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大阪都構想で「行政サービスは下落する」~サービス下落リスクを直接論じた行政文書~

 From 藤井聡
  @京都大学大学院教授




(1)大阪市廃止・四分割で、業務量が肥大化してしまう
いま、当方の手元に、


特別区設置に係る「組織体制(部課別職員数)」に対する人事室意見(平成30 年12 月6 日)


という行政文書があります(以下、「大阪市・人事室意見書」と呼びます)。これは、大阪市役所の人事室が、いわゆる大阪都構想が実現した場合、今までやってきた行政が、人員配置の視点から継続できるのかどうか、というものを検討した文書です。


当方はこれまで、「都構想」を実現して、(人を増やさないままに)大阪市を潰して四つの特別区をつくると、仕事量が肥大化してしまうので、これまで当たり前にやってきた行政サービスが出来なくなって、確実に行政サービスレベルが落ちるだろうと、繰り返し主張してきました。
(例えば、コチラ→『都構想の真実』https://www.amazon.co.jp/dp/4899920725/)


例えば、4人家族が一つの家で一緒に暮らしていた時に必要な「家事の総量」と、4人がバラバラに一人暮らしを始めたときの「家事の総量」を比べれば、バラバラな時の方が増えるのは当然です。


その一方で、今の都構想では、人員は増やさない、ということを決めています。つまり、仕事は増えるのに人員が増えないわけですから、都構想で行政は効率化するどころか、行政がさらに「非効率化」し、行政サービスが低下することは必至だと考えられるわけです。


(2)大阪市の人事室の分析によれば、都構想で行政サービスレベルは下がる
・・・ということを(繰り返しとなりますが)様々なところで主張してきたのですが、なかなかこの話が広まらず、大変残念な思いをしていたのですが―――今、筆者の手元にある「大阪市・人事室意見書」を見れば、筆者がこれまで主張してきたことと同じ事が書かれているのです。


つまり、都構想が実現すれば、人員を増やさないのに仕事だけが増えるので、サービスレベルの下落が必至となる…という趣旨が明確に書かれているのです。


具体的に解説しましょう。


まず、この文書の冒頭には、次の様な記述があります。


「4つの特別区に移行した際、分散化により職員数のスケールデメリットが大きく生じたり……するという恐れがある」


ここにスケールデメリットとは、スケールメリットの逆です。つまりこれは、大阪市を分割することで、行政が非効率化する恐れがありますよ、と主張しているわけです。そして、その結果として、この文書の最後には次の様に記載されているのです。


「特別区設置時点において、業務執行に必要な職員数が不足し、サービス水準の低下を来す恐れがある」


つまり都構想をやると、仕事が増えて職員不足が生じて、最終的にサービス水準が下がるのだ、ということが書かれているわけです。



(3)行政文書が明らかにする、行政サービスレベルが下がる項目
では、具体的にどういう行政サービスのレベルが下がるのでしょうか?


まずこの文書で、最初の分かり易い例としてあげられているのが、「市会事務局」。


これは、いわゆる「議会」の事務局ですが、そもそも今は、議会は大阪市議会一つしかないのですが、特別区が4つできると議会が4つも出来ることになるのです。


そうなると、トータルの事務量は(4倍とまで言わずとも)2倍や3倍にも膨れ上がることになります。しかし、職員はほとんど増やさないということになっており、その結果、十分な行政が出来なくなることは必至。この問題について、この文書では次の様に書かれています。


「副首都推進局作成資料によると、市会事務局の現員数36 人に対し、第一区10 人、第二区11 人、第三区11 人、第四区10 人の計42 人となっているが、この人数では業務執行に支障を来す恐れがあると考えられる。」


つまり人事室は、普通に考えれば、これまで36人で対応してきた議会対応をたった10人そこらで対応できる筈はないのではないか、と主張しているわけです。


同じことが「総務部」に関しても起こるだろうと人事室は主張しています。


「副首都推進局作成資料によると、総務局行政部の現員数68 人に対し、第一区18 人、
第二区21 人、第三区22 人、第四区19 人の計80 人となっているが、この人数では業
務執行に支障を来す恐れがあると考えられる。」


この文書ではこうした分析を様々な行政項目について行い、少なくとも次の各項目の行政執行に「支障」が生じ、その結果、行政サービスが「下落」してしまう危惧が存在するということを警告しています。


・市民局ダイバーシティ推進室
・都市整備局公共建築部
・教育委員会事務局総務部施設整備課
・福祉局生活福祉部保険年金課
・公営住宅
・土地区画整理事業 等


すなわち、「都市整備」や「教育」「福祉」など、大阪市民の暮らしに直結する様々な行政サービスが、都構想をやることで「下落」してしまうことを、この文書は警告しているのです。


(4)大阪市四分割による、専門家不足による行政能力の下落
さらに、この文書では、次の様なことも書かれています。


「ノウハウを持った技術職員(建築、機械、電気職)を、特別区ごとに十分に確保することは困難と考えられる」


これは要するに、今なら、数少ない「技術職員」、つまりそれぞれの分野の「専門家」が大阪市全体の行政の技術的な側面の対応を図っているのですが、役所が4分割されれば「うちの区には、建築の専門家がいない」「うちの区には電気の専門家がいない」等という様な区ができてしまい、その結果、それぞれの区の行政レベルが下落してしまうことが危惧されるわけです。


だから本来なら、大阪市を四分割するなら、それぞれの区に、最低限の専門家を配置するくらいの人員増強をするのが必要なのですが……そういう対応は図られず、その結果、行政サービスの劣化は、確実に生じてしまうわけです。


(5)「行政サービスの下落」リスクをしっかりとご認識下さい。
 大阪都構想という大阪市廃止の構想には、実に多くの問題点が挙げられるのですが、ここで指摘したものはその内の一つに過ぎません。


しかし、この指摘は、極めて重要な論点です。


なぜなら、今、都構想に反対している方が、最も多く挙げている反対理由が「行政サービスに悪い影響がでそうだから」というものだからです。つまり、ここで紹介した行政文書は、今、都構想に反対している方々の最大の心配事は杞憂でも何でも無く、まさに正しい認識だったのだ、ということを行政的に明らかにしているものなのです。


・・・


言うまでも無く、都構想の是非を決めるのは大阪市民の方々です。ですが、少なくともここで紹介した「都構想をやれば、行政サービスが下落する」というリスクをしっかりと認識した上で、ご判断頂きたいと思います。


追申1:
表現者クライテリオンの最新号は、都構想の問題を多面的に論じた「大阪都構想で日本は没落する」。この機会に是非一度、じっくりと都構想の問題をお考えになってみて下さい。
https://www.amazon.co.jp/dp/B08JB1M4WP


追申2:
これほど問題の多い都構想がなぜ故に大阪で人気があるのか-――という点にご関心の方は是非、下記をご参照下さい。https://foomii.com/00178/2020092711350871308