Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

戦争を起こす気満々の中国「建軍100年奮闘目標」

(福島 香織:ジャーナリスト)
 米大統領選の結果をふまえた原稿を書くにはちょっと締め切り時間が微妙なのだが、中国・習近平政権は米大統領選挙の結果に関係なく、対米強硬路線維持で共産党の重要会議「五中全会」(中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議、10月26~29日開催)を終えた。8月ごろまでは、新型コロナ肺炎のインパクトで、トランプ不利、バイデン優勢とみて、対米融和のサインを出していたが、その後、党内でトランプ優勢という見方が持ち上がり、再調整して最終的には対米強硬路線維持で固まった。
 いずれにしろ、10月以降に表沙汰になったバイデン親子や民主党主要議員と中国のエネルギー会社「華信能源」(すでに破産解体)などの利益供与スキャンダルのせいで、たとえバイデンが大統領になっても、中国側にとってバイデンを操るスキャンダルカードの効果は事実上消滅したことになる。スキャンダルはいったん表沙汰になってしまえば、効果が失われるのだ。なので、誰が大統領になろうとも、米中融和は当面難しいという判断は正しいだろう。
 五中全会のコミュニケ(公式声明)を見る限り、米中関係についてはまったくといっていいほど具体的言及がないが、少なくとも第14次5カ年計画という計画経済政策や2035年遠景目標に、対外開放を強調する文言はない。打ち出しているのは、米国の対中デカップリングが続くという前提での「自力更生」を強調した経済政策である。
 具体的にいえば「国内大循環」「双循環」だ。国内市場の活性化と一帯一路戦略を両輪に、一部国家と米国に依存しない新しい経済ブロックを形成する、という戦略だが、これまでのような勢いのあるハイテク産業がそれで維持できるかどうかは不明。だからなのか、「農業優先」が強く打ち出されている。経済発展より人民を飢えさせないことが重要、ということだろうか。
戦争があることを前提とした建軍100年奮闘目標
 だが、それ以上に気になるのは、2027年の「建軍100年奮闘目標」を新たに打ち出したことだ。強軍路線は規定路線とはいえ、なぜ2027年に新たに目標を設置したのか。
 まず、今回の五中全会で初めて打ち出された「建軍100年奮闘目標」とは具体的にどういうことか。
 コミュニケで「全面的に戦争に備え練兵教科を行い、国家主権、安全、発展利益を防衛する戦略能力を高め、2027年に建軍100年奮闘目標の実現を確実にすること」と説明があるように、「戦争がある」という前提に立った強軍化戦略だ。「建党100年」(2021年)と「建国100年」(2049年)という2つの100年目標に加わる、3つ目の100年目標である。
 建軍100年奮闘目標を打ち出したのは、中国人民解放軍が党と国家に服従し奉仕する軍隊であることを強調し、同時に「今後の特殊で複雑な環境に対応していく」ことが狙い、という。
 ここで注目すべきフレーズは「国家主権、安全、発展利益の防衛の戦略能力(の向上)」だ。「国家主権、安全」の防衛は当たり前だが、「発展利益」の防衛というのは、習近平政権のスローガンでもある「中華民族の偉大なる復興」や「一帯一路」で象徴される中国の野望を邪魔する国家を対象にしたものだろう。「防衛」については中国語では「捍衛」という言葉が使われているが、これは日本語の防衛のニュアンスよりも、敢然として防衛する、断固として防衛するという強い気持ちが込められており、防衛のための攻撃も辞さずといった語感がある。
 10月31日付けの人民日報に五中全会の会議録が掲載されていたが、それによれば習近平は「安全こそが発展の前提であり、発展が安全の保障であると認識している。発展と安全をセットにした作戦戦略についての専門項目を(コミュニケに)盛り込む提案は、自ら計画し決定した」と指摘。「この2年の間、いたるところで狼煙(戦争の気配)が上がり、緊張感が高まっている。・・・米国など西側の軍隊が我々を干渉し、侵入して嫌がらせする頻度と強烈度が上昇している。米軍艦、軍用機が我々の南シナ海の島礁海空域に侵入し、偵察行為を行っているほか、カナダ、フランス、オーストラリアなどの軍艦も台湾海峡にやってきて、威圧を試みている。“台湾独立派”の活動もひどくなっており、この4年連続で米国からハープーン(対艦ミサイル)など攻撃性兵器を購入し、西側勢力と頻繁に結託して、疫病を利用して独立を図ろうとしている。西部ではインドが冒険的な妄動をやめていないし、中印国境のパンゴンあたりの対立は依然として激化の可能性がある」などと発言したという。
 こうした習近平発言のニュアンスから、建軍100年奮闘目標とは、2027年までに戦闘があると仮定した上での人民軍の戦略能力の大幅向上であり、今世紀中葉までに世界に通用する一流の軍隊を作るというこれまでの長期目標の前に短期目標を設定し、チャンスがあれば、中国の発展にとって脅威である勢力に打撃を加え、外国からの干渉を失敗に終わらせていこう、ということだろう。
 すでにこのコラムでも取り上げたが、10月の台湾海峡における人民解放軍の動きは、確かに台湾侵攻作戦をきわめて具体的に想定した動きであり、目下、台湾国軍には、こうした人民解放軍の動きに十分に対応できる装備も人的余裕もない状態であることが露呈している以上、不穏な空気は日に日に濃厚になっている。
 習近平が政権トップの座についてから、軍制改革を実行して7大軍区制から5大戦区制に組み替えると同時に、習近平が軍中央委員会主席として直接指揮をとれるように総参謀部を含む4大総部を解体した。この思い切った軍制改革が成功したかどうかは、いまだ証明されていない。実際に軍を動かして勝利する以上の証明はない。2050年(今世紀中葉)までに世界一流の軍隊を育てるまでのステップとして、2027年までの短期目標、2035年までの中期目標を設定し、最初のステップの2027年までに一度実戦を経験させようというシナリオはありそうだ。
戦争に勝つことで政権の正統性を証明
 ところでその目標期限を2027年とした理由だが、1つは言うまでもなく建軍の年が1927年だからだ。
 人民解放軍は1927年の「南昌起義」と呼ばれる武装蜂起で誕生した革命軍が基礎になっており、この頃はゲリラに過ぎなかったのが、戦闘を継続していくことで軍隊としての正統性を確立していった。共産党も元々は国民党政権下で「共匪」と呼ばれたゲリラ集団であったが、国民党政権に打ち勝ったからこそ、その執政党としての正統性を確立できたのである。共産党政権は銃口から生まれた政権であり、ゲリラ戦法で勝利を重ね続けてきたからその正統性を人民が認めてきた。つまり、どんな手を使ってでも戦争に勝利することは、共産党政権にとってその正統性を証明する最も有効な方法なのだ。
 実際、共産党政権の発展プロセスには常に戦争があった。内戦を経てようやく共産党政権が打ち立てられた翌年には、抗美援朝戦争(朝鮮戦争)に義勇軍の名目で人民解放軍を投入。中国側に20万人近くの犠牲を出したが、この戦争は、ゲリラに過ぎなかった人民解放軍の国際デビュー戦でもあり、軍の近代化の一里塚であったという意味では犠牲に見合う価値があった。毛沢東が終身領袖のカリスマ的地位を得るためにも必要な戦争であったといわれている。これに味を占めた毛沢東は、自分の人気に陰りが出るたびにインドや旧ソ連に国境紛争を仕掛けてきた(もちろん、それだけが理由ではないが)。
 鄧小平も、権力の正統性を固めるためにベトナムとの戦争を利用した。1979年の中越戦争、1984年の中越国境紛争は、客観的にみれば人民解放軍側の惨敗、あるいはギリギリ引き分けといえるが、国内的には大勝利と喧伝され、この二度の戦争経験によって人民解放軍は近代軍への転換を図ることができた。
 逆にいえば、戦争をしなかった江沢民、胡錦涛はついにカリスマ性を持てずに任期を終えることとなった。習近平が毛沢東や鄧小平の境地を目指すなら、戦争は必要、ということになる。
米軍の「進化」の前にアクションを起こしたい中国
 また米軍の発展戦略も2027年、2028年あたりが1つの転換期とみられている。
 たとえば、米陸軍近代化戦略(AMS)では、2028年までに単一の戦域で一体化された統合部隊の一部として「マルチドメイン作戦(MDO)」を実施できることを目標の1つに設置している。MDOとは、中国の言うところの超限戦に対抗するための「未来の戦争」の概念だ。「米陸軍として、紛争に至らなければ競争し、抑止に失敗した場合は戦い、そして勝つように相手を阻止し、勝利するために、地上、海上、空中、宇宙、そしてサイバースペースのあらゆるドメインの戦いでの迅速で継続的な一体化した統合部隊を支援する」という。
 2027年に期限を切った宇宙戦や海戦における「C4ISR統合」戦略も米海軍が責任を負う形で進められている。C4ISRとは、指揮(Command)、統制(Control)、通信(Communication)、コンピューター(Computer)の4つのCと、情報(Intelligence)、監視(Surveillance)、偵察(Reconnaissance)を意味する。
 ほかにも米海兵隊が2027年までに海兵沿岸連隊(MLR)を沖縄やハワイ、グアムに配備する計画などもあり、そうした米軍の発展戦略が完了する前に中国としてはアクションを起こしたい、という意味で、2027年が目標期限に設定されているのかもしれない。
 ちなみにロシア軍も2027年を発展目標の1つの期限としている。2017年にプーチン大統領は「2018~2027年国家装備発展計画」を発表し、20兆ルーブルを投じて陸軍、宇宙軍、海軍の装備を一新し2021年前に70%の兵器装備を更新するとしている。
経済政策の失敗が対外紛争を仕掛ける動機に
 さらに言うと、習近平は2022年を超えて長期独裁体制を打ち立てるという野望をもっている。2022年の秋の第20回党大会で総書記を継続する、あるいは総書記ではなく毛沢東のような終身領袖を意味する党主席のポストを復活して自分が就任する、というシナリオを実現するには、やはり対外的な軍事的衝突のインパクトによって国内の危機感をあおり、習近平を核心とする党中央への求心力、団結力を高める必要がある、という見方もある。毛沢東を見習ってきた習近平ならば、そういう発想に至っても不思議ではない。
 また2021年の建党100年目標である「全面的小康社会建設」は期限通りに達成できなさそうだ。新型コロナ肺炎の影響による経済急減速というやむを得ない理由があるにもかかわらず、五中全会でこの件に一切触れていないところをみると、習近平政権としては、今の経済減速がコロナによる一過性のものではなく、今後、人民の不満が政権に向かう理由になりかねないと危惧しているのではないか、と思われる。大躍進政策の失敗に対する国民の不満をそらすために中印戦争をしかけた毛沢東のように、経済政策の失敗は中国共産党政権が対外紛争を仕掛ける動機になりうるのだ。
 そう考えると2027年までに中国が関与する戦争、紛争が起こりうる可能性は決して低くはないし、起きなかったとしてもこれまでとはレベルの違う緊張局面を見ることになるだろう。
 トランプ政権とバイデン政権、いずれがこうした中国の戦争も辞さずの戦狼外交に毅然と対応できるだろうかと考えると、私の中では答えはあるのだが、米国有権者はどういう答えを出したのだろうか。