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長距離巡航ミサイル開発へ、米国とは異なるその目的

(北村 淳:軍事社会学者)
 防衛省は、「スタンドオフミサイル」の開発を決定した。日本政府の説明によるとスタンドオフミサイルとは、日本を攻撃しようとしている敵のミサイル射程圏外から、自衛隊員がそれらの敵を攻撃することができる兵器である。要するに、“長距離巡航ミサイル”のことを意味している。
 時を同じくしてアメリカでは、海兵隊総司令官が48セットのBGM-109G長距離巡航ミサイル(およそ30年前まで運用されていた核搭載型と
は一線を画した非核弾頭搭載型の新規開発モデル)の予算を請求している。海兵隊によると、BGM-109Gすなわち地上発射型トマホーク長距離巡航ミサイルは、「日本に前方展開している部隊をはじめとする海兵隊が、アメリカの主仮想敵となった中国軍と対決するために必要としている」兵器ということになる。
 強力な中国軍事力と対峙している日米両軍が長距離巡航ミサイルを調達しようとしているわけだ。ただし両国にとって中国軍事力と対峙する意味合いは異なり、長距離巡航ミサイルの配備目的も大いに異なる。
バーガー司令官が進める“革命的”大改革
 トランプ政権がアメリカの国防戦略を大転換し、アメリカの主たる仮想敵の筆頭を中国、続いてロシアと設定したため、軍当局はそれぞれの基本戦略や組織編成それに装備調達方針などを大幅に変更し始めた。
 海兵隊でも総司令官デイビッド・バーガー大将が陣頭指揮を執り、戦略・組織・装備の抜本的改革を進めている。
 この大改革を一言で言うならば、水陸両用能力という機動力に秀でた海兵隊の特性を生かして、中国との対決に勝利するための“革命的”大改革ということになる。
 中国との間で想定される戦闘では、これまで海兵隊が“表看板”に掲げてきた強襲上陸作戦は不可能である。この意味では、在沖縄海兵隊は、現状では対中抑止にはなっていない(参考:『沖縄のアメリカ海兵隊は抑止力にはならない』)。
 そこでバーガー総司令官が採用した方針の1つは、地対艦攻撃兵器(長射程ロケット砲や地対艦ミサイル)を装備した海兵隊部隊が、第一列島線(九州~南西諸島~台湾~フィリピン諸島~ボルネオ島)上に緊急展開して、地上から東シナ海や南シナ海の中国艦艇を攻撃する態勢を固めて、中国艦隊の接近を阻止する方針である。
© JBpress 提供 第一列島線(First Island Chain)(出所:Wkipedia)
 海兵隊はこのような任務を遂行する部隊の編成を進めており、これまで保有していなかった地対艦攻撃兵器の調達を開始した(その反対に、戦車部隊は全廃されることとなり、近い将来には海兵隊から戦車が消滅することになっている)。
 こうした接近阻止戦略は、敵艦艇が接近してくるのを待ち受けて反撃するという受動的防衛策、日本的に言うと専守防衛策ということになる。逆に言うと、敵が迫ってこなければ何もできない防衛策である(参考:『トランプと自衛隊の対中軍事戦略』講談社α新書参照)。
 ところが、アメリカの軍事戦略は伝統的に「攻撃は最大の防御」であって、専守防衛的な接近阻止態勢にとどまることはしない。
 万が一にもアメリカが中国との戦闘に踏み切った場合には、アメリカの先鋒部隊である第一列島線上に緊急展開した海兵隊が、中国艦隊の接近を待って長射程ロケットや地対艦ミサイルで応戦する以前に、BGM-109Gを発射して中国本土の戦略要地を叩き潰す作戦を実行することになる。
 この海兵隊による接近阻止用地対艦攻撃兵器の予算は、連邦議会によって承認される見込みであるが、BGM-109Gの予算請求の承認は難航しそうな状況である(この問題についても、稿を改めて論じたい)。
日本の長距離巡航ミサイルは報復攻撃用
 かねてより長距離巡航ミサイルの必要性を主張していた筆者としては、日本国防当局が開発する長射程ミサイルは、BGM-109Gトマホークミサイルと同等かそれ以上の性能を有するミサイルが望ましいと考えている(参考:『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』講談社α新書)
 同時に日本国防当局に求めたいのは、「スタンドオフミサイル」などという表現を用いてコソコソと装備化を進めるのではなく、「なぜ自衛隊が中国本土や朝鮮半島を攻撃可能な長距離巡航ミサイルを装備する必要があるのか?」を明解に説明して、堂々と開発と調達を進めることである。駆逐艦やフリゲートを“護衛艦”、ヘリコプター空母を“ヘリコプター護衛艦”と呼ぶような姑息な手段を用いるべきではない。
 日本が中国本土や朝鮮半島を射程に収める長距離巡航ミサイルを保有する目的は、中国本土を先制的に攻撃しようというアメリカ海兵隊とは全く異なる。日本にとっての目的は、限定的とはいえ報復攻撃力を手にすることによって、対日攻撃を躊躇させる抑止力を自ら手にするためである。
 もし日本が中国、北朝鮮、ロシア、韓国といった隣接国に軍事攻撃された場合、「専守防衛」ならびに「アメリカが矛、日本は盾」といった方針の下に整備が進められてきた自衛隊には、効果的な報復攻撃を実施する戦力はほぼ存在しない。それらの隣接国は全て日本全域あるいは大半を射程圏に収めている対地攻撃用長射程ミサイルを運用中だ。そのミサイルを撃ち込まれたとしても、あくまで報復攻撃はアメリカ軍の役割であり、アメリカが代理報復をしてくれない場合には日本は「やられっぱなし」という状態である。
 だが今後、日本が高性能長距離巡航ミサイルを開発して、数百発を配備した場合(同時に自前の衛星測位システムや早期警戒監視衛星網などを整備させる必要もあるが)、いずれかの近隣国が対日軍事攻撃を行った際には、自衛隊はそれらのミサイルで敵の政治軍事的指導部に対するピンポイント報復攻撃を実施して敵の指導神経中枢を麻痺させることが可能になる。もし敵が卑劣にも日本の原発を攻撃した場合には、こちらも敵の原発に対する報復攻撃を敢行できる。
 このような報復攻撃能力は、核報復攻撃能力に比べれば限定的と言わざるを得ない。だが、「やられっぱなし」で、唯一の望みはアメリカによる代理報復攻撃、といった惨めな現状に比べれば、確実に「ある程度の抑止力」を自ら手にすることになる。
 報復攻撃というのは、敵が日本を攻撃しない限り絶対に発動され得ない。ということは、報復攻撃のためのスタンドオフミサイル、すなわち長距離巡航ミサイルは「専守防衛」の原則をも満たしていることにもなるのである。