Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

台湾にじわじわ出血させる中国の作戦、日本も餌食に

JBpress 提供 台湾海峡を航行する米海軍ミサイル駆逐艦「マスティン」(2020年8月18日、出所:米海軍)
(北村 淳:軍事社会学者)
 トランプ陣営の大統領選挙へ向けての目玉政策の1つが対中強硬姿勢である。そして、対中強硬姿勢の1つが台湾への露骨な軍事的支援の強化である。
 ただし、トランプ政権が台湾への軍事的支援姿勢を強めるのに比例して、中国による台湾に対する軍事的脅迫もますます強まっている。
ペースを上げたトランプ政権のFONOP
 中国は南シナ海の南沙諸島周辺海域に対する本格的支配を確保するために、2014年初頭より人工島を建設し始めた。その状況は米海軍情報部関係者やフィリピン当局によって問題視され、米海軍太平洋艦隊などは、やがてアメリカ海軍にとっても深刻な脅威になりかねない、との警鐘が鳴らし始めていた。
 しかし、時のオバマ政権が海軍に対中牽制行動を認可したのは2015年10月であった。それはすでに中国による人工島の建設が急ピッチで進展しているだけでなく、本格的な軍用航空基地となり得る3000メートル級滑走路の建設まで確認されてから半年ほど経過した時期であった。
 対中牽制行動といっても、実施したのは「公海航行自由原則維持のための作戦」(FONOP)である。
 FONOPは、中国側が自国領域と主張している西沙諸島や南沙諸島人工島の周辺海域に軍艦や航空機を派遣して、「中国(公式には中国と領域紛争中の諸国に対してもという建前ではあるが)による領土領海など主権の主張は公海は、いかなる国の船舶(そして航空機)といえども自由に航行できるという国際法の原則を脅かしており、アメリカとしてはそのような過度な主権の主張は容認できない」という意思表示をする軍事作戦である。駆逐艦や爆撃機が用いられるものの、基本的には外交的意思表示のための作戦であるため、中国側に軍事的威嚇を加えるような行動は避けるように実施されている。
 ただし中国側は、現実的には何ら軍事的脅威は受けていないものの、アメリカの軍事的挑発により中国の主権が大いなる軍事的脅威を受けている、と抗議するのが常となっている。
 オバマ政権下では、対中強硬派の米海軍関係者などによると「極めて弱腰の」南シナ海でのFONOPが、2015年10月から2017年1月にかけての16カ月間に5回実施された。これに対してトランプ政権は、2017年には4回、2018年には5回、2019年には8回、そして2020年(10月10日まで)には8回と、南シナ海でのFONOPのペースを上げている。
台湾への軍事的支援を強化
 そしてトランプ政権は、米中関係が悪化し、かつ大統領選挙が近づくにともなって、南シナ海でのFONOPに加えて、駆逐艦による台湾海峡通航作戦をしばしば実施し、中国側に対する牽制行動を展開している。2020年に実施された米軍艦による台湾海峡通航作戦は11回を数えている(ただし、10月10日現在、9月以降は実施されていない)。
 トランプ政権による台湾に対する軍事的支援の強化は、軍艦による台湾海峡通航だけではない。トランプ大統領自身が熱心な武器輸出分野においても、アメリカ防衛産業による台湾に対する各種兵器の輸出態勢が強化されている。
 以前より台湾への輸出が約束されていた戦闘機や戦車、それに潜水艦をはじめとする軍艦(ただし潜水艦は頓挫している)に加えて、トランプ政権は台湾に対するドローン、中距離ロケット連射砲、沿岸防備用ミサイル、最先端スマート機雷などの輸出交渉を強く推し進めている。
 米国は、超水平線偵察能力に加えて、対艦攻撃能力や対潜水艦戦能力も備えた最新鋭大型無人偵察機の台湾への売り込み交渉を成功させた模様で、その他の兵器も台湾への売り込みをますます強化している。
 これらの台湾への軍事的支援態勢の強化と共に、外交的にも露骨な台湾支持策が打ち出された。すなわちトランプ政権は、8月にはアザー厚生長官を、9月にはやはり閣僚級であるクラック国務次官を、それぞれ台湾に公式訪問させたのだ。
軍用機や軍艦を台湾に接近させて威嚇
 以上のようなアメリカによる南シナ海(台湾も南沙諸島をめぐって中国と領有権紛争中)や台湾を巡っての対中軍事強硬姿勢、それにトランプ政権による台湾への露骨な兵器輸出姿勢の拡大に対して、中国側は著しく反発を強めている。そして、中国当局はアメリカにではなく台湾に対する軍事的威嚇を急速に強化している。
 とりわけ目に見えて軍事的脅迫が強まっているのが、台湾の領空・領海へ軍用機や軍艦を接近させる威嚇挑発作戦である。
 これまでも中国軍機や中国軍艦が台湾領域に向けて接近する事案は継続的に頻発していた。これは「台湾は中国の一部(台湾省)であり、台湾政府(中華民国政府)は叛乱分子である」という立場の中国共産党当局にとっては当然の軍事的威嚇である。
 米中関係の悪化に伴い、トランプ政権による露骨な台湾支援の動きが見られるようになってから、こうした中国軍航空機と軍艦による台湾接近の頻度は急速に増加した。台湾国防当局(10月7日現在)によると、今年(2020年)台湾に向けて異常接近してきた中国軍機は1710ソーティ (Sortie) であり、中国軍艦は1029ソーティである(1ソーティは、1機・1隻が1作戦のために1回出撃することを意味する)。これに対して台湾軍が緊急発進させた航空機(中国軍機に対しては戦闘機が出動し、中国軍艦に対しては哨戒機が出動する場合もある)は4132ソーティにのぼり、同様に警戒監視のために出動させた軍艦は7531ソーティにものぼっている。この数は、昨年の同時期と比較して20%以上も増加しており、中国軍による軍事的威嚇が急増していることを如実に示している。


© JBpress 提供 中国軍の爆撃機を追い払う台湾空軍の戦闘機(写真:台湾国防部)
 軍用機と軍艦の台湾接近回数よりもさらに深刻なのは、台湾海峡に暗黙裏のうちに設定されてきた台湾・中国の中間線「海峡中線」を中国軍機が露骨に越えて台湾側に接近し始めたという状況である。海峡中線は、1950年代に台湾(中華民国)と同盟関係にあったアメリカによって設定された仮の台中境界線である。中国当局は、公式にこの境界線を認めたことはなかったものの、中国軍機や中国軍艦が海峡中線を越えることは稀な出来事であった。
 しかしながら、トランプ政権による台湾支援政策が露骨になるのに呼応するように、中国軍による海峡中線無視の行動が突然増加し始めた。今年に入ってから(10月7日現在まで)中国軍機が海峡中線を越えて台湾領空に向けて接近してきたのは49ソーティを数えている。アメリカのクラック国務次官の台湾訪問を威嚇し抗議するように、9月18日から9月21日にかけて、海峡中線を越えて台湾に接近した中国軍機は11ソーティにものぼった。


© JBpress 提供 9月18日に海峡中線を越えて接近した中国軍機の状況(原図:台湾国防部)
注意を要する中国の“出血作戦”
 台湾国防当局によると、今年に入ってから中国軍機や軍艦に対する緊急出動のために直接要した費用はおよそ312億台湾ドル(およそ1152億円)にのぼっているという。これは、今年の台湾国防費の9%近くを占めることになる。
 このように、台湾に近づいてくる中国軍機や軍艦を監視し追い払うために緊急出動させる軍用機や軍艦の燃料費や部品代だけでも莫大な金額が必要になってしまう。このような負担は、予算に留まらず、出撃する回数が激増しているパイロットや航空機のメンテナンス要員、軍艦乗組員や軍艦の整備を担当する造船所などにとっても極めて大きいものとなっている。
 要するに、作戦用固定翼機や戦闘用艦艇をそれぞれ台湾軍の6倍以上も保有している中国軍は、余裕を持って台湾に航空機や艦艇を接近させて、台湾軍の要員、装備、戦費に“出血”させ続けて疲弊させる作戦を継続することができるのだ。そして、このような出血作戦は東シナ海で中国と対峙している日本にも発動中なのである。