Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

断交から50年、日本は台湾との新たな関係を築く時

(福島 香織:ジャーナリスト)
 中米の独裁国家、ニカラグアが12月10日、台湾との断交を発表し、続いて中華人民共和国(中国)との国交回復を発表した。これで台湾と国交を維持している国家は世界で14カ国にまで減ったことになる。
 だが、これを台湾の外交的敗北、国際社会における台湾の孤立化を象徴する出来事と言うのは正しくないだろう。
ニカラグアは米国と対立を深める独裁国家
 このニカラグアの選択は、米国バイデン政権の主催による民主主義サミットが行われていたタイミングであった。民主主義サミットに台湾は正式に招待されていたが、中国やロシアなど専制主義国家は招待されていない。当然、ニカラグアも。
 ニカラグアと台湾の断交は、台湾の外交空間が狭まったのではなく、むしろ米国を中心とする西側民主主義世界で、台湾の民主主義国家としての認知度が高まっていることの表れではないかと思う。それは、台湾が民主主義の価値観外交をしっかり打ち出していることの証明でもあるともいえる。
 ニカラグアと台湾の断交は突然の発表だった。多くの人たちは、ホンジュラスが先に台湾との断交に踏み切るだろうと予測していたはずだ。ホンジュラスでは、大統領選で台湾断交・中国国交樹立を公約としていたシオマラ・カストロが勝利して大統領に就任したからだ。だが、ニカラグアで11月に4期連続再選を果たしたオルテガ大統領が先に台湾断交を決断した。
 反米左派のダニエル・オルテガ大統領は独裁色の極めて強い大統領であり、選挙では自分をおびやかしそうな有力な対抗馬を次々と拘束し、自分に批判的な言論を書く新聞メディアを発行停止に追い込むなど、なりふり構わぬ弾圧で権力を維持してきた。
 米国はニカラグアの大統領選は茶番であるとして、閣僚に対する在米資産の凍結など経済制裁をとっている。そういった米国と対立を深める独裁国家に対し、今の民進党・蔡英文政権の台湾が、中国の向こうを張って多額の支援を行い、国交を維持するメリットというのは、実のところそんなに大きなものではなかろう。
 一方、ホンジュラスのカストロ新政権は12月10日、多くの予想に反して、当面の台湾との関係維持を表明した。米国はホンジュラスに高官を派遣して、台湾との関係維持を訴えていた。カストロ政権は米国に配慮したわけだ。シオマラ・カストロは、前政権のエルナンデス大統領の汚職、腐敗、独裁政治に不満を持つ有権者の選択によって選ばれた大統領という点では、民主的な大統領といえる。台湾としても、ホンジュラスとの国交は維持しようと努力していただろう。
台湾と価値観を共有するリトアニア
 むしろ、台湾とリトアニアの接近の影響力の方が大きい。
 リトアニアは中国と国交を維持しているものの、台湾に新型コロナワクチンを2回寄付している。また今年(2021年)3月には台湾と相互に代表処を開設すると宣言、初めて台湾の名前を冠した在外公館「駐リトアニア台湾代表処」が11月にリトアニア首都ビリニュスに開かれた。
 中国と外交関係を持つ国が台湾の代表処を作ること自体は珍しくないが、「台湾」の名前はこれまで付けられたことがなかった。台湾を「中国の一部」と主張する北京に配慮して、台北経済文化交流代表処などとするのが慣例だった。しかもリトアニアのこの台湾代表処では「中華民国旗」まで掲げられ、見た目も大使館扱いだった。
 中国は当然リトアニアに激怒。リトアニアの乳産品などの禁輸をはじめ「懲罰措置」をとった。すると、台湾人がこぞってリトアニア産品をネットで購入、リトアニアの福祉機関に台湾人が大口寄付をするなどの民間応援運動が広がった。12月15日、北京のリトアニア大使館の外交官19人がついに全員帰国し、中国とリトアニアの緊張関係は高まり続けている。
 リトアニアが台湾に親近感を抱くのは、第2次大戦ではナチスドイツに蹂躙され、戦後はソ連に占領されるという、専制政治の大国の圧力に苦しんだ記憶を国民がまだなくしていないからだ。
 リトアニアを含むバルト3国は、武力による抵抗ではなく、母語の歌を歌って集い、1989年8月23日に200万人の3国の国民が手を取り合い、およそ600キロの「人間の鎖」で3国の首都を結んで独立への強い意志を示すという形で独立を勝ち取った。
 この「人間の鎖」は台湾でも、2007年、国民党による白色テロ2.28事件60周年に合わせて、台湾人200万人以上が参加して台湾南北をつなぐ形で再現されている。
 つまり、台湾もリトアニアも独裁政権に抵抗し、銃を使わずに民主主義を勝ち取った国という点で共通し、価値観を共有している。リトアニアは大国の脅しやビジネス上の利益よりも価値観を優先して台湾と急接近し、その動きは親中派のドイツ首相メルケル引退後にEU全体の価値観として強く認識され、いまやEU全体が台湾に好意的に動いている。
南太平洋でのプレゼンスを競う米中
 台湾と国交を維持している国の数は、蔡英文政権が誕生した2016年時点で22カ国だったが、中国の金銭外交によって、サントメ・プリンシペ(アフリカの島国)、パナマなどの国々が次々と台湾と断交し中国との国交を樹立していった。数だけで考えれば、台湾の外交空間は風前の灯だ。
 だが、台湾の外交空間は、もはや台湾だけの問題ではなくなっている。
 たとえば、2019年に台湾と断交し、中国と国交を樹立したソロモン諸島だ。今なお親中派のソガバレ政権(ガダルカナル島の中央政府)と親台湾派のマライタ州(島)のスイダニ知事が対立している。11月下旬には、首都ホニアラで、ソガバレ退陣を要求するデモ隊に、警察が催涙弾を打ち込んだことから暴動がおきたと言われている。チャイナタウンが焼き討ちと略奪に遭い死者まで出た。古くからあったガダルカナル島とマライタ島の確執、貧富の格差や若者の高い失業率といった社会問題、中国から大量の賄賂を受け台湾と断交して中国と国交樹立に転換したソガバレ政権の腐敗に対する怒り、そのソガバレ政権の後ろだてによってソロモン諸島の森林を伐採し大量に木材を母国に輸出する中国系企業への反感などが背景にあった事件といえる。
 この対応に、オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニアがソガバレ政権から要請を受ける形で治安維持部隊を派遣したことで、親中派ソガバレ政権が西側諸国の軍隊を借りて“暴動”を鎮圧する、という形になった。このことは、本来、中国と価値観の異なるオーストラリアやニュージーランドが図らずも、中国の南太平洋における利権を擁護する形になってしまったわけで、一部識者の間で問題視されている。
 南太平洋の島嶼国は、米中陣営のいずれかに色分けされつつある。たとえばパプアニューギニア、バヌアツなどは、ソロモン諸島と同様にチャイナマネーに飲み込まれつつある。一方、台湾との国交を維持しているパラオやマーシャル諸島、さらにはフランス領から独立するか否かの住民投票問題が先日否決となったニューカレドニアなどは、とりあえず西側陣営とみなされている。このように南太平洋でのプレゼンスを米中が争う状況が、ソロモン諸島の社会問題とあいまって、暴力的な騒乱の形となって現れたと言ってもよい。
 残り数少ない台湾友好国が、あとどのくらい中国に取り込まれるか、そして台湾の民主が守れるか否か、というテーマは、もはや「台湾の国際的孤立」といった問題ではなく、世界において民主主義陣営の陣地が拡大するのか、中国式権威主義、専制政治に侵蝕されていくのか、ということに等しい。今後、新たな国際社会の統治モデルとして、ひょっとして「中国式民主」という専制政治がスタンダードになることを許しかねないのではないか、という問題なのだ。
 台湾の吳釗燮外交部長は12月14日に、ニカラグアとの断交について「米国をはじめとする民主陣営と、中国、ロシアを中心とする権威主義陣営の外交戦が激烈になってきている」と語り、国際情勢の劇的変化の延長にある事件ととらえている。さらに、ニカラグアのオルテガ大統領の権威に挑戦しようとした人たちがすべて拘束され、あるいは「失踪させられ」、米国などから経済制裁を受けていることを指摘して、「ニカラグアの大統領としては中国とロシアに頼らざるをえなかったのだろう」と分析した。
 また台湾政務委員のオードリー・タン(唐鳳)が民主主義サミットに招待されて出席したことについて、「台湾人にとって誇らしいこと」「台湾は民主陣営に立つべきだ」と語っていた。
 ニカラグアの台湾断交後に、米国務省のプライス報道官は「台湾と西半球の友好国の関係は、これら国家と国民に大きな経済と国家安全の利益をもたらす。民主メカニズム、透明性、法治を大切にし、自国の経済繁栄を促進したい国々は台湾との交流を拡大すべきだ」と呼びかけた。
日台断交50周年に考えるべきこと
 ところで、台湾はどうして世界の孤児になってしまったのだろう。
 1971年10月、アルバニア決議によって中国が国連常任理事国入りし、中華民国の蒋介石政権は国連から追放された。日本はアルバニア決議には反対票を投じたが、結局、1972年に台湾と断交し、中国と国交を正常化させた。
 その背景についてここでは詳しく述べないが、当時の国民党主席の蒋介石は確かに独裁者であり、台湾は戒厳令下にあった。もっとも当時の中国は毛沢東が主導する文化大革命の最中で、圧政という点では台湾以上に酷い状況ではあったのだが、結局、米国がその時の世界情勢を鑑みて、米国の利益のために中国を選んだのだ。
 歴史にIFを考えても仕方がない。日本の台湾断交の決断が正しかったのかどうかは、歴史の専門家の議論に任せたい。台湾がいったん世界の孤児になったことで、ひょっとすると台湾は比較的早く民主化を実現できたのかもしれない。もちろん、蒋経国や李登輝といった優れた政治家が台湾にいたという僥倖もあった。
 考えるべきは、およそ50年前に日本が断交した中華民国はもう存在しておらず、今存在するのは、民主主義陣営にとってなくてはならない台湾という国ではないか、ということだ。台湾が中国に併合されれば、日本のすぐ目の前に、反日政策を政権のレジティマシー(正統性)として持ち続ける中国共産党による専制国家が迫るのだ。そういう状況で尖閣諸島や沖縄の主権を日本が守り切れるのか。
 来年、日中国交正常化50周年という節目で、おそらく日本は中国関連のイベントを考えていることだろう。私はあえて、日中国交正常化50周年ではなく、日台断交50周年の節目ととらえて、台湾との付き合い方をきちんと考え直す年にしてはどうかと思っている。