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安倍総理の志は死なない!!

海外のロックダウン、死者数爆発でなぜ“成功”か

(岩田 太郎:在米ジャーナリスト)
 大半の欧米諸国では、「強制力を伴うロックダウンが新型コロナウイルスの感染拡大の制御に多大な成果を挙げている」との説が広く受け入れられている。その論拠となるのは、「人と人との接触の最小限化イコール爆発的な感染拡大の防止」「都市封鎖や外出禁止令イコール感染者数の減少」あるいは「厳しい対策を実施した方が感染を食い止めることができる」という前提だ。
【本記事には、記述内容の出典をURLリンクで示した部分が多数あります。配信先ではリンクが表示されていない場合がありますので、JBpressのサイト(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60383)にてご覧ください。】
 しかし、爆発的な感染拡大により都市封鎖令や外出禁止令が1カ月以上にわたって出されているにもかかわらず、ニューヨークやカリフォルニアなど米国の一部の州ではいまだに感染確認者や死亡者の数が驚異的なスピードで増加している。新規入院者数や死者数は減り始めてはいるものの、完全には峠を越していない。
 さらに、ロックダウンが感染制御の最重要の要因であるなら、完全なロックダウンをしていない「ユルユル3密国家」であるわが国の相対的・絶対的な感染者数や死者の少なさの説明がつかない。日本では米国より早く感染が確認されているから、ロックダウン状態ではない超過密の首都圏の3密状態は、ニューヨーク級あるいはさらにひどい感染爆発に、より早くつながらなければならないはずだ。
 事実、英キングスカレッジ・ロンドンの渋谷健司教授(公衆衛生学)は、「日本は今、アウトブレイク爆発期の真っ只中にいる」と説明する。だが、「来るぞ、来るぞ」と言われる割には、医療のひっ迫度が増しているものの、欧米のような指数関数的な感染者死亡の増加になっていない。まさか、日本独自のアマビエによる疫病封じが効いているわけでもあるまい。
 日本という明らかな例外が存在するロックダウンの前提は、疫病政策の基礎として妥当なものなのだろうか。一部の州で経済活動が再始動する米国から分析をお届けする。
ロックダウン実施国は「成功」しているのか
 ここでまず、コロナ対策の成功のものさしを考えてみよう。国民に多大な経済的・社会的犠牲を強要するロックダウンおよび準ロックダウン政策の成功は何で測られるのか。感染確認者の総数、死者総数、人口比の感染確認者の死亡率、医療崩壊の阻止、感染検査の総数、できる限りの国民生活・経済の維持、感染者の根絶などが考えられる。
 しかし、各国のコロナ統計の基準はバラバラであり、検査の不確かさや一部の国における政治的な検査数の絞り込み、感染歴を調べる抗体検査の不正確さや進捗の遅れなどの要因があり、現段階ではどの国においても完全に正確な感染者数を把握することは難しい。また、死者・死因の集計方法、死亡率の計算方法、人口動態(平均年齢や居住地)、医療制度などの差による比較の困難さは排除できない。
 国により政策や統計に相違がある以上、成功の尺度はできる限り共通点が多いものが望ましい。統計の限界を踏まえた上で、ここでは仮に成功を「人口比の感染者死亡率の低さ」および「医療崩壊の阻止」と定義したい。
 人口比の感染者死亡率から見てみよう。米国の新型肺炎による死者は4月6日に1万人を突破してからおよそ3週間で6倍以上に増えた。5月2日現在で死者数が約6万5000人に達した米国は感染者、死者とも世界最多であり、統計サイトの独Statistaによれば100万人当たりの死亡者は約198.6人となる。流行の中心地であるニューヨークやカリフォルニアで1カ月以上、ロックダウンを実施してこの数字だ。
 一方、ユルユル3密の日本のCOVID-19死は同日現在で455人であり、100万人当たりの死者は約3.6人だ。ここに含まれない在宅死や高齢者施設死、肺炎やインフルエンザなどその他の病因と誤って分類された死を入れても日本は3桁台の米国や他の欧米諸国のレベルよりはるかに低く、大きな差がある。わが国ではこれから感染が大爆発する可能性はあるが、社会的距離・ロックダウン理論が正しいのであれば、欧米より早く感染者が現れていまだに完全なロックダウンをしていない3密(密閉・密集・密接)の日本において、なぜ現時点でオーバーシュートになっていないのか説明がつかない。
 感染症の専門家である神戸大学大学院医学研究科の岩田健太郎教授は、「厳しくロックダウンを実施すれば、少なくとも自国内の感染を抑え込むことはできるということは、すでに諸外国のデータが示している通り」「とにかく一般の人に対しては、『外に出てはいけない』と言い続けるべきで、そうすれば新型コロナの患者さんはドンと減る」と言明するが、日米データの比較はその主張の真逆を示している。
 ましてや、感染者数(およそ110万、世界の感染総数の3分の1)・死者数(約6万4000人、ベトナム戦争における米兵の死者総数の5万8000人を優に超えるレベル)がダントツの米国のロックダウン政策が「成功」で、日本の「お手本」という言説は、検証を要する。
BCGもロックダウンも死亡率に無関係?
 社会的距離・ロックダウン理論に日本という例外が存在する理由として、
(1)重篤化率を下げる可能性のある日本株のBCG接種をほぼ全ての国民が受けている
(2)ウイルスの巣窟となり得る靴を玄関で脱ぐ習慣がある
(3)日常的な手洗いの励行
(4)握手・ハグ・キスなど直接的な接触による親愛の情の表し方が少ない
(5)マスクをする習慣がある
(6)ほぼ毎日の入浴による清潔度の維持
(7)病床数が人口1000人当たり13.1とトップクラス
(8)国民皆保険制度の質が高い
(9)感染の診断に役立つコンピュータ断層撮影(CT)や核磁気共鳴画像法(MRI)の普及率が高い
(10)感染経路を調べてクラスター潰しを行った
などが仮説として挙げられている。
 その他、遺伝情報の継承と発現を担うデオキシリボ核酸の塩基の並び順である遺伝暗号が感染者の無症状・軽症あるいは重篤化を決定付ける可能性を指摘する研究者もいる。しかし実際には遺伝子よりも、年齢や性別や持病の有無が主な制御要因ではないか。この仮説のみでは、なぜ世界共通で高齢者男性や持病のある人に重篤化・死亡が集中するのか説明しにくいからだ。
 ロックダウンに話を戻すと、社会的距離政策は採用するものの、都市封鎖を拒絶するスウェーデンは日本の3密ユルユル環境と類似している。だが、100万人当たりの感染死亡者は241.8人と、ロックダウン政策を採用する米国より高い。スウェーデンは日本と政策が似ているのにもかかわらず、なぜ日本よりはるかに死者数が多いのだろうか? その説明をするには、「ロックダウン政策の有無は死亡者数の主要な制御要因ではない」と仮定するのが妥当なのではないか。
 次に、BCG接種とロックダウンの相関関係について考える。45歳以上の国民がBCG集団接種を受けたスウェーデンのコロナ死亡者数である260.5人は、現在もBCG集団接種を続けるポルトガルの100万人当たりの感染死亡者である98.0人より有意に高い。ところが、スウェーデンの年齢層別の死亡者は、そのほとんどがBCG接種を受けたはずの高齢層のグループに集中し、BCG接種を受けていない40歳未満はほとんど死者がいない。ポルトガルも同じように高齢層に死者が集中している。BCGの条件が類似しているので(両国とも共通のデンマーク株のBCGを使用、45歳以上は共通して接種済み、死亡者の大多数が高齢層)、スウェーデンの死亡率の高さはロックダウンの欠如に求められ、ポルトガルの死亡率の低さはロックダウンの実施(3月18日に開始)に求められるように見える。
 ここで、比較対象を拡げて検証してみよう。BCG集団接種を過去に実施したポルトガルの隣国スペインは、高齢層が接種済みでロックダウンを実行(3月14日に開始)しているにもかかわらず、100万人当たりの感染死亡者が525.3人と極めて多い。スペインもポルトガル同様、高齢者がCOVID-19死の過半数を占める。過去に現在の高齢者にBCG接種を実施し、現在ロックダウンを行う英国(3月23日に開始、100万人当たりの感染死亡者が413.8人)やフランス(3月16日に開始、同367.1人)やイタリア(3月10日に開始、同467.2人)など欧州の国のほとんどで、このパターンは共通している。ロックダウン後もおよそ1カ月以上にわたり感染者や死者が増え続けたのも同じである。
 早い話が、BCG接種を受けていても、高齢者であればコロナ死をする確率が有意に高くなる一方、BCG接種を受けていなくても、若い人であれば死の確率は極めて低い(ただし、BCG接種を受けた若い人の死亡率は、BCG接種を受けていない若い人の死亡率より低いかもしれず、検証が必要)。
 そして、欧州においては「BCG接種済みの高齢層」に現在の「ロックダウン」が組み合わさっても、結果はまちまちだ。死亡率が低いポルトガルやドイツ(東西ドイツとも現在の高齢層に集団BCG接種済み、現在ロックダウンを実施、100万人当たりの感染死亡者数は81.2人)、ロシア(同8.1人)、ポーランド(同17.1人)、フィンランド(同40.1人)、ノルウェー(同40.0人)、デンマーク(同79.3人)のような国もあれば、厳重なロックダウンを実施しても死亡率が高いイタリア、フランス、英国、オランダ(同284.0人)、ベルギー(同674.4人)、スイス(同206.0人)のような国もある。
 また、人口1000人当たりの病床数が少ないイタリア、英国、米国、オランダなどの国で一般的にコロナによる死亡率が高い傾向があるものの、同じく病床数が少ないノルウェーやデンマーク、ポルトガルでは死亡率が低いなど、ここでも結果はまちまちだ。主に何がこのような国別の死亡率の違いをもたらすのかは、研究の進展を待たねばならない。ただ少なくとも、こうした相関関係と結果の複雑性から、「ロックダウン=感染者と死者の減少」という単純な図式が成立しないことは言えるのではないか。
 事実、感染者の出現が早いのにロックダウンをして来なかったわが国で、感染増加のペースが欧米と比較して顕著に遅く、さらに人口当たりの死者が極端に少ないことは、ロックダウンが重篤化の主要な制御要因ではない可能性をより強く示唆する。
 国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センターによれば、日本では中国株による第1波は抑え込まれ、現在の第2波(3月中旬以降の感染者増加)はロックダウン下の欧米で猛威を振るい、何万人もの死者を出している変異後の欧州株が中心となっている。変異により、中国株より感染力と破壊力が増した印象のある欧州株だが、日本ではその欧州株による感染者・死者が指数関数的に増えていない。ここでも、ロックダウンが果たす役割が副次的なものであることが示唆されているのかも知れない。
 もしロックダウン以外の要因が人口当たりの死亡者数の低さに主な原因として作用しているのであれば、現行の欧米諸国のロックダウン政策は良くて的外れのダメージコントロール、実際には人々の暮らしや命を根底から破壊する大失敗ということになり、封鎖に伴う経済崩壊は、ロックダウンのコスト効果が極めて劣悪、そして無駄に巨大な損害のみもたらすもの、つまり害悪であることを意味する。
(「ロックダウン論を斬る (2) 」につづく)