Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

中谷・元防衛相に聞く、イージス・アショア配備撤廃の「内情」

北朝鮮からのミサイル攻撃に対応する「イージス・アショア(陸上配備型迎撃ミサイルシステム)」配備計画の撤廃を機に、新たな国家安全保障戦略(NSS)の議論が今夏から始まる。配備撤廃の理由は、推進装置(ブースター)の改修に巨額の費用がかかることが挙げられているが、中谷元・元防衛相は「背景には北朝鮮のミサイル技術の飛躍的向上や米国の有償軍事援助(FMS)による装備の購入が急増し、依存が深まる一方で、防衛産業の弱体化が進んでいる問題がある」と語る。新たなミサイル防衛はどうするのか。米中「新冷戦」や宇宙、サイバーにも領域が広がる安全保障の課題を聞いた。(ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)
北朝鮮のミサイル技術格段に進歩
守り切れないのはわかっていた
――唐突な形でのイージス・アショアの配備撤廃をどう受け止めましたか。
 河野(防衛相)さんはよく決断したと思う。
 直接の理由は、迎撃ミサイルを打ち上げた際に切り離すブースターを陸上自衛隊の演習場(山口県)内に落下させると、地元に説明していたのがそれが難しくなったということだった。
 大規模な改修でやり直すことになれば、約2000億円、12年の年月がかかると説明したが、ほかにも理由があり、私も計画はいったん立ち止まって検討し直すべきだと思っていた。
 2017年の導入決定からだいぶ時間がたっているし、価格も当初は1基800億円とされていたのが、2基で2447億円になっていた。改修すればさらに増え、またレーダーの実験や性能の確認などで一体、どこまで費用が増えるのか見えない状況だ。30年間の維持経費も4459億円といわれているが、一方で、北朝鮮のミサイルの性能がどんどん上がっていてイージス・アショアだけでは対処できない状況になっている。
――導入を決める当時も、どの程度、対応できるのか、不安の声がありました。
 北朝鮮が16年、17年と、弾道ミサイルの発射実験を繰り返した。ミサイルが日本の上空を越えて太平洋に落下したこともあり、当時は国民の側も、早く対処できるようにすべきという雰囲気だった。
 海上自衛隊のイージス艦2隻が日本海に張り付いて24時間体制でレーダーで監視を続け、いざとなれば迎撃する体制をとってきたが、海上自衛隊にかなりの負担を強いることになっている。それに中国が海上基地を建設する南シナ海などの警備も必要だ。
 負担軽減のためにも、イージス・アショアを導入して、陸上からも迎撃体制を整備しようということになった。
 だがその後、北朝鮮がミサイル技術を飛躍的に向上させた。
 一度に数発以上を同時に発射したり、軌道を変えるジスカンデル型や極超音速滑空弾など、レーダーが捕捉できないような飛び方をしたりするものなど、北朝鮮は日本のミサイル防衛の穴を狙って開発している傾向がある。
 イージス・アショアを導入しても守り切れないということはみんなわかっていた。この際、しっかりとどうするかという議論をした方がいいと思う。
FMSでの調達を見直す時期
情報開示されず高価格
――河野防衛相はイージス・アショアだけでなく、無人偵察機グローバルホーク(GH)など、FMSによる装備品のコストが高過ぎる点も問題にしていたようですが。
 FMSによる装備導入では装備性能の認識に限界があり、イージス・アショアでも中枢部分はブラックボックスで日本側は知ることができない。
 地元への説明やブースターの問題でも技術やシステムの詳細がわかった人が日本側にいれば、地元の疑問点や不安な点にもある程度、答えられるが、米国側から情報が開示されていない。
 毎回毎回、米国に問い合わせて、結局、半年ぐらいたっても回答できないということになったりする。それで時間がかかることになった。
 FMSで日本が導入する装備の中には、費用対効果にしても、かなり旧型で、米国の使い古しのようなものがある。
 陸上上陸舟艇などは米国で製造をやめたようなものを日本は大量導入する。それで米国はというと、次の世代の上陸舟艇を研究している。
 戦車などのキャタピラー技術が高いのに、どうして日本は自分で製造しないのか、疑問だ。
 今後、F2後継機の開発を進めないといけないが、150機も導入を決めたF-35戦闘機にしても、機体整備や部品調達、改良での日本側の意向が通らないものであり、予算的にもそんなに買う必要があるとは思わない。
 もともと装備品は、日本の防衛にはこういう装備が必要だとか、使い勝手がいいということで、現場の部隊運用のニーズから上がってきたものを陸海空の幕で侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をし、そこに内局(計画課)や技術部門が加わって長期計画を作り、調達してきた。
 ところが最近は、米国から性能や運用については情報開示されることはなく、まとめ買いで無理やり買わされている。これで決定しましたと、一方的に伝えられる政治決定が多くなって、下からの積み上げのプロセスがなくなっている。
 これでは防衛省内でも説明や議論もできない状況だ。
 イージス・アショアの配備撤廃は、FMSへの疑問や不信がたまっていることも一因だ。
不透明な政治決定で急増
防衛産業の弱体化進む
――FMSは安倍政権になって急増しました。トランプ政権の圧力に抗し切れないのですか。
 米国の要求は露骨だった。貿易問題を話し合う日米首脳会談の場でも、トランプ大統領は 自動車などへの制裁関税をちらつかせ、日本側が抵抗すると、その身代わりに防衛装備品を買えと迫った。
 だがFMSは非常に高額で、防衛費の中で占める割合が高まっている。訓練費や後方支援の備品や燃料、食糧費などを圧迫しているし、宿舎や処遇改善が進まない。
 しわ寄せが随所に出てきて、FMSのために他の経費を削らないといけないことになっている。これでいざというときに自衛隊が動けるのかということだ。
 日本の防衛産業も弱体化するばかりだ。日本企業はかなりのものを造れる力がある。FMSでもせめて米国の研究開発に日本企業を一緒に参加させることを考えるべきだ。
 インターネットでもGPSでももともと軍事分野で研究していたものが民生転用された。米中やロシア、仏などは防衛部門に先行投資をして他国に負けない技術と装備を開発して、それを売却したり、民生転用したりして元をとっている。
 長年、日本は海外への武器供与も制約されてきた。企業にしてみれば、ユーザーが少ないので少量生産でコストのかかる製造ラインしかなくて、輸出をしても価格で太刀打ちできない。そのうえ装備品を全部、米国から買うのでは防衛関連企業は生きる道が閉ざれる。
 防衛装備の米国依存が強まれば、米国の方針が修正されたりすると日本の装備体系が大きな影響を受けることにもなる。日米同盟は大事だが、日本は独自の技術開発や装備調達をできるようにしておく必要がある。
 決定の仕方に不透明な部分があることも含めて、見直す時期だ。
ミサイル防衛は次の段階
IAMDを早期に実現
――イージス・アショアの配備撤回でミサイル防衛への影響は出ませんか。
 もともと計画通りに配備されても4~5年先だったので、海上自衛隊のイージス艦の負担が続くことにはなるにしても、ミサイル防衛に穴があくということにはならない。
 それにミサイル防衛は、イージス艦やイージス・アショアを固定配備して敵の弾道ミサイルを迎撃する時代から、巡航ミサイルやドローンなどの無人攻撃などにも対応できるように、陸海空や宇宙軍をネットワークで統合して臨機応変に動く「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」という考え方に移ってきている。
 レーダーや衛星、早期警戒機(E2D)などからの情報をもとに、敵がミサイルなどを発射する前後に遠隔操作の無人機や戦闘機からの攻撃や妨害電波などで無力化したり破壊したりするやり方だ。
 ミサイル防衛は米国を中心にIAMDになっていく。日本も陸海空が協力してIAMDを早期に実現する必要がある。
中国の軍拡などに対応
日米とインド、豪で連携
――政府は新たな国家安全保障戦略の議論を夏から始めて年内にまとめる予定です。議論すべき課題をどう考えますか。
 安全保障は最悪の事態を考えながら、国を守る体制を整備しないといけないが、今確実に言えるのは、中国が軍拡を続け覇権を追求する方向性は変わらないことだ。
 あってはならないことだが、中国が第一列島線を突破して攻撃をしかける事態にも備える必要がある。
 朝鮮半島も北朝鮮が「先軍政治」で強硬姿勢を続けるので南北の緊張が続くし、ロシアもプーチン大統領が今回の憲法改正によってさらに長期政権を維持する可能性があり、北東アジアでもしたたかに自国利益を追求するだろう。
 台湾の独立や香港の民主主義が脅かされ、武力衝突の状況も想定され、日本にとっては同時多発の事態を想定する必要がある。
 だが、まずは第一列島線の防衛をしっかりすることだ。この10年で最も変わったのは尖閣列島周辺だ。中国が領海侵犯を繰り返すことが常態化している。
 そのためにも日米の同盟関係をより強化することだ。米国は対中強硬戦略に変わっており、オーストラリア、インドと連携したインド洋と太平洋の防衛構想を打ち出している。日本もその一環でこの4カ国での連携体制を念頭に防衛戦略を描かないといけない。
敵基地攻撃能力は必要
抑止力としてやり返す「矛」を持つ
――「敵基地攻撃能力」の保有の是非が改めて焦点になっています。
 イージス・アショア導入と同時に、日本が敵基地攻撃能力を持つべきと提言してきた。攻撃しようとする相手に打撃を与える能力を持つことが、相手に攻撃をさせないことになる。
 ミサイルの飛び方なども変わってきているなかで、敵がミサイルを発射しようとしたら、日本も敵の基地や施設を攻撃できる能力を持つことによって抑止力を働かせることを検討すべきだ。
――専守防衛や海外での武力行使はしないという日本の防衛政策の根幹が揺らぐことになりませんか。
 鳩山一郎内閣以来、座して死を待つというのは憲法の趣旨とは考えず、他に手段がない場合に限り、敵基地攻撃能力の保有は法理的には自衛の範囲ということで、整理はされている。
 保有する防衛力も必要最小限ということで、攻撃型空母とかICBM(大陸間弾道弾)、爆撃機は持たないという国会答弁もあるが、ミサイルを撃たせない「バランスのとれた反撃力」を持つことも、憲法でいう自国防衛の範囲だ。
 武力攻撃を受けたときに初めて軍事力を行使するが、それも自衛のための必要最小限にとどめるという専守防衛の基本は変わらない。あくまで敵に日本を攻撃させないようにする抑止力としての位置付けだが、技術進歩などもあって防衛の概念や抑止の仕方は変わってきている。
――日米同盟での米国との役割分担も変わるのでしょうか。
 軍拡を続けている中国の防衛費は日本の4~5倍で装備も年々、近代化している。こういう状況を考えれば、日本は限られた予算を有効に使う必要があるのだが、一方で日本の制約をカバーしてきたのが日米同盟だ。
 いわゆる「矛」と「盾」の役割分担、つまり攻撃力、抑止力は米国で、直接の防衛は自衛隊ということでやってきたが、この比率を変えるということだ。抑止力や反撃力を発揮するときも、いざというときに米国が動いてくれるか、そこは信頼関係だが、少なくとも自衛隊が動かないと米軍は動かない。日本は日本でできることは自らでやるしかない。
 トランプ大統領自身もこのことはたびたび言及している。最近も中東での日本船舶の安全航行確保で自衛艦を出したが、ミサイル防衛でも日本でできることは日本がやることを米国も期待しているのではないか。
 とりわけトランプ政権では自国中心的に考える。日本は本当に自分でできることはやれるようにしておかないと、国を守り切れなくなる。
 敵の「矛」が強くなったら「盾」も強くならないといけない。敵基地攻撃能力というのは、突き刺してきたらやり返すぞということで、「盾」を持ちながらやられたらやり返す「矛」を持つということだ。
辺野古も時間がたち過ぎた
「軍民共用」で計画を見直し
――イージス・アショアの撤廃決定後、米軍普天間飛行場の辺野古移設計画でも見直しの「私案」を出しましたが。
 最初の計画案が固まった当時の防衛庁長官だった。それから約20年がたったが、埋め立て工事が緒についた段階で、今年5月には、軟弱地盤の問題で計画変更を余儀なくされた。
 再試算で12年、約9300億円という長い年月と巨額の予算がかかることがわかった。国と沖縄県が対立したまま、これから10年、15年かかって、仮に完成しても米軍の飛行場しかできなかったということで終っていいのかだ。
 15年たったら、南西海域の安全保障情勢も大きく変化している。尖閣列島への中国の圧力も相当、大きくなっている。それで考えられることが、辺野古を米軍と自衛隊が共用し、同時に地元が使える民間飛行場を併設する「軍民共用」にすることだ。
「V字型」の2本の滑走路を軟弱地盤の大浦湾ではなく根元の辺野古側に延ばしたり、角度を変えたりして中型のジェット機が離着陸できる可能性はある。
 軍民共用は当初も北部振興の起爆剤にということで地元から要望が出ていた。どうせ金をかけて作るなら地元が喜ぶようなものにすることが重要だ。
――工事の即時中止を求める玉城デニー知事らの姿勢は変わりそうにありません。沖縄への基地集中を是正することがまずは重要ではないですか。
 我々だけでなく民主党政権のときも、県外、国外と探したが結局、辺野古しかなかった。私も当事者として動いた一人だが、こればかりは他に選択肢がない。
 一方で中国の膨張で南西海域の防衛は第一列島線でしっかりと守る必要がある。沖縄への自衛隊の配備はこれまでは少なかったが、この際、自衛隊が米軍基地を管理して、米軍と共同使用するような日米の役割の見直しを含めて、計画を作り直すのがいいと思う。まずは地元の了解が得られるよう努力したい。