Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

認識が甘いのではないか??!

近年のキャンプブームに加え、コロナ禍で密を避けようとキャンプ場に出かける人が増え、プライベートキャンプ用に山林を求めるニーズが高くなってきている。林業の衰退もあり、かつて資産家の象徴だった山はいまや数十万円から数百万円で簡単に購入できるほど不動産価値が下がっている。そんな日本の山を買いあさる外国人がいるという噂(うわさ)を耳にした人は少なくないだろう。しかも狙われているのは、良質な水源地の山林だという。こうした話は本当なのだろうか。(ジャーナリスト 福崎 剛)


なぜ、日本の山林が


外国人に買われるのか


 山林は、水源の涵養(かんよう)機能を持っている。わかりやすく説明すれば、山林の土壌が降水を一時的に貯留することにより、河川へ流れ込む水の量を平準化している。降水の河川への流量を自動調整するように働くため、洪水を緩和するのである。また、雨水が山林の土壌を通過することにより、濾(ろ)過する効果がもたらされて水質を浄化する機能を果たす。


 つまり、きれいな水源を維持するためには、山林が必要というわけだ。この水源を狙って外国人が土地取引をしているのではないかというのが噂(うわさ)になっているのである。


 この件について、全国の山林を手広く扱う「山林バンク」の辰己昌樹代表は次のように話してくれた。


「何年も前のことですが、某大手新聞社から中国人が水源林を買っているらしいが、売ったことはあるかと取材で聞かれたことがあります。売ったこともありませんし、私の知る限り外国人が水源を目的に山林を買ったという話も直接聞いたことはありません」


 山林の不動産を扱うベテラン業者でさえ、直接外国人から取引を持ちかけられたことがないというのだ。


 とはいえ、もしも日本の水源地を外国人に押さえられたら、海外へ水資源を持ち出されるという不安は拭いきれない。豊かな水資源に恵まれる日本だが、水資源の乏しい国にとっては大金を払ってでも良質な水源は欲しいものである。世界では約8.4億人が給水サービスを利用できず、またトイレ(衛生施設)を使えない人が約23億人もいるとして、SDGs(持続可能な開発目標)では「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保」(ゴール6)を定めているほどだ。


 だからこそ、割安な日本の水源地を含む山林が狙われているのである。


21世紀の世界は


「水戦争」の時代


「外国人が水源地の山を買っている」という噂話には、主に2つのエピソードが結びつけられて拡散したのではないかと思われる。


 一つ目は、2008年に公開された映画『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』がきっかけだろう。このドキュメンタリー映画は、世界で起きているさまざまな水資源の争奪を描いたもので、例えば開発途上国に水道事業の民営化を迫る水メジャーと呼ばれるような企業が水資源を独占し、アフリカのある国では水道代が高騰し、貧しい国民の多くが安全で衛生的な飲料水を飲めない状況が起きていると問題提起したのである。


 この映画公開後には、東京財団政策研究部から政策提言「日本の水源林の危機~グローバル資本の参入から『森と水の循環』を守るには~」(2009年1月)が発表された。


 この提言の序章にある「日本の森と水が狙われている ~水源林を守り、『森と水の循環』を維持せよ」の中で、紀伊半島の奥地水源林(三重県大台町)に中国資本が触手を伸ばした、との記載がある。しかし、断念したということで、中国が水源林を買ったとは明言していない(ちなみに水源林とは、雨水を吸収し浄化しつつ水源の枯渇を防いだり、河川に流れ込む水を調整したりする機能を持つ森林にあたる)。


「世界の水戦争」がすでに、日本でも身近に迫っているという危機感があったのは確かだろう。


 2012年には、「水源地買収 さらなる規制を」の小見出しで、産経新聞が水源地買収問題で意見書を国に提出した15の自治体を記事にした(3月26日付)。この中で、北海道ニセコ町の15の水源地のうち2つが外資所有になっており、「水道水源保護条例」を制定するきっかけになったと報じている。


 二つ目は、中国が抱える水問題である。2012年頃の中国は、水資源量が世界の5パーセント程度しかなく、しかも河川の水量の7割近くが飲料に適さないほど汚染されていたのである。水資源が不足している中国の事情から、日本の水源林を狙って購入しているというイメージが一人歩きしてしまったのだろう。


 さらに、2011年に東日本大震災が起きたことで、デマや流言飛語が広まりやすくなっていたこともある。「復興」という絆を共有し、頑張ろうと奮い立って日本中が敏感になっていたときに、北海道のニセコ町で水源地を含む山林が外国資本に買われていたことがわかったのだ。


外国資本はどのくらい


日本の水源林を購入しているのか


 外国人が日本の土地を簡単に取得できることを問題視する向きもあるが、今のところ水源林の売買に関しては取引を制限する国の法律はない。では、外国人または外国資本は日本の山林をどのくらい購入しているのだろうか?


 農林水産省の令和元年(2019年)5月31日付のプレスリリース「外国資本による森林買収に関する調査の結果について」では、平成30(2018)年1月から12月までの期間における外国資本による森林買収について都道府県別に調査発表されている。


 これを見ると1年間で30件の森林が買収されており、そのうち13件が中国人または中国系法人である。中でも北海道の倶知安町の17ヘクタールの森林が買収されており、利用目的が未定になっていることが気がかりだ。


 だが、利用目的を見る限り「水源確保」を目的にしているわけではない。もちろん、地下水を含む水源の事業化を目論(もくろ)んでいないとは断定できないが、各自治体は防御策を講じている。


 例えば、ニセコ町では2011年に「水道水源保護条例」と「地下水保全条例」が施行され、届け出や許可のない水源地の開発や地下水の揚水を規制しており、水資源の無秩序な採取を防いでいる。翌年の2012年には北海道で水資源の保全に関する条例が可決されて、全道で外資による水源地(山林)の買収に規制をかけた。また、他の多くの自治体でも同様の規制をかけて、水源地の山林を守っているのが現状である。


日本の水源地は


守られるのか?


 海外では、外国資本による土地取引を制限している国も少なくない。しかし、日本には水源地や山林を守るような法律は今のところない。ただし、土地取引の規制に関する措置は設けられている。これは全国に一般的に適用される『事後届出制』と、地価の上昇の程度等によって区域や期間を限定して適用される『事前届出制』である『注視区域』制度と『監視区域』制度、そして『許可制』である『規制区域』制度から構成されている。要するに、土地を取得した場合に所有者の移転の届け出を義務づけているのだ。


 山林を購入した場合は契約した後に届け出が必要になる。ほとんどの山林は都市計画区域外にあたるので、1万平方メートル(約3025坪)以上であれば、買い主が2週間以内に、市・区役所、町村役場の国土利用計画法担当窓口へ届け出なければならない。1万平方メートル未満なら「森林の土地の所有者となった届出」を出すことになる。実はこうした所有権の移転の届け出によって、外資による森林買収の取引監視の強化にもつながっているのである。


 なお、日本の水源地を守ることに関しては、今のところ先に紹介した各自治体の「水道水源保護条例」や「地下水保全条例」によって、開発や事業化を防いでいる状況だ。国土交通省の水管理・国土保全局は、「地下水関係条例の調査結果」(平成30年10月)国土交通省調査結果.pdfを公表し、47都道府県で80条例、601地方公共団体で740条例を制定していることがわかった。


 これらの条例の目的は主に4つで、(1)地盤沈下、(2)地下水量の保全または地下水涵養、(3)地下水質の保全、(4)水源地域の保全に分かれる。この中で最も多い条例数は、地下水質の保全で420、続いて地盤沈下が412、そして地下水量の保全または地下水涵養が363となっている。これだけ条例で規制をかけているため、素直に考えて水源地を買収されても地下水を採取することが難しい。水源地の開発行為の制限もあり、土地を買収されて勝手に活用される心配はしなくてよさそうだ。


 また、こうした条例に罰則規定を設けている地方公共団体も多く、懲役や罰金の規定がある条例がほとんどだ。また、氏名の公表や過料を定めている条例もある。この罰則規定がどこまで外国資本から日本の水資源を守れるのか、その効果はわからない。しかし、こうした条例による規制がかけられることで、水源地のある山林は守られているというわけである。


◎福崎 剛(ふくさき・ごう)
東京大学大学院修了、都市工学専攻。日本ペンクラブ会員。マンション管理問題から、景観保全のまちづくり、資産価値の高い住宅選びなど、都市計画的な視点でわかりやすく解説。『マンションは偏差値で選べ!』(河出書房新社)、『本当にいいマンションの選び方』(住宅新報社)など、著書多数。最新刊に、ヤマケイ新書『山を買う』(山と渓谷社)がある。