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コロナ4・5波「必ず来る」想定で備えが必要な訳

ワクチン耐性の変異株広がる前に何ができるか
上 昌広 : 医療ガバナンス研究所理事長
2021年04月01日
新型コロナウイルスの感染者数が上昇に転じた。
3月27日、東京都は新たに430人の感染者を確認し、8日連続で前週の同じ曜日を上回った。メディアでは緊急事態宣言が解除され、市中に人々が繰り出したためのリバウンドとの論調が目立つ。小池百合子・東京都知事は、緊急事態宣言解除を受けて「今日からリバウンドさせない期間」とコメントしているし、首都圏の4知事は、飲食店への時短要請を「リバウンド防止期間」として、4月21日まで延長することを決めた。
私は、このような論調に違和感を抱かざるをえない。それは新型コロナのウイルス学的特性を考慮していないからだ。私は緊急事態宣言の効果を全否定するつもりはないが、飲食店の運営時間を数時間程度短縮するだけで、新型コロナの流行が食い止められるとは考えていない。
コロナ第4波、第5波の可能性は?
もし、その程度で本当に高い効果が期待できるなら、諸外国は、あそこまで厳しい規制を課さなかったはずだ。今年1月7日に緊急事態宣言が発令されて以降、速やかに感染者数が減少したのは、そもそも流行が収束する時期に当たっていたと考えるほうが自然だ。新型コロナの流行という自然の摂理に対して、人間ができることには限界がある。本稿では、コロナの流行の季節性変動から第4波、第5波について論じたい。
このことを論じるうえで最重視すべきはコロナが風邪ウイルスであるということだ。新型コロナが流行する以前から4種類のコロナが世界で流行を繰り返していた。本稿では、このようなウイルスを風邪コロナということにする。
風邪コロナの特徴は、夏と冬、1年に2回の流行を繰り返すことだ。下図は国立感染症研究所(感染研)の調査結果だ。冬場に加えて5~7月に小流行を繰り返していることがわかる。

(外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)
このことは新型コロナの流行を予想するうえで重要な情報だが、これまでほとんど議論されてこなかった。それは、風邪コロナは、罹っても自然に治癒するため、専門に研究する人が少なかったためだろう。感染研のデータもサンプル数が少なく、どこまで実態を正確に反映しているかわからない。
これは日本に限った話ではない。海外でも風邪コロナの研究者は少なかった。ただ、新型コロナが流行し、状況は一変した。多くの研究者が風邪コロナに関心を抱き、多数の論文を発表した。そして、昨年11月にオランダのアムステルダム大学の研究者が英『ネイチャー・メディスン』誌に「季節性コロナウイルス(注:風邪コロナのこと)の免疫は長続きしない」という論文を発表するなど、風邪コロナの実態が急速に明らかになっていった。
冬場より規模は小さいが夏場にも流行する
季節性変動も例外ではない。詳細は省くが、昨年、イギリス、フランス、韓国などから、風邪コロナの流行の季節性変動についての論文が発表された。いずれの論文でも共通するのは冬場と比べて規模は小さいが、夏場にも流行することだ。
では、このような性質を新型コロナも持っているだろうか。昨年1年間の流行状況をみていると、どうやら答えは「イエス」のようだ。下表をご覧いただきたい。世界各国で感染者数がピークになった日と、そのときの新規感染者数を示している。

1月と8月を中心に二峰性の分布をしていることがわかる。感染者数、感染対策は各国で異なるのに、感染がピークになった日は驚くほど似ている。季節性の変動なしに、このような状態ができることはない。
このような事情を考慮すれば、今夏も新型コロナが流行してもおかしくはないことがご理解いただけるだろう。私は、現在「リバウンド」と称されている現象は、このような季節性変動と絡めて議論すべきと考えている。
その際に注意しなければならない点は、新型コロナの感染拡大には時間がかかることだ。下表をご覧いただきたい。

G7諸国において、昨春~夏、および今冬の流行で、感染が拡大し始めてから新規感染者数がピークになるまでに要した日数を示している。昨春~夏の場合、34~77日、昨冬の場合、108~190日だ。日本はそれぞれ77日と108日だ。新型コロナはいったん感染が拡大すると、数カ月をかけて徐々に増えていく。そして、その後、数カ月をかけて収束していく。
今回、感染者数が増加に転じたのは3月7日だ。7月23日に開会式が予定されている東京五輪がどうなるか予断を許さない。私は、今夏の新型コロナの流行は簡単には収束しないと考えている。問題となるのは変異株の存在だ。変異株の感染が拡大したブラジル、南アフリカの1月の感染者数は北半球のカナダやメキシコを上回った。真夏の南半球で、真冬の北半球並みの流行が起こっていたことになる。南アフリカやブラジルで流行した変異株の感染力の強さがご理解いただけるだろう。
変異株への対応を間違えると悲惨な事態にも
今後、南半球は秋から冬へ向かい、本格的な感染拡大の時期へと突入する。変異株への対応を間違えれば、悲惨なことになりかねない。その典型例がブラジルだ。夏場の感染が収束せず、そのまま拡大している(下図)。これは日本にとってひとごとではない。今夏、東京五輪で感染が拡大し、そのまま秋から冬を迎えれば、冬場に到来する第5波の感染者数は昨年レベルでは終わらないだろう。

どうすればいいのか。一刻も早くワクチン接種を行き渡らせて、集団免疫を獲得するしかない。その際に問題となるのは、変異株の存在だ。変異株が厄介なのは、ワクチン耐性のリスクをはらむからだ。アストラゼネカやノババックス製のワクチンが、南アフリカ株やブラジル株に対して効果が落ちることはすでに広く報じられている。
日本で接種が進んでいるファイザー製のワクチンは、日本で感染が拡大しているイギリス株に対して、十分な感染予防効果が期待できると報じられているが、このまま感染が拡大すれば、ファイザー製のワクチンに対する耐性株が出現するのは時間の問題だ。なぜなら、一連のワクチンがスパイクタンパク質を標的にしているからだ。この部分は人体で免疫を惹起(じゃっき)しやすいが、突然変異が起こりやすい。
突然変異の発生率は感染者数に比例する。感染拡大が続けば、ファイザー製のワクチンだけ「無傷」ということは考えにくい。モデルナは、変異株のmRNA配列に合わせたワクチンを開発する意向を示しているが、そのような手法で生産されるワクチンが世界に広く供給されるには、数年はかかるだろう。
世界各国がワクチン接種に総力を挙げる理由
どうすればいいのか。残された時間は国によって大きな差がある。中国、台湾、ニュージーランドのように国内にコロナを蔓延させていない国は、従来通りの水際対策を続けながら、じっくりとワクチンを打てばいい。
一方、欧米先進国や日本のようにコロナが蔓延している国には残された時間は少ない。新型コロナが冬と夏に流行を繰り返せば、ワクチン耐性の変異株が容易に誕生するからだ。そうなればワクチンによる集団免疫の効果は期待できない。ワクチン耐性株が広まるまでに、現在入手可能なワクチンを早く行き渡らせて、集団免疫を獲得するしかない。
これが世界各国が総力を挙げてワクチン接種を進めている理由だ。各国の状況を下図に示す。先進国の中で、日本は一人負けだ。「欧米先進国と比べて感染者が少ないのだから、ワクチン接種はそこまで急がなくていい」という有識者もいるが、これは的外れだ。欧米の10分の1以下の感染者数で医療システムが崩壊し、ドイツとほぼ同レベルの経済ダメージを負う日本は、これ以上のコロナの流行に耐えられない。

ここまで日本が迷走したのは、厚生労働省医系技官、感染研の専門家が構成する「感染症ムラ」が主導してきたからだと私は考えている。カネと情報を独占し、日本の有為な人材が活用されなかった。
世界は違う。国家の総力を挙げてコロナ対策に取り組んできた。例えば、mRNAを用いたワクチンを開発したアメリカのモデルナやドイツのビオンテックは、新型コロナ流行前まではがん治療ワクチンを開発するバイオベンチャーだった。遺伝子工学や情報工学の専門家が主導する個別化医療の専門チームだ。海外では、このような「感染症ムラ」以外の有能な人材を活用している。
実は、「個別化医療」の分野をリードするのは日本だ。昨年、アメリカのメディアは、中村祐輔・がん研・がんプレシジョン医療研究センター長をノーベル生理学医学賞の最有力候補として紹介した。私は、「感染症ムラ」が中村教授の力を借りたという話は聞かない。これは氷山の一角だ。「感染症ムラ」が仕切る限り、日本は優秀な人材を活用できない。
この結果、日本は技術開発で立ち遅れる。その象徴が、前出のコロナワクチンの開発であり、変異株の検査だ。変異株の検査は、変異株に適応したPCR検査とシークエンス(遺伝子配列の解読)が中核だが、厚労省や感染研の方針でPCR検査を抑制してきた日本には十分な検査能力がない。
例えば、シークエンス能力について、アメリカのバイデン政権は2月17日、「頭金」として2億ドルを投じ、現在の週7000件から2万5000件を目指すと表明したが、日本の能力は昨年末に300件/週程度で、体制を強化した現在でも最大で800件/週だ。アメリカの30分の1程度である。これでは変異株が蔓延していても、認識できない。
「勝負の2週間」の精神論ではどうしようもない
ポスト・コロナの世界は一変するだろう。変化を主導するのは技術革新だ。PCR、ワクチン開発、病床確保、臨床試験遂行などのすべてで、日本のコロナ対策は落第点だ。
ところが、このことが政府で問題視されることはない。技術開発に後ろ向きで、「勝負の2週間」などの精神論を重視する。このあたり「欲しがりません。勝つまでは」と言い続けた、かつての日本の姿と重なる。合理的でない対応は失敗する。日本のコロナ対策は抜本的な見直しが必要だ。その第一歩は感染ムラの解体だと私は思う。体制を刷新し、有能な人材を登用しない限り、日本の衰退は避けられない。