Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

抗戦!香港メディアが配信した創業者連行の緊迫現場

「香港は中国の香港だ! 香港の事務は中国の内政であり、いかなる外部勢力も干渉する権利がない。中国はアメリカが情勢をしっかり見極め、誤りを糾し、直ちに香港の事務に手を突っ込むことや中国の内政に干渉することを停止するよう促す」
 8月10日、中国外交部の定例会見で、「戦狼外交官」の異名を取る趙立堅報道官が、またもやアメリカ批判を炸裂させた。さらに、テッド・クルーズ、マルコ・ルビオ、トム・コットン、ジョシュ・ハウリー、パット・トゥーミー、クリス・スミス・・・と、対中強硬派のアメリカ連邦議員ら11人に対して、制裁をかけたと発表した。これは、8月7日にアメリカ財務省が、林鄭月娥(キャリー・ラム)香港行政長官を始め、香港当局側の11人の幹部に制裁をかけたことへの報復措置と言えた。
中国に批判的な香港メディアの大物を逮捕
 香港では10日、さらなる一大事が起こった。香港警察が、これまで民主派の牙城となってきた『蘋果日報』(リンゴ日報)を発行する「壱伝媒」(ネクスト・デジタル)の本社に、200人もの警官隊を送り込んだのである。創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏はオフィスにいなかったが、他所で捕まえた後、見せしめのためオフィスに連れ戻された。この日は、民主派グループの10人が逮捕され、逮捕者の中には、日本で有名な周庭(アグネス・チョウ)氏も含まれていた。
『蘋果日報』について、私には苦い思い出がある。
 昨年末、香港を訪問し、そこから高速鉄道(中国版新幹線)に乗って北京まで行こうとした。早朝だったせいで、始発駅の香港九龍西駅近くで朝食を取った。その時、客の一人が『蘋果日報』の朝刊をテーブルに置き捨てて出て行った。そこで私は、長い車中で読もうと思って、何気なくカバンに入れた。
 そうしたら、九龍西駅の中に設置された税関(香港の税関を越えた中国側の税関)で、「このカバンを開けて中身を全部出せ!」とやられた。私は何も違法なものは所持していないので、不思議に思ったが、指示に従った。すると中国税関の職員は、「これは何だ!?」と、勝ち誇ったように叫んだ。その手の先にあったのは、『蘋果日報』である。
「見ての通り、香港の新聞ですよ」
「こんな悪徳新聞を中国大陸に持ち込んで、何か政治的意図があるのか?」
「いや、たまたま先ほど、駅近くの食堂で拾っただけですけど・・・」
 こんなやり取りをした後、私は別室に連行された。そして、一時間も立たされたまま説教を受けたあげく、新聞を放棄するとサインして、ようやく開放されたのだった。
友好新聞と非友好新聞
 その時、分かったことが二つあった。第一に、中国当局は「香港6大紙」を、「友好新聞」と「非友好新聞」とに二分していることだ。前者は、『文滙報』『大公報』。後者は、『蘋果日報』『東方日報』『明報』『星島日報』である。
 第二に、中国当局は「非友好新聞」の中でも、『蘋果日報』に対して、不倶戴天の敵のような恨みを抱いていることだ。その時、中国当局はこの新聞社を、何としてもお取り潰しにしたいのだと実感した。
 そして、私が説教を喰らってから半年余りを経て、ついに「中国の夢」を実現しようとしたのである。
創業者連行の様子を動画配信
 それでは『蘋果日報』は潰されてしまったのかと言えば、さすがに筋金入りの新聞だけあって、そんなことはなかった。逆にひるむことなく、警察が急襲してきた様子を、「職場を堅守し最後まで貫く」と題した3分31秒の動画にして公開したのである。
© JBpress 提供 当局に連行される「壱伝媒」創業者の黎智英氏(「蘋果日報」配信動画より)
(参考:蘋果日報)https://hk.appledaily.com/local/20200811/PKBEO4C6TCXINSF2JJEWTHHIKE/
 この動画は冒頭で、71歳になるマスク姿の黎智英氏が、警察に連行されていく姿を映し出す。そこに被せて、女声のナレーションが入る。
<昨日、創業者の黎智英や壱伝媒の幹部たちが、国家安全維持法やその他の法律違反を犯したとして、次々と連行された・・・>
 続いて、本社に警官隊がなだれ込む様子が映される。警官隊が内部の記者たちと押し合いへし合いし、大混乱になっている。
<数百人の警官隊が『蘋果日報』のビルを封鎖し、捜査に入った。威嚇手段によって報道の自由を侵害し、白色テロを作り出したのだ。『蘋果日報』は、極度の怒りを覚える。かつ最も強い譴責を与える。
 香港警察は、法に基づいて執行したと言う。その実、公然と法に違反し、職権を乱用しているのだ。法廷の捜査令状の制限を無視し、ニュースの取材データを遠慮なく検閲し、記者や編集者の活動や取材業務の履行を制限したのだ>
 互いに怒鳴り合う警官と記者たち。新聞社のフロアは、次第に修羅場と化していった。
<新聞機構の正常な運行を阻害されても、『蘋果日報』の人々は恐れる態度を見せることなく、この非合法で不合理な蛮行に立ち向かった。プレッシャーが続く中で、真相を明らかにしようとしたのだ・・・>
 さらに動画では、報道の自由について強調する。
<香港国家安全維持法では、香港住民の言論・新聞・出版の自由を謳っている。しかし警察隊の各種の行為は、すでに香港及び国際社会に向かって反面教師ぶりを示している。新聞社を捜査することは、報道の自由に大きな衝撃を与えるものであり、文明社会にとって容認できないものだ。
 香港当局は擾乱と威嚇によって、われわれの口を塞ぐことができると考えている。そうして国際文化都市の社会レベルを、発展途上国の町に貶めようとしているのだ。
 香港の報道の自由は、いまや大変な危機に陥っている。断崖絶壁に追い詰められた危急の時だ。『蘋果日報』は必ずや職場を守り、報道の自由を死守していく。まさに『蘋果日報』の張剣虹社長が述べているように、「蘋果は必ず耐えてみせる」>
 動画では、ガランとして、ひと気がなくなったオフィスを、象徴的に俯瞰して終わっている。そしておまけに、次のような風刺アニメを載せている。
© JBpress 提供 『ファーウェイと米中5G戦争』(近藤大介著、講談社+α新書)
「自」と「由」と書かれた二本の芽が、地面から出てくる。それが突然、マサカリによって切り取られてしまう。地面に切り落とされた「自」と「由」は、大きな足にグチャッと踏みつけられる。それによって「自」と「由」は、(中国共産党の党色である)真っ赤に折れ曲がった「檻」に変わってしまう。最後に標語が現れる。「自由は罪に変わってしまった。われわれはもう退かざるを得なくなった」
『蘋果日報』は、翌11日付の朝刊を、部数を減らすどころか、通常の35万部から55万部に増刷した。その一面トップの見出しには、「蘋果は必ず耐えてみせる」という張社長の言葉が躍っていた。
『蘋果日報』の元幹部は、私にこう言った。
「今後、どこまで耐えられるかは、ひとえに香港市民と国際社会の応援にかかっている。そして『蘋果』が倒れる時が、香港の報道の自由が完全に消滅する時だ。
(編集部註:8月11日夜に周庭氏が、12日午前0時過ぎには黎智英氏が、それぞれ保釈された)