Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

若者に蔓延する「社会主義への憧れ」が危険な訳 「隷従への道」「アイデアのつくり方」を読み解く

安田 洋祐


2020/08/03 07:25



 大きくは社会の仕組み、身近なところでは働き方や地域経済との関わり、そのよい面と悪い面が、コロナ禍の中で浮き彫りになった。僕たちは、今までとは明らかに異なる経験や頭の使い方をした。リモートワークも住まいとその近辺のみで過ごすステイホームも、平時にはありえなかったはずだ。
 しかし、この特異な経験を次にどうつなげていくか。具体的な行動や判断は非常に難しく、安易な決定が危険であることはコロナ以前も以後も変わらない。
 僕は『週刊東洋経済』8月3日発売号の特集「コロナ時代の新教養」において、非常事態の渦中で今はまだモヤッとしている思考に確かな軸を、そして新しい視点を与えてくれる本を5冊挙げた。このうち本記事で2冊を紹介したい。
アイデアは既知のもの同士の組み合わせ
 まずは、『アイデアのつくり方』だ。1940年初版の本だが、ロングセラーとして読まれ続け、1988年の日本初版からも、30年以上経つ。アメリカの広告業界で成功を収めた著者ジェームス・W・ヤングの主張には今も古びたところがない。アイデアに関する本は多く出版されているが、1冊選んで読むなら、僕はこの本を薦めたい。
 まず、「アイデアは既知のもの同士を組み合わせることで生まれる」と著者のヤングは明快に説明する。これは、経済学ではよく知られたシュンペーターの「新結合」、今でいうイノベーションの定義と似ている。そして、既知のもの同士をうまく繋げてアイデアにするには、事物の関連性を見つける力、つまり一見するとバラバラな言葉や事柄を結びつける能力が重要だという。
 これを身につけるために、ヤングが自身と同じ広告業界の人々に勧めたのが、社会科学の勉強だった。
 ある分野を体系的に学ぶことで、ビジネスや日常生活の中にも新しいアイデアが生まれる。これには僕も同感だ。社会科学を学ぶことは、「単なる勉強」を超え、新しいアイデアの素地になるのではないかと思う。そして、専門性を身につけることで物事のつながりを意識しやすくなる面は確かにあるとも感じている。
 テレビ番組でコメンテーターとして発言する際にも、僕の場合は経済学の知見やこれまでの研究の積み重ねが土台になる。例えばニュース番組で時事問題を扱うとき、ある問題とゲーム理論分野でいう「囚人のジレンマ」の構造が似ているな、と経済学に結びついた気づきを得たり、応用的な思考をしたりという具合だ。
 専門分野外のことについて語るときも、専門分野がつねに根底にある。そして、そのように生まれた考え方やものの見方を、新しい組み合わせ、新鮮なアイデアとして受け止めてくれる人は、想像より多くいるかもしれない。
 この点を踏まえておくと、古典や教科書をひもとく際にも、読書や学びを、ビジネスや日常に生かす道が浮かんでこないだろうか。本書からは、アイデアを生み出す方法に加え、こうした学びのモチベーションをも得られる。ヤングは、アイデアを生み出す力は、後天的に育むことのできる能力であるとも言っている。
 次に取り上げたいのは、経済学者フリードリヒ・ハイエクの著書、『隷従への道』だ。第2次世界大戦終結前の1944年に書かれた本書では、西欧諸国の人々が社会主義に傾倒していくことへの憂い、そしてその危うさが訴えられている。
 2020年の今、世界は変化の方向性を模索している。世界の抱える課題は多岐にわたり、行き過ぎた金融資本主義による格差や、環境破壊、さらに今回のコロナ禍で世界的に広がる感染症の脅威が加わった。
 資本主義への信頼が揺らいでいるのは確かだ。だが僕は、若い世代を中心に、安易に社会主義に飛びつく人が増えてきているのを危険なことだと考えている。従来の資本主義に問題があるからといって、「では、社会主義だ!」という発想になるのは、さらに問題だ。
社会主義を目指した先に待つのは全体主義
 ハイエクが『隷従への道』を書いた当時、全体主義ファシズムに対する警戒は広がっていたものの、社会主義に対しては、「全体主義とは似て非なるもので、ある意味で最先端」というイメージが知識人にすらあったという。
 しかし彼は、社会主義への道というのはまさに「隷従への道」であり、社会主義化を目指した先に待つのは全体主義でしかないと喝破した。個人の自由、政治的な自由が失われることに無自覚のまま、社会主義の美辞麗句に踊らされたとき、どんな悲劇が待っているか。本書は一般向けに極めてわかりやすく書かれている。
 今、社会主義にひかれているのは、世界のあり方に対して問題意識を持つ人たちだろう。そんな人たちにこそ、まずは本書を読んで、その理想と現実のギャップを知ってもらいたい。
「最悪の指導者」が生まれる理由
 本書は示唆に富んでいる。例えば「最悪の人間が指導者になるのはなぜか」という章で、ハイエクはその理由を3つ挙げた。ここで語られる内容は現在にも通じる部分があるので、簡単に紹介しておこう。3つの理由とは、次のとおりだ。
 (1)知的になるほど人の好みは多様化するので、単一の価値観を共有する可能性は低くなる。
(2)何度も繰り返し同じ主張を耳元でがなり立てるようなやり方によって、従順で自分の考えを持たない人を根こそぎ支持者にすることができる。
(3)敵への憎悪や地位の高い人への羨望のような非生産的なことで一致団結しやすい人間の性質を、熟練した扇動者は利用する。
 これを踏まえて今の世界を見渡してみると、多くの気づきを得られるのではないだろうか。
 もちろん、社会主義の理念自体を完全に否定するわけではないし、共感を抱く人の気持ちも理解できる。格差拡大による搾取や貧困の問題が、解決しなければならない大きな課題であるのは間違いない。ただ、価値観が変容し、金銭一辺倒の時代ではなくなった今だからこそ、格差の問題を克服しながらも、資本主義的な自由競争の生む“社会や経済のダイナミズム”を生かす方法を考えたい。
 資本主義から一気に社会主義へ、という発想ではなく、資本主義を進化させ、いいとこ取りでよりよい社会を作っていくことを考えるべきだと僕は思う。
 今後、コロナ後の世界でとくに重要なのは、人々のやりがいと安心感の両立だ。資本主義の自由なダイナミズムを生かし、進化させていくことで、僕たちはその実現に近づくことができるのではないか。資本主義への信頼が揺らぐ時代だからこそ、古典から最新理論まで幅広く学び、未来を構想する力を養ってほしい。
『週刊東洋経済』8月8日・15日合併号(8月3日発売)の特集は「コロナ時代の新教養」です。
(構成:山本舞衣/週刊東洋経済編集部)