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安倍総理の志は死なない!!

外資の土地取引規制、突如ブレーキの不可思議

JBpress 提供 現在は自衛隊の基地周辺であっても外資による土地買収を規制する法律はない。ようやく第一歩が踏み出せそうになったのだが・・・。(写真:Keizo Mori/アフロ)
(姫路大学特任教授:平野秀樹)
 2週間ほど前、JBpressに「やっと始まる外資の土地取引規制、阻むのは何者?」との記事を寄稿した。
 これまで日本は外国資本による土地買収が野放しになっており、安全保障や資源保全、固定資産税の徴収などの面で大きな問題が生じているのだが、そこに歯止めをかけるべく、ようやく新法〈外資の土地買収調査法案*〉制定が現実化してきたことを伝えた記事だ。
 ところがその後、この新法の制定が難航している。順調に閣議決定→国会審議の流れに乗っていくかと思いきや、その先が不透明になった。
*〈重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案〉
(参考記事)やっと始まる外資の土地取引規制、阻むのは何者?
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64338
慎重派の台頭
 目指す新法は、安全保障の観点から重要な国土(土地)を調査し、不適切な利用が判明すれば規制するものだが、与党内の異論は2月頃から聞こえていた。それがここにきて勢いづいている。閣議決定の予定日を過ぎても慎重派の姿勢は変わらず、日程はずれ込んでいる。
 こうした政局に、特に北海道新聞が反応した。「公明が難色」「政府は3月上旬に予定していた閣議決定を先延ばしする方針を固めた」と報じた(3月5日)。同紙と親和性が高いとされる沖縄の新聞二社も続いた。
 琉球新報は「治安維持法の再来」「内心の自由にも及ぶ」とまで報じ、法案撤回を求めたし、沖縄タイムズは「政府が実際に外国資本により国民の安全が脅かされたケースを明示していない」と問題視した。これらの記事は公明党顧問の前国会議員のブログ内容といくつも共通する。
 ネットメディアも面妖なリード「外資が『水源地の山林』を買っているという噂は本当か」を掲げた(ダイヤモンドオンライン)。10年以上前の話題を蒸し返し、「水源地山林は条例で守られている」「取引規制は既存の制度で十分」と読ませるライター記事を載せた(3月9日)。新法による調査エリアが森林、農地、再生エネルギー用地へと拡がることを恐れたか。
 こうした記事群が登場するタイミングが見事だ。新法への慎重論を効果的に後押しするもので、どこかに司令塔でもあるのだろうか?
「安全保障は国でしょう!」
 揉めている論点を単純化すると、次の二つに集約される。
①〈注視区域のゾーン幅(1キロメートル以内)〉と、②〈特別注視区域内の土地売買にかかる事前届出〉だ。特に、後者②への慎重派の抵抗が大きい。調整上のハードルは一段高いという。
 公明党副代表の北側一雄元国交大臣もこの点を指摘していた。わざわざ東京・市ヶ谷の防衛省周辺を例に、「なかなかの規制だと私は思う」「事前届け出ではない方法で目的を達せられないか」(毎日新聞2月25日)。法案を通すための交換条件を早い段階から指示していた。
 ここは、提案側の自民党新藤義孝元総務大臣に踏ん張ってもらいたい。急ぐあまり、緩めの線で手打ちしたりすれば、後々に禍根を残す。骨抜き法案になる。
 筆者は、実効性ある新法にするための肝は事前届出制度だと見ている。その理由は地方自治体とのバランスだ。
「安全保障は国でしょう」
 首都圏の首長がいうとおり、安全保障は国がやるべき範疇である。しかし、すでに条例によって事前届出を課す「上乗せ条例」を用意した自治体がいくつもある。言いようのない渺とした外資の土地買収への懸念を払しょくするためだ。
 その数は18道府県(2012~現在)に及ぶ。北海道、埼玉県、群馬県、茨城県、山梨県、山形県、長野県、岐阜県、富山県、石川県、福井県、新潟県、徳島県、秋田県、滋賀県、宮崎県、三重県、京都府である。これらの条例は水源地を守るためで、監視が必要な区域を自治体が定め、土地売買に際し、事前届出を義務づけさせている。
 本来ならば、法律によって国が安保的観点からやるべき対策を、これだけの数の自治体が条例によって課す体系となっているのである(事後届出に効果がないことは、国土法第23条の実態が証明している)。
 もし今回、新法が事前届出制を欠いたり、実効性の乏しい対策ばかりを並べた規制法案として国会へ提出されるというのなら、これらの道府県条例は何のために制定されてきたのか。今一度、顧みてほしい。国会では、地方のそうした声を再確認して、法案を審議すべきだろう。
富裕層の資産隠しと提灯買い、そして・・・
 外資の国土買収に規制が必要なのは訳がある。
 日本の土地売買規制がすこぶる甘く、かつ土地データは驚くほど曖昧で不備が目立つからだ。当然、外資には無防備過ぎて、将来、ガバナンス能力を喪ってしまう懸念が大きい。
「仏、英、独も日本と同じだ。土地売買に規制はない」との反論もあろう。しかし、国土の半分(大都市圏は8割)が地籍調査未了で、所有者不明の土地を何百万ヘクタールも擁するような国は日本の他にはない。しかも個人の権利が世界一強く、憲法によって外国人所有者であろうとも土地資産(国土)の財産権が保障されている。そんなユルユル日本の手厚く保護された土地だから人気なのだ。
 現在、日本の国土を買収する者には三つのパターンがある。
 一つは、富裕層の資産隠しである。大陸の場合だと、国家(党本部)に個人資産がバレるのが怖くて隠す。日本不動産は秘匿が容易で、かつ保有コストがかからない。手口は香港のペーパーカンパニーや、日本人をダミーとしてかませる方法だ。買収後はすみやかに所有者不明となるよう海外で転売する。固定資産税等を逃れるためだ。さすれば、保有コストゼロで秘匿できる。
 二つ目は、値上がりする物件を追う提灯買いの投資家たちだ。小口も混じる。数としてはこれが多いかもしれない。転売の回転も早く、3、4年以内。日本の不動産はグローバルな観点からは、数年先、十数年先の値上がりも有望とされている。
 最後に三つ目だが、これは今回の新法制定に最も関連する。
 直接的に防衛施設や米軍基地、原発等の周辺地や、国境離島を目立たぬよう買収し、監視や通信妨害等のための諸施設として活用していく可能性を残す。外国政府の差し金と見るべきかどうかの判断は難しい。これらの買収は仕込み中のものも含めると、既に全国で少なくとも約80カ所。ソーラー用地の買収も約1700カ所あるとされる。
国情に合わせた新法
 海外からの自由な国土買収は、重要施設、国境離島、生活・生産インフラの占有などへ波及する懸念があるほか、①課税・徴税不可、②公共事業遅延、さらに③ソーラー機器放置、谷埋め違法産廃投棄など、ガバナンス全般の問題を惹起する。どの問題も解決は極めて困難なものになる。ゆえに、筆者は新法によって実効性のある対策がはじまることを願っている。
 これに対し、新法導入に慎重な人たちは、「実態を知られたくない」「調査によってその実態を晒されたくない」——という人たちを慮っているのか。それとも、その者たちを統括する筋からのやわらかな依頼を受け、忖度しているのか。
 政府は2019年以降、経済安保の観点で数々の情勢把握に乗り出し、土地の取得・規制については法整備のための議論を進めてきた。ただ、十分掴みきれていない。この国ではこれまで国土がどれだけ買収されてきたか、実態がわからず、現場が十分に見えていない。それゆえ今回の新法によって調査し、利用状況をまずは把握していこうとしている。
 しかし一方で、憲法第二九条ではあらゆる土地所有者(外資含む)の財産権の保障を謳い、国際的にはGATS(WTO協定)において、日本国は不動産取引に何ら制限をかけず、自由売買であることを約束してしまっている。
 真に板挟み状態にあるのだが、こうした国情にあってギリギリの到達点を探り、たどり着いたのが新法案である。現状での最善最短の途だろう。国土買収保全の前捌きとして、現状の把握(利用形態)がしっかりできる国にしていこうというものだ。
 にもかかわらず、「(新法は)地方自治体の要請に応えられていない」「新法には効力効果がない」そう発言し、混乱を待っているかのような言説を繰り返す人たちがいる。
 そうした混乱による遅延を喜ぶのは、秘匿資産を保全したい国外の資産家や、海の向こうからの指図で活動する人たちだろう。
 次世代へ主導権を残すため、今は踏ん張りどころだ。