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安倍総理の志は死なない!!

「退職金の中から寄付してくれと…」進むジリ貧国立大学事情「今ここにある危機」を大学関係者が警告

なぜ大学は経営難になっているのか…
「大学の貧困」を耳にして久しい。


昨年、東京藝術大学が光熱費高騰で練習室のピアノを撤去して売却することが話題になったが、娘が通っていた国立大からは学生の親向けに寄付の依頼が度々来ていたし、自分が卒業した国立大にはいつの間にか敷地内に民間の専門学校が入っていた。


調べてみると、国立大学は’18年度から規制緩和により土地貸し出しが可能となり、東大や東京医科歯科大、長崎大、九州大、東京農工大、東京海洋大など様々な大学において、駐車場やオフィス、老人ホームなど多様な活用法が進められているようだ。聞こえは良いが、家賃収入をアテにせざるを得ないほど経営難ということだろう。


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確かに、少子化は悪化の一途をたどっている。しかし、国立大の授業料は自分が大学生だった’90年代前半に年間40万円前後だったのに、今は年間60万円超。賃金は全く上がらない状況で、国立大授業料は上がり続けているのに、なぜ大学は経営難になっているのか。
大学が直面する危機を克服するための道を探り、行動する「大学フォーラム」に取材依頼したところ、東京大学のA教授、東京農工大学のB准教授、鳥取大学のC准教授、都内国立大学の事務職員Dさんが応じてくれた。そこで語られたのは、大学に行った人も行かない人も、子どもがいる人もいない人も誰もが巻き込まれる可能性のある不穏な未来の話だった。


退職する先生にも、退職金の中から寄付してくれと…
「寄付をしろというのは、学生の親に対してだけでなく、大学から給料をもらっている我々教職員にも回覧メールがよく来るんですよ。


寄付金は大学の施設費や学生の奨学金や留学生支援金などに使われるということで、私も一応趣旨に賛同して寄付しています。


でも、それは例えばヨーロッパの大学などではEUの欧州社会基金などでやっていることで、なぜ寄付に頼るの? と思います。しかも、寄付できるほどの給料をもらっているかというと、大学全体の予算が削られている中ですからね」(A教授)


「退職する先生にも退職金を渡しているにもかかわらず、退職金の中から寄付してくれと言いますから。人によっては10万円とか100万円くらい寄付して、ネームプレートなどが壁に貼られるようになっています」(B准教授)


毎年減らされている交付金
その退職金自体も、昔に比べると500万円ほど安くなっているのはザラだとか。「退職金でマイホームのローンを完済しようと思っていたところ、結局、家を売り払うことにした」といったケースもあるそうだ。


大学はいったいいつから、なぜ貧困化しているのか。


「国立大学が法人化して、経営改善を課す必要があるとして効率化係数がかかった’04年からですね」(C准教授)


「みんな文科省のせいだと思いがちですが、文科省も困っていて、問題は財務省なんですよ。


財務省が効率化しろと言って、交付金が毎年1%とか減らされていますが、1%には何の根拠もなくて、効率化できないことを文科省はとっくの昔にわかっています。


予算を1%減らしてアウトプットも1%減るのは、効率化じゃないですよね。国立大学を痩せ細らせることで、アウトプットも痩せ細っているのが現状なんです」(A教授)


“稼げる大学”とは…「特許では実際、全然稼げていないんです」
「稼げる大学」を国が打ち出したときから、批判は続出していたが、まさか土地を民間に貸すなどの小銭稼ぎとは思わなかった。実際、「稼げる大学」とは何なのか。


「稼げる大学の当初のお題目は、研究で稼ぐということだったんですよ。でも、特許では実際、全然稼げていないんですね。


大学も最初は特許をたくさん取って稼ぐ方向だったんですが、登録料を払わないと特許が維持できないので、経費のほうが高いみたいな状況になっていて、最近は特許を取るときに厳選するように言われています。


お題目としては企業と共同研究をしてお金をもらうとか、共同研究で商品開発してベンチャー企業で売るとか言いますが、成功例はごくごく一部。その背後にうまくいかなかった例がたくさんあるので、トータルでは全然儲かっていないと思います」(C准教授)


「特許は本来、たくさん登録しておいて、どれが将来ブレークするかわからないというもので、大半はお蔵入りなわけですよ。


一部活用されたとしても、採算が合うほどにはならずに終わってしまうものが多く、そういうものが100、200、もっとある中で発光ダイオードが1つ出るといったことが特許の世界ですから」(A教授)


「発光ダイオードを目指すなら、その100、200、無駄になるお金をちゃんと出すような計画でないとダメなわけで」(C准教授)


「しかも、マッチポンプな面もあるんです。財閥系の会社などが国立大学と一緒にコンサルグループを立ち上げたらしいんです。


国立大学がコンサルをやるというと、なんとなく知的に優れているように聞こえて、お客が集まりそうですが、それでいて“民業を圧迫しちゃいけない”と言われるそうです。わざとあまり儲からないようにやる、と。何をやっているのかわかりませんよね」(A教授)


「教育と称して大学院生を安く使えるわけですから…」
「産官学連携」とは、学問を民間が食い潰すことなのかという気もしてくるが……。


「バブルが崩壊した辺りから、民間企業も自社の研究所をどんどん閉鎖していきましたよね。それで、その肩代わりが大学というわけです。自前で研究所を持つよりも大学にお金を数百万円渡して研究させる。


大学院生なんてほぼタダ働きさせられるようなものですからね。それでも今までよりはいくらか豊かな生活ができるので、大学側はそれを受け入れてしまう。


教育と称して大学院生を安く使えるわけですから、民間キャリアにとっては効率が良いはずです」(B准教授)


ちなみに、アメリカの有名大学では、卒業生が過去200~300年と巨額の寄付を積み重ねてきた大きなファンドがあるため、そのファンドで大学は潤っており、日本のように「足りない金を教員と院生で奪い合う」といったような状況はないとA教授は言う。


また、ヨーロッパでは、大学院生も給料をもらい、1人の研究者として扱われているとB准教授は補足する。


「ヨーロッパもアメリカも、大学院生に組合がありますからね。それで、ストライキをやったり、給料を上げさせたりしていましたけど、日本の場合はそうじゃない。扱いが根本的に違いますから」(B准教授)


中国の大学が世界の研究ランキングで伸びているワケ
昨年末には多くの反対を押し切って、国立大学法人法改正が可決、成立した。この影響で危惧されることを聞くと、A教授は「日本の国立大学の中国化」を挙げる。


「日本の国立大学の法人化は、もともとイギリスの大学をモデルに始まったんですが、国立大法人法改正がモデルにしているのは、中国の大学としか思えないんですね。


中国では政府や学校、企業など多くの職場に中国共産党の幹部候補みたいな『書記』が派遣されていて、その書記が各大学では学長、理事長、総長の頭を押さえつけて『この研究をやれ、この研究はやるな、この教員は追放しろ』みたいな命令を強権的に行うシステムになっています。


中国の大学が世界の研究ランキングですごく伸びているのは、そうした採点基準を作り、書記がそれに合うようにプランしているからと聞きます。


でも、日本はイギリスをモデルにスタートしたのに、中国に学べと言って、日本の実態を考えず安直に中国と同じような制度設計を政治家が進めてしまっているんです」(A教授)


「一番危惧するのは、運営方針会議が中期経営計画の決定権を持つことで、例えば新しい学部・学科を作れ、流行りのAIの研究をやれなどと頭ごなしに命令してくる可能性が高いこと。似たことが下関市立大学で起こっています。


公立大学のトップは自治体の長で、議会で決まったら、それが大学の方針になるんですが、思いつきで新しい学部を作れと言って、教職員が混乱している。そうしたケースがあちこちで起こる可能性があるわけです」(C准教授)


大阪府と大阪市が設置する「大阪公立大学」で「公用語英語」「秋入学導入」などが検討されているとして多くの批判を浴びているのも、まさにその一例だろう。


このままでは、高度な頭脳労働は欧米人や中国人が行い、その下請けで日本の工場労働者が延々と働かされる世界に…
加えて、国が大学の人事に介入する危険性をA教授は指摘する。


「’20年に東大と筑波大の学長選考問題がありました。


東大学長選考の場合は、官邸の意向を忖度したのか、官邸から圧力が直接あったのか、選考リスト11名の中から学内の予備意向投票に反して本選を3人までに絞り、予備意向投票1位だった対抗馬までも露骨に排除したんです。


それらは選考過程が不透明だという批判が教職員から相次ぎ、選考会議議長は責任をとって辞めましたが、説明を果たしていません。どうも状況から見ると、学術会議のときと同じということです」(A教授)


同様の問題が、昨年末に行われた千葉大学長選でも起こっている。教職員投票1位が選ばれず、不透明であるとして教授や学生が反発している問題において、説明を求める学生・卒業生有志の1万4280筆の署名が2月末に提出されたのは記憶に新しい。


気をつけなければいけないのは、これが大学だけ、学問だけの問題ではなく、結局のところ私たちみんなの生活に影響を及ぼすということだ。


「学術会議問題や国立大学総長選を見れば、一般市民の皆さんも、自分たちの税金が不正に使われていると感じると思います。


受験生たちには1点でも多い人が通ることを絶対だとしておきながら、総長選は点数を無視して決めていいの? と。


このまま大学の貧困が続くと、高度な頭脳労働はみんな欧米人や中国人が行い、その下請けで日本の工場労働者が延々と働かされる世界になっていく状況もあり得ます。そういう未来は楽しいですか。現に携帯電話も韓国と台湾がなかったら作れない状況になっていますよね」(A教授)


「株価高騰ばかりが報じられますが、日本の相対的な地位の低下は誰もが知るところですよね。そんな中でどうやって再浮上させるかとなると、結局、学問頼みなんです。にもかかわらず、大学に無駄なことをするな、もっと効率よく研究しろと言うんです」(B准教授)


『今ここにある危機とぼくの好感度について』(’21年/NHK総合)は、名門大学の不祥事が描かれたドラマだが、これを学問の世界ではなく、政治の話と重ね合わせて見た人は多かった。メディアをコントロールし、市民の個人情報も掌握し、大学もコントロールしようという「今ここにある危機」は、着実に進んでいるのだ。


取材・文:田幸和歌子