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安倍総理の志は死なない!!

日本はマシ?「コロナ規制で暴徒増」欧州の混迷

ドイツは規則順守を拒否する人の刑務所を開設
安部 雅延 : 国際ジャーナリスト(フランス在住)
2021年02月07日
新型コロナウイルスの感染拡大に追い打ちをかける英国や南アフリカ発の感染力の強い変異種が猛威を振るう欧州。ワクチン接種の遅れもあり、経済回復にも暗雲が立ち込めている。
人口100人当たりのワクチン接種回数は、アメリカの10.6回、イギリスの16.1回に比べ、欧州連合(EU)域内では、スペイン3.9回、イタリアが3.7回、ドイツ3.4回、フランス2.8回(Our World in Dataより、2月3日時点)と少ない。
世界に先駆けて接種段階に入ったアメリカのファイザー社とドイツのバイオンテックの共同開発したワクチンだけでなく、イギリスのアストラゼネカをはじめ、アメリカのモデルナが開発したワクチンなどのEU供給は大幅に遅れている。EU域内で製造されるワクチンがEU域外に供給されていることにいら立ったEUは輸出規制を打ち出した。
先進国の中でも経済の落ち込みが大きい
EU経済はコロナ感染拡大を抑え込めず、ワクチン接種の遅延もあり、今年の力強い経済回復が予想される米中に大きく後れを取りそうだ。EU統計局(ユーロスタット)が発表した2020年10~12月期のユーロ圏のGDP(速報値)は、前期比0.7%減、2020年通年では6.8%縮小した。
一方、アメリカは通年で3.5%減にとどまり、中国は通年で約2.3%のプラス成長を確保した。
欧州のエコノミストたちは、EUは世界の先進国の中で経済回復が最も遅く、ユーロ圏が今後数カ月で再びリセッション(景気後退)に入るとまで予想している。EUは、大規模な雇用助成金などの雇用維持制度によって短期的に大量失業者を出していないが、今年は航空産業などで大幅な人員削減が計画されている。
しかし、何といってもEU域内の問題は、コロナ対策や景気回復に対する政治不信が高まり、政府の要請に国民が従っていないことだ。世界的に見てもロックダウン(都市封鎖)や夜間外出禁止措置、大型店舗の封鎖や入店制限、違反した場合に高額の罰金を科すなど厳しいコロナ対策には、国民の理解と協力が不可欠だが、それ自体が危機にさらされている。
第2次世界大戦以降、初めて夜間外出禁止令が出されたオランダでは1月下旬、3夜連続で政府に対する無許可の抗議デモが行われた。


欧州各国で抗議デモが頻発している(写真:ロイター/アフロ)
逮捕者は400人を超え、アムステルダムやロッテルダムなどの都市では、店舗の窓ガラスが割られ、略奪行為が起き、路上に駐車していた車も放火された。
政府はデモ隊の一部暴徒化した者たちを「悪党」と呼んで非難した。
一方、隣国ベルギーではオランダの抗議デモを受け、当局が厳重な警戒態勢を敷いていた。それにもかかわらず、首都ブリュッセルの2カ所で1月31日、飲食店閉店や夜間外出禁止などの措置に抗議する無許可のデモが発生。一部が爆竹を投げるなど暴徒化したため警察発表で488人の身柄を拘束した。
オーストリアの首都ウィーンでも1月16日、新型コロナウイルス対策の制限措置に抗議する1万人規模の首相の辞任を求めるデモが行われた。昨年3月以降、3度目のロックダウンで国民生活に制限が加えられているオーストリアでは、生活必需品を扱う小売店以外の店舗やコンサートホール、スポーツセンター、学校も閉鎖された。参加者は「政府発表の感染死者は信じられない」「強権発動は中国と同じ」などと非難した。
昨年はドイツやイタリアでも、政府の厳しいコロナ対策に抗議して、何度も無許可の抗議デモが起きている。理由はロックダウンや夜間外出禁止令だけでなく、マスク着用の義務化で違反者に罰金を科すことなどに合意できない人々が抗議している。
フランスで高まるマクロン大統領への不満
一方、フランスでは毎週末、さまざまな抗議デモが断続的に行われている。2月4日には職場を問わず、雇用・労働環境の改善を求める抗議デモが全国規模で行われた。1月23日にも同様の目的のデモに加え、コロナ禍で解雇された従業員によるデモ、1月30日には総合治安法案に反対するデモも行われた。
そんな中、フランスで来年春に予定される大統領選挙で、2017年の大統領選でマクロン現大統領と決選投票を戦った極右・国民連合(RN)のマリーヌ・ルペン党首(52)への期待が高まっている。マクロン氏のコロナ対策、経済政策への不満が追い風になっている形だ。
1月27日付の仏日刊紙パリジャンが明らかにしたハリス・インタラクティブの世論調査結果では、再選に意欲を見せるマクロン大統領と、出馬が予想されるルペン氏が前回と同じように決選投票に進んだ場合、ルペン氏に投票すると回答した人は48%と、マクロン氏の52%に肉薄している。
ルペン氏は2月1日、フランス政府が打ち出したコロナ対策のための国境封鎖措置について、決断が遅く「無駄な時間を過ごした」と非難し、「私は当初から国境閉鎖が最も効果的と主張してきた」と政府を非難した。
フランスでは2018年11月から長期にわたって、反政府運動の「黄色いベスト運動」が続き、マクロン氏が公約に掲げた失業率の抑制はコロナ禍で挫折した。2017年の下院選挙で圧倒的多数の議席を獲得した自身が立ち上げた中道の共和国前進(LREM)は、今は過半数割れ状態にある。
昨年秋、イスラム分離主義のテロが連続して起き、英国のEU離脱後、反EUのポピュリズムがEUでは息を吹き返している状態だ。
EUのコロナ・パンデミックの起点となったイタリアでは、2月5日時点で累計8万9820人の感染死亡者が記録された。1月26日にはコンテ首相が辞任し、暫定政権の首相に欧州中央銀行前総裁のマリオ・ドラギ氏が就任する流れにあるが、国民の政府への不信感は高く、政権運営は容易でないと見られている。
イタリアのマッタレッラ大統領は「今後、数か月がウイルスに打ち勝つか敗れるかの瀬戸際で、機能する政府が欠かせない」と述べている。
有効な対策を打てないEUへの不信感も高まる
実はEUに対しても不満の声があがっている。まず、イタリアで1年前に感染が本格化した当時、EUは迅速な対応を取らず、感染症対策は各国に委ねられた。特にEU域内では人と物の自由な移動が認められていることから、感染の水際対策としてはEU域外からの入国を禁止するのが最も有効と専門家が指摘していたが、今日まで実行されていない。
EUとしてはコロナ禍の経済ダメージからの復興基金の創設とワクチン確保しか行っていない。ワクチン確保で遅延が明らかになる中、EUはあてにならないとして、ハンガリーがロシア・ワクチンの受け入れを表明、スペインも拒まないとして、EUのワクチン政策の枠外の動きを強めている。イタリアが今後、中国ワクチンを受け入れる可能性もある。
つまり、コロナ危機に対して、EUが有効な対策を打てないという不信感が高まっている。
フランスが極右政党に期待感が高まるのとは逆に、ドイツではギリシャ財政危機に始まったユーロ不安、2015年から押し寄せた大量難民によって勢力を拡大した排外的な右派ポピュリズム政党、ドイツのための選択肢(AfD)が支持率を落としている。コロナ禍で移民、難民への国民の関心が薄れているためだ。
とはいえ、メルケル政権のコロナ対策に不満の声も絶えない。ドイツ北部シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州の小さな町には、コロナ対策の規則の順守を拒否する人々を収容するCOVID刑務所を開設した。
目的はPCR検査で陽性が確認された人が自宅隔離を拒否した場合、外出不能な少年拘置所の別館に収容するというものだ。人権侵害との批判もあり、実際には使用頻度は低くても当局は「抑止になる」と説明している。
コロナ対策には国民の理解と政府への信頼が不可欠
フランスでは内務省の発表で昨年10月末から始まった2度目のロックダウン措置で2週間で22万5000件の違反・罰金が科されたことを明らかにしている。今年1月16日に導入された18時からの夜間外出禁止令では最初の3日間だけで6000人を上回る違反者が罰金を科されたことが明らかになった。昨年12月15日以降、191回の闇パーティーが確認されている。
筆者の周辺でも、コロナを恐れないフランス人は多い。政府の対策を批判し、馬鹿にする声も多く聞かれる。大手IT企業に勤める友人は「政府は嘘の数字を並べている」「対策はやりすぎで国民から自由を奪いながら、結果を出せていない」などと言っている。
国民生活を大きく制限するコロナ対策には、国民の理解と政府への信頼が不可欠だ。欧州では、その信頼が揺らいでいることを肌で強く感じる。日本よりはるかに厳しい罰則を伴った公衆衛生上の規則を設け、同時に手厚い経済補償も行っているが、感染は抑えられておらず、将来不安は高まる一方だ。ワクチン接種や景気回復が遅れるほど、事態はさらに深刻化する可能性もある。
日本では欧州のような抗議デモや参加者の一部が暴徒化するといった事態は起こっていないとはいえ、日本政府は他山の石とする必要がある。