Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

「地下シェルターがない」「弾薬の在庫が不十分」…岸田総理が国民を守るために、‟待ったなし”で埋めなければならない「国防の穴」

弾薬の在庫は最大で2か月分
先週の本コラムは、岸田総理が9月30日に「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」を立ち上げて第1回会合を開催して本格的に防衛力強化の議論を開始したことを受け、防衛費の財源について法人税を軸に所得税の増税も加えて恒久財源を確保する必要性があることを指摘した。今週は、しっかりした財源の確保と並行して、どういう防衛力を強化すべきなのかを考えてみたい。
政府の有識者懇談会に提出された資料を見ると、色々、細々と書いてあるが、筆者が防衛省幹部に取材したところ、まず外せない強化ポイントが二つある。「継戦能力の向上」と敵のミサイル拠点をたたく「反撃能力」もしくは「敵基地攻撃能力の確保」である。
継戦能力と言われてもピンと来ないかもしれないが、中長期的に戦争を続けられる能力という意味であり、要するに十分な弾薬の在庫の確保が重要だということだ。
朝鮮戦争の終結後、東アジアの安全保障環境が比較的安定していたこともあり、防衛省は戦争が起きる可能性が低いという前提から、防衛予算の要求にあたって新しい装備品の獲得に重点を置いてきた。弾薬の確保などは二の次で後回しにしてきた経緯がある。
この結果、通常兵器の弾薬の在庫は最大で2か月分くらいしかないとされている。
さらに脆弱なのは、目標に正確に着弾させる「精密誘導弾」の在庫だ。ロシア軍がウクライナで劣勢になってきた原因の一つとして精密誘導弾の弾切れという問題がしばしば指摘されているが、自衛隊の継戦能力としてみても精密誘導弾は数日分の在庫しかないとされている。
民間企業も含めた国全体の戦略を構築する必要
ロシアのウクライナ侵攻から早や半年あまりが経過していることを勘案しても、自衛隊の弾薬の在庫が不十分なことは明らかだ。こうした弾薬の確保は最重要課題の一つである。
反撃能力は、どの程度の反撃能力が必要なのか。意見が分かれ、難しい判断が求められる問題だろう。相手の核攻撃を想定すれば、こちらも核武装をしないと十分な反撃能力を保持していることにならないという議論があるからだ。核の傘の有効性についても、国を挙げた議論だけでなく、米国とのすり合わせも必要な論点である。
防衛省が、8月末に公表した来年度予算案の概算要求をみると、敵基地攻撃能力を念頭に、射程が長い「スタンド・オフ・ミサイル」の量産を盛り込んでいる。こうした兵器で十分な反撃能力が確保できるのか。予算編成や安全保障関連の3文書を改訂する年末までという限られた時間で十分な議論ができるとは考えにくいが、それでも今一度、政府はこの辺りの基本的な考え方について国民に詳細に説明して、しっかりと理解を得る必要がある。
3つ目は、政府の防衛政策としてほとんど議論されていないが、近年の戦争がハイブリッド戦争化しており、その対策が欠かせない。ロシアのウクライナ侵略に際しても、戦闘の開始前からサイバー攻撃が目立ったことは周知だろう。
実際の武力侵攻の前に、金融・通信分野でサイバー攻撃を実施するとともに、通信衛星にジャミングするといった攻撃も横行したことを考えると、サイバー攻撃に対する民間企業のセキュリティの強化や情報戦のための発信能力の充実といった防衛力の強化は欠かせないポイントだ。そして、それは防衛省・自衛隊が民間企業に代わって担当できる問題ではないものの、民間企業も含めた国全体の戦略を構築する必要がある。
SNSで国際社会から支持を得られる体制作りを
同じく重要なのが、民間の衛星を使った敵の部隊や航空兵力の追跡や通信の活用だ。ウクライナ戦争でも米国企業が活躍したことは指摘するまでもないだろう。
加えて、SNSを通じた情報戦略も欠かせない。ゼレンスキー政権の対応を参考に、いざという時のため、日本も国際社会・世論の支持を得られる体制作りを急がなければならない。こうした分野は、政府を挙げて取り組むべき手付かずの重要課題で、現状を見ると強い危機感を抱かずにはいられない。
最後に強調したいのは、北朝鮮が今月(10月)4日に、2017年9月以来ほぼ5年ぶりに日本上空を通過するミサイルを発射したことが露わにした、有事の際に国民を守る体制の脆弱さだ。
この日の朝、政府は、北朝鮮から午前7時22分に弾道ミサイル1発が発射されたと発表。5年ぶりに全国瞬時警報システム(Jアラート)を発令した。
ところが、防災行政無線や携帯電話を通じた避難の呼びかけは、ミサイルの上空通過とほぼ同時刻で、該当地域の住民が身を守る時間は無いに等しかった。Jアラートは7時27分に東京都の島しょ部と北海道、同29分に東京都の島しょ部と青森県に発令されたものの、青森県上空をミサイルが通過したのは同28から29分のことで、「建物のなか、または地下に避難してください」とのメッセージに従って避難する時間的な余裕はほぼなかったのである。
安全性が高い地下施設は全体の1%
それどころか、警報が届かない地域があった。北海道と青森県の6市町では防災行政無線の放送が流れないなどの不具合があったほか、携帯電話への送信で楽天モバイルの回線利用者に届かなかったとされている。
さらに、東京都島しょ部はミサイルの落下地点から離れており不要だったのに、警報が流れたことも判明した。
政府は、Jアラートの運用を全国で始めるにあたり、2009年度補正予算でシステムの開発や受信機の設置に110億円余りの予算を計上した。しかし、Jアラートは、北朝鮮が5年前に日本上空を通過するミサイルを発射した時も、機器の設定ミスなどが原因で一部地域に配信ができなかった。そして、今回、またしても、そうした教訓が活かされなかったのだ。
ミサイルそのものでなくても、部品の一部が落下するだけでも、国民の安全が脅かされないだけに、有耶無耶にはできない失態である。
避難の警報を受け取っても、いったい、どこに避難する場所があるのかという問題も手付かずだ。
法制上は、18年前に施行した国民保護法が都道府県や政令指定都市にテロなどを想定した避難施設を指定するよう定めており、2021年4月時点で全国に9万4125カ所の避難施設が存在することになっている。しかし、こうした場所のほとんどは学校や公園で、シェルターのように安全性が高い地下施設は全体のわずか1%(1278カ所)しかないという。このうち、今回Jアラートが発令された地域に着目すると、北海道は16、青森県は8、東京都は188カ所といった具合だ。
しかも、地下施設の中でさえ、核攻撃に耐えうる強度や、放射性物質を遮断する空気清浄装置を備えた指定避難先は全国にまだ一つもないというのだ。韓国では、首都ソウルに大規模な地下シェルターが整備されているという。大規模な地下シェルターは災害時の安全の確保にも有効だ。防衛力強化の観点からも待ったなしの課題になっている。
岸田政権は発足からほぼ1年、本格的な防衛力強化の議論を始めず、時間を無駄にした。
総理の決断力、行動力の乏しさは目を覆うばかりだが、この問題は決して先送りできない問題だ。残された時間は少ないが、可能な限り幅広く国民的な議論を展開してコンセンサス作りに努めてもらいたい。