ネコウヨの散歩

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グローバルダイニングの東京都提訴が、「小池劇場」の幕を開けかねないワケ

グローバルダイニングが都を提訴
反旗を翻す飲食店が続出か
「欲しがりません、勝つまでは」と言わんばかりに、お国のためにただひたすら自己犠牲と我慢を強いられてきた飲食店から、怒りと不満の声が上がっている。
《「いじめとしか」「脅迫だ」店名公表に罰則…飲食店悲鳴》(朝日新聞1月7日)
 この1年、飲食店は新規感染者が増えるたびに「容疑者」扱いされてきたが、ここにきていよいよ「罪人」扱いされるようになってきたからだ。
 罪人が増えれば当然、「見せしめ」にされる者も現れる。日本の行政内部には伝統的に、「罪人は犯罪抑止のために晒し者にしてOK」という暗黙のルールがある。
 たとえば、今は警察に逮捕・勾留された容疑者が取調べで検察へ送られる際、ブルーシートなどでその姿が隠されているが、昭和の時代はマスコミの前でも普通に手錠・腰縄姿で歩かせ、護送車に乗せていた。記者たちはこのストロークをつかって容疑者の姿を撮ってもいいという、紳士協定があったのだ。
 これは、当時は人権意識が低かったというだけの話ではない。江戸時代の「市中引き回しの上打首獄門」の流れを汲むカルチャーで、警察組織としても、罪人をマスコミを使って「晒し者」にすることで、犯罪抑止につなげたいという狙いがあった。
 事実、筆者も20年以上前、ある大きな事件で、どこのメディアにも顔がまったく出ていない犯罪者の「ガン首」(顔写真)を、警察幹部からこっそり頂戴して世間に公表したことがある。なぜこの人がそんな情報漏洩をしたのかというと、「こんな事件が二度と起きないよう、犯人の姿をしっかり公表すべきだ」という義憤からだ。
 そんな江戸時代から脈々と続く日本の行政の「見せしめカルチャー」が、令和の時代もまったく健在だということを示しているのが、東京都によるグローバルダイニングへの時短命令である。
 時短要請の呼びかけをしているものの、それに従わないということで、27店舗が時短命令を下されたわけだが、なんとそのうちの26店舗がグローバルダイニング系列だったのだ。
 都内で要請に従わない飲食店は2000軒以上あると言われているにもかかわらず、ここまで露骨に同社が狙われたのは、「カフェ ラ ボエム」「モンスーンカフェ」「権八」など若者にも人気の店舗を多く運営していることもあるだろうが、「抑止」という狙いがあることは明白だ。
長谷川社長の過去の言動に見る
「狙い撃ち」された伏線とは
 この処分に対して「狙い撃ちにされた」と主張した同社の長谷川耕造社長は、東京都と小池百合子都知事を提訴したことで一躍「時の人」となったが、実はその前から一部ではその言動が注目されていた。
 政府の緊急事態宣言が発出された1月7日、「時短営業せず平常通り」とする公式見解をホームページに出し、政府・自治体のコロナ対策を痛烈に批判していたからだ。
「医療崩壊、本当なのか疑問に思っています。冬にウイルス感染症は増えるのは自然の摂理。これに対して(パニックを起こして)、医療崩壊とおっしゃっている国や自治体の関係者、感染症専門家の方々は何の準備もしていなかった?死者数は米国などの約40分の1しかいないのに、なぜ医療崩壊?」
 実はこれは、日本医師会から億を超える献金と選挙協力をもらっている自民党と、同じく東京都医師会と良好な関係を築いている小池氏にとって、最も触れてほしくない話なのだ。
 このような「医師会ファースト」のコロナ対策への批判を公然と行い、時短営業にも従わないグローバルダイニングをこのまま野放しにしたらどうなるかというと、他の飲食店に示しがつかない。「なんだ、政府も東京都も大したことないな」と公権力がナメられると、長谷川氏と同じような動きをする飲食店経営者が増えてしまう恐れがある。
 これを防ぐには「罪人」として吊るし上げて黙らせるしかないというのは、容易に想像できよう。
 実際、グローバルダイニングに東京都から届けられた命令書には、「緊急事態措置に応じない旨を強く発信するなど、他の飲食店の20時以降の営業継続を誘発するおそれがある」という一文があったという。
 戦時中、街中で「竹槍なんかで勝てるわけねーだろ」とか「戦地からの噂じゃどこも日本軍はボロ負けだってよ」なんて演説をしようものなら、たちまち特高警察に連行され、凄まじい拷問を受け、家族や友人も非国民として石を投げられたものだが、それの「マイルド版」が令和日本でも絶賛継続中ということなのだ。
小池都知事にとって
ダメージはどれほど大きいか
 という話をすると、「こんな公平性に欠けた罰則の運用をしていたら、小池氏の政治生命に関わるのではないか」という印象を抱く方も多いだろう。実際、この件に関する報道で登場する有識者の中にも、裁判での判決はさておき、政治家・小池百合子にとってはダメージになるという見通しを持っている人が多い。
 ただ、筆者の考えはまったく逆だ。グローバルダイニングと長谷川社長には大変気の毒な話なのだが、今回の「見せしめ」批判が、現行のコロナ対策の方針転換につながることは難しい。むしろ、6月25日に告示される都議選前に仕掛けられる「小池劇場」に利用され、小池氏のリーダーシップを示す材料にされてしまうのではないかとみている。
 具体的に言うと、都民の命と健康を守るため、世論の反対を恐れずにコロナ対策を断行する小池氏を引きずり降ろそうとする「抵抗勢力」にされてしまい、結果として「コロナ対策で政府よりもリーダーシップを発揮する東京都知事」を輝かせる引き立て役にされてしまうのだ。
 なぜそのように思うのかというと、過去の実績による。これまで小池百合子という政治家は、「健康」「命」を守るという大義名分のもとで「飲食店イジメ」を正当化することにより、その政治力を拡大してきたという、動かし難い事実があるのだ。
 支持者の方から「小池氏を批判したいからって、ワケのわからない誹謗中傷をするな」と怒られそうだが、実は小池氏が都内の飲食店と敵対したことは、これが初めてではない。
受動喫煙防止条例で
小池氏を支えた勢力の正体
 勘のいい方はお気づきだろう。そう、小池氏がマニフェストの1つとして掲げ、2018年6月に制定された「東京都受動喫煙防止条例」だ。
「老人福祉施設、運動施設、ホテル、事務所、船舶、鉄道、従業員がいる飲食店など、多数の者が利用する施設等は原則屋内禁煙とします」(広報東京都平成30年8月号)とうたうこの条例が、愛煙家の天国だった居酒屋などから大不評だったことは、今さら説明の必要はないだろう。
 条例制定前には、東京都生活衛生同業組合連合会など、飲食関連団体の会員約200名が、都庁のある新宿区に集結して、「小池知事はわれわれを見捨てるな!」とシュプレヒコールを挙げ、制定前も施行前も以下のような批判が叫ばれていた。
《飲食業界が東京都の受動喫煙防止条例に悲鳴「禁煙か従業員解雇かの選択を迫るなんてあり得ない!」》(デイリーニュースオンライン2018年6月19日)
《20年4月の「受動喫煙防止条例」施行に飲食店経営者が悲鳴》(日刊ゲンダイ2019年5月15日)
 しかし、小池氏はこの飲食店からの悲鳴をスルーした。「殺す気か」「いじめだ」とどれだけ罵られてもこの条例を進めた。「そんなもん、飲食店の全面禁煙は世界でも常識なんだから当然だろ」という、嫌煙家の皆さんからの声が聞こえてきそうだ。もちろん、小池氏がそのような政治的信念のもとで、受動喫煙対策を進めたという考えを否定するつもりは毛頭ない。
 ただ、一方で「選挙戦略」という側面もあったのではないか。つまり、「飲食店を敵に回しても、それと引き換えに非喫煙者やファミリー層など有権者や医療関係者から強い支持を得られる」という確信があったからこそ、ここまで露骨に飲食店を冷遇できたのではないかということだ。
 実際、受動喫煙防止条例制定をマニュフェストに掲げた2017年7月の都議選で、小池氏が率いた都民ファーストの会は、追加公認も含めて55議席を獲得、公明党とともに過半数を占め、自民党は議席を半分に減らすなど歴史的な大惨敗を喫した。
 このオセロのような鮮やかな権力交代劇を後ろで支えたのが、実は東京都医師会だったということは、あまり知られていない。
 日本医師会は、かねてから受動喫煙防止を強く訴えていたが、自民党東京都連は後ろ向きだった。支持者の中には飲食店も多くいるし、何よりも自民党内には、タバコ農家や販売業者などタバコ関連業界を支持基盤とする、いわゆる「タバコ族」も多く存在していたからだ。では、その弱点を突いて、野党が受動喫煙防止を掲げられるかというとそうでもない。旧民主党勢力はJT労組の影響を色濃く受けるからだ。
 つまり、これまで既存政党は、大人の事情で受動喫煙対策を声に大にして主張できなかったのだ。その「空いた席」に颯爽と現れたのが、小池氏率いる都民ファーストの会である。日本医師会にとって、小池氏は長く待ちわびた「医師会ファースト」の政治家だったのだ。
 このあたりは、2017年5月にダイヤモンド・オンラインに掲載した『小池都知事が仕掛ける「たばこ戦争」の裏にあるしたたかな戦略』という記事で詳細を述べているので、興味のある方はぜひ読んでいただきたい。
「飲食店イジメ」で勢力を拡大
今回の都議選で勝利の再現を狙うか
 さて、ここまでお話をすれば、小池氏が「健康」「命」を守るため、「飲食店イジメ」を推進することでその政治力を拡大してきたと述べたのが、事実無根の誹謗中傷などではないことが、ご理解いただけたのではないか。
 前回の都議選で、小池氏は飲食業界やタバコ業界を敵に回したが、「タバコの害から健康や命を守りたい有権者」と東京都医師会からの力強い支持を得て、見事に大勝した。
 今回の都議選でも、この勝利の法則は使えるはずだ。つまり、飲食業界や外食を楽しみたい人たちを敵に回しても、「コロナから健康や命を守りたい有権者」と東京都医師会からの力強い支持を得れば、4年前の圧勝を「再現」することができるのだ。
みんなが踊らされながら
「小池劇場」の幕が上がる
 そのような「小池劇場」の理想的なシナリオを考えていくと、実は今回のグローバルダイニングへの「露骨な狙い撃ち」にも、何か意味があるような気がしてしまう。
 森喜朗氏の差別発言後、小池氏が絶妙なタイミングで4者会談を欠席すると表明したことを受け、橋下徹氏が、「あの振る舞いは政治家としては本当にピカイチ」と称賛したように、小池氏が本当に恐ろしいのは、世論の動向を瞬時に察知して、政治家としての自身の評価につながるポジショニングができることなのだ。
 そこで奇妙なのは、そんな抜群の政治センスを誇る小池氏が、大事な都議選の直前にグローバルダイニングをここまで露骨に狙い撃ちするのか、ということだ。嫌がらせや批判を封じ込めるにしても、「27店舗中26店舗」は明らかにやりすぎだ。世間に対して、「私はグローバルダイニングにケンカを売っています」と高らかさに宣言しているようなものである。
 だからこそ、長谷川社長は売られた喧嘩を買ったわけだが、そのアクションは結局、「小池百合子」というリーダーに人々の注目を集めている。
「コロナ対策でリーダーシップを発揮していない」と叩かれる菅首相よりはるかにスポットライトが当たっている。飲食店に時短を徹底させるその姿は、コロナが怖くてたまらないという人たちの目に、「小池氏はかなり頼もしいリーダーだ」と映るはずだ。
 つまり、グローバルダイニングへの「露骨な狙い撃ち」によって、確かに小池氏は「敵」を増やしたが、一方で「コロナから健康や命を守りたい有権者」のハートをがっちりと掴むことに成功した側面もあるのだ。
 支持率急落の菅政権の解散戦略にも影響を与えるほど、恐れられている「小池劇場」。我々観客が気づかないだけで、実はすでにその幕は上がっているのかもしれない。
(ノンフィクションライター 窪田順生)