Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

観光業はもう"GoTo再開"をあきらめるべきだ

名門グランドパレスが「営業休止のお知らせ」
1970年代から1990年代にはプロ野球・ドラフト会議の会場として知られ、1973年にはのちに韓国大統領になった金大中拉致事件の舞台ともなった東京・千代田区のホテルグランドパレス。ここが東京五輪前の7月に営業を休止することを決めた。
1972年に皇居前のパレスホテル東京の姉妹ホテルとして地下鉄九段下駅近くに開業した。東京駅や渋谷、新宿など駅に直結したターミナルから離れていることもあって、現下の利用客は例年の約3割まで落ち込んでいた。
地方でも老舗の名門ホテルの廃業が目立ってきた。
創業50年を迎えた鹿児島県の霧島国際ホテル(霧島市)が5月20日で営業を終える。幕末の志士、坂本竜馬が新婚旅行で利用したことでも知られ、露天風呂や地熱を活用した発電施設を備えるなど九州を代表するホテルだが、客足が戻らず、惜しまれながら店を閉める。
北海道を代表する野口観光でも、函館市にある湯の川温泉の湯元啄木亭を2月末まで休業する。洞爺湖畔亭では1月後半は土曜日のみ営業し、2月前半は休館する。温泉地やスキー場といった冬のかき入れ時の行楽地での落ち込みが目立つ。
東京商工リサーチによると2020年、負債額1000万円以上の宿泊業の倒産件数は2019年比57%増の118件で、7年ぶりの高い水準となった。全業種の倒産件数が7%減だったのに比べると業種別では突出する。
ANAもJALも前年比大幅減で低迷が続く
インバウンドでついこの間まで空前の活況を呈していた航空業界も、新型コロナウイルスの感染拡大によるダメージは深刻だ。
ANAホールディングスがこのほど発表した2020年10~12月期の連結決算は、最終損益が1210億円の赤字(前年同期は296億円の黒字)だった。Go Toトラベルの効果で10~12月の国内線旅客数は523万人と、7~9月から5割増加したが、国際線や国内のビジネス需要は低迷が続いた。先行きも不透明で国際線旅客数は12月時点で前年比94%減と低迷が続く。
政府による緊急事態宣言で国内でも需要が再び冷え込んでいる。2021年3月期通期の最終赤字の予想は5100億円に上る。期末までに営業キャッシュフローの黒字転換を目指していたが、「年度末の段階でプラスに転じるのは難しい」(ANA幹部)と肩を落とす。
JALも状況は同じで4~12月期は3000億円前後の営業赤字(前年同期は1201億円の黒字)となる見通しだ。2012年の再上場後、初めて営業赤字となる。通期も3500億円の赤字となりそうだ。
業界がすがる菅首相-二階幹事長のトップライン
壊滅的な業績悪化に見舞われている旅館やホテル、旅行会社、航空業界――。これら観光を巡る業界がすがるのが菅義偉首相-二階俊博自民党幹事長の、いわゆる「運輸・観光族」のトップラインだ。このうち、菅政権の「生みの親」とも言われる二階幹事長を頼る業界の思いは日に日に募る。
二階氏は全国5500社もの旅行業者を束ねる全国旅行業協会(ANTA)の会長を1990年から30年も務めている。昨年3月には新型コロナ感染で落ち込む旅行需要を喚起するためにANTAをはじめとする業界関係者が自民党の「観光立国調査会」で、観光業者の経営支援や観光需要の喚起策などを要望した。同調査会の最高顧問は二階氏だ。
この要望を受けた二階氏が政府に「命令に近い形で要望したい」と発言したことがGo To構想が始まったきっかけと言われる。同調査会は、最高顧問の二階氏の下に、会長は二階氏の最側近で知られる林幹雄幹事長代理、事務局長は二階氏と同じ和歌山県選出の鶴保庸介参院議員が務め、二階氏周辺がトップを独占する「観光族議員」の総本山だ。
自民党観光立国調査会と「ツーリズム産業共同提案体」の関係
さらにANTAに加え、日本旅行業協会(JATA)、日本観光振興協会という3つの社団法人と、JTB、KNT-CTホールディングス、日本旅行、東武トップツアーズの大手旅行会社4社など合計14団体から構成される「ツーリズム産業共同提案体」という団体がある。
この団体がコロナ対策費の倍となる総額1.3兆円にも上るGo Toトラベルキャンペーンの予算のうち、1895億円分の事業を受託している。「この共同提案体は二階氏がトップの自民党観光立国調査会に長年、献金している」(旅行業界関係者)という。
二階氏は運輸大臣を務め、観光行政に強い影響力を持つことで知られる。
JR東日本OBによれば、菅首相も「中央政界に出るときに国鉄分割民営化で運輸事務次官からJR東日本の初代社長に転じた住田正二氏や、その後を継ぎ国鉄改革三羽烏の一人であった松田昌士元会長・社長に世話になったことが知られる。JR東日本の職域団体である『東日本ときわ会』が職員を総動員し、菅氏の選挙の実働部隊となったという深い関係がある」のだという。
コロナ前にひねり出した誘致施策がカジノと関西万博
独立行政法人の日本政府観光局(JNTO)の現在の理事長もJR東の社長・会長を務めた清野智氏だ。観光庁が年間90億円程度の運営交付金をJNTOに拠出するが、その事業委託先のほとんどはJTBとなっている。そして、そのJTBの筆頭株主はJR東で、JTBのトップ人事などはJR東の了承がないと決まらない。
菅―二階両氏が張り巡らす運輸観光業界の「利権」の構図は、運輸・観光業界に根深く浸透している。政府関係者が「コロナがまん延しているのにもかかわらず、Go Toキャンペーンの継続にこだわった理由は、まさにこの利権構造にある」と解説するように、この関係は周知の通りだ。
日本の運輸・観光業界は自民党トップ、ナンバー2と「持ちつ持たれつ」の関係でコロナ禍前でも一緒になってさまざまな施策をひねり出し、その恩恵にあやかろうとした。その象徴が全国にカジノなどを誘致してインバウンドをさらに増やそうとしたIR(統合型リゾート)での一連の政策や関西万博の誘致・開催だ。
「カジノのラストリゾート」と呼ばれる日本市場開拓のカード
菅首相が執心したのが地盤である横浜市へのIR誘致だ。
IRは新型コロナウイルス感染の拡大で今や風前の灯だが「東京都心に近い横浜は日帰りで外国人が来ても宿泊するのは東京と、経済効果が出ないことから、カジノを誘致することで宿泊客の増加を狙った」(横浜市議会関係者)とされる。
さらに菅氏が横浜へのIR誘致にこだわったのは、安倍政権時の官房長官時代に、「米トランプ大統領(当時)の最大のスポンサーだったカジノ王、シェルドン・アデルソン氏率いるラスベガス・サンズの日本進出への意向も働いた」(自民党関係者)という解説もある。
当時、アメリカファーストを掲げて貿易赤字相手国であった日本に対して厳しい態度を取ろうとしていたトランプ氏に対して、「カジノのラストリゾートと呼ばれる日本市場開拓のカードを切って、トランプ氏を取り込むと同時に、横浜へのカジノ誘致で地元に新たな利権を作る思惑があった」(同)というものである。
和歌山が地盤の二階氏は「大阪万博」に期待大
一方、和歌山が地盤の二階氏もIR誘致に加え、大阪万博の実施を確実にするために「万博担当相」を菅政権に置いた。大阪万博が盛り上がれば、二階氏の地盤である和歌山にも恩恵が見込めるほか、「二階氏の作品」とも呼ばれる関西国際空港へのインバウンド復活も見込める。
しかし、こうした自民党・菅-二階両氏の「族議員」による業界への肩入れや、政府による業界振興は「業界が自ら業績拡大に取り組む主体的な姿勢を退化させた」(大手証券アナリスト)との指摘も出ている。
菅首相は官房長官時代に、外国人観光客の誘致に向けて世界の一流ホテルを国内に50カ所設ける考えを表明していた。その財源として財政投融資を活用して、国内で多くの消費活動が見込める海外富裕層を呼び込みやすい環境を整えるというプランを打ち出していたが、ものの見事にコロナウイルスがこれを打ち砕いた。