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安倍総理の志は死なない!!

トランプが99%大統領選に出馬するといえる根拠

上智大の前嶋和弘教授に聞くアメリカ政治の今
野村 明弘 : 東洋経済 解説部コラムニスト
2022年09月29日
中間選挙を前に、再びトランプ旋風が巻き起こるアメリカ。2024年の大統領選はどうなるのか。

バイデン大統領は自分が再び出ると決めるのか、トランプ前大統領はいつ出馬宣言するのか、が注目の的だ。写真は9月にノースカロライナ州で集会を行ったトランプ氏(写真:AP/アフロ)


11月8日の中間選挙まで残すところ1カ月強となったアメリカ。トランプ前大統領が推薦・支持する候補者が次々と共和党の予備選挙を勝ち抜くなど、再びトランプ旋風が巻き起こっている。
ここにきて民主党の挽回も目立つ中間選挙の行方はどうなるのか。その次に控える2024年大統領選挙の行方はーー。アメリカ政治に詳しい上智大学の前嶋和弘教授に話を聞いた。
現職大統領の政党は圧倒的に不利
ーーアメリカ中間選挙をめぐる戦いはこれから本格化しますが、現在までのところどのような情勢でしょうか。
まず押さえておかなければならないのは、中間選挙には方程式みたいなものがあることだ。それはその時の大統領が属する政党は厳しいということ。アメリカで現在のような共和党と民主党の2大政党制になったのは、日本の江戸時代に当たる1854年。そこから現在まで40回の中間選挙があったが、その中で現職大統領が属する政党が上下両院で勝ったのは、たった2回しかない。
1つは1934年で、大恐慌からやがて第2次世界大戦に至る時代。もう1つが比較的最近の2002年で、アメリカ同時多発テロを受けてテロとの戦いに突入したときだ。いずれも戦時的な体制のときで、この2回以外では現職大統領の政党が上下両院で議席を増やしたことは一度もない。
なぜこうなるかといえば、現職大統領の政党の支持者は、現在の政治状況にある程度満足しているため、投票所に足を運ばないことが多いからだ。逆に、現職大統領の側でない政党の支持者は不満が大きく投票率が上がる。したがって、バイデン大統領の民主党は次の中間選挙で結果がよくないということが、予測の土台としてある。
ーー具体的な票読みは可能ですか。
下院は中間選挙で435議席すべてが改選であり、ここを見れば大体の選挙の風向きがわかる。近年の大統領の1期目の中間選挙の下院の状況は、新しいところから順に言うと、トランプ大統領のときにマイナス40議席、オバマ大統領のときはマイナス63議席、ブッシュ(子)大統領時は先述のようにテロとの戦いがあり異質だったが、その前のクリントン大統領のときではマイナス54議席となっている。
現在の下院の議席状況から考えると、民主党は次の中間選挙で5つ議席を減らすだけで多数派から転落してしまう。40〜60もの議席が減るという近年の経験則から言えば、民主党は非常に厳しい。
ーー支持率低下が続いていたバイデン政権ですが、夏から民主党に少し追い風が吹いてきたと言われています。
アメリカの選挙では通常、あまり風は吹かない。だが今年は、6月にアメリカ連邦最高裁判所で「妊娠中絶は憲法で認められた女性の権利」という49年前の判断(ロー対ウェイド判決)がひっくり返されたため、リベラル派の人々がそれに怒り、民主党にとって一種の神風になっている。
これにより、通常なら民主党が40〜60議席を失うところが、恐らく20議席のレベルに下がってくるだろう。とはいっても、民主党が多数派を維持すること自体は難しいと言わざるをえない。
「下院でも民主党が勝つ」はデマだった?
9月中旬にアメリカでいろんな噂話が登場した。民主党下院のペロシ議長やホイヤー院内総務、クライバーン院内幹事が「民主党は下院選挙で勝てるというデータがある」と言いふらしたのがきっかけだ。そのため、もしかしたら下院で民主党は勝つのではないかという噂が広がった。
ただその直後、民主党上院のシューマー院内総務が「民主党が下院で勝つ確率は4割くらいだ」と本音を言って、どうも民主党勝利説ははったりだったようだという結論になっている。民主党がそうとうに風に乗って、たとえばマイナス10議席くらいまで縮めるかもしれないが、民主党が下院で多数派を割ることは現在も基本線になっている。
ーー上院の選挙見通しはいかがですか。
第2次世界大戦後の20回の中間選挙について、現職大統領の政党が平均でどれだけ議席を減らしているかを見ると、上院がマイナス4、下院がマイナス26だ。現在の上院は50議席対50議席で拮抗しているため、過去の例で言えば、民主党は上院でも多数派を割る可能性はある。
しかし、今回、共和党には分の悪さがある。上院は一回の選挙で3分の1の議席が改選となり、今回は35議席(2つの補選含む)が対象だが、たまたま6年前の選挙で共和党が強かったため、改選の35議席中、現職では共和党が21、民主党が14を占めている状況だ。
そのため、共和党は次の中間選挙で多数派を取るためには、7議席を失わずにさらに議席を上乗せする必要があり、これはそうとうがんばっても微妙だろう。しかも、共和党のマコーネル院内総務が8月に「いくつかの候補は質が悪い」と本音を漏らしてしまったように、共和党の上院候補者の一部は政治家としての質の問題を抱えている。
つまり、民主党は上院では多数派を割らない可能性が出ている。結果、上院と下院でねじれ現象が起きるだろう。
ーー中間選挙における政策的な争点は何になりそうですか。
投票率が低いときの争点は、選挙民が怒りを覚えるなど、徹底して人々の琴線に触れるものになるのが一般的だ。今回は、先述の妊娠中絶をめぐる問題がそうであり、アメリカ市民の生活を苦しめるインフレ、トランプ前大統領へのFBI捜査、非合法移民の移送問題の4つが争点となりそうだ。
ただ、これらの争点は一方的にどちらかの政党を利するというものではない。たとえば、世論調査を見ると、妊娠中絶の問題は、民主党支持者を怒らせ、民主党を利するという結果が出ているが、共和党支持の宗教保守層からすれば、彼らの長年の悲願を達成してくれたということになる。「次は同性婚も潰せ」と勢いづかせるかもしれない。
インフレにしても、共和党は「バイデンフレーションだ」と民主党を攻撃しているが、民主党は民主党で「これはプーチンフレーションであり、バイデン政権は歴代で最も雇用をよくした大統領だ」と応戦している。4つの争点が、選挙結果にどんな影響を与えるかはまだわからない。
ーー中間選挙後、上院と下院がねじれ議会となれば、バイデン政権は法案を成立できず、内政を進めにくくなります。選挙後のアメリカ政治はどのように変わりますか。
短期的には来年以降、政策は止まる。まず、共和党が多数派を取った下院で、どのような法案が通過しようと、バイデン大統領が署名しないからまったく動かない。たとえば、今夏、バイデン大統領が大統領令として打ち出した学生ローン債務の1人1万ドル免除について、下院で共和党がそれをストップさせる法案を出してもバイデン大統領はそれを潰す。
内政停滞でバイデンは外交に注力へ
また、息子のハンター・バイデン氏のウクライナでのビジネスをめぐる疑惑などでバイデン大統領の弾劾を求める動きが出ても、共和党は上院で3分の2以上の議席を握っていなければ、それを実現できない。
次の大統領選挙まで、内政的にはかなり停滞する2年となるだろう。一方で、外交は大統領の優先事項だ。中間選挙で敗北した後のオバマはTPP(環太平洋パートナーシップ協定)合意やイラン核合意で、トランプは中国や北朝鮮の問題で動きが活発になった。バイデン大統領も中間選挙後、外交のほうでの動きが目立つようになる。
ーー中間選挙が終われば、次はいよいよ2024年大統領選挙のモードへ突入します。
そのとおりだ。バイデン大統領は自分が再び出ると決めるのか、トランプはいつ出馬宣言するのか、が注目の的だ。アメリカ国民の声としては、2人よりもっとよい候補がいれば、そちらに投票したいが、今のところそうした人物が見当たらないという思いだろう。
バイデン、トランプ以外の候補者の可能性について見てみると、民主党ではハリス副大統領は期待されているが、発言が頼りなかったり的外れだったりする。前回、民主党の大統領予備選挙で善戦したブティジェッジは、バイデン政権で運輸長官に就いたが、あまり目立たず、まだ頼りない感じだ。左派色の強いところでは、カリフォルニア州知事のニューサムが注目されている。
また、サンダース(2016年、2020年の予備選に出馬、民主社会主義者として注目が高い)は、「バイデンは素晴らしい。フランクリン・ルーズベルト以来の最もプログレッシブ(進歩的)な大統領だ」と褒め、もしバイデンが出ないなら自分が出馬すると言っている。あまりに高齢(現在81歳)のため、急進左派的な人たちの間ではオカシオコルテス(2018年の中間選挙で当選した史上最年少の女性下院議員。2024年には35歳となり、大統領の年齢制限をクリア)への待望論が強い。
しかし、そうした急進左派色の強い候補者ではまずいと思う民主党支持者としては結局、バイデンを消去法的に選ばざるをえないのが現状だ。
ーー共和党の大統領候補はいかがですか。
大本命はトランプだが、もし彼が出なかったら、「ミニトランプ」として人気が高いフロリダ州知事のデサンティス、前副大統領のペンス、前アメリカ国連大使のヘイリー、トランプの子飼いと言われる前国務長官のポンペオ、さらにはトランプ批判の急先鋒で先日下院の予備選で敗れたチェイニー、穏健派ではメリーランド州知事のホーガンなどが予備選に出馬する可能性がある。特にトランプと、反トランプの保守本流であるチェイニー、穏健派のホーガンが三つ巴になると、共和党はかなりカラフルな展開になりそうだ。
ーー結果的にはトランプが勝つ?
トランプ本人はやる気満々だ。現在、彼は政治資金集めをしているが、トランプ派候補を応援する政治団体「リーダーシップPAC(政治行動委員会)」という枠組みを使って、自分の選挙でなく、ほかの候補者を支持するための運動に潤沢に資金を集めていることに満足している。トランプ派候補の応援といっても、実際には自分の演説を行うわけだから、今のやり方に味をしめている格好だ。
トランプは99%の確率で出馬宣言する
99%の確率でトランプは次期大統領選挙へ出馬宣言するだろう。トランプは、レーガン以来、最も人気の高い共和党の保守本流の大統領として返り咲きたいという気持ちが強い。一方で高齢(現在76歳)であるため、体力勝負となるだろう。彼の健康データは、お抱えの医師が健康診断ですべての項目を「エクセレント」と記述しているため、本当のところはわからない。
しかし、予備選に出馬するとなれば、現在も共和党内で最も人気があり、勝利することは確実だ。先述のチェイニーやホーガンも出るだろうが、彼らは一種のかませ犬のような立ち位置になるかもしれない。泡沫候補のみでまともな対抗者が出ずにトランプの独り勝ちとなる可能性もある。そして、トランプの副大統領候補がデサンティスとなれば、共和党のトランプ支持者にとっては黄金のチケットとなるだろう。
ーー最終的な大統領選挙の結果について、たとえば民主党の候補者がバイデンとなれば、トランプとどっちが勝つのかはまだはっきりしませんか。
一言で言えば、大接戦だ。たとえば、バイデンやトランプでなく、ハリス対デサンティスの場合でも大接戦だ。アメリカの選挙は州ごとにどちらの政党が勝つかははっきりしており、それが明確でないスイングステートと呼ばれる5つくらいの州の趨勢次第で結果が変わってくる。
中間選挙の投票率は50%程度と低いため、いかに自分たちの政党の支持者を固めるかがポイントとなる。一方で大統領選挙の場合は、2020年の投票率が65%だったように高く、30%程度の無党派層をどう取り込むかがカギを握る。関心の低い無党派の人たちをいかに自分たちの政党へ振り向かせて投票所に連れて行くかの勝負だ。勝敗を分ける要因としては、ビッグデータの活用などサイエンス的な部分もある。
ーー2024年の大統領選挙でトランプが再び台頭してくるとすれば、新たに何が争点になってくるのでしょうか。
「大きな政府」対「小さな政府」という、この間、少し忘れ去られていた古典的な争点が再びクローズアップされてくるだろう。
バイデン政権は、中間選挙で不利になることがわかっていたため、政権発足以来、矢継ぎ早にコロナ対策のアメリカ救済計画法やインフラ関連法案など巨額の財政政策を実現させた。また今夏には、当初予定よりスケールダウンしたとはいえ、気候変動対策などに巨費を投じるインフレ削減法を成立させ、そこには最低法人税率導入や自社株買いへの課税など大きく2つの増税も盛り込んでいる。
アメリカは1980年代からずっと減税の歴史だったが、それが大きく転換する局面になっている。先述したバイデン大統領による学生ローンの徳政令も途方もない金額になる可能性があり、下手をすると国防費の半分から3分の1になるのではないかという試算もある。また、仮に今後も民主党主導の政治が継続されるなら、企業の次は富裕層への増税という流れになるだろう。
こうした動きに対して、共和党の保守本流は小さな政府派として、「自分たちのお金を勝手に使うな」と反発を強めている。規制緩和などを含めて、古くて新しい、「大きな政府か、小さな政府か」という対立軸が一気に出てくるだろう。
ーートランプはコロナ禍で、1人最大1200ドルの特別給付金を出すなど、ばらまき色もありましたが、2017年に大減税を成立させるなど確かに共和党の保守本流の大筋は押さえていました。
アメリカ政治を簡単に振り返ると、現在の「文化戦争」と呼ばれるような分断の始まりは、1960年代の公民権運動まで遡る。先述した1973年のロー対ウェイド判決なども「文化戦争」に拍車をかけた。
その頃まで、アメリカ南部は民主党の地盤で、共和党はむしろ人種平等の政党だったが、黒人の政治運動やロー対ウェイド判決を支持する民主党への反発が強まった南部を共和党が取りに行く戦略が成功した。
ティーパーティ運動の登場で分裂は激烈になった
第2次世界大戦以後、下院では民主党優勢が続き、1954年以降ではつねに民主党が多数派だったが、それがひっくり返ったのが1994年の中間選挙だった。当時の共和党下院議長の名前を取って「ギングリッチ革命」と呼ばれ、当時のクリントン政権と予算案などをめぐって激しく対立し、ここから現在に至る分断の様相が拡大していった。
決定打となったのは、オバマ政権時の2009年春から始まったティーパーティ運動だ。これが共和党を大きく変えてしまった。ティーパーティの本質は「オバマは嫌いだ、左派は嫌いだ」というわかりやすいものだったが、それをストレートに言うと人種差別になるため、表面的には「税金はもうこりごりだ」という減税運動を前面に出した。そこにいろんな人たちが入ってきて、国内の富を優先するアメリカファースト的な流れも包含していた。
このティーパーティの人たちがそのままトランプ運動に移行した。オハイオ州のように共和党の既存組織はトランプを支持しなかったような例もあったが、同州では当時トランプの選挙対策委員会を担ったのはティーパーティだった。ティーパーティは、人種差別的だったりポピュリスト的だったりするため、それを母体とするトランプ運動により共和党は変質した部分もあるが、実際にはトランプは、小さな政府路線に沿った減税や規制緩和、さらに宗教保守層の重視(保守派の最高裁判事の指名、イスラエル支援、イラン叩きなど)と共和党の保守本流の原則に則っている。
いわば、トランプはティーパーティとともに共和党の保守本流の母屋を乗っ取ってしまったといえる。その中には少し怪しい人たちも入っているというのが実態だろう。したがって、2024年の大統領選挙に向けて、再び「大きな政府VS小さな政府」という対立軸が浮上することは自然な流れとも言える。
分断は今が最高潮、収束には10年以上かかる
アメリカ社会の分断はいつまで続くのでしょうか。
1990年代半ば頃までは、共和党と民主党の間でも政策的に重なる部分がそうとう程度あり、どちらが政権を獲っても混乱は少なかった。現在では完全に右と左に別れてしまっており、そして両者の勢力が拮抗状態にある。つまり、現在が分断のピークだ。こうした分断が収まるには時間がかかり、次の2024年や2028年の大統領選挙の後ではなく、10年以上の先のことだろう。
将来、こうした分断が収束する要因としては、人口動態が大きい。2000年代は最も多数の移民がアメリカに入ってきた時代だ。現在の20代では、白人はすでにマイノリティになっているが、中長期的にヒスパニックやアジア系などのマイノリティの比率が一段と増し、多様化が進む。トランプ運動は移民を削り、その動きを止めようとしているわけだが、長い目で見れば、多様性を認め、所得の再分配や大きな政府を指向する方向にアメリカ社会も進んでいくのではないか。
2030年以降には、共和党もより多くの票を獲得するため、たとえばヒスパニック票を取りに行ったりするかもしれない。そうすれば、分断は収まっていくと思う。「感情的分極化」という言葉がアメリカにはあり、それは、頭の中では民主党のやることは正しいと考えているが民主党だから嫌いだという共和党支持者は多いという意味だ。トランプ支持者は、自分たちが批判しているオバマケア(オバマ大統領が行った医療保険制度改革)に実際には助けられている面があり、そうしたことも無視できない。