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安倍総理の志は死なない!!

小池知事、都の「感染防止ステッカー」掲示店でクラスター発生でもパフォーマンスに終始

東京・江戸川区のフィリピンパブで、小池百合子都知事肝いりの「感染防止徹底宣言ステッカー」を掲示していたにもかかわらず新型コロナウイルス感染者のクラスターが発生した。ところが小池知事は店側や客を批判するだけで、実効性を担保できないステッカーの仕組みを見直すつもりはない。引き続き“Tシャツ”や人気ユーチューバーを起用したパフォーマンスに終始している。(ダイヤモンド編集部 岡田 悟)
ステッカーTシャツ“撮影会”の翌週に
掲示していたフィリピンパブでクラスター

 東京・丸の内の低層オフィスビル。年季は入っているが十分に手入れされ、今も大手コンサルティング会社や法律事務所が入居している。そして地下1階には主にビジネスパーソン向けのさまざまな飲食店が並ぶ。
 8月中旬、お盆の時期でもあり客はまばらだったが、店によっては数人の若い男女のグループが和気あいあいと酒を酌み交わしていた。もちろん、マスクはしていない。
 下の画像は、新型コロナウイルスの感染予防のため厚生労働省が8月から放映を始めたCM動画だ。飲食店で若い男性の口から飛び出した飛沫をイメージした色のついた空気が、隣や正面にいる知人の顔に降りかかるインパクトの強い動画だ。
 CMでは最後に、東京都が普及を呼びかけている「感染防止徹底宣言ステッカー」を例示し、「感染防止の不十分なお店の利用は避けましょう」と結んでいる。
 冒頭の丸の内のオフィスビルの地下ではほとんどの飲食店で、都のステッカーを掲示していた。そうした店で、厚労省のCMに出てくるような飛沫を避けられないような至近距離で、和気あいあいと酒と食事を楽しむ若者の光景が見られた。
 小池知事があの手この手で普及をアピールしてきた肝いりのステッカーが、店舗の対策をチェックする仕組みがなく有名無実化している実態は、当サイトの記事『小池知事「感染防止ステッカー」の有名無実、伊勢丹新宿本店で露呈』で指摘した。
 それでも小池知事は8月7日の記者会見で、ステッカーがプリントされたTシャツを着用する姿を披露。会見後にはカメラマンの求めに応じて、即席のTシャツ“撮影会”まで実施した。その一方で、報道陣から再三問われていたステッカーの実効性については説明せず「今朝の時点でのステッカーの掲示枚数は約16万7000枚に達しております」などと枚数に言及しただけだった。
店側を痛烈に批判して責任転嫁する小池知事
対策をしていたと報じられ今度は客を批判

 ステッカーを正面玄関に掲示しているにもかかわらず、感染予防の取り組みが不十分だと前回の記事で指摘した伊勢丹新宿本店では、小池知事がTシャツを披露したまさにその日、伊勢丹を象徴する緑地にチェック柄などの模様が入ったエコバックの即売会を本館地下1階の食料品売り場で開催。客が殺到し、一時は特設カウンターが「三密」状態になっていた(下写真)。
 ステッカーの実効性が問われたのは、8月12日に露呈した、東京・江戸川区のフィリピンパブでのクラスターの発生だった。この店ではステッカーを掲示していたにもかかわらず、客と従業員計8人が感染した。
「中には(感染予防対策を)実践もせずに、ただ貼ってつけておけばいいや、みたいな事業者がいないとは限らない。そして現実に、今回起こったわけです」――。翌13日朝、都庁入庁時のぶら下がり会見で小池知事はこう言い放ち、フィリピンパブを痛烈に批判した。
 ところが同日、店側は十分な対策を取っていたが、従業員に対してフェイスシールドを外すよう求める客がいたなどとする江戸川区の見解が報じられた。すると、小池知事は発言を翻す。午後の会見では、朝の発言などなかったかのように「利用客には、大声で話して飛沫が飛ばないようにするなどの認識も必要だ」などと、一転して今度は利用者側を批判した。
 そもそもコロナウイルスは飛沫感染が中心であり、対策を十分にとっていたとしても限界がある。こうした接待を伴う店舗の従業員が、店舗以外で感染してしまう可能性も否定できない。
 店舗で対策をしてもなお感染者を出してしまった結果、東京都のトップから「(ステッカーを)ただ貼っておけばいいや、みたいな事業者」と痛罵されては、店側はまさに立つ瀬がないという心境であろう。
 もちろん小池知事が言うように、まともな対策をせずにステッカーだけを貼っている店は存在する。それはそもそも、都が対策をチェックしない仕組みになっているからだ。だからこそ、対策の中身を確認して実効性を担保する仕組みが不可欠なのである。
フワちゃん動画で相変わらず“普及啓発”
警察官立ち入りでグレーな対策を強調

 ところが小池知事は14日の記者会見でも、人気ユーチューバーのフワちゃんを起用したステッカーの掲示を呼び掛ける動画をアピールするなど、相変わらずパフォーマンスには余念がなかった。その一方で、ステッカーの実効性を担保するまともな施策は説明されなかった。都の職員による抜き打ちの訪問にも触れたが、マンパワーを考えれば効果はかなり限られる。
 また小池知事がこの日の会見で繰り返し強調したのが、風営法に基づく警察官による店舗への立ち入り調査だった。
「昨日錦糸町において、警視庁の風営法による立ち入りの実施に合わせ、店舗の了解を得ながら、都の職員が、ガイドラインがちゃんと徹底されているのか、ステッカーを掲示している店舗に対して、感染防止策の実施状況の確認も行ったところでございます」――。小池知事はこう説明した。警察官に都の職員が同行した立ち入り調査は、14日時点で6回、計70店舗に行われたという。
 ただし警察が所管するのはあくまで風営法で、同法を基に感染症予防に関する調査はできない。都の職員が同行し、いくら店の“了解”を得ていたとしても、警察権の行使をちらつかせてプレッシャーをかけつつ予防対策を迫る手法は、法的にはグレーであるとの批判が警察関係者や専門家から上がっている。
 そもそもステッカーを掲示している店は、風営法の取り締まり対象外の通常の店舗の方が圧倒的に多いであろうし、コロナの感染源は「夜の街」だけではなくなっている。警察官の立ち入り調査を強調するだけでは極めて不十分であるどころか、むしろ問題が多い。
 一方でインターネットでは、入り口に堂々とステッカーを掲示している性風俗店の画像が掲載されていたりもする。小池知事が「東京都を虹色のステッカーで埋め尽くす」と語った末のこの結果を、一体どう考えればいいのだろうか。
 なおステッカーのダウンロードが可能になったのは6月12日だが、関係者によると、実は都の事務方の間では、どのようにステッカーの実効性を担保するか、その手法について検討が重ねられてきた。
 業種ごとの業界団体に協力を得る手法は、小池知事も14日の会見でようやく言及した。だが、「もし、業界団体が都の委託を受けて、ステッカー掲示店の感染対策を確認するとすれば、公平を期するため全ての店舗を対象にしなければならず、現実的には難しい」(関係者)。
 飲食店やクリーニング店など業種ごとに業界団体はあるものの、業種によっては加盟していない個人商店もあろうし、団体がカバーできない業種もある。また業界団体の関係者に、保健所の職員ほど感染症予防の知識があるわけでもない。
千代田区は保健所の審査で独自基準を制定
2カ月たっても実効性担保に動かない小池知事

 一方で千代田区は「千代田区新しい日常店」の名称で、感染防止対策に取り組んでいる店舗に区独自のステッカー発行の受け付けを8月11日から開始した。
 ステッカーは、必須の取り組みをしているクラスIと、さらに推奨される高度な取り組みをしているクラスIIの2段階があり、クラスIでも保健所による書類審査、クラスIIは保健所職員が訪問する実地調査が必須であるなど、きめ細やかに実効性を担保している。
 千代田区は、人口約6万6000人と小規模なわりに税収が潤沢であることから、他の区が容易にまねできる施策ではないであろう。とはいえ、繰り返すがステッカーのダウンロード開始は6月12日であり、すでに2カ月が経過している。実効性を担保する難しさは最初から分かっていたはずだ。だからこそ小池知事は、事務方の議論を踏まえてもっと早い段階で、店舗任せの感染症対策の限界を指摘し、23区や市町村、業界団体に協力を求めるべきではなかったか。
 ところが、小池知事が発信してきたステッカーに関する情報といえば、大相撲7月場所で掲示した「告知旗」であり、ステッカーがプリントされたTシャツであり、フワちゃんの動画であった。「ダウンロード100万枚が目標」「まずは都民の意識を変える」といった普及に向けた発言やパフォーマンスは見られたが、実効性を真剣に担保しようとする姿勢に欠ける。
 14日の記者会見で小池知事は「ステッカーを掲示している店でのクラスター発生は想定していなかったのか」と問われたが質問に答えず、フワちゃんの動画など自身のアピール策を列挙しただけだった。もし想定していたとすれば、取るべき対策を怠っていたことになるし、想定していなかったとすれば、それは都知事の資質が根本的に問われる事態だ。
 4~5月の外出自粛によって売り上げが“消失”し、今なお客の減少に苦しむ飲食店や小売店が多くある。彼らの生活や雇用が危機的な状況にあることは言うまでもないし、状況は日に日に悪化している。その痛みや不安を少しでも感じているならば、目先の反響を狙ったパフォーマンスよりも、店や利用客の安心を十分に担保する施策に地道に取り組むべきではないか。