対策の徹底」として、地方公共団体が酒類を提供する飲食店等に営業時間短縮要請等を行い、協力金の支払等を行う場合の柔軟な対応を可能とするため、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金の拡充を行うこととし、11月24日および12月15日に発出された事務連絡『新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金における「協力要請推進枠」の運用拡大について』により既に措置された。


12月16日から1月11日の期間の協力金は月額換算最大60万円から120万円に倍増されている。ただし、日額でいえば最大4万円である上に、必ず満額支給されるとは限らない。年末年始のかき入れ時であることを考えれば、この程度の協力金で持ち堪えられる事業者はどの程度いるのだろう。


そのような中途半端なものではなく、持続化給付金の拡充(実質的な粗利補償)などにより対処した方が、事業も雇用も守ることができるはずだ。




新型コロナ不況の対策とは
無関係のものがほとんど
二つ目の柱である「ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現」は、各項目には「新型コロナ」の文字が目立つが、言わずもがなであるが、新型コロナ不況対策とは無関係のものがほとんどである。


例えばデジタル関係で、「教育、医療・福祉等におけるICT化等の一層の推進」として、厚生労働省関係でオンライン診療・服薬指導の恒久化等が措置されている。こうしたものも新型コロナ対応との関係で語られることが多いが、オンライン診療という名の遠隔診療では、専門医の話によれば診療・診断は困難であるようであり、遠隔診療ICTプラットフォームの利用負担と相まって、保険医療を崩壊させることにつながりかねないとの指摘もある。


さらに、服薬指導のオンライン化における「エビデンスに基づき」とは、要は医療費の削減のため、米国の保険会社が行っているようにするということであろう。そうなれば、国民の健康が着実に守れるわけもなく、弱者切り捨て、患者切り捨ての愚策と言わざるをえなくなる。


そもそもデジタル・ガバメントの確立にマイナンバーカードの普及などの「デジタル改革」なるものは、新型コロナ不況の今、補正でやるべき話なのだろうか(そうしたものが、各府省で多く措置されているのは、つまるところ一部の者だけが得をするためなのではないかと邪推したくなる)。


「グリーン社会の実現」もまた然りである。


「カーボンニュートラルに向けた新技術の開発」「グリーン社会の実現のための国民のライフスタイルの転換等」とあるが、新型コロナ不況対策とどう関係があるのだろう?(環境だグリーンだと言えばなんでも許されるわけではない。筆者の目には新エネ利権のようなものを新たに創出するための措置にしか見えないが)。


そして、大いに問題なのが「経済構造の転換・イノベーション等による生産性向上」で一括りにされている措置たち。


「中小・小規模事業者の経営転換や企業の事業再構築等の支援」として、「地域の経済を支える基盤である中小・小規模事業者に対して、淘汰を目的とするものではないことは当然として、ポストコロナに向けた業態転換や新たな分野への展開等の経営転換を強力に後押しすること等を通じて、生産性の向上、賃金の継続的な上昇につなげる。」とある。




業態転換を事実上無理やり迫り
事業再編の名の下に潰そうとしている
具体的問題点については、拙稿『菅内閣は「中小企業つぶし」という日本経済つぶしを押し進めている』を参照されたいが、「淘汰を目的とするものではない」としているものの、要は業態転換を事実上無理やり迫り、それができない企業を事業再編の名の下に潰そうとしていることは明らかである。


具体的措置として、経済産業省関係で「ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するため、中小企業の新分野展開や業態転換等の事業再構築を支援する。特に中堅企業に成⻑する中小企業については補助上限を1億円に引き上げて支援を重点化する。」として、中小企業等事業再構築促進事業に1兆1485億円もの予算が措置されている。需要が収縮し、かつ新型コロナ不況で多くの事業者が困窮している中で、新分野展開や業態転換を迫り、生産性の向上や賃金の上昇を迫るなど、正気の沙汰とは思えない。


同じく経済産業省関係で、「サプライチェーンの強靭化と国際競争力の向上」として、「サプライチェーン強靱化・多元化」の支援措置に2225億円計上されている。新型コロナショックにより世界的なモノの流れが止まったり鈍くなったりしており、本来はサプライチェーン、生産拠点を国内回帰させなければいけないのであるが、まだグローバル化を信じる周回遅れの発想が根強いようで、国内における増産等に寄与する設備投資も含まれているものの、海外拠点の多元化に資する設備投資も対象となっている。第2次世界大恐慌が来るとも来たとも言われているところ、まずは生産拠点の国内回帰のみを対象とした措置とすべきであるはずだ。


「地域・社会・雇用における民需主導の好循環の実現」と銘打ち、「地方への人の流れの促進など活力ある地方創り」と言いながら、「国内観光を中心とした旅行需要の回復」を考えているようで、国土交通省関係で「訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業」(49億9700万円)等が措置されている。


新型コロナの感染の今後の状況も不透明である中で外国人観光客の受け入れなどもってのほかであり、非現実的である。


当面、世界的な人の動きはほとんどないか鈍化したままであろう。そうなれば、やはり国民の国内移動の利便性を高めることが必要であり、そのための公共投資を今から進めるべきであるし、それは困窮する交通事業者の救済にもつながる。


また、「民族共生象徴空間(ウポポイ)の誘客等の取組の推進」(19億8200万円)など、歴史的経緯も考証も曖昧な、単に「アイヌを観光コンテンツにする」という結論ありきの事項であり、問題外だ。






雇用確保の支援はするが
業種転換や転職・再就職が前提
菅政権の中小企業政策をわかりやすく表現すれば、「観光関連産業は救ってやるが、それ以外の中小企業は潰れて構わない」「ハゲタカファンドや外資系企業の餌食になって構わない」「職に困った連中は観光業に転職して外国人観光客相手に商売しろ」と言っているようなものだ。


「新たな人の流れの促進など地域の独自の取組への支援」も規定されているが、地方への人の流れを作りたいのなら、インフラをはじめとした地方への大規模な公共投資を通じて生活や仕事の利便性を高めることである。地方への移住は長期観光ではない。生活の拠点を移すことなのであるから、テレワーク拠点等が整備されればなんとかなるという類の話ではない。東京からの流出超過が続く中(実態としては入ってこないということなのだが)、これを好機と捉えるなら、手厚い公共投資を躊躇なく進めることである。


「成長分野への円滑な労働移動等の雇用対策パッケージ」なるものも規定され、「業種転換等による雇用確保も視野に、出向や早期再就職による新たな分野への円滑な労働移動の支援や〜(中略)〜雇用対策パッケージとして総合的に取り組む。」とあるが、その心は、雇用確保の支援はするが業種転換や転職・再就職が前提であるということ。


つまりは中小企業再編政策と軌を一にしているということであるが、人はそう簡単に全く経験のない仕事に就くことなどできない。それをあたかも一つの箱に入っていたものを別の箱に移すかのように考えるのは、机上の空論であり、全く現実性のない話だ(それを強行に主張されるのなら、ご自身が全く未経験の仕事にでも直ぐに就いてみてはいかがか)。


要するに、本気で今の雇用を守る気はないということであろう。


「家計の暮らしと民需の下支え」とあるが、家計の下支えと言っても、基本は融資。携帯の料金を引き下げても、もともとさまざまなプランがある上に、無料Wi-Fiの普及で通信料のさらなる低減は可能なのだから、家計負担の大幅軽減にはつながらない。家計にとって一番の負担は消費税である。


「携帯料金値下げは消費税率○%の引き下げに相当する」といった詭弁はもういいので、早期にゼロ、少なくとも5%に引き下げるべきだ。


そして、少子化にも本気で取り組むのであれば、待機児童問題や不妊治療よりも、まずは貧困問題の解決である。そのためには、派遣労働の規制強化、コーポレートガバナンス改革をやめて元に戻すこと、四半期決算の廃止、公共投資を増加させて、例えば介護職や保育職などを公務員化して給料を上げることなどにより「家計の暮らしと民需の下支え」をすることを検討・実現すべきであろう。




菅政権は
何をしようとしているのか
これらのほか、「世界に開かれた国際金融センターの実現」や「更なる輸出拡大を軸とした農林水産業の活性化」といった、現下の状況を踏まえない、新型コロナ不況対策とは無関係であることが一目瞭然のものもある。


そうしたものについての問題点の解説などは文字数の関係で割愛するが、いずれにせよ、緊張感も現実感も欠ける第3次補正予算を通じて菅政権は何をしようとしているのだろうか?


筆者の頭には、「亡国」や「衰退」「荒廃」「疲弊」といった言葉しか浮かんでこないのだが…。