Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

度重なる「バス置き去り事件」防ぐ手段はあるか

「スクールバス用警報ブザー」を個人が発案
和田 一郎 : 獨協大学国際教養学部教授
2022年09月16日
9月5日、静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」の送迎バスの中に、3歳の女児がおよそ5時間にわたり置き去りにされ死亡した事件が発生しました。同様の死亡事故は2021年福岡県中間市でも発生しており、死亡に至らない閉じ込め事例は毎年発生している状況です。このような事故が起こるとメディアはセンセーショナルに報道しますが、なぜ状況は変わらないのか――。このような事件を防ぐためにはどのような視点で対策をすればいいのか考えたいと思います。
システムの問題を現場のせいにする
今回の事件が起きてから9月12日までに、「なぜ防げなかったのか」など800件の苦情が牧之原市役所に寄せられました。これは児童虐待の凄惨な死亡事故が起こった児童相談所でもよくあることなのですが、この対応で業務が圧迫し、現場は疲弊し改善策の検討ができなくなるうえ、ほかの業務を圧迫します。
管轄する市が適切な行政をしていたかそうでないかはのちの検証や裁判を経ないとわかりません。しかしながらこのような事例を知って自分がコントロールできなくなり、電話せずにはいられない人々の対応で、行政がストップしてしまうことは事実です。わが国の特徴はこのような事例が起こるとシステムの改善ではなく、現場の責任にすり替え、過度に個人や組織を攻撃するので、いつまでたってもシステムが改善されず同様の事故が起こることにあります。それでは、システムを改善するにはどうすればよいのでしょうか?
人は忘れるしミスをするという前提はとても重要です。市役所に電話するような人は自分を棚に上げているのですが、私たちは毎日ミスをし続けています。人はミスをするのでそれを前提として社会が回るのが寛容な社会です。
しかし今回の事件が起こった理由としては、市役所の苦情の中にあるような「子どもをバスに置いていくなんて、ちゃんと確認すれば起こらないだろう」という性善説の思い込みです。具体的には下記のように性善説でシステムが動いていました。
1. 窓ガラスが完全に中が見えないようにしてしまった(子どもが中に取り残されるなんてないだろうから、プライバシーを優先させた)
2. スクールバスの運転手資格・年齢条件がないため訓練されていない人でも運転できる(マニュアルを守れば事故が起こるはずないので、救急、安全、セキュリティなどの知識が運転手になくてもよいだろう)
3. 思い込みヒューマンエラーを防ぐ装置を用意しなかった(国の通達や市町村の指導をしっかり守れば、子どもを置き去りにすることなんてないだろうから、必要ない)
性善説及び規制緩和の名のもとに、結果的に、幼稚園・保育関連が安全や子どものケアなどの専門性を軽視した政策となりました。児童福祉領域において、専門性を否定し、誰でもできるようになることを「棄民政策」というのですが、その結果の1つと言えます。
国も性善説に基づいています。昨年度の福岡県中間市の死亡事例をもとに厚生労働省及び文部科学省、内閣府は連名で2021年8月25日、通達「保育所、幼稚園、認定こども園及び特別支援学校幼稚部における安全管理の徹底について」を出しました 。
 ③送迎バスを運行する場合においては、事故防止に努める観点から、
 ・運転を担当する職員の他に子どもの対応ができる職員の同乗を求めることが望ましいこと
 ・子どもの乗車時及び降車時に座席や人数の確認を実施し、その内容を職員間で共有すること
 等に留意いただくこと。
(一部抜粋)
要は、「しっかり確認しましょう」としか読めません。ミスをした場合はどうすればいいのか、ミスを防止するための科学的な視点がないのです。最もマズい点は、通達は出すが、それを実行する現場への費用(装置設置)や人件費などの支弁をしていないのです。
このようなことが起こるとこぞって評論家や福祉の中抜きのようなことをしている実践家が「海外では~」となります。海外の良いところだけ見て主張する方が多いのですが、法制度も文化も違いますし、専門的な国際比較の視点がないと鵜呑みにできません。
個人がスクールバス用警報ブザーを開発
このような中、ともに厚労省の参与としてコロナ対策に関わり斬新なアイデアでシステムを構築し、また神奈川県のコロナ対策の統括官でもある畑中洋亮さんが、1人の親としての立場から、スクールバス用警報ブザーを発案しました。


畑中さんが発案した発光ランプスイッチ。クラクションの配線につなぎ、バス後方に設定する(写真:畑中さん提供)
畑中さんは、このような装置が迅速に作れ、バスに簡単につけることが可能であることを実証しました。予算さえあれば自治体どころか園規模でも独自に導入可能です。しかし先進国で最も子どもに資源導入しないわが国の福祉の現場の金のなさを見ると、難しいかもしれません。国の支援が待たれます。
コロナの件もそうでしたが、実際に問題や課題が起きると、「海外では~」「署名!」などと必死に格闘している現場や研究者を批判する人が多いのが現状です。「であなたは何ができるのですか? 目の前でやってください」と言うと何もできないのです。
批判するだけの評論家ではなく、問題があれば自分で解決モデルを提示することが福祉政策でも重要です。モデルを提示し、検証する。これからは理系・データサイエンスの考えが福祉政策でも中心になっていくでしょう。