Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

参院選は大丈夫?衆院選「議席予測大外れ」の余波 時代遅れの調査手法の限界を露呈したメディア

 与党勝利に終わった10・31衆院選から半月余りが経過し、激しかった選挙戦の余燼(よじん)も消えつつある。
 その中で、多くの主要メディアが実施した選挙期間中の全国情勢調査と投開票日の出口調査による各党議席獲得予測が「過去に例のない大外れ」(選挙アナリスト)となったことが、選挙戦への影響度も含めて、与野各党だけでなく国民的にも注目された。
 大手紙とNHKや民放テレビ各局はこれまでと同様に、選挙戦の序盤、中盤、終盤でそれぞれ実施した全国情勢調査を基にその時点での各小選挙区や比例ブロックでの獲得議席を予測。投開票日には多くの投票所を対象に実施した全国出口調査の結果に基づき、投票終了の午後8時に、各党獲得議席予測を大々的に速報した。
 こうした手法は、現行の小選挙区比例代表並立制に移行した1996年衆院選以降、完全に定着した「選挙報道の目玉」だ。
 「なんで開票と同時に当落がわかるのか」という素朴な疑問も根強い中、これまでは多少の誤差はあってもほぼ予測どおりの結果を残してきたことで、各政党や候補者たちもこの予測をもとに「勝利の万歳」や「落選の弁」につなげてきたのが実態だ。
開票開始時と大勢判明時で明暗が逆転
 ところが、今回ばかりは様相が一変。出口調査で苦戦とされた自民党が、結果的に単独での絶対安定多数確保という「圧勝」、大幅議席増とされた立憲民主党が14議席減の「惨敗」となった。
 しかも、各メディアの開票速報は時間の経過とともに予測外れの状況が加速、各党党首や幹部の表情も、開票開始時と未明の大勢判明時ではまったく明暗が入れ替わる異様な展開となった。
 各メディアは選挙後、それぞれ議席予測作業の検証に追われたが、外れた原因を明確化できなかった。さらに、開票結果を踏まえた大見出しを、実態(自民の単独絶対安定多数)とかけ離れた「自民単独過半数確保」とし、読者に誤解を与えたことへの自戒や反省もほとんど示されなかった。
 今回、長らく続いてきた「メディアの選挙報道の正確さ」に大きな疑問符が付いたことで、それに依存して選挙活動を展開してきた各政党の対応も大転換を余儀なくされるのは確実。各党の選挙専門家の間では、来夏に迫る参院選に向け「メディアの新たな議席予測の手法とその結果を、密かに入手できれば圧倒的有利になる」(自民選対)との声も出ており、メディアの姿勢も厳しく問われることになる。
 10月31日に投票、即日開票された今回衆院選で、テレビ各局は開票特別番組で、従来同様に投票締め切りの午後8時と同時に、出口調査をもとにした獲得議席予測を速報、その内容は以下のとおりだった。(自民は自、公明は公、立憲民主は立、共産は共、維新は維、国民民主は国、れいわはれ、社民は社)
【NHK】
自212~253、公27~35、立99~141、共8~14、維34~47、国7~12、れ1~5、社0~2
【日テレ】
自238、公31、立114、共10、維45、国12、れ2、社1
【テレ朝】
自243、公32、立113、共12、維39、国12
【TBS】
自239、公30、立115、共12、維40、国13、れ3、社1
【テレ東】
自240、公30、立110、共11、維45、国13
【フジ】
自230、公31、立130、共14、維39、国7、れ1、社1
これに対し、最終的な獲得議席は、自民261(追加公認含む)、公明32、立憲96、共産10、維新41、国民11、れいわ3、社民1。
自民と立憲でみると、出口調査の精度で定評のあるNHKは自民を212~253議席と大きな幅で予測したが、結果はその上限を8議席も超えた。また、立憲についてもNHKは幅を広げて99~141と予測したが、現実は下限をさらに3議席下回った。
 民放各局も午後8時の段階ではそろって自民苦戦を予測。フジテレビは「単独過半数割れか」と速報して与党の危機感をあおった。他局は自民単独過半数確保を予測したものの、一番多い数字を予測したテレビ東京でも240議席で、結果とは程遠い数字だった。
 自民、立憲両党以外の政党については、「おおむね予測の範囲内」だったが、肝心の自民、立憲両党の結果が「予測と正反対の勝ち負けの逆転」(選挙アナリスト)となったのが今回の特徴。これが、開票以降の各党幹部の反応が迷走した最大の原因だ。
NHKの予測の範囲からもはみ出す「ありえない事態」
 これまでも、開票開始時での獲得議席予測が結果と異なるケースはあった。ただ、ほとんど誤差の範囲にとどまり、全体の情勢が逆転するケースはなかった。とくにNHKの予測の範囲からはみ出したのは「ありえない事態」(選挙アナリスト)とされる。
 そうした中、両党リーダーの岸田文雄首相(自民党総裁)と枝野幸男立憲代表の表情や反応も時間とともに変化が際立った。
 岸田首相は開票前の段階から午後9時ごろまで「単独過半数割れという最悪の事態も覚悟し、インタビューで釈明するための発言要領を周囲と相談していた」(側近)とされる。しかし、深夜から未明にかけて絶対安定多数確保も視野に入ると、「国民の信任を得た」との勝利談話に変わった。
 対照的に、枝野氏は当初の勝利を前提とした得意げな反応から、深夜には憔悴した表情に一変。未明に「敗北宣言」を余儀なくされた段階ではなお「一定の戦果はあった」と繰り返したが、最終的には敗北の責任を取る形での代表辞任に追い込まれた。
 端的に言えば、衆院選という政権を懸けた戦いを受けて、自民、立憲の2人のトップリーダーが、開票からわずか数時間の開票速報の間に「天国と地獄の通路ですれ違う」(首相経験者)という前代未聞の事態となったのは間違いない。
 振り返れば、選挙戦の最中の各主要メディアの全国情勢調査による各党獲得議席予測の段階から、その予兆はあった。
 読売、日経など政権寄りとされる全国紙が系列民放とも組んでの情勢調査とその分析では「自民単独過半数は微妙」だった。その一方で政権に批判的とされる朝日、毎日両紙は「自民単独過半数確保は確実」と分析、対照が際立っていた。
 とくに、朝日新聞は選挙戦が終盤を迎える10月26日の朝刊で、「自民過半数確保の勢い」との大見出しに、「立憲ほぼ横ばい」との中見出しを付けて注目された。
 しかも、その際に表示した具体的議席推計では自民が「251~279」、立憲が「94~120」となっていた。朝日は今回初めて従来の電話調査(固定・携帯)に加えてインターネット調査を実施し、その有効回答から導き出した獲得議席推計を「生数字を重視して公表した」(関係者)とされる。
 結果から見て、多くの情勢調査の中で、この朝日の数字だけが「予測としてはかなり正確」(選挙アナリスト)だったことになる。
 もちろん、選挙戦終盤でのほかのメディアの「自民苦戦」報道での危機感が、激戦区での自民陣営の底力発揮につながったというアナウンスメント効果は否定できないが、「どこにも風が吹いていない」(同)という、ここ数回では例のない選挙戦だっただけに、調査を踏まえての議席推計の難しさを象徴しているともいえる。
選挙予測の戦国時代に突入する
 今回衆院選での予測と結果の「逆転」について、選挙に関する世論調査の権威として知られる松本正生・埼玉大学名誉教授は、11月10日に日本記者クラブで行った記者会見で「今回の選挙結果が、報道機関の予測・調査方法の岐路となる」と指摘。「これからは選挙予測の戦国時代に突入する」と予言した。
 松本氏の指摘は「今回のメディアの予測は、時代遅れの調査手法の限界を露呈した」との厳しい分析からとみられる。
 一方、政党側もこうした分析に危機感を強めている。とくに、立憲を中心とする主要野党側からは、「メディアに頼らずに自前の調査の精度を上げなければ、同じ間違いを犯すが、対応は困難」(立憲幹部)と頭を抱える。ネット時代に即応できる調査を自前で実施するには億単位の資金が必要とされるからだ。
 これに対し、自民党は「政権とメディアとの関係を密にして、新たな手法での調査の結果を入手できれば、選挙の切り札になる」(選対関係者)と手ぐすねをひく。ただ、メディア側からは「経営が苦しい中で選挙にばかりコストをかけられない」との厭戦気分もあり、来夏の参院選での獲得議席予測を抜本的に見直す声も広がっている。