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安倍総理の志は死なない!!

巨大中国が「台湾侵攻」に踏み出す決定的理由

「ロシア暴走」の教訓は覇権国争いに生きるのか
橋爪 大三郎 : 社会学者、東京工業大学名誉教授 / 大澤 真幸 : 社会学者
2022年12月24日
緊張感が増していく中国と台湾の関係性。中国による台湾への侵攻はどれくらい現実的になっているのでしょうか
市民動員の発令で国内の反発が広がり、苦戦続きのロシアだが、その様子をつかず離れずの位置でうかがう中国。2022年10月に開かれた中国党大会では習近平総書記の3期目入りが決まり、習一強体制がスタートした。台湾の強行統一を目論む中国は、ロシアの苦戦をどう見ているのだろうか。
アメリカ衰亡の中で目立ってきた中国とロシアという2つの専制主義陣営のパワーにどう対抗すべきか。橋爪大三郎氏、大澤真幸氏、2人の社会学者による『おどろきのウクライナ』(集英社新書)では、文明論、宗教学、歴史、社会学と、あらゆる視座から検証し、白熱した討論が展開される。本稿では、プーチン退場を視野に入れつつ、習近平一強体制をさらに固めた中国の今後を両氏が予測する。
ロシア敗北でも中国は目的を果たす
大澤:今、実際に戦争をしているのはロシアとウクライナですが、その後ろにはもっと重要な中国という脅威があります。
もし、ロシアが破れかぶれで戦術核に手を出して戦争に敗北したとして、中国が台湾に侵攻する、あるいはその他の国に及ぼす中国の脅威には、それが必ずしも教訓にならない可能性がある。その点も踏まえ、中国とどう付き合うかは、またロシアとは別途に考えなければいけないと思うのですが、その辺はどうですか。
橋爪:ロシアは、ヨーロッパの盲腸のようなもので、サイズは大きいけど、いわばおまけですね。だけど、中国はどこかのおまけや付録じゃない。中国は中国なんですよ。それに中国は昔から気がついていて、イギリスが来て戦争に負けたときも「あれ? 俺たちは本当はもっと中心的な存在ではないか」と思っていた。
さらに、日本があっという間に近代化して日清戦争に勝って、支那事変で中国の半分ぐらいを占領したときも「これはまずい、革命が必要だぞ」と国民党、共産党が出てきた。だから、中国が新しく本当の中国になるためには革命が必要だというのは中国の合意だったんですね。
そこで、ソ連と協力するかしないかで路線が分かれて、ソ連と協力するという人たちが中国共産党になった。本当はソ連と協力なんかしたくないんですよ。中国は中国なんだから。だけど、やむを得ず、共産党という選択をしたと思うわけ。共産党って、モスクワの手下になることですからね。でも、手下になってもいいことが一つもなかったので、中ソ論争の結果、早々とけんか別れしたということです。
その中ソ論争の結果、中国は共産主義だけど、中国というものになった。ここで今日の中国の基本ができたわけです。その後、アメリカや西側世界との関係をどうするかについては、一応協力するという選択をして改革開放になり、ソ連が解体したあとも前進を続け、今日の社会主義市場経済の巨大な中国になった。
大澤:その転換はうまくいきましたね。
橋爪:大成功です。アメリカをうまくだましたんです。いかにも民主主義になりそうなリップサービスをしておきながら、そのつもりは全然なかった。科学技術も資本も全部欲しいものは手に入れた。いよいよ中国を中心に世界を動かしますからねという話になってきた。それで今、アメリカも世界もびっくりしているという状態なのであって、負け惜しみでけんかを売っているロシアとは話が違うんですよ。
大澤:なるほど。いまや中国はアメリカと競る軍事大国ですからね。
橋爪:中国の場合は、通常戦力で勝てますから、核兵器を使う必要がない。核兵器は念のため奥の手にとってあればいいので、通常戦力でやるつもりでしょう。戦争の勝ち負けとはフェアな問題なのであって、戦争で勝って台湾が取られてしまえば、国際社会はこれを認めるしかない。これは主権が侵されたというウクライナとはちょっと違うと思います。
中国が覇権国となるカギは「台湾」
大澤:今は、ロシアのウクライナ侵略に対して、直接軍事行動はしなくても、西側諸国やアメリカの圧倒的なウクライナ応援がありますね。もし中国が台湾に侵略したとき、実際にアメリカ軍が動くのかどうかが常に話題になっているわけですが、どうなんでしょうか。
というのは、今回のロシアとウクライナの戦争が長引いていて、いろいろ応援はしているものの、やっぱりどこかで妥協しようよという感じが、ヨーロッパやアメリカで出てきています。あまりにもコストが大きいし、ロシアからの石油・天然ガスの禁輸も非常に負担が大きい。この理不尽な戦争を仕掛けられたウクライナに関してでさえ、そうなるんです。
まして、中国の台湾侵略に関してはどうなるか。ヨーロッパの人はどっちでもいいやみたいなところもあるでしょう。ウクライナは公式に独立の主権国家でしたけれど、一応中国に関しては「台湾は一つの中国」という建前もあります。そういう中で台湾が侵略されたとき、果たして大きなコストをかけて台湾を応援しようと西側諸国が思うのかどうか。それはかなり微妙な感じがします。その辺の実際上の見通しを橋爪さんにお聞きしたいんですが。
橋爪:台湾が存在しているのであれば、西側世界は台湾を支持し続けると思うし、中国としては失敗だと思う。その意味で、台湾が存在しなくなるというのが、中国の戦略目標、戦争目的ですから、台湾が存在しなくなってしまえば、どうしようもない。
それを具体的に言うなら、中国が通常戦力で台湾に上陸して、台湾に新しい政府をつくるということです。それで、形も整うでしょう。そうなると、中国は一つだという中国に、外部から軍事介入する理由がなくなる。だから、これで終わりということになる。
その後どうなるかというと、「台湾を守ります」とかバイデンが言っていたのにそうならなかったわけだから、アメリカは約束を守る能力がなかったということになり、覇権国ではなくなる。そして、文字どおり、中国がアメリカに代わって世界の覇権国になり、まったく新しい時代が始まるということです。
大澤:なるほど、嫌な展開ですね。中国が覇権を持つと、周辺国はどうなりますか。
橋爪:ロシアとインドが中国に寄ってきて、東南アジアは中国圏になります。アフリカも中国になびき、ヨーロッパの貧しい国は中国にがんじがらめになる。さらに中央アジアが中国となって、ラテンアメリカも中国圏になり、残ったのはアメリカとヨーロッパ、そして日本だけという世界が待っているかもしれないという話です。
今まさに文明の衝突が起きている
大澤:それはまさに文明の衝突ということですかね、ビジョンとしては。
橋爪:うん、そう思う。イスラムも、ヨーロッパよりは中国のほうがいいと思うかもしれないな。新疆ウイグルでいじめられているけど、それなりに世話にもなっているし、イスラム教徒の扱いについては中国は慣れているからね。
大澤:『おどろきのウクライナ』でも話しましたが、いま起きているロシアとウクライナの戦争も、ある意味で文明の衝突なんですよね。
サミュエル・P・ハンチントンの『文明の衝突』(1996年)の話をするときに、もう一つ浮かぶのがフランシス・フクヤマの『歴史の終わり』(1992年)のビジョンです。歴史の終わりというのは、リベラルデモクラシーが勝利して、平和な世界が来るというイメージ。
一方、文明の衝突は、ある種のコンフリクトが地球に残っている状態を指しているわけだから、この2つは一見対立するビジョンに見えますけれど、実際には同じものの2つの側面を語っているともいえる。
つまり、文明の衝突があったとしても、プラクティカルに解決できる程度の文明の衝突であれば、ゆるやかでリベラルデモクラティックな多文化主義のようなものが地球レベルでできるということで、それなりに見通しは明るいという感じです。
ただ、その2つのビジョンが世に提示されて30年ぐらいの時間が経ってみると、文明の衝突ってそんなに生易しいものじゃないということがわかった。文明の衝突的なビジョンというのは、一番危険な場合はこうなるよというのを今回僕らは見せつけられているんだと思う。
橋爪:うん、場合によってはもっと最悪なことも起こりかねない。
大澤:はい、そうですね。今後もしロシアが戦争に負けたとしても、広い意味での文明の衝突状態が続くとすれば、中国、インドが出てくると、もっと深刻な問題になります。
重要なことは、いま僕らに起きていることは、すべてつながっているということ。そのつながりをポジティブに利用する形で解決するしかないんですね。
コロナ危機でもそれがはっきりしたわけですが、コロナだけじゃない。気候変動の問題にしても、世界がいかに連帯に向かうかということが試されている。その場合に文明の衝突的な因子があると、いろんなことがうまくいかないわけです。
ほかの文明の場合は、ほっといても、経済的な意味でうまくいかないので弱体化していくんですよね。だけど、中国の場合は、改革開放以降、大変な成功を手中にしている。そういう状況の中でどうすればいいのか、誰にも見えないというか、少なくとも僕には見えないというのが今の現状なんですが、どうでしょうね。
中国は「新しい規格」を提供できるのか
橋爪:世界がつながっていて、まとまって対抗しなきゃいけないということと、覇権国、仕切り屋が複数あって、しかも文明の背景が違うから対立しなきゃいけないということは同時に起こるんですよ。これはちっとも矛盾することじゃない。
例えば二昔ぐらい前に、ビデオテープの規格でVHSとベータの覇権争いがあったじゃないですか。1つのほうが使う側には便利がいいに決まっているわけですよ。でも、2つが提案されて、ベータのほうが性能がよかったらしいんだけど、VHSのほうがメジャーなメーカーを複数押さえたことで標準規格を勝ち取った。だから、覇権があっても、覇権争いは起こるんですよ。
だから、西側世界がしばらく世界を仕切ってきて、いろんな規格を世界中に押しつけて、異なった文明は居心地の悪い思いをしながら従ってはきたものの、この規格でなくてもいいんじゃないかとみんな思っているわけだ。そのときに、別の規格が提案されて、そっちのほうが安く使えますというオファーが来たら、乗り換えることは十分考えられる。
今、中国と西側は、そういう関係になりかかっているんじゃないか。中国が世界中をこれで仕切るという新しい規格を提供する力があるのかどうか、世界はそっちに乗り換えるのかどうかという、そういう話なんですよ。
大澤:ああ、世界の規格がドラスティックに置き換わるという話なんですね。これはかなり怖い話ですよ。
橋爪:そのための一番手近な問題として台湾がある。台湾を解放できなければ、中国にはそういう能力がないということになるから、中国は世界を仕切るもう一つのオプションになることができない。しかし、台湾を中国の思うように解決すれば、もはや中国はローカルな政権ではなくて、グローバルな覇権国だということが明らかになる。こういう話だと思う。
ただ、イギリスがアメリカになったように、アメリカが中国になるかというと、全然系統が違うので、そのリスクは甚だしく大きいと思う。このことは簡単に証明できる。中華人民共和国憲法を見てみると、中国共産党の条項がない。
大澤:ポイントはそこですね。
人類の運命を一人の人間に預けていいのか
橋爪:前文に、中国共産党が頑張ったから、中華人民共和国ができたのでよかったというようなことが書いてあるんだけど、第1条から最後のほうまで読んでも、中国共産党の規定がないんですよ。普通の立憲君主制であれば、存在すべき団体はすべて憲法に書いていなければならない。アメリカ合衆国憲法だったら、大統領が存在し、議会が存在し、最高裁判所が存在し、ときちんと規定がある。
ところが、中華人民共和国憲法に中国共産党が書かれてないということは、中国共産党は国家機関じゃないということだ。中華人民共和国憲法によってコントロールされないということだ。
中国共産党は任意団体であって、超憲法的な存在として中華人民共和国を指導して、支配しているということなんです。これはもう世界中の憲法とまるで違う。似ているのはソ連の憲法くらい。ソ連の憲法は、ソ連共産党が超法規的に、ソビエト社会主義連邦共和国を支配していたので、それを真似したものが残っているんですね。
こんなものが世界標準になって、世界中を支配していいのか。憲法が中国共産党をコントロールしないとすれば、中国共産党は自分で自分をコントロールするしかない。しかし、中国共産党はそうではなく、中央委員会、政治局常務委員会、チャイナセブンといったものがコントロールしていて、そのトップの総書記が実権をすべて握っているわけです。これはもう完全な権威主義で独裁じゃないですか。
これは伝統的に中国のやり方ではあるが、人類の運命を一人の人間に預けてしまっていいのか。これを世界のやり方として認めていいのかどうか。まずそういう問題があることを深刻に認識したうえで、台湾の問題を考えなきゃいけないと思いますよ。
大澤:なるほど。説得力ありますね。巨大中国を取り仕切っている共産党が憲法の条項にも載っていない、ただの任意団体であるということは、『おどろきのウクライナ』でも言及しましたね。しかし、いまやそのトップがただならぬ権力を握っていて、世界に影響を及ぼそうとしている。おっしゃるとおり、これはもう人類の未来の問題といっていい。我々自由主義陣営がどう押し返すか、今が正念場だと僕も思います。
(構成・文=宮内千和子)