Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

米国の真意「日本も中距離ミサイルの配備を」

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)
 菅義偉首相の訪米によるバイデン大統領との日米首脳会談では、中国の膨張に対する日米共同の防衛態勢強化が主要議題になるとみられる。日本周辺で中国の軍事的脅威が深刻さを増すなか、米国議会が超党派で、中国の圧倒的な物量のミサイルに対抗する中距離ミサイルの開発・配備を日本に期待していることが明らかとなった。
日本の中距離ミサイル開発を米国が支援
 米国側の日本に対するこの期待は、4月8日に米国議会上院に提出された「2021年戦略的競争法案」のなかで明記された。
 法案を提出したのは、上院外交委員会の委員長、ロバート・メネンデス議員(民主党)と同委員会の筆頭メンバー、ジム・リシュ議員(共和党)である。2人による共同提出だが、主導したのは民主党のメネンデス議員であるため、同じ民主党のバイデン政権の意向も広範に盛り込んでいるとされる。
 第1次草案でも合計280ページ以上に及ぶ同法案は、中国を米国の中期、長期の最大の競合相手と位置づけ、インド太平洋地域で、日本やインドといった同盟国、友好国と連帯して中国の無法な膨張や活動を抑止するための包括的政策の採択を米国政府に求めている。
 その中で、米国のインド太平洋における防衛協力のパートナーとして日本を第一に挙げ、「日本の長距離精密打撃兵器や、その弾薬、防空・ミサイル防衛の開発への、米国の支援が欠かせない」と強調していた。
 議会筋の説明によると、ここで言う「長距離精密打撃兵器」とは、これまで日本が保持してきた短距離ミサイルよりも射程距離の長い中距離ミサイル(国際的には射程3000~5500キロとされる)を意味し、その主体は地上配備の弾道ミサイルだという。
日米首脳会談で議題になる可能性も
 中国は、日本周辺の西太平洋地域で1000基を超える地上配備の中距離弾道ミサイルを配備し、日本全土だけでなくグアム島の米軍基地までも射程におさめている。一方、米軍の同クラスの弾道ミサイルの地上配備はゼロに近いままである。
© JBpress 提供 中国建国70周年記念の軍事パレードで初公開された新型大陸間弾道ミサイル (ICBM)「東風-41」(資料写真、2019年10月1日、写真:新華社/アフロ)
 この不均衡は、東西冷戦時代に米国がソ連との中距離核戦力(INF)全廃条約によりこのクラスの地上配備の中距離弾道ミサイルを全廃したことで生じ、以来そのままとなってきた。
 米国のトランプ前政権は、ソ連を継承したロシアの違反行為と中国の中距離ミサイルの脅威増大を理由に、INF全廃条約を破棄した。それ以来、トランプ政権では東アジア、西太平洋での中距離ミサイルの不均衡を是正するための諸政策が検討され、同盟国の日本に米軍の中距離ミサイルを配備する案や、日本に中距離ミサイルの開発と配備を促す案などが検討されるようになった。
 バイデン政権も同じ方針を踏襲しており、米軍当局はバイデン政権下でも日本の中距離ミサイルの開発と配備を推奨してきた。今回の議会での「2021年戦略的競争法案」はこうした背景を踏まえて、米国議会での民主、共和両党の共通の意向として、米国が日本の中距離ミサイルの開発と配備を支援することを明記したわけだ。
 茂木敏充外相らによると、現時点ではバイデン政権が日本政府に公式にその意向を伝えたことはまだないという。しかし今回のワシントンでの日米首脳会談では、バイデン政権側が非公式にせよ「日本の中距離ミサイル配備」を提議し、議題になることも考えられるという。