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安倍総理の志は死なない!!

台湾有事を見据え水面下で進む日米台の軍事協力

パラオ演習に台湾巡視船と海自護衛艦が参加
岡田 充 : 共同通信客員論説委員
2022年09月15日

2022年7月に行われた「パシフィック・パートナーシップ」に日本から参加した海上自衛隊の護衛艦「きりさめ」(写真・海上自衛隊提供)
インド太平洋地域での海軍と海上法執行機関の協力をうたうアメリカ軍の「パシフィック・パートナーシップ2022」の合同演習が2022年7月に西太平洋のパラオ沖で行われ、海上自衛隊とアメリカ海軍、イギリス海軍艦船に交じって、台湾の巡視船が極秘裏に参加した。
アメリカのバイデン政権は「インド太平洋戦略」で、台湾有事を視野に中国抑止へ向けた米台の軍事協力強化と日本との「統合抑止力」を強調しており、日米台の軍事協力は水面下で密かに進んでいる。
パラオ紙が台湾参加を確認
「パシフィック・パートナーシップ」は、アメリカ海軍と沿岸警備隊が日本など同盟国や友好国と「人道支援・災害対策」の合同演習を行う年次計画で、2022年は17回目。海上自衛隊によると、2022年7月15~19日にパラオ沖で行われた合同演習には、海自の護衛艦「きりさめ」が、アメリカ海軍病院船「マーシー」、同沿岸警備隊巡視船「マートル・ハザード」、イギリス海軍哨戒艦「テイマー」、パラオ海上保安局巡視船「ケダム」と合同演習を行った。
台湾紙などの報道によると、演習に台湾海巡防署(海上保安庁に相当)の巡視船「台南艦」(2105トン)が参加した。海上自衛隊とアメリカ海軍のプレスリリースでは、台湾巡視船参加について一切触れていない。だがパラオ紙「ISLAND Times」(デジタル版)は2022年7月15日、「台湾海巡防署は37名の乗組員とともに16~19日まで演習に参加」と報じた。
アメリカと台湾は2021年3月、アメリカ沿岸警備隊と台湾海巡防署の協力覚書に署名した。バイデン政権では初の米台間の覚書だった。覚書に基づき2021年、やはりパラオ周辺海域で行われた「パシフィック・パートナーシップ」合同演習には、台湾の600トン級巡視船「安平艦」が初参加した。
興味深いのは、合同演習参加は台湾にとって軍事機密だが、中国大陸のネット・サイトに「安平艦」と「台南艦」の台湾・パラオ往復の航跡を示すリポートが出た。それによると、「台南艦」は2022年7月16日午前2時にパラオに到着し、3日後に台湾への帰途についたことが記載されたという。中国側が台湾艦船の行動を掌握していることがわかり、台湾では機密情報が中国大陸に漏洩しているのではとの疑念を呼んだ。
合同演習の意義について、台湾ケーブルテレビ「TVBS」の記事は、台湾・中正大学の林穎佑・准教授の「アメリカ沿岸警備隊がアメリカ海軍とともに行動し、台湾海峡周辺で台湾海巡防署とともに合同演習すれば、新しい作戦方式になる」とのコメントを掲載した。
台湾海巡防署は、合同演習への参加については「ノーコメント」。「台南艦」が演習にどのように参加したのかは明らかではない。ただアメリカ病院船を中心とした演習では、各国の軍艦船と巡視船艇が連携して、被害艦船の乗組員救助や、負傷者を病院船に移送する活動が行われたと推測される。
同時に台湾艦の参加は、演習が「台湾有事」を想定した可能性を示唆している。台湾と国交のない日本の自衛隊が台湾側と軍事的連携活動に参加したとなれば、法的にも政治的にも問題化しかねない。今後もアメリカ軍を「要」(かなめ)に、日米台の軍事協力がさまざまな形をとり、水面下で進行する可能性がある。
自衛隊を補完する海上保安庁
日本で海上保安庁は、海難救助活動や尖閣諸島(中国名 釣魚島)でのパトロールなど、非軍事活動組織というイメージが強い。だが、アメリカの沿岸警備隊は陸海空3軍と海兵隊に続く「第5の軍種」とされ、大統領令によって海軍の一部として運用される「海軍補完物」だ。
海上保安庁はアメリカ軍政下の1948年、沿岸警備隊をモデルに創設されたから性格は似ている。自衛隊法には、首相の指示によって海上保安庁が防衛省の指揮下に入る規定があり、有事では自衛隊の補完組織になる。
巡視船が自衛隊の指揮下に入り、「武力行使」した実例を紹介する。1999年3月23日、佐渡島西方18キロメートルの日本領海内で2隻の不審船が見つかった。海上保安庁は巡視船艇15隻および航空機12機を動員、不審船が停船命令に応じなかったとし、海上自衛隊のイージス艦が初の「海上自衛隊行動命令」を発動して射撃を開始。同時に巡視船が1000発以上の機銃射撃をした。「準軍事組織」という性格が理解できると思う。
台湾海峡は2022年8月、アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問に反発した中国の軍事演習で大揺れした。アメリカ海軍は2022年8月28日、台湾海峡にイージス巡洋艦2隻を通過させた。アメリカ艦艇の通過には台湾海軍と巡視船が伴走し、これを中国海軍の監視船が追尾するという物々しさだったという。
これに続き2022年9月2日、台湾海峡で海保巡視船の「奇妙な行動」がネットを騒がせた。「なぐら」など4隻の巡視船が、「台湾海峡に集結した」と香港メディアが騒いだのだ。実際は「台風11号」が沖縄・南西諸島に接近・停滞したため、尖閣諸島周辺でパトロールしていたこれら4隻が、避難のため台湾海峡に集結したのだった。
巡視船が台湾海峡に集結
ところが、巡視船の航行を詳細に伝える日本のツイッターが「2022/09/03 台湾海峡を通過している海上保安庁巡視船御一行様。この一斉行動は単なる台風避難ではないね」(@yanzu27)などと「ナゾかけ」風の書き込みをした。これが、台風避難を名目に日本巡視船が台湾海峡で「自由航行作戦」を行ったとの臆測を呼んだのだった。
同じツイッターの書き込みは2022年9月4日「海上保安庁の各巡視船の出航地と航路が興味深い。これが単なる台風避難なのか?? ①「れいめい」鹿児島→台湾海峡中央部でUターン ②「りゅうきゅう」那覇→台湾海峡を南下、バシー海峡手前でUターン北上。 ③「とかしき」石垣島→バシー海峡から台湾海峡を北上」と、復路まで詳細に書き込んだ。
海上自衛隊と海保は今後、台湾有事を視野に協力・連携を深め、アメリカ軍の「橋渡し」の下で台湾海巡防署との協力・連携の空間を広げる可能性もある。パラオ合同演習への台湾艦参加は、その先駆けでもあった。