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輸送船が秒で真っ二つ 米軍テスト中の新たな対艦用兵器の凄み 標的に“当ててない”!?

ミサイルより安く爆弾より高威力な新対艦兵器
 現代戦において、航空機が大型艦船を沈めようとする場合、一般的には対艦ミサイルもしくは爆弾を用います。ただ、前者は命中率も高く高威力ではあるものの、搭載・運用できる機体は限られ、また1発当たりのコストが高いという欠点があります。対して後者の爆弾は、搭載する航空機の幅は広く、運用コストもかなり低いというメリットはあるものの、無誘導のものは命中率も劣るという欠点があります。
 そこで、2022年現在アメリカ空軍は高い命中精度を持ちながら、運用・取得コストはミサイルよりも低い新たな対艦兵器の開発を進めています。その名は「クイック・シンク」、直訳すると「手早く沈める」という意味の名前が付けられたこの兵器は、GPS誘導爆弾で有名なJDAM(ジェイダム)を改良したもので、今年(2022年)4月には本物の船を標的にした投下試験も行われています。

© 乗りものニュース 提供 航空自衛隊のF-2戦闘機。2022年現在、日本において対艦ミサイルの運用能力をもつ戦闘機は同機のみである(画像:航空自衛隊)。
 アメリカ空軍が公開した動画を見ると、「クイック・シンク」は標的となった輸送船の脇の海面に着弾、次の瞬間には巨大な水柱が海面から立ち上り、船体は2つに破断しています。水飛沫が収まる頃には輸送船の大部分は海中に没しており、命中から数秒で標的となった輸送船は撃沈したことがわかります。
 公式発表によれば、「クイック・シンク」のベースに用いられているのは2000ポンド(907kg)爆弾の弾頭で、これはF-15「イーグル」戦闘機などが搭載できる爆弾としては大型に分類されるものです。陸上用としての威力は、建物やコンクリートで覆われた掩体壕なども破壊できるほど。
 しかし、「クイック・シンク」は、その破壊力を直接、目標艦艇に向けるのではありません。
 高威力の弾頭を船底の真下、海中で爆発させ、それによって生じた海中のバブルジェット効果で船体の中央付近を急激に持ち上げ、目標艦船自身がその重さで船体を破断するように仕向けるのです。つまり、爆弾で船体その物に破孔を開けて浸水させるのではなく、爆発の効果を利用して艦艇の船体自体をへし折ることで、沈めてしまおうというのです。
元自衛官が語る「クイック・シンク」の威力
 この仕組み、実は現代の魚雷の弾頭と同じものだといえます。現代戦における雷撃は艦艇に直撃しなくとも沈める威力を持っています。その理由は、艦底至近で爆発することで、上述したような効力を発揮するようにプログラムし爆発させることが可能だからです。
 近年の具体例でいえば、2010(平成22)年3月に起きた韓国哨戒艇沈没事件が挙げられるでしょう。沈没した哨戒艦「天安(チョナン)」は、後に引き揚げられましたが、船体は二つに切断されていました。
 ただ、ここまで高性能化した魚雷は、ゆえに極めて高価な兵器になっています。たとえばアメリカ製MK48魚雷の価格は1発380万ドル(約5憶5377万円)とか。なお、それを使用する潜水艦も、機動性という点では航空機とは比べものになりません。
「クイック・シンク」はそのデメリットを解消するために開発されている兵器であり、JDAMを流用することで導入コストを下げ、戦闘機から投下することで潜水艦と魚雷の組み合わせよりも素早く長距離の攻撃が可能となります。

© 乗りものニュース 提供 2022年4月に行われた「クイック・シンク」の試験映像。標的の輸送船の脇に着水し、バブルジェットによって船体がへし折れているのが分かる(画像:アメリカ空軍)。
 こうして見てみると、「クイック・シンク」は既存の対艦兵器と比べ、安くて強力な良いこと尽くめの新兵器といえそうです。しかし、さまざまな兵器やプラットフォームが入り乱れる現代の海戦では、物事はそう単純ではありません。
「クイック・シンク」の問題点について、航空自衛隊で装備品開発にも関わっていた元自衛官のhalt氏が、次のようにコメントしてくれました。
「バブルジェット効果で軍艦を沈めるのは、対艦ミサイルと比べて破壊力としては強大だと思います。軍艦含め船というものは、一か所に大きな力がかかり急激に持ち上げられた場合、その形状を保つほど強固には作られていません。ただ攻撃する側の戦闘機についても、2000ポンドという重量の兵器を搭載すると、機動性が大きく制限されてしまい、本来の軽快な動きができなくなります。つまり、重い物を積んだ機体は素早く動けず、迎撃されやすくなってしまうのです」
対艦新兵器「クイック・シンク」の欠点
 アメリカ空軍が発表した写真によると、「クイック・シンク」は高性能な戦闘爆撃機F-15E「ストライクイーグル」に搭載されていました。ただ4発ほど搭載すると、機動性が著しく低下するため、敵側が対空ミサイルなどで反撃をしてきた場合、回避飛行は鈍重なものになるでしょう。
 また、滑空して飛行するJDAMをベースにしているため、長距離の目標を攻撃するには高高度から投弾する必要がありますが、これも敵側の防空網に迎撃されやすくなることを意味します。

© 乗りものニュース 提供 F-15E「ストライクイーグル」に搭載された「クイック・シンク」。左右の2発ずつ計4発が搭載されている(画像:アメリカ空軍)。
 前出のhalt氏は次のようにも話しています。
「技術的なことを言えば、目標への誘導は電波や赤外線、レーザーによるものなのか詳細が気になります。対艦ミサイルは、レーダーや赤外線画像などで艦艇を捉えるか電波の発信源に向けミサイルを誘導して命中させます。しかし、『クイック・シンク』のベースとなっているJDAMは、GPSと慣性航法装置を持ち、指定する位置座標に向け誘導されるもののため、艦艇のような移動する目標には命中させることは極めて難しいのです。
 一方、レーザーによる目標指示を行うレーザーJDAMであれば移動目標への攻撃が可能です。そのため、この『クイック・シンク』もそれに類似した誘導装置が使われていると推察されます」。
 GPSとレーザー誘導を併用したレーザーJDAMは車両程度の小型目標でも移動中に攻撃することが可能です。しかし、レーザー誘導をする場合は、目標上空から航空機や洋上の艦艇などからのレーザーを使った目標指示が必要になりますが、相手が対空・対艦ミサイルや火砲で武装防御された軍艦に対しては目標指示を行うのは非常に危険な行為といえます。
 これらを踏まえると、「クイック・シンク」も万能の対艦兵器ではないといえるでしょう。1撃で艦艇を沈める威力を持ってはいるものの、反撃が予想される敵側の勢力下では運用が制約されるようです。しかも、現段階では開発中の兵器であり、その位置付けは海軍と共同で行われている共同能力技術実証というレベルであるため、今後、別の形で改発内容が変化する可能性も大いに含んでいます。
 とはいえ、JDAMベースの爆弾であれば、価格が安いだけでなく、アメリカ軍が運用するほぼ全ての戦闘機に搭載することができる(母機側のソフトウェア改修は必要と推測)ことから、採用されれば、それは同時に艦艇への強力な攻撃能力を持つことを意味します。
「クイック・シンク」は全く新しいものではなく、既存の技術を中心に組み合わせて新しい用途へと転用した兵器であり、それ故に開発すればその配備はスムーズに進むでしょう。もしかしたら、アメリカ軍と高い相互運用性(インターオペラビリティ)を有する自衛隊も、採用するかもしれません