Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

米海軍が方針転換、大量調達するミサイルとは?

(北村 淳:軍事社会学者)
 米軍当局はロッキード・マーティン社に137発の航空機発射型対艦ミサイルの開発製造を4億1400万ドル(各種支援費用込み)で発注した。これだけの数のミサイルを一度に発注するのは珍しい。
 米海軍と米空軍が調達を急いでいるこのミサイルは「LRASM(長距離対艦ミサイル)」である。米海軍はF/A-18E/F戦闘攻撃機に、米空軍はB-1B爆撃機に搭載する。
 中国の海洋戦力(海上戦力、海中戦力、航空戦力、長距離ミサイル戦力)の充実が著しく、南シナ海や東シナ海においてアメリカ海洋戦力が後れを取り始めた状況をなんとか打開するために、米軍当局が慌てて調達を進めているのだ。
対空戦重視のアメリカ海軍の伝統
 過去数十年間にわたって、アメリカ海軍は敵の航空攻撃やミサイル攻撃から自艦や味方の艦隊を防御するための対空戦能力の充実に傾注してきた。そのため、日本でも有名なイージスシステムをはじめ、敵が発射した対艦ミサイルや接近してくる敵航空機をいち早く発見捕捉して、それらの小型目標を撃ち落とすための艦対空ミサイルシステムを生み出し、高性能化を継続してきた。
 軍艦に装備される対空ミサイルシステムは、高速で接近してくるミサイルを、ミサイルで撃ち落とすのであるから、極めて高度な技術力と莫大な資金が必要となる。そのため、イージス巡洋艦やイージス駆逐艦は超高額な軍艦となってしまっている。
 このように対空防御性能を特に重視して軍艦(水上戦闘艦)を建造してきたのが現在のアメリカ海軍の特徴である。海上自衛隊の主要艦のコンセプトも、米海軍と同じと考えられる。日米の巡洋艦や駆逐艦には、極めて優秀な防空システムが搭載されている。
 だがその反面、敵艦を攻撃する装備が限定的にとどまっているのも、アメリカ海軍水上戦闘艦の特徴であった。
 こうした防御重視の軍艦建造や艦隊編成に対しては、米海軍関係者の中からも「対空防御を重視するあまり金をかけすぎて、敵艦艇を攻撃する戦闘力が弱体ではないのか?」という疑義が呈されてはいた。
 なぜならば、近代化の速度が上がっていた中国海軍では、対空戦能力の開発と共に、より技術的に容易でかつ対空防御システムに比べると極めて安価に開発が可能な対艦攻撃能力の充実に力が注がれていたからである。
 しかしながら「対艦攻撃力の高い海軍に変貌せよ」との主張が主流になることはなく、米海軍が装備してきた主たる対艦攻撃兵器といえば、1977年に配備が開始されたハープーン・ミサイル(水上艦発射型RGM-84、潜水艦発射型UGM-84、航空機発射型AGM-84)だけといった状態が続いていた。
 もちろん誕生から今日に至る45年近くの間に、ハープーン・ミサイルの命中精度や飛翔距離などには改良が加えられ、進化してはいる。しかしながら基本的には、射程距離140~200kmほど、最新型は最大280kmほど離れた敵艦に対してマッハ0.7~0.8で飛翔する亜音速巡航ミサイルである。
中国が開発する「効率が良い対艦ミサイル」
 一方、中国海軍や第2砲兵隊(現在、ロケット軍)それに中国空軍は、各種対艦攻撃用ミサイルの開発に勤しんだ。
 対空防御ミサイルの開発に比べると、アメリカや日本が装備する対空システムを突き破る対艦攻撃ミサイルの開発は技術的に容易である。当然コストも抑えられ、大量生産も可能だ。その結果、例えてみると、米海軍や海上自衛隊が超高価な対空ミサイルを10発調達するのと同じ予算と時間で、中国海軍は100発以上の各種対艦ミサイルを手にすることができる状況が生まれてしまったのである。
 実際に中国海軍は、ハープーン・ミサイル程度の亜音速対艦ミサイルをあり余るほど保有しているだけでなく、様々な超音速対艦ミサイルも大量に配備を進めている。
 とりわけアメリカ海軍関係者たちが危険視しているのは、YJ-12とYJ-18と呼ばれる超音速対艦ミサイルだ。
 YJ-12の射程距離は400kmで、マッハ3で飛翔する。現時点ではアメリカ海軍艦艇のハープーン・ミサイルの攻撃圏外から攻撃可能なため、極めて危険なミサイルある。YJ-18は巡航速度はマッハ0.85と亜音速であるが、敵艦に数十キロまで近づくとマッハ3に速度を上げて目標に突入する。射程距離は540kmといわれている。
 それだけではない。海軍航空隊のミサイル爆撃機や戦闘爆撃機にも超音速や亜音速の対艦ミサイルが装填されるのに加えて、DF-ZF極超音速対艦攻撃グライダーも実戦配備が近づいている。さらにロケット軍は、地上から空母や強襲揚陸艦を攻撃するための対艦弾道ミサイル(DF-21D、DF-26など)を運用しており、戦時において米空母艦隊は迂闊に東シナ海や南シナ海には近寄れない状況となってしまっている。
今になって回ってきた空母偏重のツケ
 アメリカ海軍首脳の主流派や連邦議会の国防関係議員などは、原子力空母戦力を自他ともに世界最強と認め、これまで過信しすぎてきた。そのため、海軍内部からの「対艦攻撃力を見直せ」という声に真剣に耳を傾けることはなかった。
 しかし、かつては取るに足りない戦力と見くびっていた中国海洋戦力は短期間で飛躍的に強化され、気がついた時には上記のように各種対艦攻撃力を身につけた極めて危険な存在に変貌していたのである。
 そこでアメリカ海軍は、遅ればせながらようやく対艦攻撃能力に予算を投入して、中国軍艦に装填されているYJ-18の射程圏外から攻撃が可能なLRASMの開発・調達に本腰を入れ始めたのだ。
 ただし対艦ミサイル技術で中国に大きく後れを取ってしまったアメリカが生み出すLRASMは依然として亜音速ミサイルであり、中国の最新鋭対艦攻撃兵器にアメリカが追いつくには、たとえ莫大な予算を投入しても数年間にわたる開発努力が必要と考えられている。