Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

台湾接近の中国爆撃機、米空母攻撃訓練をしていた!

(北村 淳:軍事社会学者)
 トランプ前政権が台湾への軍事的支援を著しく強化し始めて以来、中国軍機による台湾上空接近や台湾周辺上空周回などの台湾に対する露骨な恫喝が繰り返されている。バイデン政権が発足して間もなくの1月23日から24日にかけて、これまでになく多数の中国軍機による台湾防空識別圏への侵入が相次いだ。
中国軍機の異常な侵入
 1月23日には、H-6Kミサイル爆撃機8機、J-16戦闘機4機、それにY-8対潜哨戒機1機の合計13機の中国軍機が、台湾南部の台湾本島と東沙諸島の間の台湾防空識別圏(以下「台湾南西部防空識別圏」)を飛行した。
 翌24日にはSu-30戦闘機2機、J-16戦闘機4機、J-10戦闘機6機、Y-8対潜哨戒機2機、それにY-8偵察機1機が連続的に台湾南西部防空識別圏に侵入した。
 中国軍機による台湾上空への接近飛行は昨年(2020年)から飛躍的に増加しており、台湾南西部防空識別圏への侵入も頻発している。しかしながら、このエリアでの接近侵入を繰り返す中国軍機は、Y-8ISR偵察機あるいはY-8対潜哨戒機が、単機もしくは2機編成というのが通常である。
 ところが、1月23日と24日の2日間で28機もの様々な軍用機(それも8機の爆撃機を含む)がこのエリアに侵入した。その数の多さについて台湾国防当局者は「尋常ではない」と語っている。バイデン新政権も中国当局に対して、台湾への軍事的威嚇は差し控えるべきであると遺憾の意を表明した。
アメリカ空母艦隊が南シナ海へ
 中国軍機の異常な侵入行動と時を同じくして、1月23日、米海軍のセオドア・ルーズベルト空母打撃群が、西太平洋から、台湾とフィリピンの間に横たわるルソン海峡のフィリピン寄りのバリンタン海峡を通航して南シナ海に入っていた。
 セオドア・ルーズベルト空母打撃群の南シナ海への展開は、以前から予定されていた通常の作戦行動であり、中国が台湾上空に向けて繰り返し航空機を派遣する恫喝に対抗するため派遣されたわけではなかった。アメリカ海軍によると、過去四半世紀以上にわたってアメリカ海軍は断続的に南シナ海へ空母艦隊を展開させて「南シナ海の公海航行の自由を確保するとともに同盟諸国を安心させてきた」(すなわちアメリカの覇権を維持してきた)のである。
 ちなみに、今回バリンタン海峡を南下した空母打撃群は第11空母航空団(戦闘攻撃機44~48機、電子戦機5機、早期警戒機5機、輸送機2機、多目的ヘリコプター8機、対潜ヘリコプター11機)を積載した原子力空母セオドア・ルーズベルト、イージス巡洋艦バンカー・ヒル、イージス駆逐艦ラッセル、同じくジョン・フィン、それに公表されてはいないが攻撃原潜1隻、から構成されている。
米海軍空母を攻撃する訓練
 これまで中国当局は、台湾防空識別圏への侵入に関して「中国の主権と領域を防衛するための通常の作戦行動である」といったコメントを発するのが常であった。しかし今回の各種航空機による飛行に関しては、直ちにコメントを発出することはなかった。
 だが、爆撃機を含む中国軍機が台湾南西部防空識別圏へ侵入したのは、ちょうどセオドア・ルーズベルト空母打撃群がバリンタン海峡を通過するタイミングと重なっていた。そのため異常な数の中国軍機の行動は、アメリカ空母艦隊の南シナ海展開と何らかの関係があるとの疑いが生じた。
 そして1月29日になると米軍情報筋や台湾当局は、1月23日に米空母艦隊方面に接近してきた中国軍機パイロットが対艦ミサイル発射シミュレーションの実施命令を受信していた、との情報を含めて、中国航空機編隊は米空母艦隊を攻撃する訓練を実施していたとの分析を明らかにした。危険を探知した空母セオドア・ルーズベルトは、F/A-18戦闘攻撃機を発進させて警戒にあたったということである。
侮れない中国の対艦攻撃
 米海軍空母を仮想標的にした攻撃訓練をしたとされる中国軍機の中に8機のH-6Kミサイル爆撃機が加わっていたことは、まさにルソン海峡(バシー海峡あるいはバリンタン海峡)を通過する米海軍空母を攻撃する訓練を実施したことを裏付けている。なぜならばH-6Kミサイル爆撃機には、中国軍がアメリカの空母を撃破するために開発してきたYJ-12超音速対艦巡航ミサイルが搭載可能であるからだ。
 航空機から発射された場合にマッハ3(マッハ4という情報もある)で最大400kmを飛翔するYJ-12対艦ミサイルは、アメリカ海軍やシンクタンクなどでは「アメリカ海軍にとって最も危険な対艦巡航ミサイル」とされている。
 1月23日のセオドア・ルーズベルトとH-6Kの接近距離は400km以上乖離していた模様である。しかし、もしあと数分間、中国軍機が空母に接近して400km以内の距離からYJ-12対艦ミサイル16発(H-6Kには2基のYJ-12が装着できる)を連射した場合、「随伴していた巡洋艦と駆逐艦のイージス戦闘システムとSM-2対空ミサイルでは、空母めがけて突入してくるYJ-12群を撃破することは不可能に近かった」とミサイル専門家たちは分析している。
 まして、有事の際に米空母に挑んでくる中国接近阻止戦力は、“わずか”8機のH-6Kミサイル爆撃機だけではない。H-6Kの進化型H-6Nミサイル爆撃機にはYJ-12よりもさらに強力なCH-AS-X13対艦弾道ミサイル(飛翔速度マッハ6以上)が搭載されている。
 YJ-12超音速対艦ミサイルは、H-6K爆撃機だけでなく海軍航空隊と空軍が合わせて240機ほど保有しているJH-7戦闘爆撃機にも搭載可能である。さらに、YJ-12は駆逐艦からも発射可能である。上空と海上からだけでなく、地上の中国ロケット軍は、やはりアメリカ空母を撃破するために開発したDF-21D対艦弾道ミサイル(マッハ10)を擁して待ち構えている。
「現実を直視しないのは臆病者」
 もっとも、このように強力とされる中国の接近阻止戦力に対して、米軍関係者のなかにも「中国側がばらまいているプロパガンダに惑わされてはならない。いまだに中国軍の現実は張り子の虎に近い」と見る人々も存在しないわけではない。
 しかし対中警戒派からは、「20年前にも、10年前にも、中国海軍の建設状況に対して、まだまだアメリカ海軍に追いつくには数十年かかるとたかをくくっていた海軍幹部が少なくなかった。しかし、昨年には国防総省自身が認めた(本コラム2020年9月10日「『中国海軍に追い抜かれる!』米国がついに認める」参照)ように、我が海軍はその中国海軍に追い越されつつあることを直視しなければならない。今となっては、中国軍の戦闘力を直視しない態度は、臆病者とのそしりを免れない」との警告が発せられている。