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本来の姿現す中国「共産党はひとつの王朝」岡本隆司・京都府立大教授

産経新聞社 【ニュースを疑え】本来の姿現す中国「共産党はひとつの王朝」岡本隆司・京都府立大教授
 香港国家安全維持法の導入、国際機関の裁定を無視した南シナ海の領有権主張など中国の強引な手法が激しさを増している。何か質的な変化が起きているだろうか。岡本隆司・京都府立大教授は歴史家の立場から、目前の中国を見てこう言う。「西側に合わせていた中国がいま、本来の姿を現しつつあるのです」


 (聞き手 坂本英彰)
 --香港国家安全維持法の導入は国際社会に衝撃を与えました。そこまでするか、と
 「中国は政治や人権など、国家全体のいろんな位相でわれわれの常識や前提と異なっている。情勢に応じてやむを得ず逸脱した、約束を破らねばならなかった、ということなら、われわれにも理解できるが、どうも根底から違う。香港の事態をめぐってはっきりと、それが突きつけられた感があります」
 「歴史家の立場でみれば、中国はもともとあのようだった、ということです。むしろ、政治でも経済でも、西側的なシステム・価値観に合わせてきた今までのほうが、無理をしていたのではないかと思います」
 --1971年に中華人民共和国が国連で代表権を得て以来、世界貿易機関(WTO)への加入をはじめ、中国は多くの点で国際社会に歩調を合わせてきました。つまり協調姿勢を示した中国は、偽りの姿だったということですか
 「世を忍ぶ仮の姿とでもいいましょうか。米国の歴代政権は、西側に合わせてきた中国に、トランプ流にいえば、すり寄る形で甘やかせてきた。日本などもそういう部分がある。西側の国々は国際社会に合わせてきた中国をみて、本物の姿だと見誤ってきたといえます」
 「改革開放路線をすすめた●(=登におおざと)小平が用いた韜光養晦(とうこうようかい)という言葉があります。思い通りのことができる力をつけるまで雌伏、我慢するという考えです。経済力をつけ軍事力をつけた中国は、習近平国家主席という指導者を頂き、韜光養晦を解きはじめたといえる」


終わらない独裁政治
 --習近平氏は特異な指導者なのでしょうか
 「強硬派、タカ派とみられていますね。ただ歴史を通観していますと、彼はとても中国らしい正統派のリーダーです。習氏に皇帝の衣装を着せた風刺画が欧米の雑誌にありましたが、よく似合っています。私たちは民主主義に甘やかされているため皇帝や独裁政治は過去のもの、あってはならないものと考えがちですが、中国では実質的にずっと続いてきた。清朝最後の皇帝の退位から約100年しかたっていませんし、その間も蒋介石や毛沢東や●(=登におおざと)小平といった皇帝もどきが次々と出てきた。共産党にしてもシステムとしては中央が全体を統率する形です。中国では独裁政治が終わらないまま、習近平氏に引き継がれた」
 --中国は民主主義社会の経験がないのですね
 「清朝が倒れたあと、やろうとしたがうまくいかなかった。民主主義を肌でわかったという経験はなく、ないゆえに良さ悪さもわからない。独裁制や皇帝制の範囲で、考えるほかない。われわれが現代の政治で正当として考える政体は、そもそも中国に存在したことはない。彼らに対する理解は、そこからはじめないといけないのではないでしょうか」
 --香港は英国から中国に返還された1997年から50年間、つまり2047年までは高度な自治を認めるという約束だった。中国が「一国二制度」をほごにするほどの強権をいま使う必要があったのでしょうか
 「情勢の影響もある。香港市民の反中活動を抑制する必要や、新型コロナウイルス感染拡大の防止で各国が手を取られている状況、またトランプ米政権との対立激化など、さまざまな要因が考えられる。中国に限らず為政者たちはいつの時代も恐らく、噴出する目前の諸問題に対処するだけで手いっぱい。グローバル化でスピードの倍加した現代はなおさらで、だからこそ、反射的に表れる行動には、無意識に染み付いている思考や行動の様式、どうしても譲れないもの、そういったことが如実に出てくる」


民衆を信じない為政者
 「新型コロナウイルスへの対処でも、中国は高圧的なトップダウン方式で、武漢のような大都市を隔離してしまった。各国の状況や国民の反応を見ながら、右顧左眄(うこさべん)を繰り返した日本政府との違いは顕著でした。中国の為政者は民衆を全く信じていない。ほったらかしにしていたら、ウイルスをまき散らすに違いないと思っているわけです」
 --民衆に対する不信も歴史的なことなのですか
 「中国は大陸国家。いろんな言語や宗教、生活習慣をもった人たちが入れ代わり立ち代わり入りこんでは勢力を築き、王朝・政権をつくってきた。民衆からすればたまったものではない。中国では政府は天から降ってくる、天命を受け天子が、天下を支配するという観念です。君主をとりまくエリートと地域社会の庶民、すなわち『士』と『庶』の隔絶は巨大で、島国である日本の武士と農民の比ではないのです」
 「為政者が民衆を信じていない以上に、民衆も政府を信じない。政府のいうことをきいていたら生きていけないので、勝手にする。そのかわり利益になることなら、政府でもマフィアでも、何でも利用する。それが中国人の基本的な考えなのです」
 --共産党も天から降ってきた支配者なのですか
 「中国共産党はひとつの王朝みたいなものといえるでしょう。中国に限らず共産党が支配した地域をみると、もともと独裁的な体制支配が続くなど共産主義的な独裁に親和的な土壌がある。ロシアも共産党政権が倒れたが、プーチン大統領が強権支配を敷き、いわば本家返りしています。世界全体をみわたすと、民主主義が成功しているところの方が少ない。西欧や米国、日本などで、そういうところには歴史的にも、政府と民衆が一体になれる条件があったのです」
 --中国が反体制派などを取り締まる際、法の運用や適用が恣意(しい)的と映るのは、民衆を信じていないことと関係あるのですか
 「中国における法とは、上から下まで全員を縛るものという、民主主義国家の感覚はありません。国ぐるみの法共同体や司法の観念が存在しない。法は行政なんです。法から超然としている支配者が法を使って統治する。それが中国人の歴史的な法観念でしょうか」
民衆が勝手に動いてきた
 --外国の批判を受けたとき、常に内政不干渉の原則をもちだすのも関係あるのでしょうか
 「中国は国民国家の体裁をとっていますが、完成形にはほど遠い存在です。外から容喙(ようかい)干渉されると、それに同調する勢力が出現し、いよいよ国家としてのまとまりや、政権の存立基盤を失いかねない、という恐怖心が中央の為政者にある。実際、チャンスがあれば国外に逃亡したり、外国勢力と結託したりしようという人々はいくらでもいる。大陸の政府にとっては、台湾の存在そのものがそうでしょう。アメリカと結託して中央政府の言うことをきかない存在だと。香港やチベット、新疆ウイグルと、離脱や独立のタネはいくらもある」
 --中国は共産主義といいながら、市場経済を取り入れて成功した。その基盤も歴史にあったのですか
 「中国の経済はもともと、政府権力と関わりなく民衆が勝手に動いて成り立ってきたものです。権力が強いて干渉を加えたり統制したりすると、おおむね失敗する。これは、歴史が証明している。明王朝は上から統制主義、農業中心主義で強要したため、社会の反発を招きました。これは国家指導の大躍進政策で大失敗した毛沢東のようです。明のあとの清王朝は徹底的に放任主義でした。満洲人の政府には漢人を統制する力も意思もない。すると経済がどんどん発展した。放任しすぎたため、民衆と外国勢力が結託して付け入るすきを与え、アヘン戦争につながりもしました。その意味で、清朝のやり方は●(=登におおざと)小平の改革開放をほうふつさせます。ここは緩んだタガを締める必要があるということで、習近平政権が強権的に介入をはじめている、というのが今の状況ではないでしょうか」
 【プロフィル】
 おかもと・たかし 昭和40年12月、京都市生まれ。京都府立大文学部歴史学科教授。専攻は東洋史・近代アジア史。京都大大学院文学研究科博士後期課程満期退学。博士(文学)。著書に「属国と自主のあいだ」(サントリー学芸賞)「中国の論理」「『中国』の形成」「教養としての『中国史』の読み方」など。