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鉄道の民営化は失敗だった…イギリス下院議員が語った「日本人は知らない真実」

3月16日のJRダイヤ改正で北陸新幹線は敦賀に達したが、その陰で関西方面から福井、金沢への直通特急は廃止され、新幹線延伸部分の北陸本線はいつものように第三セクター化された。郵政事業のような明白な失敗例もあり、鉄道などの公的事業の民営化ははたして国民の利益に本当につながっているのか、懐疑的な見方もある。民営化事業から公営化への「逆戻り」の流れが出てきた欧州の賢人、ジョン・マクドネル氏に聞いた。


(『世界の賢人と語る「資本主義の先」』(講談社+α新書)より一部抜粋)


ジョン・マクドネル


英下院議員(労働党)。一九五一年リバプール生まれ。一九九七年以来、当選七回。二〇一五~二〇年まで「影の財務相」を務めた。


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鉄道の民営化は失敗だった…イギリス下院議員が語った「日本人は知らない真実」
鉄道の民営化は失敗だった…イギリス下院議員が語った「日本人は知らない真実」
© 現代ビジネス
事故、遅れが日常茶飯事に
――二〇一七、二〇一九年の英総選挙で、重要な公益事業の再公営化を掲げた。
「残念ながら資本主義システムでは、短期的な利益追求は常に需要を満たすことよりも優先する。短期の利益を追求せず、長期的な視野を持とうとする企業があっても、競合他社が安売りを仕掛けてきたら、競争から身を守ることはできなくなる。他社に買収されてしまうだろう。長期的な計画に立った経営はほぼ不可能だ。民営化に際して政府は、規制をしっかりすれば問題は起きないと主張したが、鉄道の料金高騰や遅れの多発、あるいは水道の水質悪化などから規制の失敗は明らかだ」


――特に鉄道の再国有化を強く求めている。


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「保守党は鉄道を民営化して、さまざまな企業が電車を運行し、さらに下請けに出すことを可能にした。何の統合もないまま、国中を何百という会社が電車を動かすことになり、結果として列車衝突という大惨事が起き、私の選挙区の運転士が死亡した。ヨーロッパで最も高い水準まで運賃が値上がりしているのに、安全への投資はないがしろにされてきた。


今やわれわれの鉄道システムのほとんどはフランスやオランダなど、欧州の国営企業によって運営されるようになってしまった。これらの企業が英国で利益を上げ、自国の鉄道料金を安く抑えるために利益を本国に還元しているという皮肉な事態が実際に起きてしまった。


政府もようやく公共交通機関への投資の必要性を認識し始めたが、それは(与党保守党の地盤である)イングランド南部とロンドンに偏っており、北部とは三~四倍もの開きがある。今や北部では列車の遅れや運休は日常茶飯事になってしまった。鉄道の再国営化には、保守党支持層も含め国民の約七割が賛成している」


インターネットも公営化でいいのでは?
――公的管理に適した分野と、企業に任せる分野はどう決めるのか。


「水のように、本来誰の手にも所有されるべきではない自然資源は公的に所有、管理されるべきだろう。もう一つは、生活に欠かすことができない医療や教育といったサービスは公的な主体によって提供されるべきだという考え方もある。


二〇一九年総選挙での労働党マニフェストでは、インターネットの公営化も提起した。インターネットへの高速接続は現代の日常生活にとってあまりに必要不可欠なものになったので、民営には適さなくなったのではないかという議論を始めた。その必要性を逆手にとって、民間企業が利益追求に走るのではないかという懸念もあったし、公営にすることによって、全員に安価で安定した高速通信が提供されたほうがいいのではないかという考え方が出てきた。


議論の出発点には、民間企業によって提供されているネット接続があまりに質が低く、不安定だったこともある。新型コロナのロックダウン中、学校が休校になり子どもたちは家から授業を受けなければならなかったが、労働者階級の子どもたちの多くには必要な通信環境が整っていなかった。


そうしたことから、ネットは一定の生活の質を保つために必要不可欠な公共サービスであり、利益追求を主たる目的とする人々の手に任せておくべきではないという議論がなされるようになった。大都市圏以外では、ネットと鉄道という二つの『接続』があまりに不安定なため、小さな町をあきらめて都市部に移転する企業すら現れ始めている」


鉄道会社は乗客の代表を取締役に
「国家がどこまで何を提供すべきかの境界線は常に議論されるべきだが、第二次世界大戦後の福祉国家と同じように、人々が何を必要とするかによって進化するべきだ。どういった条件を満たせば公営化すべきかという一律の基準は存在しない。公に開かれた議論で決める必要がある」


――公営化により、いわゆる「お役所仕事」に陥る懸念はないのか。


「われわれは昔のような中央集権的な管理に戻ることを提唱しているわけではない。大事なのは説明責任をきちんと果たさせ、地域の実情に合った経営をし、人々が自分たちでそれを所有し、運営しているという実感を持てることだ。自治体ではなく、協同組合が経営する方式でもいい。また、われわれはこれらの企業に長期的な計画性と安定をもたらす一つの方法として、取締役会に労働者側の代表、そして消費者側の代表を入れることを提案している。たとえば鉄道会社なら、乗客の代表を取締役会に入れるべきだ。


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Photo by gettyimages
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いうまでもなく、再公営化の第一の目的は人々の生活の質を向上させることだ。それに加えて、人類が直面する気候危機に対して、すべてのセクターで役割を果たすことも必要だとわれわれは訴えている」


サッチャー、レーガンの失政を直視せよ
――再公営化に対して批判的なメディアも多かった。


「そうした政策に反対していたメディアは、経営者自身が民営鉄道会社の株主に名を連ねるなどして既得権益の中にいることを考慮するべきだ。反対の理由の一つは経営者自身の利益のためだ。いくつかのメディアは、公共サービスの維持に必要な納税の義務すら果たさず逃げたがるようなオリガルヒ(旧ソ連諸国出身の新興財閥経営者ら)に事実上所有されている場合もある。


もう一つは、過去四〇年間、世界の政治・経済の思考を支配した新自由主義の影響力が挙げられる。それは英国において特に強い。新自由主義の考えは単純で、市場こそが経済的な問題に常に最適な解決を導くもので、公共部門は非効率的であり、民間の手に渡ればより効率的、効果的に管理できるというものだった。それは『小さな政府』という理念とも結び付いた。当時は新自由主義というよりマネタリズム(註・経済を安定させるのに必要なのは貨幣流通量のコントロールだとして、財政出動の有効性を否定する学説。ミルトン・フリードマンらが提唱した)と呼ばれていたが、これがサッチャー、レーガンの下で、政治・経済の思想で支配的となり、労働党の一部にすら浸透していた。


われわれが相手にしているのは、そうした支配的な思想だ。われわれとしては、これまで民営化が大きく失敗してきたことをなるべく多くの実例とともに示すようにしている」


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