Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

日韓歴史問題解決の切り札は在韓米軍撤退

JBpress 提供 日韓関係に対する米国のホンネを公言したリンド・ダートマス准教授


文大統領にとり最高裁判断は「盾と矛」
 菅義偉首相は9月29日、韓国の文在寅大統領と首相就任後初めて電話会談した。韓国側の申し入れで行われた。
 日韓の最大の懸案になっている元徴用工問題について首相が「このまま放置してはならない」と述べたのに対し、文大統領は従来通りの主張を繰り返した。
「両政府とすべての当事者が受け入れ可能で最適な解決策を共に模索することを望む」
 そんな解決策はない。
 しかもそうした解決策を自分から率先して模索するのではなく、誰か(つまり日本側が)が模索することを「望む」と、どこまでも第三者的スタンスに終始している。
 日韓関係がここまで冷え込んでしまった「元凶」は、2018年、韓国の最高裁が元徴用工訴訟で新日鉄住金(現日本製鉄)に賠償を命じたことにある。
 日本政府は、元徴用工問題は1965年の日韓請求権協定(これは国際法だ)で「完全かつ最終的に解決済み」と主張、一歩も引かない。
 文在寅大統領は、この最高裁の司法判断を金科玉条のように尊重する姿勢を崩そうとしていない。
 長年にわたり、日韓関係を定点観測してきた米シンクタンクの上級研究員N氏は、ずばり言い切っている。
「その背景には文在寅大統領を選び、支えてきた朝鮮民族第一主義(コリアン・ナショナリズム)があり、それに逆らえば政権が吹っ飛んでしまうからだろう」
「最高裁の判断は、韓国では国際法よりも重要であり、バイブルよりも権威ある存在になってしまっている」
「文大統領にとっては司法判断は自分を守ってくれる盾であり、矛になってしまった」
(韓国から見れば)強硬派の安倍晋三氏が首相の座を降り、「実用主義者」の菅首相が登場したことで「日本側の出方も変化しうる」(李元徳・国民大学教授)と楽観視する向きもあるようだ。
 しかし、冒頭の電話会談のやり取りをみる限り、こうした見方は的外れだった。菅政権でも膠着状態は続きそうだ。
 しかも日韓関係改善には唯一の「仲介役」になり得るドナルド・トランプ米大統領がついに新型コロナウイルスに感染し、米政治は暗転してしまった。
 1か月を切った大統領選がどうなるのか。誰も予測すらできなくなってきた。
 米国にとって日韓関係などはレーダーサイトから消えてしまいそうだ。
 そうした中、マイク・ポンペオ国務長官が10月4日から6日まで訪日する。対中包囲網構築に向けた日本、オーストラリア、インドとの4か国外相会合に出席するのが主目的だが、菅首相とも就任後初会談する。
 当初は韓国、モンゴルも歴訪する予定だったが、トランプ大統領の容体が予断を許さないためキャンセルされた。
 新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大してから、日本を訪問するのは初めて。
 実務外遊というよりも「国家の危機」に際しても、米国が太平洋地域の盟主であることを中ロに見せつけるシンボリックな歴訪と言えそうだ。
 むろん北朝鮮に睨みを利かせる狙いもある。
 菅首相との会談では、元徴用工問題がアジェンダとして取り上げられるのは必至だ。
 トランプ大統領夫妻の感染が公表されて以降、大統領に同行したり、濃厚接触していた側近や政治家が次々陽性反応を示している。
 最側近のポンペオ国務長官は一応陰性反応が出たようだが、まだ予断は許さない。
新進気鋭の女性国際政治学者の予見
 コロナウイルス感染が拡大する中で、日韓関係に関する注目すべきメモランダムが公になっている。
(https://www.nbr.org/publication/the-next-steps-for-u-s-rok-japan-trilateralism/)
 東アジア専門に調査研究する米有力研究機関、「ナショナル・ビュロー・オブ・アジアン・リサーチ」(NBR)が公表した安倍首相退陣後の日韓関係を予測したメモランダムだ。
 その予測とは一言で言うとこうだ。
「対韓強硬派の安倍首相が辞任しても日韓関係は好転はしない」
「米国の長期的な軍事コミットメントに対する日韓両国の疑念が強まらない限り、歴史認識をめぐる双方の溝を埋めることはできないだろう」
 このメモランダムは、東アジア問題研究で脚光を浴びているダートマス大学のジェニファー・リンド准教授とのインタビューを編集者がまとめたもの。
 同准教授は、カリフォルリア大学バークレー校、同サンディエゴ校を経て、MIT(マサチューセッツ工科大学)で博士号を取得。
 現在ハーバード大学ライシャワー日本研究所、英チャタムハウスにも特別研究員として籍を置く一方、米国防長官室、国防総省系シンクタンク「ランド研究所」のコンサルタントも兼務している。
 近年、早稲田大学やロンドン大学東洋アフリカ・スクール(SOAS)にも客員研究員として留学、東アジア情勢に関する最新情報を入手している。
 高度のアカデミック研究に現実外交の実態分析を加味した同准教授の論文は、外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」、「ナショナル・インタレスト」にしばしば掲載され、外交専門家、特に米政府の外交政策立案者の間では高い評価を受けている。
 2008年には戦争の記憶がその後の当事国同士の和解に与えるインパクトを分析した『Sorry States:Apologies in the International Politics』を上梓している。
(https://www.amazon.com/Sorry-States-Apologies-International-Politics/dp/0801476283)


反日は韓国人のアイデンティティ
 今回取り上げたメモランダムで同准教授が指摘したのは以下の点だ。
一、韓国のアンチ・ジャパニズム(反日主義)は、韓国のナショナリズムの重要な要素で日本に対する怒りと屈辱は韓国人のアイデンティティの根幹になっている。
二、日本サイドのリベラル派は歴史認識問題については柔軟性を見せているが、保守派には根強い愛国主義が定着している。従って日本政府が韓国の主張に歩み寄る空気は希薄だ。
三、(米国内の)一部専門家は歴史認識問題を解決したうえで日韓は安保、経済的協力関係を改善するべきだと指摘している。だが私はこうした指摘には同意できない。
四、日韓関係改善に米国が仲介役を果たすべきだという指摘がある。だが米国が仲介するのは困難だ。関係改善するには日韓両国の官民各層が本気で取り組む以外にない。
五、現実的な予測をすれば、日韓関係の現状を打破するには、米国が在韓米軍撤収などで長期的な軍事コミットメントを変更させる以外にないかもしれない。
六、日韓両政府が米国の両国に対する軍事コミットメントを反故にするという疑念を深めた時、共通の脅威に対応するには歴史認識問題をめぐる対立を脇に置いて協力せねばならないという判断をせざるを得なくなるだろう。
 リンド准教授の見解はワシントンではどう受け止められているか。
 日韓とここ30年付き合ってきた米国務省関係者B氏は筆者にこうコメントしている。
「正直言って、リンド准教授の分析は妥当だ。私も同意する」
「国務省はじめ外交国防政策に携わっているエリート官僚のコンセンサスを代弁している。同准教授の東アジア情勢分析は政府部内でも高い評価を受けている」