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安倍総理の志は死なない!!

「世界遺産」目指す佐渡への交通、どう維持する?

船はみちのりHD傘下に、「トキエア」も就航予定
森川 天喜 : ジャーナリスト
2022年10月19日

佐渡汽船のジェットフォイル(高速水中翼船)。新潟―両津間を1時間強で結ぶ。ジェットと名がついているが、燃料は軽油だ(写真:佐渡汽船)
JR西日本に続き、JR東日本も赤字ローカル線の収支を公表するなど、地方路線の維持問題が注目を集めているが、鉄道以上に深刻なのが離島航路だ。鉄道であれば、BRT(バス高速輸送システム)や路線バスへの置き換えの議論の余地があるが、海路は代替手段がほぼなく、いかに赤字であろうと島に人が住む以上、永続的に維持していかなければならない。
我が国を代表する離島である佐渡島と本土(新潟)を結ぶ佐渡航路は、1932年以来、佐渡汽船が一手に担ってきた。しかし、同社はコロナ禍で大幅な債務超過に陥り、2022年3月、第三者割当増資により新たに筆頭株主(従前は、新潟県が筆頭株主)となったみちのりホールディングス(以下、みちのりHD)の傘下に入った。今後は同HD主導で経営再建が進められる。
佐渡汽船の新社長に就任した尾渡英生氏(前職はみちのりHD傘下の湘南モノレール社長)に今後の経営再建策などを聞くとともに、2023年度以降に佐渡空港への就航を表明しているトキエア(新潟市)にも事業構想などについて聞いた。
佐渡の労働人口を増やしたい
■佐渡汽船社長 尾渡英生氏インタビュー
みちのりHDと佐渡汽船
みちのりHDは東北・北関東を中心に経営難に陥った地方交通の再生を手がけ、現在は傘下の交通事業者として岩手県北バス、福島交通、会津バス、関東自動車、茨城交通、湘南モノレール、佐渡汽船が名を連ねる。佐渡汽船は現在、新潟航路(新潟―両津間)と直江津航路(直江津―小木間)の2航路を運航し、新潟航路にはカーフェリーとジェットフォイル(高速水中翼船)、直江津航路にはジェットフォイルが就航している。
――佐渡島の人口はピーク時には12万人を超えていたが、2020年には約5万1000人まで減少している。島民の利用増が見込みづらい中、経営再建のカギとなるのは、やはり観光客の呼び込みか。
佐渡金山の世界遺産登録による効果を期待しているのはもちろんだが、佐渡の労働人口を増やすことも考えなければならない。佐渡の魅力を高め、IT関連などリモートで仕事ができる人たちなどに移住先として選んでもらうことが必要だ。また、お米や「おけさ柿」などの果物や海産物など佐渡の産品が今以上に売れるようにすることも重要だ。物が売れ、地元事業者の事業規模が拡大すれば、島外から従業員を雇うようになるし、当社は旅客のみならず貨物輸送も担っているので、運ぶ物量が増えることにもなる。
――観光面に着目すると、新潟航路の玄関口である両津港周辺の街に活気が乏しく、廃業した宿泊施設が散見され、営業している施設の老朽化も目立つ。一方で、夏の繁忙期やイベント開催時には宿が足りなくなる。こうした部分に関して打てる手はあるか。
事業再生に着手したばかりの当社に今すぐにできることは限られるが、着目しているのは古民家の再生だ。現在、島内には5000戸の空き家があり、今後も年々増えていく。これらをリノベーションして長期滞在者用の宿泊施設として使うことを、少しずつでも進めていければと考えている。
宿泊施設と並んで、不足しがちなのが島内のレンタカーだ。佐渡島は855㎡(東京23区の1.4倍)の広さがあり、観光にはレンタカー、マイカーの利用が便利だ。当社グループの佐渡汽船観光が62台、島全体で300台くらいのレンタカーがあるものの、繁忙期にはすぐに予約が埋まる。今後はレンタカーの台数を増やすとともに、カーフェリーにマイカーを積んで佐渡にお越しいただくよう、プロモーションしていく考えだ。
――直江津航路は、現在はジェットフォイル1隻体制だが、近いうちに、愛媛の海運会社からカーフェリーを購入し、ジェットフォイルと置き換える計画とのこと。これはマイカー利用の促進とも関係があるか。
もちろん、ある。直江津港は北陸自動車道の上越ICに近く、上信越自動車道との接続もいい。カーフェリー導入は観光のみならず、地元の方々の移動や物流の利便性向上の観点からも、非常に大きな意味がある。
直江津航路にカーフェリー投入の狙い
――直江津航路では2020年まで高速カーフェリー「あかね」が運航されていたが、不採算路線であるうえに、フェリーは維持費がかかることから、ジェットフォイルに置き換えた経緯がある。再度、カーフェリーに戻すのは、リスクが大きいのではないか。
直江津航路も、かつてはカーフェリー2隻プラス、ジェットフォイル1隻の計3隻体制で運航していた時期もあった。その後、紆余曲折を経て、カーフェリー1隻体制となり、2015年の北陸新幹線の金沢延伸開業に合わせて「あかね」が就航した。しかし、この「あかね」が非常に揺れる船で乗り心地が悪く、客離れを起こしたという経緯がある。したがって、便利さと乗り心地のよさをきちんとPRできれば、利用者は戻ると考えている。
また、物流も重要だ。現在、佐渡への生活物資等の輸送は当社の新潟航路が一手に担っており、直江津方面から佐渡への輸送は新潟経由になる。直江津から新潟は地図で見ると近く感じるが、実際に高速道路を走ると2時間近くかかり、時間的ロスからのコスト増はかなりのものがある。
こうした観点から、直江津航路へのカーフェリー導入は、地元の皆様からの要望の声が非常に大きい。ただし、ご指摘のとおりリスクは常にあるので、当社として営業努力をするのはもちろん、県および関係各市から、どのようなご支援をいただけるのかということも重要だ。また、佐渡島は国の政策である「有人国境離島」に指定されており、国としても地域社会の維持に支援を行っている。今回の件に関して、国のご理解もいただけるはずだ。
――船の運賃について。4月以降、島民割などの各種割引の見直しが行われ、運賃がやや割高になった。とくに生活の足として船を使っている島民にとっては、使いづらい運賃になったのではないか。
経営改善のためのやむを得ない措置だ。われわれは、大変な経営状況に陥っている佐渡汽船という会社をお引き受けし、2つの航路と社員の雇用を維持することが至上命題となった。燃料費や物価が高騰する現段階においては、料金を引き下げるのは非常に難しい選択肢だ。
――トキエアが佐渡空港への乗り入れを表明しており、競争が生じる可能性がある。どのような対策を取るか。
(トキエアのことではないと前置きしつつ)今後、たとえばほかの海運会社等が、本土―佐渡航路に就航するような話が出てくるならば、難しい話になる。
われわれは地方の一交通事業者として、縮小が続く限られた需要の中で、なんとかサービスや雇用を維持しようと努力している。そこに価格競争が生じ、需要を奪い合うようなことになれば事業として成り立たず、共倒れになるかもしれない。
まず4路線の就航目指すトキエア
■トキアビエーションキャピタル 空港・地域活性化戦略室室長 小川圭太氏インタビュー
トキエア
日本航空(JAL)勤務後、ジェットスター・ジャパンの立ち上げ、三菱リージョナルジェット開発プロジェクト等に携わった長谷川政樹氏が新潟を拠点に設立した新しい航空会社。現在、2023年3月以降の新潟―札幌など4路線の定期便就航を目指し、航空運送事業許可申請の準備を進めているほか、その後の東京―佐渡直行便の就航も表明している。関連会社のトキアビエーションキャピタルは、航空に基軸を置いた地域活性化事業等を担う。
――トキエアの事業構想を教えてほしい。
まずは、新潟と丘珠空港(札幌)、仙台空港、中京圏(中部国際空港で協議中)、関西圏(神戸空港で協議中)を結ぶ4路線の就航を目指しており、各路線とも1日2往復飛ばすことをベースに考えている。
機材(機体)は、就航当初はエアバスグループのATR社の約70人が乗れるプロペラ機(ATR72-600)2機を使用する。国内の大半を給油なしで航続が可能と燃費効率がいいことや、空港使用料が安く抑えられることが同機を採用した主な理由だ。

「TOKI」のロゴが入った、トキエアとリース契約を締結した機材=9月中旬、仏・ツールーズのATR社内で撮影(写真:トキエア)
上記4路線を就航させた後、次のステージとして東京と佐渡空港を結ぶ直行便の就航を目指す。佐渡空港は滑走路が890mと短いため、他路線よりも小型の機材(ATR42-600、標準座席数48)を当面は使用するが、2025年度にSTOL機(短距離離着陸機)のATR42-600Sが市場投入された後は、同機に切り替えることになる。(筆者注:ATR42-600を800m級の滑走路で使用する場合、乗客数を定員の半数程度に減らす必要がある)
――9月16日付の新潟の地元紙に、資金調達の遅れから就航時期が2023年3月以降にずれ込むとの記事が出た。
当初、今年7月の就航を予定していたことから、遅れていることは事実だが、資金確保が直接的な原因ではない。
――運賃はどれくらいの価格帯を想定しているか。
われわれはビジネスモデルとしてLCCを標榜しているわけではない。プロペラ機を使用することなどでコストの低減を図る一方、地元の魅力などを生かした高品質なサービスを提供していく。したがって、価格帯としては、 大手航空会社よりは相当に安いが、LCC各社との競争にはならない、その中間を想定している。
佐渡を例にすると、現在、東京から佐渡に行く場合、新幹線と船を乗り継ぐと、片道で約1万8000円だ。当社の基本的な価格ラインとしては、そこから逸脱しない価格帯を目指す。価格競争が生じるとの懸念があるかもしれないが、佐渡空港へ就航予定の飛行機は約40人乗りであり、新幹線・船とは輸送量がまったく異なるので、競合関係にはならないはずだ。
佐渡に直行便を飛ばすことでインパクトが大きいのは、時間軸の変化だ。これまで、東京から佐渡までは最短でも5時間かかり、1泊2日のツアーは組めないというのが旅行業界の常識だった。しかし、直行便で東京―佐渡が1時間で結ばれれば、新たな旅行需要が喚起されるほか、ビジネスパーソンのワーケーション先としても検討されうる場所になるだろう。
そのほか、離島特有の問題の解決にもつながる。離島では医師不足が問題になっているが、片道1時間であれば週の半分は佐渡で勤務してもいいという医師がいるかもしれない。行政とも連携し、こうした問題の解決にもつなげていきたい。
佐渡空港、スムーズに就航できる?
――佐渡空港は、現在、定期便の就航がないが、スムーズに就航できるのか。空港の整備状況からすれば、この1~2年での就航の可能性は低いのではないか。
ターミナルビルを含め諸々の施設の改修・整備が必要だ。県営空港であることから、今年度から新潟県が予算計上し、就航に向けての調査を進めている段階だ。港や市街地との距離もあるため、2次交通の整備も必要となる。
――佐渡は、冬の天候が荒れやすいが、安定的な運航は可能か。また、夏と冬とで観光の繁閑の差が大きいことは問題にならないか。
今後、テスト飛行を重ねる必要があるが、高高度を飛行するジェット機と異なり、プロペラ機が飛ぶ高度は気流の影響を受けにくいと聞いており、冬でも極端に就航率は下がらないと思う。
繁閑の差については、旅客と貨物の量を調整することで解決しようと考えている。われわれが使用する機材は、座席を取り外し、小型のコンテナに置き換えられる「カーゴ・フレックス」仕様になっている。一晩で全席を座席からコンテナに置き換えるオペレーションも可能だ。
貨物輸送の可能性も広がる。生鮮品などを運ぶ場合、船・トラックで運ぶのと、飛行機で消費地に直接運ぶのとでは、スピード感がまったく異なる。これまでは、地産地消しかされていなかった佐渡の特産品を外に出すことで、地元経済の活性化につなげていきたい。


佐渡の交通、今後どうなる?
さて、2社からの話を聞いたうえでポイントを整理すると、佐渡汽船で今後、重要性を増しそうなのが貨物事業だ。同社の貨物事業は、現状は赤字だが、収支改善することに尾渡氏は意欲を見せる。商社で物流に携わった経験が長い尾渡氏の力量が問われる部分であり、スピードを武器に貨物事業にも参入するトキエアにいかに対抗するか、場合によってはいかに連携するかの戦略が必要になりそうだ。
一方、トキエアは単に空路を開設するのみならず、地域活性化と結びつける事業内容に面白みがあるが、事業計画・スケジュールに不確定な部分が多い。また、航空事業を維持するには、言うまでもなく莫大な資金が必要であり、現状、地元財界関係者や、県からの融資等により資金調達を進めているが、経営体力の面に課題があることは否めない。空路の開設を起爆剤に、空港を中心に地域を活性化し、そこで行う周辺ビジネス等でいかに稼げる体質をつくれるかが、事業安定化・永続化のカギとなりそうだ。