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安倍総理の志は死なない!!

来年10月、「消費税免除」切れ160万社混乱の必然

30年超放置「消費税を手元に残せる」は終了へ
藤尾 明彦 : 東洋経済 記者
2022年09月19日
免税事業者の多くは、インボイス制度導入で金銭負担が増えることになる


2019年10月、消費税が10%に引き上げられても、一定の条件を満たした一部の事業者は免税事業者として、その納税負担を免れたままだった。サービスや物品などの買い手が免税事業者に払った消費税は、国に納められることなく、「益税」として免税事業者の手元に残すことが許容されていたのだ。
しかし今から約1年後の2023年10月、「インボイス制度」の開始により、こうした“不平等”は是正の方向に向かう。免税事業者の反発や混乱も想定される中、インボイス制度開始の背景や展望を、『2時間で丸わかり インボイスと消費税の基本を学ぶ』の著者で税理士の吉澤大氏に聞いた。
――そもそも一部の事業者が消費税を納めなくてもよい状況が続いていたのはなぜでしょうか。
吉澤:消費税は1989年4月に初めて日本で導入されましたが、世論の反発は大きいものでした。一部の事業者の納税を免除することで少しでも反発を抑えたいという政治的な思惑があったのです。
しかし当初3%だった消費税は、段階的に10%まで引き上げられました。その分、免税事業者の手元に残る益税が膨らみます。そこで消費税を納めている課税事業者との不平等を解消するために、2023年10月から「インボイス制度」が導入されることになりました。
――インボイス制度が免税事業者にとって死活問題と言われているのはぜでしょうか。
吉澤:インボイスは「自分がこれだけ消費税を納税します」という証明書です。消費税の納税をしない免税事業者はこのインボイスを発行できません。ここで困るのが免税事業の取引先(買い手)です。取引先は免税事業者へ支払った金額のうち消費税額を控除した額だけ、国に納税します。しかし、来年10月以降、免税事業者からインボイスを取得できなくなると、支払った消費税額の控除ができなくなるのです。
となると取引先は、免税事業者に対して消費税分の値下げを要求する可能性が高いでしょう。両者の力関係にもよりますが、どちらが不利益を被るかで、免税事業者と取引先との間でトラブルが多発することも予想されます。したがって、この問題は免税事業者だけではなく、その取引先にも大きな影響が及ぶのです。
1事業者あたり15万円超の増税に?
――免税事業者に該当するのはどのような職業の人に多いのでしょうか。
吉澤:これまで基準期間(年間)の売上高が1000万円以下の事業者は、消費税の申告・納税の義務はありませんでした(※「基準期間」には細かい要件あり)。建設業の1人親方、小規模店舗の運営者、不動産の大家、フリーランスのライター、デザイナー、プログラマー、個人タクシーの運転手などが多いと思われます。
財務省は、インボイス制度の導入により課税事業者へと変更すると見込まれる免税事業者は約160万社、それによる税収の増加を2480億円と試算しています。単純計算で1事業者あたり年間15万5000円の増税となる計算です。
ただ実際は、消費税分ほど納税しなくてもよい簡易課税を選択できるなど、さまざまな経過措置が設けられていますので、すぐにここまで増税とはなりません。国全体の税収から見ても微々たる額で、インボイス制度の導入は税収目的というよりも、不平等の解消という理念の意味合いが大きいのです。
――とはいえ、免税事業者からしてみれば、取引先からの消費税分の値下げ要求や、それを拒否した際には取引中止をちらつかされるなど、現場ではトラブルが起きることも想定されます。
吉澤:インボイス制度は、消費者向けのビジネスをしている免税事業者には、ほとんど影響はないとされています。例えば、学習塾や医療機関、理容業、ゲームセンター、パチンコ店などが該当します。こうしたサービスを利用する消費者は、必要経費算入を目的として領収書を求めません。そのためインボイスの発行が不要で、免税事業者のままでいても構わないのです。
不動産の大家も、アパート・マンションなど居住用の賃貸は消費税が元々課税されていませんのでインボイスの発行は不要です。ただビルなど事業用物件や駐車場は消費税の課税対象です。インボイス制度が導入されれば、テナントは、大家が免税事業者であれば、消費税分の値下げ、または課税事業者への変更を要請すると考えられます。
個人タクシーも、客がプライベート利用なのか社用で経費算入を目的としているかで変わってきます。免税事業者でも前者なら問題ありませんが、後者であれば客がタクシーを利用後に経費算入できないことを知って、揉めるということもあるでしょう。
30年超放置の不平等は解消方向に
――どうすればこの問題を穏当に解決できるでしょうか。
吉澤:取引先が免税事業者よりも優位な場合、取引先が課税事業者へ変更しないことを理由に取引を停止することは、独占禁止法による「優越的な地位の濫用」に抵触する可能性はあります。
しかし、そもそもインボイス制度が導入される一番の目的は、不平等の解消です。消費者は自分たちが払った消費税は、当然、国に届いているものと思っている人が多くいます。しかし実際には、免税事業者の手元に残っていることを知れば怒りの声を上げるでしょう。
消費税を納めている課税事業者も不平等な競争を強いられていました。これらの状況を鑑みると、ケースバイケースではありますが、基本的にお勧めするのは課税事業者になることです。先ほど述べたように簡易課税を選択できるなど経過措置も用意されているので、負担増を抑えることもできます。
日本では30年以上、消費税を納めない免税事業者からの仕入れについても控除が認められていました。日本の消費税に該当する付加価値税制度がある欧州では、このようなことは認められていません。混乱は必至ですが、通らなければならない過程だと思います。